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第1章 三姉妹と義妹
04 共同生活
しおりを挟む「……(いっ、息苦しいっ)」
月森三姉妹との共同生活。
夕食の時間、場所はリビングのダイニングテーブル。
目の前には三姉妹が揃い、焼き魚を主菜とした栄養バランスの良い料理が並んでいる。
ちなみにお義父さんと、お母さんは仕事で遅くなるため夕食を一緒に食べれないとのことだ。
必然的に、月森三姉妹とわたしという構図になる。
「どうしたの、料理が口に合わないのかしら?」
すると千夜さんはわたしの態度が気になったのか、嗜めるような口調で問いかけてきた。
「あ、いえ、そういうわけではないのですが……」
千夜さんは手厳しいから、なるべく怒られないように注意したい。
「いいんですよ、もし苦手な物があったら遠慮なく言って下さいね」
すると日和さんがフォローしてくれる。
何でも月森家の料理は日和さんが担当しているとのことらしいのだ。
家庭的な美少女とか尊すぎる。
「あ、ありがとうございますっ。でも本当に大丈夫です、わたし何でも食べられますから」
「あら、ワンちゃんみたいでかわいいですね」
わ、ワンちゃん……?
ペット扱い的な……?
ど、独特な感想だなぁ。
まあ、それはそうとして。
そもそも、わたしなんかが日和さんの料理を食べられるなんて本来ご褒美でしかないのだけど。
「こんなオドオドしてるのが犬なわけないじゃん。どう見ても小心者の人間だよ日和姉」
すると今度は華凛さんが物申してくる。
「ありがとうございます、華凛さん」
人間扱い、嬉しいっ。
「べっ、別にお礼言われることは言ってないんだけどっ」
「え、そうですかね」
む、ムズ……。
どんな反応が正解なのか全然わからない。
ま、まあ。
お三方それぞれの反応もさることながら、それよりも気になることがある。
『……』
そう、この全員だんまり。
さっきは、たまたまわたしへの総ツッコミがあったが、基本これなのだ。
こんなに静かな食事だと、新参者のわたしは居心地の悪さしか感じられない。
「あ、あのー……」
「なにかしら」
恐る恐る声を上げると、千夜さんが返事をしてくれる。
「食事の時って、いつもこんなに静かなんですか?」
そして気になるのが、この空気を生み出しているのがわたしではないかという懸念だ。
いきなり三姉妹の輪に乱入してしまったせいで、いつもは家族団らんの会話があったものを、それをぶち壊してしまったのではないかと考えると酷く恐ろしい。
わたしが三姉妹の生活のマイナス因子になるなんて、それは最も避けたい事の一つでもある。
「ええ、まあ……そうね」
しかし、千夜さんは珍しく歯切れが悪いながらも肯定する。
日和さんも華凛さんも何も言わないことから黙認しているということだろう。
食事の時に会話をするのは無作法だという人もいるし、月森家はそういうルールなのだろうか?
てっきりわたしは三姉妹は仲睦まじく会話してるものと思っていたから、少し意外だった。
◇◇◇
結局、食べ終えるのはわたしが最後だった。
既に千夜さんと日和さんは自室に戻っている。
わたしは食べ終えた食器を持って、キッチンに移動する。
「やっと食べ終わったんだ」
キッチンには華凛さんがいて、お皿を洗いながらこちらを流し見る。
やだ、家庭的な華凛さん、美しい。
「はい、遅くなってすみません」
「ご飯食べるのに随分と時間が掛かるんだ?」
みなさんのお食事姿が尊すぎるせいです。
とは言えない、言ったらどうせ引かれるし。
「すみません……えっと、華凛さんが後片付けをするんですか?」
「うん、一応それがあたしの役割」
この前のお風呂掃除もそうだったけど、華凛さんは水回りの役割が多いようだ。
「後はわたしがやりますよ」
華凛さんの洗い物はほとんど終わっていたので、自分の分は自分でやることにしよう。
何より、その綺麗な手がわたしの残飯で汚れたりしてはいけない。
「え、マジ、いいの?」
「はい、これくらいは当然ですので」
「ふーん。あっ、じゃあ、これから食器洗いは全部まかせちゃおっかなー……なんて」
あら、お風呂に引き続き華凛さんの役割をわたしに譲渡ですか。
「いいですよ」
それくらい、お安い御用です。
「いや、そしたらあたしの役割なくなるじゃんっ」
「え、あ、はあ……?」
どうして華凛さんから言ってきたのに、わたしがツッコまれているのかは謎だ。
「なんでもオッケーされたら、冗談じゃなくなるじゃん」
「冗談だったんですか?」
「気付いてよ。あたし、そんな嫌な女じゃないし」
「てっきりご褒美かと」
「なんでそうなるのっ!?」
だって月森三姉妹の食べ終えた食器ですよ……?
普段は美しく神々しいお三方も、やっぱり生き物としての生理的欲求には抗えないという証拠。
そんなお片付けができるなんて、なんだか背徳感を感じ……ダメだ、これ以上は本当に気持ち悪がられるからやめておこう。
「すいません。でも本当にわたしは代わっても大丈夫ですよ?」
「冗談だって、いいから渡してっ」
すると、華凛さんはわたしの手から食器を取ってスポンジで洗い始める。
ああ、わたしが汚してしまった食器を華凛さんの指先が触れてしまうなんて……これはこれで背徳感がっ。
て、ちがうちがうっ。
「だいたい、そんなことしたら千夜ねえに怒られるし」
「え、怒られるんですか?」
「千夜ねえはルールに厳しいの。日和ねえは基本いつもニコニコしてるだけであんまり何も言わないし」
そうなんですねぇ……。
しかし、こうして話してみると、どうやら華凛さんはお姉さん方に遠慮があるようだ。
そして、あの静かな食事。
それらは、わたしの中で疑問を生んだ。
「あの、華凛さんとお姉さんたちは仲良しですよね?」
「うん……?ああ、まあ……悪くはないけど」
華凛さんの歯切れが悪い。
“悪くはないが、良くもない”
そんなニュアンスは、わたしにとっては衝撃的な事実である。
「でも学校では、あんなに仲睦まじく……」
「いや、姉妹だから行動を一緒にすることは多いし、他の人より仲は深いだろうけど。……でも、昔の方がもっと仲良かったかも」
「……うそっ」
膝から崩れ落ちそうになる、とは今のわたしのためにある表現だろう。
「なんであんたがそんなに驚くのよ」
華凛さんは驚いたようにわたしを見つめる。
でも、わたしにとってはショッキングだ。
月森三姉妹の尊さは、その血のつながりによる絆の深さがあってこそ。
それなのにっ。
「以前はもっと仲良かったんですか?」
「あー……まあ、前はもっと一緒に話したり遊んで……って、何でこんなこと話さなきゃいけないのっ」
や、やはり。
本当は仲睦まじい三姉妹だったんだ。
それがどうしてあんなドライな関係性になってしまったのだろう。
「その話、もっと詳しく聞かせて下さい!」
「なに、その熱量!こ、こわいって!あんたやっぱりあたしのこと狙って……」
あ、まずい。
そう言えばわたしの三姉妹に対する“愛”は勘違いされたままなのだった。
「ち、ちがうんですっ。わたしは三人のことが気になるだけで」
「やっぱり三人全員狙いなの!?仮にも義妹なのに見境なさすぎっ!」
「華凛さん、やっぱりわたしを家族と認めてくれて……」
「なんでうっとりしてんの!?あんたやっぱりわけわかんない!」
華凛さんはそのままわたしから逃げるように部屋に戻られてしまった。
……しまった。
三姉妹に対する熱い想いは、やはりなかなか伝わらない。
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