上 下
4 / 80
第1章 三姉妹と義妹

04 共同生活

しおりを挟む

「……(いっ、息苦しいっ)」

 月森つきもり三姉妹との共同生活。

 夕食の時間、場所はリビングのダイニングテーブル。

 目の前には三姉妹が揃い、焼き魚を主菜とした栄養バランスの良い料理が並んでいる。

 ちなみにお義父さんと、お母さんは仕事で遅くなるため夕食を一緒に食べれないとのことだ。

 必然的に、月森三姉妹とわたしという構図になる。

「どうしたの、料理が口に合わないのかしら?」

 すると千夜ちやさんはわたしの態度が気になったのか、たしなめるような口調で問いかけてきた。

「あ、いえ、そういうわけではないのですが……」

 千夜さんは手厳しいから、なるべく怒られないように注意したい。

「いいんですよ、もし苦手な物があったら遠慮なく言って下さいね」

 すると日和ひよりさんがフォローしてくれる。

 何でも月森家の料理は日和さんが担当しているとのことらしいのだ。

 家庭的な美少女とか尊すぎる。

「あ、ありがとうございますっ。でも本当に大丈夫です、わたし何でも食べられますから」

「あら、ワンちゃんみたいでかわいいですね」

 わ、ワンちゃん……?

 ペット扱い的な……?

 ど、独特な感想だなぁ。

 まあ、それはそうとして。

 そもそも、わたしなんかが日和さんの料理を食べられるなんて本来ご褒美でしかないのだけど。

「こんなオドオドしてるのが犬なわけないじゃん。どう見ても小心者の人間だよ日和ねえ

 すると今度は華凛かりんさんが物申してくる。

「ありがとうございます、華凛さん」

 人間扱い、嬉しいっ。

「べっ、別にお礼言われることは言ってないんだけどっ」

「え、そうですかね」

 む、ムズ……。

 どんな反応が正解なのか全然わからない。

 ま、まあ。

 お三方それぞれの反応もさることながら、それよりも気になることがある。

『……』

 そう、この全員だんまり。

 さっきは、たまたまわたしへの総ツッコミがあったが、基本これなのだ。

 こんなに静かな食事だと、新参者のわたしは居心地の悪さしか感じられない。

「あ、あのー……」

「なにかしら」

 恐る恐る声を上げると、千夜さんが返事をしてくれる。

「食事の時って、いつもこんなに静かなんですか?」

 そして気になるのが、この空気を生み出しているのがわたしではないかという懸念だ。

 いきなり三姉妹の輪に乱入してしまったせいで、いつもは家族団らんの会話があったものを、それをぶち壊してしまったのではないかと考えると酷く恐ろしい。

 わたしが三姉妹の生活のマイナス因子になるなんて、それは最も避けたい事の一つでもある。

「ええ、まあ……そうね」

 しかし、千夜さんは珍しく歯切れが悪いながらも肯定する。

 日和さんも華凛さんも何も言わないことから黙認しているということだろう。

 食事の時に会話をするのは無作法だという人もいるし、月森家はそういうルールなのだろうか?

 てっきりわたしは三姉妹は仲睦まじく会話してるものと思っていたから、少し意外だった。


        ◇◇◇


 結局、食べ終えるのはわたしが最後だった。

 既に千夜さんと日和さんは自室に戻っている。

 わたしは食べ終えた食器を持って、キッチンに移動する。

「やっと食べ終わったんだ」

 キッチンには華凛さんがいて、お皿を洗いながらこちらを流し見る。

 やだ、家庭的な華凛さん、美しい。

「はい、遅くなってすみません」

「ご飯食べるのに随分と時間が掛かるんだ?」

 みなさんのお食事姿が尊すぎるせいです。

 とは言えない、言ったらどうせ引かれるし。

「すみません……えっと、華凛さんが後片付けをするんですか?」

「うん、一応それがあたしの役割」

 この前のお風呂掃除もそうだったけど、華凛さんは水回りの役割が多いようだ。

「後はわたしがやりますよ」

 華凛さんの洗い物はほとんど終わっていたので、自分の分は自分でやることにしよう。

 何より、その綺麗な手がわたしの残飯で汚れたりしてはいけない。

「え、マジ、いいの?」

「はい、これくらいは当然ですので」

「ふーん。あっ、じゃあ、これから食器洗いは全部まかせちゃおっかなー……なんて」

 あら、お風呂に引き続き華凛さんの役割をわたしに譲渡ですか。

「いいですよ」

 それくらい、お安い御用です。

「いや、そしたらあたしの役割なくなるじゃんっ」

「え、あ、はあ……?」

 どうして華凛さんから言ってきたのに、わたしがツッコまれているのかは謎だ。

「なんでもオッケーされたら、冗談じゃなくなるじゃん」

「冗談だったんですか?」

「気付いてよ。あたし、そんな嫌な女じゃないし」

「てっきりご褒美かと」

「なんでそうなるのっ!?」

 だって月森三姉妹の食べ終えた食器ですよ……?

 普段は美しく神々しいお三方も、やっぱり生き物としての生理的欲求には抗えないという証拠。

 そんなお片付けができるなんて、なんだか背徳感を感じ……ダメだ、これ以上は本当に気持ち悪がられるからやめておこう。

「すいません。でも本当にわたしは代わっても大丈夫ですよ?」

「冗談だって、いいから渡してっ」

 すると、華凛さんはわたしの手から食器を取ってスポンジで洗い始める。

 ああ、わたしが汚してしまった食器を華凛さんの指先が触れてしまうなんて……これはこれで背徳感がっ。

 て、ちがうちがうっ。

「だいたい、そんなことしたら千夜ねえに怒られるし」

「え、怒られるんですか?」

「千夜ねえはルールに厳しいの。日和ねえは基本いつもニコニコしてるだけであんまり何も言わないし」

 そうなんですねぇ……。

 しかし、こうして話してみると、どうやら華凛さんはお姉さん方に遠慮があるようだ。

 そして、あの静かな食事。

 それらは、わたしの中で疑問を生んだ。

「あの、華凛さんとお姉さんたちは仲良しですよね?」

「うん……?ああ、まあ……悪くはないけど」

 華凛さんの歯切れが悪い。

 “悪くはないが、良くもない”

 そんなニュアンスは、わたしにとっては衝撃的な事実である。

「でも学校では、あんなに仲睦まじく……」

「いや、姉妹だから行動を一緒にすることは多いし、他の人より仲は深いだろうけど。……でも、昔の方がもっと仲良かったかも」

「……うそっ」

 膝から崩れ落ちそうになる、とは今のわたしのためにある表現だろう。

「なんであんたがそんなに驚くのよ」

 華凛さんは驚いたようにわたしを見つめる。

 でも、わたしにとってはショッキングだ。

 月森三姉妹の尊さは、その血のつながりによる絆の深さがあってこそ。

 それなのにっ。

「以前はもっと仲良かったんですか?」

「あー……まあ、前はもっと一緒に話したり遊んで……って、何でこんなこと話さなきゃいけないのっ」

 や、やはり。

 本当は仲睦まじい三姉妹だったんだ。

 それがどうしてあんなドライな関係性になってしまったのだろう。

「その話、もっと詳しく聞かせて下さい!」

「なに、その熱量!こ、こわいって!あんたやっぱりあたしのこと狙って……」

 あ、まずい。

 そう言えばわたしの三姉妹に対する“愛”は勘違いされたままなのだった。

「ち、ちがうんですっ。わたしは三人のことが気になるだけで」

「やっぱり三人全員狙いなの!?仮にも義妹いもうとなのに見境なさすぎっ!」

「華凛さん、やっぱりわたしを家族と認めてくれて……」

「なんでうっとりしてんの!?あんたやっぱりわけわかんない!」

 華凛さんはそのままわたしから逃げるように部屋に戻られてしまった。

 ……しまった。

 三姉妹に対する熱い想いは、やはりなかなか伝わらない。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

なぜか女体化してしまった旧友が、俺に助けを求めてやまない

ニッチ
恋愛
○らすじ:漫画家志望でうだつの上がらない旧友が、社会人の主人公と飲んで帰ったあくる日、ある出来事をきっかけとして、身体が突然――。 解説:エロは後半がメインです(しかもソフト)。寝取りとか寝取られとかは一切、ナイです。山なし海なし堕ちなしの世界ではありますが、よければご覧くださいませ。

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

処理中です...