魔法適性ゼロと無能認定済みのわたしですが、『可視の魔眼』で最強の魔法少女を目指します!~妹と御三家令嬢がわたしを放そうとしない件について~

白藍まこと

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76 皆で温泉に入りましょう!

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「……皆で入るの?」

 セシルさんは小首を傾げながら尋ねてきます。

 そう言いつつ、皆さんの足は大浴場へと向かっているわけですが……。

「そうなりますわね。もう夜ですし後伸ばしにする必要もないでしょう」

「あ、セシルちゃんは一人で入りたい感じ?それなら後にしてもいいよ?」

 ミミアちゃんの気遣いにセシルさんはむすっとしています。

「そんなこと言ってない」

 仲間外れにされると思ったのかセシルさんはご機嫌ななめです。

「まあまあ、セシルさん。今回もちゃんとわたしが体洗ってあげますから」

「……エメ、いいの?」

 セシルさんは表情を崩し和やかさを取り戻しています。

 よかった、ご機嫌を治してくれたみたいです。

「いいわけないよねっ!そんな羨ま……じゃなくて、目立つことしちゃダメだよ!他の人だっているんだろうしさっ!」

 ですが、そこに抗議してきたのはミミアちゃんでした。

 言われてみるとそうかもしれません。

 プライベートな空間ならともかく、公共の場で大人に近づいているわたし達が洗いっこするのは変に映る気もします。

「別に、他の人にどう見られても気にしない」

 しかし、さすがはセシルさん。妙な所で鋼のメンタルを発揮します。

「ていうか自分で洗えるよね!?わざわざエメちゃんにさせなくてもいいよねっ!」

「……洗えない」

「ウソだよねっ!絶対ありえないウソついたよねっ!」

 おお……入浴ですら、こんな言い争いになってしまうとは。

「でしたら、私がエメさんの体を洗って差し上げますわ」

「ちょっとリアちゃん!?どうしていきなり!?」

 急にリアさんが名乗りを上げたことに、わたしも内心驚いています。

「エメさんだけ洗って、ご自身が洗われないのはお可哀想でしょう?」

「そ、それはそれでズル……じゃなくて!じゃあ、ミミアもエメちゃん洗ってあげるよ!?」

 え……。

 二人に洗われるのですか……?

「ちょっ……私が言い出しましたのに、どうして貴女が出しゃばってきますの!?」

「ミミアも役に立とうと思って!」

「要りませんわ!私に任せて下さらない!?」

 ……ううん。

 お風呂に入るだけで、こんな言い争いが必要だなんて。

 このメンバーとてもまとまりがないですね。

「いや!そいつの体くらい自分で洗わせたらいいじゃない!……どうしてもって言うなら、わたしが……」

 そしてシャルも参戦し、いよいよカオスに。

 こうなると収拾つかないんですよねぇ……。

「じゃあ、またくじ引きします?」

「「「「えっ…………」」」」

 全員が苦い顔するんですよねぇ。

        ◇◇◇

 大浴場には露天風呂も用意されていました。

 田舎ならではの広大な大自然を一望できます。

 運がいいことに、他の利用者は誰もいませんでした。

 わたしたちはまず洗い場に足を運ぶわけですが……。

「じゃあ……洗いますわよ」

「う、うん。お願いするね」

 まずはリアさんがミミアちゃんの背中を流していました。

 お互いに渋い顔ですが、そんな表情になるなら最初から言わなければ良かったのにと思ってしまいます……。

 ごしごし、とリアさんがミミアちゃんの背中を洗っているのは新鮮な光景でありますが。

「……一つ、思ったのですが」

「ん?なに?」

「ミミアさん、そんなに胸が大きいと肩が凝るのではなくて?」

「んー、どうなんだろ?これが当たり前だからよく分かんないや。そういうリアちゃんだっておっぱい大きいよね、肩凝るの?」

「ミミアさんほどでありませんが……。そうですね、私はたまに凝りますわ」

「へえ……大変だね」

「ええ」

 あ、あれ……。

 なんか、わたしの勝手ですけど、もっとこう恥じらいと高揚?青春?みたいな展開を予想してたんですけど……。

 思ってた以上にドライな反応です……。リアルってこんなものなんですかね。

「どう、シャルロッテ」

「今のところは大丈夫よ」

 そしてお次はセシルさんがシャルを洗っています。

 これはこれで新鮮ですねぇ。

「……あれだね。やっぱり姉妹だけあって体つきエメと似てるね」

「え、そっ、そう!?どの辺がっ!?」

「背中の筋肉のつき方とか、太ももの肉感、座った時の腰の反り、鎖骨にあるホクロの位置とかそっくり……」

「そっ、そうなんだ……!」

 ほ、ホクロって言いました……?

 セシルさん、詳しすぎません!?

 一回のお風呂までそこまで見てたんですか!?

 そしてシャルがまんざらでもなさそうなのが、イマイチ分かりませんっ。

「あ、胸はエメより一回り大きい。でもお腹周りはスッキリしてる……」

「それはそうでしょ」

 ……聞かなきゃ良かったです。

 何だかんだ楽しそうにしている皆さんの会話が、一人だとどうしても耳に入ってきます。

 そう、一人ですからねっ!

「くじ引きだとみんなバラついたのに、なぜかわたしだけ同じですよっ!」

 呪われてるんですかね!

 もうヤケクソで体を洗います。

 ――ババババッ!

 アクセラレーションで洗い終わりました。

「……わたし、先に温泉に入らせてもらいますね」

 “早い!”と驚くのはリアさんとミミアちゃん。

 “ああ、いつものね……”と納得しているのはシャルとセシルさんなのでした。

 ざぶん、と露天風呂に体を沈めます。

 今日は馬車で座っている時間も長かったため、体が全身的に硬くなっています。

 温泉の暖かさで全身の血流が巡り、体がほぐれていくのを感じます。

「綺麗ですね……」

 見上げると星空が広がっています。

 この村には、帝都のように高い建物はないので遮るものがなく、視界いっぱいに星が輝きます。

 こんな景色を見るのも、久しぶりです。

「ああ!見てみて、空綺麗だよ!」

「あら、本当ですわね」

 そうしている内に皆さんも体を洗い終わり、集まってきました。

 同じように夜空を見て、感嘆の声を漏らしています。

「まあ、田舎なんてこんなもんでしょ」

 シャルにとっては見慣れた光景なので、何でもないことのようです。

 そうして皆さんが湯船に浸かります。

 ――ぴたっ

 と、肩に張り付くような感触があります。

「夜空より、エメの方が綺麗だよ」

 肌を密着させて、耳元で囁いてくる少女が一人。

「せ、せせっ、セシルさん……!?それは一体、どういう……!?」

 突然の発言に、わたしも驚きを隠せません。

「ん?思ったままを口にしただけ」

「へ、へへっ!?わたしはそんな大したモノでは……!」

 さすがにお星様と比べられるのは荷が重すぎます。

「ちょっとセシルさん何をしていますの!?」

「そんな堂々と抜け駆けする!?」

「え、あんた達、こんなに広いのにわざわざ固まる必要は……ちょっと置いてかないでよねっ……」

 今度は急に仲良しになったのか、一気に集まってきます。

「じゃあ、左はミミアがもらうね」

「あっ!じゃあ後ろはわたしが……」

「そうなると前は私ということになりますわね……」

 な、なぜ。

 わたしを取り囲むように集まるのでしょう……?

 皆さん、すっぽんぽんだというのにこんな密着して……!

 裸の付き合いって、こんなに距離感を縮めるんですね!!

「……邪魔だなぁ」

 そんなセシルさんの小言も聞こえて来たところで。

「あ、あの皆さん……?申し訳ないんですけど、ちょっと離れてもらってもいいですか?」

 ですが、わたしの声などどこ吹く風。皆さんの話声で掻き消されてしまいます。

 そうしている内にわたしの視界が、ふわふわし始めます。

 考えてもみてください。

 わたしは一番乗りで温泉に入ったのです。

 その後にこんなに集まってしまうと……熱くて体が……。

「……エメ、茹で上がったタコみたい」

「あ、あれ?エメちゃん、息荒くない?」

「と言いますか、段々沈んでらっしゃらない?」

「いや!これのぼせてるわよ!早く上げないと!」

 ああ、もうちょっと皆と一緒に温泉に浸かってお話ししたかったです。
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