学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと

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第6章 体育祭

48 個性を発揮

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「遅いわよ、華凛かりん。何をしていたの」

 グラウンドに戻ると、生徒会運営のテントから千夜ちやさんが顔を出します。

 いつものクールな態度ですが、どことなく咎めるようなニュアンスが入り交じっているように聞こえたのは気のせいでしょうか。

「はいはい、ご覧の通りよ。見て分かりませんかっ」

 両肩にコーンを担ぐ華凛さん。

 確かに分かりやすすぎるほど、何をしているかは一目瞭然ですけど。

 ……その細い両腕のどこに、そんな力が隠されているのでしょう。

「なるほど、その子を連れているのに一人で持ってきたのね。非効率極まりないわ、どうりで遅れるわけね」

「……」

 グーの音も出ない正論パンチを喰らい、すぐに黙り込んじゃう華凛さん。

 変な反論をしないで、素直にお姉ちゃんの言う事を認めそうになっちゃうあたりが、わたしは可愛らしいと思いますよ。

「早く運んできなさい。皆、次の作業に困っているのよ」

「……分かったわよ!」

 ふんふん、と鼻を鳴らしてグラウンドの芝生を踏みしめて行く華凛さん。

 こんな力強くて可憐な少女、他にいるのでしょうか……。

「貴女も、華凛の側にいながら何をしていたの」

「はっ、はい!」

 と、華凛さんを眺めていたら千夜さんの追求の矢がわたしにまでっ。

 しかも、質問がわたしの方が際どいっ。

「な、何をと仰いますと……お手伝いを」

「……どこが?」

 ですよねえ。

 両手フリーですからね、わたし。

 ほんとは自分でも何をやっていたのかなって思ってます。

「華凛が一人で全部持てるのなら、もっと早く終わったと思うのだけれど。二人で何をしていたのかしら?」

 マットの上で重なり合う寸前でした。

 事故ですけど。

 ……。

 いやいや、華凛さんのお姉様にそんな報告できるわけないじゃないですか。

 なに変なことしてるんだって怒られちゃいます。

「えっと……」

「答えられないような事をしていたの?」

 怖い怖い怖いです……。

 ちょっとの間しか空けていないのに、その隙間をすごい圧で千夜さんが追い込んできます。

 ですが、わたしは、千夜さんに虚偽も黙秘もしたくないです。

 出来るならいつだって三姉妹の皆さんにはオープンなわたしでいたい。

 だとすれば……。

「マットの上でシーツと布団になりかけてました」

 比喩、です。

 マットの上で、シーツ(下:わたし)と布団(上:華凛さん)という関係性を表してみました。

 嘘は言ってないです。

 わたしは千夜さんに本当のことを報告しました。

「……何を言っているの」

「……」

 ですよねぇ。

 控え目に言っても意味不明ですよねぇ。

「……こんな意味が分からない子と一緒にいると、作業が遅れることもあるのかしら」

 しかも、あらぬ方向で納得されそうです……。

 わたしに対するポンコツ感が増しましですが……。

 でも華凛さんにとって不利益じゃないなら、こちらの方がいいのかもしれません。

「あら、あかちゃーん」

 すると、遠めからわたしを呼ぶ声が。

 というか、お待ちなさいっ。

 ぐるりと反転して、わたしを呼んだ方に急いで駆け寄りますっ。

日和ひよりさんっ、ダメですよっ」

「あらあら、何がいけませんでした?」

 ニコニコスマイルで頬に手を当てて、首を傾げる天使。

 可愛いですけど、その天然をこんな所で発揮してはいけません。

「体育祭で、こんな大勢の前でその名で呼んではいけませんっ」

 生徒の皆さんたちは体育祭という非日常により、熱に浮かされやすい状態です。

 そこに非日常の存在……いや、神が造りたもうた奇跡である月森三姉妹の存在がいるのに気にならないはずがありません。

 学校中の生徒が今、彼女達の一挙手一投足を追っているのです。

 ……まぁ、グラウンドの真ん中を両肩にコーンを担ぎ運んでいる三女が現在最も注目を浴びているおかげで、こちらに注目が集まらないのは助かりましたけど……。

 とにかくそんな状況で、モブを不用意に親し気な名前で呼んではいけないのですっ。

「日和さんの呼び方で、わたしの存在が変に目立っちゃいます」

「あら、“あかちゃん”呼びが流行っちゃいますかね?」

「いやあの……そうじゃなくてですね……」

 まさかの解釈。

 日和さんの着眼点は、ちょっと天然さんです。

「待ちなさい話しはまだ途中で……って日和?」

 後を追いかけてきた千夜さんですが、日和さんの存在に気付いて首を傾げます。

 こういう時のふとした仕草、首の角度など姉妹は似るのでしょうかね。

 雰囲気が似ていて可愛らしいです。

「千夜ちゃん、わたしはあかちゃんに用があるのでお借りしますね?」

 するりと腕を絡めて、わたしをそれとなく引っ張っていく日和さん。

 動きが自然すぎて気付きませんでしたけど、いつの間にか連れて行かれそうになっていますっ。

「待ちなさい、話しは終わっていないと言っているでしょう」

 ぐいっ、と。

 今度は反対の腕を千夜さんに握られて引っ張られます。

 ……え、なにこの状況。

「あらあら、力づくですか千夜ちゃん」

「私は用件が終わればすぐに離すわ、日和の方こそ、その組んだ腕を離しなさい」

 両者一歩も譲らず、両方向にわたしの腕を引っ張っていきます。

「ですが、もうそろそろわたしとあかちゃんの時間だったと思いますよぉ?」

「それは……」

 確かに、華凛さんのとの作業を終え、昼時を迎えようとしています。

 その時間帯は日和さんとの予定が組まれていました。

「普段から予定に厳しい千夜ちゃんが、自分の時だけ人の時間に干渉しようとするのは感心しませんねぇ?」

「……うっ」

 いつもの微笑みを崩すことなく、日和さんは優しく諭します。

 しかし、相手はあの月森千夜。

 その彼女を言葉で言いくるめてしまうのは流石です。

「ですから、腕を離すべきは千夜ちゃんだと思いますよ?」

「……そう、でしょうけど」

 ぐぐっと歯痒そうに納得いかない表情を浮かべている千夜さんですが。

 それでも、日和さんの言っている事にも一理あると思ったのでしょう。

 するすると、その手は離れて行くのでした。

「ほら、それでは参りますよあかちゃん」

「わわっ、はいっ、今行きますっ」

 日和さんに腕を引かれて歩いて行きます。

「……でも、千夜さんを言いくるめちゃうなんてすごいですね」

「そうですか?千夜ちゃんは自分の規則ルールがあるので、それに則って話をすれば割と簡単ですよ?」

「なんと」

 でも、その柔軟さと計算高さは何となく日和さんらしからぬ印象も受けるのですが……。

「ほら、それではあかちゃん行きますよぉ」

「あの、ですから公共の場で“あかちゃん”は誤解も招きそうなので遠慮して頂きたいのですが……」

 天然なのか、計算高いのか。

 月森日和……侮れません。


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