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71 新天地へ!

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 学園の空気はこれ以上ないくらいに和んでいました。

「じゃあ皆、明日からお休みになるけどあまり羽目を外し過ぎないようにね」

 そう告げるヘルマン先生の表情も少し柔和な気がします。

 冬休み前、最後のHR。

 一時の学園生活からの解放、それを皆さん心待ちにしているわけですね。

「それと、休みが明けたら割と早く進級試験始まるからね。魔法は各自でちゃんと練習しておくんだよ」

 その言葉を最後に、HRは終わりを告げ冬休みが始まったのです。

「よしっ」

 わたしは足早に席を立ちます。

「あ、エメ……早いね」

 お隣のセシルさんがわたしの迅速な動きを見て何やら気になっている様子です。

「ええ、今日もお仕事ですので」

「明日からは……どうするの?」

 それは別の日にもリアさんと、ミミアちゃんに問われました。

 “本当に一人でフェルスに向かい、ゲヘナと接触するのか”と。

「行きますよ、わたしは」

「一人でも?」

 迷いはありません。

「はい」

「……そう」

 短いその言葉を最後に、学園を後にしました。




「今までお世話になりました!」

 お仕事を終えて、アレットさんに挨拶します。

 今日は勤務最終日、お世話になったジャルダン・デ・フルールにもお辞儀します。

 小脇には初めての給料袋を抱えて。

「ううん、こちらの方こそ助かったよ。良かったらいつでも遊びに来てよ」

「はい、また来ますね!」

「制服ならいつでも貸し出すからね」

「それは大丈夫です」

「なんで!?皆からも好評だったでしょ!?」

「お仕事でもないのに着たくありません、お金払ってくれるんですか?」

「エメちゃんがいつの間にかちょっと大人になってしまった!?」

 最後まで掴めない店長さんでした。

        ◇◇◇

 そうして冬休み初日の朝を迎えます。

「……よしっ!」

 わたしは決意を新たにしてリビングで朝日を浴びます。

 準備は万端、あとは出発あるのみです。

「あんた、どこに行くのよ」

 後になって現れたシャルがわたしの様子を見て尋ねてきます。

「うん、お姉ちゃんはちょっと旅に出るの。シャルには申し訳ないけど、しばらくの間お留守番お願いね」

「わかった、一緒に付いて行くから心配しないで」

「うん、そしたらよろしく……って、あれ?」

 なんか一部想定と違う返事が混ざっていた気が……。

「フェルスに行くんでしょ?いいわよ、わたしも行くから」

「え、いや、あの……」

 何で知ってるの?

 それにシャルも白いコートなんて来ちゃって出掛ける気満々の装い……。

「もうあんたの企みはバレてんのよ」

「いやいや!危ないからっ、人もいないような土地だしどうなるか分からないよ!?」

「だから?」

「え、いや、危ない目に遭わせるわけには……」

「わたしがステラなの忘れたわけ?ラピスのあんたが心配するなんて百年早いわ」

「……ええ」

 シャルに引く気が一切ないのはひしひしと伝わってきます。

 まさか、こんな展開になってしまうとは……。

「絶対に一人にはさせないから」

 力強く言い放つシャルの圧に負けて、わたしはこくんと頷いてしまうのでした。




 帝都には東西南北に分かれた城門があります。

 わたしたちは北へ繁華街を抜けて進んで行くと、帝都の出入り口が見えてきます。

「これから向かう村には、馬車が使えるみたいだからそれに乗るわよ」

「あ、そうなの?」

 なんと、そんな便利なものが使えるだなんて。

「そりゃしばらくは人がいる場所に向かうんだし……ていうか、知らなかったの?」

「あ、うん。基本歩きかなって」

「……はあ。やっぱりあんたを一人には出来ないわ」

 シャルに深い溜息と、やれやれと肩をすくめられました。

 姉としての威厳を更に失墜させた後、シャルに馬車のある小屋まで案内されます。

「――ですから、どうして貴女方まで一緒ですの!?」

 近づくにつれ、人の話声が聞こえてきます。
 
 先客がいたようです。

「それはこっちの台詞。お店ではお通夜状態だったのに」

「んー?その場の空気に合わせた、みたいな?」

「私は覚悟を決めるのに言葉数が減っただけですわ!」

 ……え、あれ。

 すごい聞き覚えるのある声だと思うのは、気のせいでしょうか。

「迷うような決心なんて当てにならない。今からでも遅くない、家に戻るべき」

「確かに、即決できないようならこの先危ないかも?」

「この中で最も優秀なのは私でしょうに!どうして追い払わなければなりませんの!?」

 絶対そうです。間違いありません。

 馬車の荷台が見えてくると、三人の少女がいがみ合っていました。

「……あの、皆さん。なぜここに?」

 ぴくり、と三人全員が反応してこちらを向きます。

「エメさん!……あ、いえそれより聞いてくださる!?私は貴女の力になろうと決心しここまで来ましたら、その真似をしたこのお二人が現れたのです!」

「え?真似?してないしてない!リアちゃんがどうするかなんて知らなかったし。ミミアはエメちゃんが大変そうだなと思って手伝いに来ただけだし!」

「……私は、誰にも来て欲しくないからずっと黙ってただけ」

 おお……このお三方。

 わたしの話の何を聞いていたのでしょうか……!

「ま、待ってください!これから先は危険な旅になるんですよ、遊びじゃないんです!一緒について来るなんていけません!」

 御三家令嬢はわたしの言葉に一瞬、目を丸くしますが……。

「勿論、覚悟の上ですわ!この命に代えましてもエメさんを守り、魔法士に反する不届き者を処罰してみせますわ!」

「エメちゃん回復魔法はまだ使えないよね?ミミアがいると重宝するよ、だから離れるわけにはいかないね?」

「その理屈だとシャルロッテが一緒にいるのはおかしい。だから私が駄目ってことにはならない」

 こ……この人たちは……!

 譲る気が一切ないのですね!?

「……冷静に考えてこいつらを返すのは無理じゃない?我も強いし、知名度も財力もあるからどこまでも追ってくるわよ」

「シャ、シャルまでそんなこと言うの!?」

「いや、わたしとしては少しでもリスク減らせる方がありがたいし……二人きりじゃないのは残念だけど」

 最後の方は小声で上手く聞きとれませんでしたが、とにかく追い返すことは出来ない雰囲気が漂っています。

 ど、どうしてこんなことに……!

「さあエメさん、私と共に巨悪を打倒しに参りましょう!」

「エメちゃんのことは、ミミアが守ってあげるからね?」

「エメ、一緒に行こう」

「……ま、覚悟決めるしかないんじゃない?」

 妹と御三家令嬢たちがわたしを放そうとしない件について!!
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