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83 魔獣は駆除します!

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「リアさん、どうすればいいんですか?」

「傷つける事さえできれば、木が魔力を吸ってくれるのです。それを利用しましょう」

「その傷が、わたしの力では難しそうなんですが……」

「人の力に限界があるのでしたら、武器で代用すればいいのですわ。太古の昔、人間はそうして狩りをしてきたのですから」

 武器……?

 魔法士は基本的に武器を必要としないので、そういったものは所持していません。

 ですが、リアさんはそのまま木を指差し続けています。

「あの木をへし折り先端を鋭利にして武器にしましょう。その武器によって傷つけ、魔獣を無力化することが出来るはずですわ」

 なっ……なるほど!

「武器を調達するなら、ミミズの速度が遅くなってる今しかないわ。多分、あんたの攻撃が効いてるのよ」

 シャルにも急かされ、わたしは辺りを見回してちょうど良い幹の太さをした木を選定します。

 あまりに太いとわたしの拳の方が壊れてしまう可能性がありますので。

 当たりをつけた木に近づき、腰を落とし右腕を引きます。

「えいっ!!」

 渾身の一撃。

 ミシミシと音を立て、木が倒れていきます。

 ドーンと木の幹から上が地上に落ちて、ふと思います。

「これを鋭利に、どうやってするんですか?」

 わたしはこれを持って攻撃を仕掛ける事は出来ますが、造形を変化させることは出来ません。

「セシルさんにお願いしましょう」

 リアさんは迷いなくセシルさんの名前を上げました。

「……えっ」

 ですが当の本人は顔面蒼白のまま、理解が追い付いていません。

「防御魔法は物質と五大元素を繋ぎ合わせ防壁を形作る工程が必要になりますわよね?それが得意なセシルさんであれば、木の先端を鋭利にするなど造作もありませんわ」

「言ってることは分かるけど……魔力が吸われる……」

「大気ではなく木に直接魔力を流し込むのですから、一本分の魔力吸収で済むはずです。それでもロスが大きいことには変わり有りませんが……そこはセシルさんの魔法に期待するほかありません」

 確かに、それなら可能な気がします。

「でも、魔獣がもうすぐ追いつく。さすがに走りながらこの木を変形させるほど私は器用じゃない」

 そうなのです。

 木の枝や葉が踏まれていく音は次第に近づいてきています。

 魔獣は今にも迫ってきています。

「ミミアさん、貴女が囮になってセシルさんの魔法を行使する時間を作ってください」

「どうしてミミア!?」

 ミミズに追われるのは嫌なようです。

「貴女が今回一番何もしてない……つまり魔力に余裕があるからですわ」

「ちょっと前の文は聞き捨てならないけど……。それが何か関係あるの?」

「あの魔獣に目がありません、それでも私達を的確に追尾できているのは、恐らく魔力に反応しているものと思われます」

 なるほど、とシャルが相槌を打ちます。

「それなら確かに魔力に一番余裕があるミミアが適任ね。魔力を撒き散らせつつ逃げれば、その後を魔獣が追うはずよ」

「うわぁ……嫌だけど、やるしかないかぁ」

 それでも流石はステラのミミアちゃん。

 必要性を理解し、覚悟を決めると表情が引き締まります。

「エメちゃん、絶対助けてよ?」

「はい、必ず」

 わたしは頷くのを見て、ミミアちゃんは安心したように微笑むと

「よしっ、それじゃせーのっ!」

 そうして、ミミアちゃんは魔力を放散させながらわたしたちから離れていきました。

 ――にゅるにゅる!

 リアさんの言ったとおり、魔獣はミミアちゃんの跡を追いかけていきます。

「本当に来るんだけど!気持ち悪い―!」

 ミミアちゃんは涙目で絶叫しています。

 わたしたちはその時間を使って……。

「セシルさん、行けますか?」

「やってみる」

 セシルさんは木の先端に直接触れ、魔力を流し込みます。

 ガリガリ、と削り取られるような音を響かせながらその形状が変化していきます。

「……もうムリ」

 体力も魔力も限界ギリギリだったのでしょう。

 セシルさんはその場にバタンと倒れ込む所を、寸前でシャルが支えてくれました。

「ありがとうございます、セシルさん」

 ですが、セシルさんはやり遂げてくれました。

 目の前に託されたのは、巨大な木の槍。

 わたしはそれを持ち上げます。

「ミミアさん!槍で魔獣を射抜くので、横に離脱して下さい!」

「わ、わかったよ!!」

 ミミアさんが道の脇に飛んだのを確認します。

 幸い、まだ魔獣との距離は近いです。

 わたしは槍の先を魔獣に向け、狙いを定めます。

 大きく振りかぶり、腰のひねりを効かせ、足を踏み抜きます。

 後ろから前へ、その運動エネルギーを腕に込め、全力で投擲します!

 ――ブンッ!!

 快音を鳴らし、槍は魔獣の体躯に放たれます。

 ――ブチッ!!

 魔術による防壁は、魔獣を貫くには至りません。

 ですが、その鋭利な切っ先が功を奏しました。

「やりましたわエメさん!血が流れています!」

「はい、このまま行きます!!」

 表皮には傷がつき、そこから血が流れています。

 そうなれば、魔術を維持することはこの環境では出来ません。

 ――ダンッ!

 わたしは追い打ちをかけるべく、地面を蹴り上げ魔獣まで飛び掛かります。

「これで終わりです!!」

 その勢いのまま、魔力によって倍増した腕力を振り抜きます!

「ストレングスアグメント!!」

 先程の硬さはもはやなく、それは水分で膨らむだけの体でした。

 拳が魔獣の体を打ち抜き、その衝撃によって弾け飛びます。

 そう、風船が割れるように。弾け飛んだのです。

 ――ビシャビシャ!!

「え……」

 まるで雨のように、赤と黄色が混ざった液体が降り注いできます。

「こ、これって……」

 もしかしてミミズさんの体液とかでは……?

「巨大な体躯を持っている分、血液や体液も大量ですのね……」

 遠くで、リアさんがわたしを憐れみながらも引き攣った顔で呟いていました。

 ……き、聞きたく、なかった……。

 ――バタン

「あっ!エメちゃんが倒れたよっ!?」

「ちょっと、どういうことですの!?魔獣は倒したはずですがっ!?」

「気持ち悪くて気絶したんでしょ!?アイツが気になって仕方ないのは分かるけど……、それよりリア!何気にセシルの方がマズいかもっ!今にも意識が飛びそうなんだけど、どうしたらいい!?」

「え、あの、ですわね……」

「あ、はいはーい!ならミミアがエメちゃん看病するねー!!」

 声だけがかろうじて聞こえる中、わたしの視界は次第にフェードアウトしていき、とうとうその音も途絶えていったのです。

        ◇◇◇

 ――ぴちゃん

 心地よい水の音。

 その後にはひんやりとした感触が体を伝っていきます。

 それが何だか心地よくて、ずっとそうしていたい気もします。

 ですが、自然と開く瞼によってその感触は終わりを告げるのです。

「……ミミアちゃん?」

「あっ、エメちゃん起きた?」

 何とわたしはミミアちゃんに抱かれていたのです。

「ごっ、ごめんなさいっ。汚いですよね、今どけますから……!」

 ミミズの体液まみれになってしまったわたしを、ミミアちゃんに触れさせていいわけがありません。

「ううん、ミミアが綺麗にしてあげたから気にしなくて大丈夫だよ?」

「ん……?」

 なんだかちょっと理解できなくて、周囲を見回します。

 横目に映ったのは水が流れる川、そしてその脇にはわたしの服が畳まれ、ミミアちゃんの手には濡らしたタオル……。

 あれ、一個だけおかしくないですか。

 わたしは自分の体に視線を移します。

 上半身がすっぽんぽんでした。

「いやぁ!魔法があったらね、浄化クリアですぐに綺麗にしてあげられたんだけど。魔法が使えないからね、仕方なく!ほんとうに仕方なくエメちゃんの体を拭いてあげたの!」

 そう言いつつ、なぜか満足そうな笑顔を浮かべるミミアちゃん。

 わたしは羞恥心に悶え死にそうでした。

「なんで起こしてくれないんですか!?自分で拭きましたよ!!」

「やだなぁエメちゃん、もう一緒にお風呂に入った仲なんだからそんな水臭いこと言わないで欲しいなっ☆」

「それとこれとは違いますよ!わたしだけ裸で拭かれてるなんて恥ずかしいじゃないですかっ!」

「えー?じゃあミミアも脱ぐー?」

 すると急にシャツのボタンを外し始めるミミアちゃん!

「そういうことじゃありません!」

 わたしはその手をすぐに止めさせます。

 というか、早く上を着ないといけませんねっ!

「ああっ、後は大丈夫です!とってもお世話になりましたが、後は自分でやりますので!」

「後って……?」

「で、ですから下の方を、ですね……」

「ちっちっち、ミミアを甘く見ないでよ?下半身は先に拭いといたから、もう綺麗だぞ♡」

 大変聞き捨てならないことを、やってくれていました!

「なんで下半身から先なんですかっ!?」

「え、気にするポイントそこ!?」

「自分でもちょっと変なことを口走っている気もしますが!でも普通は上からだと思います!下からって変です!」

「そっかぁ……そうだね、エメちゃんは知らないから当然だよね」

 そうするとミミアちゃんは急に真剣な表情に変わります。

 も、もしかしてちゃんとした理由が……。

「ミミアは、実は足フェチなんだよねっ!」

「……はい!?」

 それって理由になってます!?
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