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第6章 体育祭
45 体育祭
しおりを挟むとうとう体育祭当日。
わたしの心臓は鼓動を速く打っていました。
「さ、冴月さん……?」
「な、なによ」
交わる視線。
絡まる腕は汗ばんでいます。
冴月さんは瞳を瞬かせています。
「二人三脚、緊張するんですけど……」
「今さらね、あんたほんとっ」
容赦ない勢いで返されます。
今現在、わたしのいる場所はグラウンドのトラック部分。
足を紐で結び、肩を組んで次のバトンを待っている状態です。
「なんていうか、練習の成果を試されるというか……結果次第でクラスメイトの方々の期待を裏切るんじゃないかと不安になってきて……」
「だとしても、なんでそんなに緊張を感じるわけ?他の競技だってそうじゃない」
「わたしが他に出るの玉入れとか綱引きなので……目立たなくていいんですよね」
「他力本願!?」
いえ……個人競技で活躍できるようなスペックを持ち合わせていなだけなんですけど……。
なので、これだけわたしの実力がモロに露呈しちゃうと言いますか……。
「遅かったら絶対わたしのせいって思われますし、きっと白い目で見られるんですよ……」
ただでさえ今現在のわたしの立ち位置は際どいです。
月森三姉妹との謎の急接近。
そして陽キャ代表と言ってもいい冴月さんとの二人三脚。
今のわたしは学園のアイドルとリア充のみを相手にするという陰キャにあるまじき謎ムーブをかましているのです。
これでクラスの足を引っ張る行為なんて晒そうものなら、非難を受けるのは目に見えています。
「それなら安心しなさいよ」
「え……?」
ですが、冴月さんは力強い言葉で言い切ります。
「練習通りのタイムを出せれば、順位を上げることはあっても落とすことはないわ。だから、あんたはいつも通りにやればいいだけ」
「冴月さん……」
そう言い切った冴月さんは、視線を反らしてどこか遠くを見ます。
ですが、その言葉にわたしはちゃんと返事をしなければなりません。
「あの……それが難しいから、緊張してるの分かってます?」
実力が出せそうにないから、こっちは不安になってるんですけど。
「励ましてんのよっ!素直に受け取りなさいよっ!」
憤怒の表情でわたしの方に視線を戻してきました。
「……いや、そもそも“体育祭”というイベントがいつも通りじゃないのに、いつも通りをやれと言われても……」
「めんどくさいわねっ!普通ここは安心してわたしの言葉に喜ぶ所でしょっ!」
ん?
それって言葉を裏返すと……?
「冴月さんはわたしのことを安心させて喜ばせようとしてたんですか?」
あのイジワルな冴月さんが?
どうして?
「い、いや……あんたが、変に緊張しすぎてミスされてもこっちが迷惑なのよっ!」
ふん、と鼻を鳴らす冴月さん。
その態度って……。
「ですよねぇ……。わたしがミスすると冴月さんにも迷惑をかけますもんねぇ……すいませぇん」
はあ……プレッシャーに押しつぶされそう。
こういう日の目を浴びたくないから普段から陰キャをしているのに。
全てを白日の下にさらす体育祭の何と忌まわしい事か。
「ああっ!ご、ごめんって!そ、そういう意味じゃなかったんだけど……!」
「……もうこうなったら転んで怪我とかした方が皆さん許してくれますかね……。あ、でも擦り傷とかじゃ許してくれなさそうです。なら、骨折?……骨折できるような転び方もわたしじゃ出来なさそうですし……痛いのやだし……」
「ちょっ!?もう来るから!次、うちのクラスの子たち来てるからっ!!」
「……はっ!?」
冴月さんの声掛けにより意識を取り戻し、わたしたちは走り出しました。
「がっ、がはっ……うぐぅっ……ぶふっ……」
「……はあ、はあ。相変わらずおかしな息切れするわよね……」
二人三脚リレーを終え、芝生の上に転がるわたしと、膝を折って息を整える冴月さん。
同じ運動をしたのに疲労度は雲泥の差です。
「でも言った通り、ちゃんと順位は上がったでしょ?」
「は……はい……」
一瞬、現実逃避で意識が飛んでいたのか功を奏したのでしょう。
意識が戻ると同時に始まった二人三脚は、頭で動くより先に体が動いていました。
結果いつも通りのパフォーマンスを発揮し、順位を三位まで引き上げることに成功しました。
「冴月さんのおかげです」
「何言ってんのよ、あんたも頑張ったからでしょ」
あっけらかんと、冴月さんは嫌味もなく当たり前のように返してきます。
「ま、まあ……最初はあんたとやるのはどうかと思ったけど。たまには足を引っ張る奴と一緒にやると、こっちがちゃんとしなきゃってマジになるから、案外面白かったわ」
ぷいっとそっぽを向きながら、つぶやく冴月さん。
「……わたしは、もうこういうのは懲り懲りです」
是非、来年の二人三脚は全員参加を撤廃し、人数制限を設けるべきと千夜さんにお願いしておきましょう。
「あんた空気読めなさすぎじゃない!?」
「……え、みんなそんなに二人三脚やりたいんですか?」
「何の話してんのよっ!!」
結果を出しても、冴月さんはわたしに吠えてくるのでした。
……ほんとに、わたしのこと好きじゃないんでしょうねぇ。
◇◇◇
「あっ、明莉ー。おつかれー」
二人三脚、終了後。
わたしは冴月さんと別れ、体育委員が待機しているテントまで移動します。
そこには手を振ってくれる華凛さんの姿がありました。
「華凛さん、約束通り来ましたよ」
「うん。でも、もう休憩大丈夫なの?」
「はい、何とか回復しました」
練習をちゃんとしていたおかげでしょう、疲労は以前よりもすぐに回復するようになりました。
「そっか。でもさっき凄かったじゃん、明莉たちの追い上げでかなり沸いてたよ?」
「いやいや……華凛さんに言われても反応に困りますよ」
わたしのクラスのアンカーは華凛さんたちで、その走りはまさに疾風。
他のクラスの方々を圧倒し、大差で一位になっていました。
「いやいや……あたしらはほら、普段から運動してるからさ」
しかもアンカーで走ってるのに、もう体育委員の仕事をこなしている華凛さんの体力ですよ。
わたしは今になってようやく回復して、ここまで来たのに……。
「それで、わたしは何をすればいいですか?」
ここに来た目的は華凛さんのお仕事のお手伝いなのです。
「あ、ごめんごめん。そうだよね、次の競技の用具を準備しなくちゃいけなくてさ。一緒に付いて来てくれる?」
「勿論です」
そうして、わたしは華凛さんと体育倉庫へと足を運ぶことになりました。
「いやあ、それにしても明莉が日和姉と千夜姉にも誘われてたなんてね」
「そうなんです、まさかのトリプルブッキングでした」
そのことを三姉妹の皆さんが話し合ってくれた結果、
『タイムスケジュールを組んで、三人それぞれの時間を作ってもらえばいいんじゃないかしら?』
という千夜さんの平和的解決案によって決着するのでした。
「明莉もモテるねぇ?」
なんて、冗談めかして華凛さんが言ってきます。
「皆さんぼっちのわたしのことを気にかけてくれる優しい方で嬉しいです」
「……うーん……それはちょっと違うと言うかぁ……」
「え?」
「あ、いや、それはぁまぁいいんだけど。でも冴月とも走るくらいだし、ぼっちとは違うんじゃない?」
「あー。アレは冴月さんに対する仕返しの意味もありましたから」
結果、お世話になる形にはなってしまいましたけど。
「そうなの?」
「はい、ちょっと色々ありまして」
「ふーん、そっか。じゃあ次こそ、あたしがペアになろっかな……なんて」
これまた軽い口調で言い掛ける華凛さんですが。
「安心して下さい。来年は千夜さんにお願いして、二人三脚にわたしが出なくてもいいようにしてもらいます」
「……それも違うんだけど……」
「そうですか?」
「いや、いいんだけどね……」
なぜか肩を落とす華凛さんの背中を見つめながら、気付けば体育倉庫に到着します
華凛さんが鍵を開けて、扉を開きます。
「そこに奥にあるコーン運んでもらっていい?補充が必要みたいでさ、そんなに重くないから大変じゃないと思うんだ」
「はいっ、分かりましたっ」
わたしはコーンが置いてある奥の方へと足を運びます。
「……」
――ガチャン
「あれ?」
なぜか扉を閉める音が聞こえてきたのでした。
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