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81 森ってアレが多いですよね!

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「昨日は暗くて気付かなかったけど、この森なんか変じゃない?」

 朝を迎え、フェルスを前にシャルが疑問を投げかけます。

「変、ていうのは?」

「木の葉が青すぎると思わない?」

「ああ、言われてみれば……」

 大陸の中心地である帝都からまだ近いとは言え、フェルスは北東部。

 北に進むにつれ、木の葉が色づいている所や枯れている場所だってありました。

 それに比べてフェルスの森は青々と、未だ生き生きとしているのです。

「なんか、すごい違和感よね」

「ほんとだね」

 ゲヘナが生態系に何か変化を及ぼしていると思うと怖いのです。

「なんにせよ、視界や足場は悪くなろうだから気を付けないとね」

 皆に注意を促しながら森の中、フェルスへと足を踏み入れます。




「うあー。これ、キツイよぉー」

 森の中に入ってしばらくして、ミミアちゃんが珍しく弱音を吐きました。

「ミミアちゃん、どうしました?道が悪くて疲れちゃいましたか?」

 ひたすら歩き、ようやく着いたかと思えば草が生い茂る森の中。

 多少、嫌になるのも当然だと思います。

「いや、そっちじゃなくてね。虫だよ、虫」

「虫……?」

「そうだよぉ、さっきから蠅だか何だか分からないけどブンブン飛んでるし、足元もなんカサカサ言ってるしぃ~……エメちゃん気持ち悪くないの?」

「あんまり気になりませんね?」

「うはー。エメちゃん、強いねぇ……。セシルちゃんとかリアちゃんは平気?」

 ミミアちゃんは自身が少数派だと思ったのか、他の方にも話を振ります。

「……無理に決まってる。今はただ考えないようにしてるだけ」

「私もあまり得意ではありませんわ」

 二人とも引き攣った顔で首を左右に振ります。

 ミミアちゃんほどではないにしろ、この状況は受け入れがたいようです。

「繰り返しになっちゃいますけど、わたしは田舎育ちですので平気なんだと思います。さすがに虫の大群とかは嫌ですけど」

「そんな感じなんだ。これって帝都育ちのミミアだからそう思うのかな?シャルちゃんも平気な感じ?」

「……んなわけないでしょ、我慢してんのよ。黙りなさいよ」

 シャルはうんざりした顔でミミアちゃんに遠慮なしに突き放しました。

「あ、だよねぇ」

「虫なんて大っ嫌い、絶滅すればいいのよ」

「過激だね……」

 そんな話をよそに、わたしはあるものを発見します。

「あ、クワガタ」

「あんた絶対にそれ取らないでよ!?」

 ――ぴしゃり!

 と樹木に伸ばしたわたしの手をシャルが払い落します。

「いたいっ!どうして叩くの!?」

「気持ち悪いからよ!虫なんて触った手でわたしに触れられる可能性があると思うと身の毛がよだつわ!!」

「えっ……」

 それ早く言ってよ……。

「あるの!?あんた、もしかしてあるの!?」

「……冬に入ってからは虫さんいないから、時効だよね」

「冬!?あんたそれ、冬以前はあったってこと!?」

「……」

「答えなさいよー!!」

 シャルが涙目でわたしを掴んで体を揺すってきます。

 か、体が揺れる……!

「だ、だって……帝都って自然が少ないから、たまに見ると珍しくてつい……」

「だからって何で虫なんか触るわけ!?そんなことするほどヒマなの!?」

「いや、ほら……入学して最初の方は誰も相手してくれなくて一人で寂しかったから……」

「「「…………」」」」

 あ、今シャル以外の皆さんが同情の目でわたしを見ている雰囲気を感じましたよ!

「ま、まあまあ、シャルちゃんその辺で……。なんかエメちゃんの方が可哀想に思えてきちゃった……」

「ふざけないでっ!同情するならわたしでしょ!?」

 ああ、話しが変な方向に……と思ったその時でした。

 ――パキパキ

 と、草や枝が割れるような音が聞こえてきます。

「何か近づいてきましたわね、魔獣でしょうか?」

「あ、いえ……魔眼で見ていましたが魔力の反応はないはずですが……」

「では、一体なにが……?」

 音はそれでも次第に大きくなり、近づいてきます。

 それは茶色く艶めかしい光沢をもち、骨格を感じさせないぬるぬるとした動きで木の間を縫うように現れました。

「……エメさん、これは何ですの……」

 リアさん、いえ、ここにいる全員がそれを見て絶句しました。

 それは目がなければ手足もなく、ただ頭部と思われる部位に口先だけがある奇妙な見た目をしていました。

 というか、見た目だけで言うのであれば、それは……。

「ミミズ、じゃないですか……?」

 そう、ミミズです。

 土の中によくいる、ミミズです。

 ただ、そのサイズがおかしいのです……。

 わたしたちより遥か上を行く上背、そしてその体は延々と伸びていて平面上ではその体の終わりが見えません。

「気持ち悪いーー!!ムリムリ、絶対ムリなんだけどぉ!ミミア、見てるだけでいやぁ!!」

 ミミアちゃんが絶叫していました。

 それでもミミズは遠慮なくこちらに向かってきます。

 体を伸縮させて近づいて来るその動きがまた何とも異様です……。

「リアちゃん!それ焼いてよ!キモイから早く倒しちゃって!!」

「わ、わかってますわ……!!」

 リアさんも鳥肌を立たせながら、詠唱を始めています。

 幸いにしてミミズの動きは鈍く、魔法の展開には十分な余裕がありました。

「――プルヴィアイグニ……ス?」

 ですが、リアさんの魔法は展開されなかったのです。

「ちょっと!!リアちゃん、何やってるの!?もう来るよ、あのキモイの来るよ!!」

「わ、分かっています!で、ですが魔法が展開できないのです!」

「アレが気持ち悪いのは分かるけど、取り乱し過ぎだよ!?」

「ち、違います!!魔法の行程に問題はありませんでした……それなのに展開できなかったのです!!」

 完全にパニックになっているお二人!

「わたしもダメ!アクアで地面を水没させようかと思ったけど……展開できない」

 シャルもリアさん同様の現象に。

「私も岩の洞を作って閉じこもろうと思ったけど、ダメだった……」

「なんかセシルちゃん微妙に変なこと言ってない!?」

 とにかく攻撃魔法も防御魔法も展開できません。

 ですが、それが何故か。魔眼を持つわたしだけが視えていました……。

「木です……」

「え、なにエメちゃん!?また虫見てるの!?」

「ち、違います!木です!木が魔力を吸い上げてるんです!」

 魔法は魔力と五大元素によって現象を引き起こす技ですので、その展開には大気中に大量の魔力が放散されます。

 その魔力を木が吸い上げていくのをこの眼は捉えていました。

「ウソだよね!?木は二酸化炭素を吸うものだよねっ!」

「もしかしたら……この森の木は魔力を吸って生きているのかもしれません……」

 だから、フェルスはこんなにも青々としていて、このミミズは魔獣のような魔力を帯びずに独自の進化を遂げたのかもしれません。

「ってことは、ここでは魔法士ミミアたちは無力ってこと!?」

「待って!そう決めるのは時期尚早よ。ここにいるじゃない、大気に魔力を放出させないで戦える人が……!」

 シャルが力強い目でわたしを見てきます。

「え……」

「あんたの魔術なら、出来るでしょ?」

「そうだ!エメちゃんの魔術ならワンパンだよね!お願いやっつけて!」

 わたしは改めてミミズを見ます。

 ヌルヌルとした気持ち悪い光沢を帯びた体に、ぐにゅぐにゅと伸縮を繰り返す生理的に気持ち悪いと思わせる動き……。

「あ、あの……アレに直接触るのは……抵抗がありますね……」

「エメちゃんっ!?さっきまで虫は平気って言ってたよね!?どうしてそんな弱気に?!」

 いえ、あんな超巨大なミミズを素手で触りたい人なんていますか……?

「ミミア、エメに無理言わないで。昆虫と虫では厳密に言うと定義が違うの分かってる?ミミズは手足も羽もないから昆虫には分類されない。基本的には環形動物門貧毛綱に属する動物、それを分かった上で虫と言ってるなら……」

 おお、セシルさんの博学がここに来て爆発を……!!

「ねえ、何言ってんの!?ミミアそんなこと聞きたいわけじゃないんだけど!?」

 ああ!皆パニックです!!
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