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第6章 体育祭
36 選択肢
しおりを挟むい、胃がキリキリする……。
原因は明白。
体育祭の二人三脚のせいです。
ぼっちが浮き彫りになるという理由で若干の憂鬱を抱えたわたしでしたが、そこは心優しき月森三姉妹。
なんとわたしと組んでくれると仰ってくれたのですが……それが過ちの始まりだったのです。
『結局あたし達で話してても平行線だよね』
『お互いに譲りませんものねぇ』
『今すぐ決められないのなら予定通り明日にすればいいわ。貴女はそれまでに考えておきなさい』
という、恐らく人生史上最難題の宿題を課されてしまったのです。
そして、時は現在。
「はい、それでは体育祭に出場する競技の割り振りを決めて行きたいと思います」
千夜さんが黒板の前で理路整然と進行していきます。
そんな中、窓辺の席でわたしは頭を抱えていました。
「……角が立つ、誰を選んでも角が立つ」
今回の件で、安牌など見当りません。
誰かを選ぶということは、誰かを選ばないということ。
なぜわたしが三姉妹の皆さんを天秤に懸けるような状況になってしまったのかは、謎すぎるのですが。
とにかく、わたしの選択によって誰かが嫌な気持ちになってしまうのです。
……推しを不幸にする?それが許されるのか花野明莉?
「それでは、50m走はタイムの早い方から選考させて頂いてよろしいでしょうか?」
「否!断じて否ですっ!」
――シーン
……はっ!?
静まり返る教室、クラスメイトの視線は漏れなくわたしに向けられています。
特に、黒板の前に立つ千夜さんはニコリと営業スマイルを浮かべながら、瞳の奥が笑っていませんでした。
「私の方針に問題があった?それとも貴女が出場したいのかしら?いいわよ、どちらにしても責任は貴女にとってもらって……」
「ああ!ちっ、違いますっ、独り言ですからっ!」
50m走のメンバーにわたしの名前を連ねようとする千夜さんに、頭を下げて止めてもらいます。
こんな鈍足が、強者ひしめく短距離走者に乱入したらそれこそ笑い者です。
わたしはただ、三姉妹を選ぶという状況を否定したかっただけなのです。
「誤解を招く独り言は慎みなさい」
「す、すいません……」
こほん、という咳ばらいと共に千夜さんは改めて進行を再開します。
わたしは大人しく小さくなって席に座るのでした。
「ぷぷっ……恥ずかしー」
そんなクラス中が心の中で思っていたであろう気持ちを代弁するのは、斜め前に座る冴月理子さんなのでした。
さすがリア充陽キャ女子、クラスメイトの失敗をちゃんと笑い者にしてきます。
わたしも恥ずかしさがしっかり込み上げてきちゃいました。
「なになにー?やっぱり月森から嫌われちゃった?あ、そもそもあんな意味不明な行動してたら誰でもそうなるかぁ」
「……」
久しぶりに会話をしたかと思えば、このムーブ。
「あれれ、だんまり?本当のこと言われて傷ついちゃった?」
「……」
実力行使だと華凛さんのような介入があると分かったからか、口撃にだけ移っているようです。
「まあそもそも?月森たちとあんたなんか不釣り合いなんだから、アレくらい距離を置かれて当然なんだって」
「……なんですって?」
その発言に、わたしはぴくんと反応してしまいます。
冴月さんはその反応が嬉しかったのか、いつものニヒルな笑顔を浮かべます。
「本当のことじゃん。あんたみたいな陰キャが月森とお近づきになろうなんて調子乗りすぎ、もっと自分のポジション考えたら?」
「では、どうしろと?」
「まあ、あんたみたいなのは、わたしにこき使われるくらいが丁度いいんじゃない?」
「……その言葉、本気で言ってます?」
「あははっ、なんでわたしが嘘つかなきゃなんないのよ」
けらけらと、小馬鹿にした笑みを浮かべる冴月さん。
よっぽど自分の言葉に自信があるのか、撤回する気はないようです。
なるほど、そちらがそう来るのならいいでしょう。
「それでは、二人三脚のペアを決めて……って、何してるの?」
千夜さんの声が響きます。
わたしは席から立ち上がり、冴月さんに近づいていました。
「な、何してんのよ……こんな所でやる気?」
その行動が予想外だったのか、冴月さんは眉をひそめて少し身じろぎをします。
ですが、仕掛けてきたのはそちらの方です。
「ええ、やりますよ」
「は、はあ?あんたマジ……!?」
わたしは冴月さんにすかさず腕を伸ばし、その手を掴みます。
「え、や、ちょっ!?」
驚きに声を跳ね上げる冴月さんですが、この手を放すつもりはありません。
「はいっ、わたしは冴月さんと二人三脚を組みます!」
「……え?」
拍子抜けした声を上げる冴月さん。
そして――
「なんでっ!?」
と、教室から華凛さんの声が響きます。
「あらあら」
そして日和さんの困惑する声。
「……どういうことかしら、花野さん?」
笑顔のまま、ぴくぴくと眉を引きつらせている千夜さん。
「はい、冴月さんがどうしてもと誘ってくれましたので」
「言ってなくない!?」
隣から声が跳ね返りますが、ちょっと何言ってるのか分かりません。
「え?冴月さん、だってさっき“あんたみたいな陰キャが月森とお近づきになろうなんて調子乗りすぎ”、“わたしにこき使われるくらいが丁度いいんじゃない?”って仰ってましたよね?」
「言ったけど!?」
「つまり、わたしと二人三脚のペアを組んでくれるってことですよね?」
「どういう解釈なの、それ!?」
――ダンッ、ガガガガッ!
黒板からチョークを叩きつける連打音が響きます。
そこには色濃く書き出された“花野・冴月”ペアの文字。
「……冴月さんは確か短距離走も優秀でしたね、それでは50m走にも出場して頂きましょう。勿論、二人三脚では花野さんを引き上げてもらい好成績を期待していますよ」
「ええっ!?」
本来、出場予定ではなかった50m走に書き出された冴月さんは、明らかに物申したい様子でしたが……。
「何か問題でも?貴女が花野さんを誘ったのだったら、それで構いませんよね?」
「い、いや……でも」
「それとも花野さんが虚偽を発していると?」
「いや、それは言葉の綾って言うか……」
明らかに目が据わっている千夜さんに対して、冴月さんは言葉を失っていきます。
「ね、ねえ……なんで月森千夜があんなに怒ってるのよっ!?」
その様子が明らかにおかしいと感じたのか、冴月さんがわたしに耳打ちしてきます。
「えっと……三姉妹の皆さんに誘われてたから、ですかね」
「はあ!?」
「でも冴月さんが“三姉妹の皆さんとは不釣り合いだ”と言うので、わたしは言う事を聞いたんです」
「ええっ、なにそれっ。じゃ、じゃあ……あたしがあんたを月森達から横取りしたみたいな形になってんの?」
「まあ……そうなるんですかね?」
敵意剥き出しの千夜さんに、青ざめていく冴月さん。
「わたし、月森千夜だけは敵に回したくないんだけどっ」
生徒会長であり学級委員長、そして成績首位の切れ者。
教師・生徒共に全幅の信頼を寄せられている学園のトップ、月森千夜を恐れない理由はないでしょう。
「はい。これで共犯ですね」
わたしはポンと冴月さんの肩に手を置きます。
そう、これは共に背負う罪です。
そもそも、わたしなんかが三姉妹の皆さんの中から選ぶなんて行為が出来るわけなかったのです。
そう言った意味では冴月さんの発言にとてもシンパシーを感じていました。
だからわたしには、自ら嫌われるという選択肢をとるしかなかったのです。
幸運にもわたしと道連れになってくれる人が声を掛けてくれたことですし。
「あ……あんた、図ったわね!?」
「やだなぁ冴月さん、自分から誘って来たくせにー」
「そういう意味じゃないって言ってんでしょ!!」
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