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第2章 華凛
06 妹は思う
しおりを挟む朝、食事の時間。
リビングでは月森三姉妹が食卓に勢揃いする。
ちなみにお母さんとお義父さんは早朝に出勤しているため不在だ。
いつ家にいるんだ、あの人たち……?
それは一旦置いといて。
テーブルにはこんがりと焼き目のついたトースト、ヨーグルトにサラダ、そしてミネラルウォーター。
なんだか体に良さそうなラインナップが並ぶ。
もしかして、月森三姉妹と同じ生活を送っていたらわたしも少しは綺麗になれたりするのだろうか?
「貴女、寝ぐせのまま起きてきたの?」
千夜さんに指摘される。
……すいません、調子に乗りました。
わたしなんかが彼女たちのように美しくなれるわけがなかったです。
皆さんはもう身なりを完全に整えていた。
寝起きでパジャマで来てしまったのはわたしだけである。
「……ごめんなさい。寝起きのまま来ちゃいました」
「一緒に暮らす間柄ではあるのだから最低限の自己管理くらいはして欲しいものだけど」
「以後、気を付けます……」
やってしまった……。
まあ、最近はこうして千夜さんに指摘されるのも悪くないかなとか思っちゃったりして……?
「まあまあ、これはこれで可愛らしくて良いじゃありませんか?」
そこに日和さんの柔和な声。
も、もしかしてわたしに助け船を……!?
「そうかしら、怠惰な人と一緒にいると怠惰が移るわ」
「それは思い込みですよ。赤ちゃんのお世話をしていて怠惰になる人がいますか?」
……ん?
日和さん?
それフォローですか?
「あ、あの日和さん。その赤ちゃんって、わたしのことだったり……?」
「ええ。赤ちゃんみたいにお世話してあげないといけないみたいで、とっても可愛らしいですよ?」
……んん?
すっごく優しいようにも聞こえるけど、すっごく皮肉られてるようにも聞こえるよ?
わたしの性格が悪いだけかな!?
「あら、いけません。赤ちゃんにはお水よりミルクの方が良かったですかね?」
パンと両手を合わせて、いけないけないと言い出す日和さん。
うん、煽られてるよね?やっぱり煽られてるよね、これ!?
「千夜ねえも日和ねえも極端すぎ。単純に生活サイクルがまだウチに慣れてないだけでしょ、そんなに責めなくてもよくない?」
ぶっきらぼうに物申すのは華凛さん。
あれ、でも一番わたしのこと庇ってくれてる……?
◇◇◇
結局食べ終わるのはわたしが最後になり、お皿洗いを始める。
その間に準備が済んでいる皆さんは学校へと出発していきます。
うん、その後ろ姿を見送れてるだけでもありがたいなぁ……。
「なにボサッとしてんの」
「わっ、華凛さん!?」
もう皆さん出発したと思い込んでたので、ビックリして声を上げてしまう。
「皿洗い、代わってあげるから準備しなよ」
「え、そんな大丈夫ですよ」
「あたしがやるって」
「あ、ちょっと……」
手に持っていたスポンジを強制的に奪われてシンク前のポジションをとられます。
急にどうしたんでしょう……。
「遠慮しなくていいから。髪直して制服着てきな」
「い、いいんですか……?」
「いいって、ほら」
やだ、優しい……。
わたしは急いで支度を始めるのでした。
「おそーい」
「え?」
支度を終えて部屋から一階に下りると、玄関には華凛さんが立っていました。
「ほら、行くよ」
背中を向けてローファーを履き始める華凛さん。
これって……もしかして、もしかしてのやつ?
「行くって、学校にですか?」
「……それ以外にどこ行くの」
あ、そうじゃなくてですね。
疑問に思っているのはそこじゃないのです。
「華凛さんは、お姉さんたちと登校するものと思っていたので」
月森三姉妹は一緒に登校することがほとんど。
だから、これは結構珍しい光景なのだ。
しかも、わたしと一緒に登校するなんてとんでもない行為だ。
「いいの、たまには別でも。いいから行くよ」
「わ、分かりましたっ」
急かされるようにわたしは華凛さんと家を出た。
……なんだ、これは。
隣には学園の美人三姉妹の一人、月森華凛。
すらりと伸びた手足が前後運動を繰り返す度に、左右に結ったツインテールが軽やかに揺れる。
それをこんな間近で感じて、一緒に学校に向かっているなんて……夢みたいだ。
「腹立つでしょ?」
「いえ、幸せですよ?」
華凛さんと登校できるなんて贅沢の極みです。
「なんでっ」
「えっ」
でも強めの否定を感じたので、華凛さんの求める答えではなかったみたいです。
会話って難しい。
「ほら朝の件、あんなのいきなり言われても困るでしょ?」
すると華凛さんはわたしよりも鼻息を荒くして、今朝の出来事を話す。
そ、そんなに、わたしのことを考えてくれて……?
「正直に今の気持ちを言ってみなよ、チクったりしないし」
「感動しています」
「だからなんでっ」
ま、まずい。また間違ってしまった。
「あ、いえ、確かに朝のことは面食らいましたけど、言ってることは間違ってなかったですし。それに……」
「それに?」
その感想以外に何があるんだと言わんばかりに首を傾げる華凛さん。
「華凛さんがこうしてわたしのことを心配してくれて、お皿を洗ってくれたり一緒に登校してくれることの方がよっぽど嬉しいですから」
そうそう。
お二人の言ってることは正しかったのだから、非はわたしにある。
その上、こうして心配してくれる華凛さんの気持ちを感じられるなんて、ありがたすぎて涙が出るレベルだ。
「……べ、べつにっ」
「はい?」
なぜか急に言葉を詰まらせる華凛さん。
「別にあんたの心配なんかしてないし!お皿もちょうど洗いたい気分で、学校もこの時間に行きたかっただけだし!」
「……え」
かと思えば語尾を上げて声を荒げる華凛さん。
「あたしは姉ちゃんたちの妹に対する態度が気になっただけで、あんたのことなんてこれっぽっちも全然考えてないしっ!」
どんどん顔を真っ赤にして言葉をまくしたてられる。
なんか、それって……
「そうだったんですね。勘違いしました、ごめんなさい」
こんなに必死で否定してくるのだから、それが真実なのでしょう。
わたしは自意識過剰で、やはりポンコツだ。
「いや、すんなり信じないでよっ!」
「え、どっちなんですかっ!?」
「あ、やっ、自分で言うのもおかしいけど……明らかにアレな態度だったじゃん!」
「アレって、どれですかっ!?」
“ああっ、もうっ!”
と、華凛さんは髪を掻きむしりはじめます。
「華凛さん、ダメですよっ!そんなことしたら綺麗な髪が台無しですっ!」
「……っ!!」
今度は息を吞んで後ずさりする華凛さん。
情緒が全く読めません。
「いきなり変なこと言わないで!今の話と関係なさすぎてビックリするじゃんっ!」
「わたしの朝の出来事なんかよりも、華凛さんの美しさを損なうことの方が重大なことですよっ」
絶対、満場一致の重大案件だ。
「……な、なんか調子狂う!!」
「わたしは整います」
「もういい!黙って!」
「はい」
華凛さんがそれを求めるなら黙りましょう。
「素直に聞きすぎっ!なに、なんなのほんとにっ!」
言う事きいても慌てふためく華凛さん。
なんでそうなるかはさっぱり分かりませんでしたが、その姿は新鮮でした。
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