38 / 93
38 ゲオルグさんにも屈しません!
しおりを挟む「うあっ……!!」
――ビキビキ
体を走る魔力の経路が疼きます。
今まで感じたことのない滞りのない魔力の流れ。
魔力が円滑すぎるほど駆け巡りるせいなのか、同時に痛みが伴います。
ですが、この手からは間違いなく黒い閃光、魔法が放たれています。
「グアアアアアアアアア!!」
フェンリルが叫びます。
それは先程まで轟かせていた咆哮ではなく、自身の終わりを告げる断末魔。
わたしの魔法によって体に風穴を開けられたフェンリルは、両手脚をバタつかせ虚しく空を搔いています。
けれど、それが出来たのも数秒。悶える力すら失った狼の魔獣はその場に倒れ伏せます。
――バアン!
巨躯が地面に倒れる音。その背後に隠れるようにして立っていた少年は口をあんぐりと開けたまま、こちらを見ているのです。
「……ラピス、てめぇいま、何をした!?」
“信じられない”、そう言わずとも分かってしまうのは、その瞳に恐怖の色を宿していたからでしょう。
「何と言われましても……やられそうだったので、やり返しただけです」
「ミミアもビックリ、エメちゃんそんな強力な魔法を使えたの?しかもほとんど詠唱してないよね?」
魔法は本来強力であればあるほど、長い詠唱を必要とします。
「当たり前だっ!フェンリルの魔法は俺達人間が使う魔法とは別物!魔族だけが使用できる“闇魔法”だぞ!?なんで人間のお前が……それもラピスごときが使えるんだっ!?」
「え、それって……どういうことですか……?」
そんなことは知りませんでした。
ただ、フェンリルの魔法を見た時にその経路から構成の全てが視えてしまったのです。
視えるということは理解したということ、それを再現するのは容易いのです。
むしろ、今まで使っていた魔法よりずっと体に馴染んだような……。
「俺が知るかよ!この化け物がっ……!」
「えっ……」
その一言が妙に胸に響いてしまったのは何故でしょうか。
「その雷鳴を轟かせよ――稲妻!!」」
その隙を突くように、ゲオルグさんが魔法を展開します。
「……視えない」
そこで気付きます。ゲオルグさんの魔法は、わたしの魔眼で魔力を捉えることは出来ても、その構成の把握にまでは至りません。
わたしはフェンリルの魔法を理解することは出来ても、ゲオルグさんの魔法を理解することは出来ないのです。
これは、どういうことなのでしょうか。
「エメちゃん、ちょっとボーっとしてない!?」
「……あっ!」
フェンリルを倒したことですっかり安心し、ライトニングが理解できないことに意識が向きすぎて注意が散漫に!?
急いで魔力を足に集中させて……!
「アクセラレ……」
「――その必要はありませんよ」
「へ……?」
突然、目の前には白く輝く髪の後ろ姿。
その少女の手には剣が握られています。柄の部分は少女の髪のように白く、細かい装飾。刀身は細く銀色に輝いています。
「ゲオルグ、貴方はいつになればその魔力を無駄に放散させるだけの魔法が改善されるのでしょうね?」
白い髪の少女はその手に持った剣を一度振るうだけで、電撃は霧散してしまいます。
「セリーヌ!?てめぇ、何でこんな所に!?」
「貴方が無茶苦茶な事をするからに決まっているでしょう?噂はすぐに届きました、こうして私自ら粛清に来たのですから覚悟することですね」
セリーヌと呼ばれた少女はゲオルグさんの剣幕に一切押されず、華麗に流してしまいます。
むしろ、ゲオルグさんの方がセリーヌさんを恐れているような……。
「ち、ちくしょう……!なめんなよっ!俺はこんな所で……!」
ゲオルグさんが再び手をかざします。
「遅いですね」
「はあっ!?」
けれど、それよりも速くセリーヌさんがゲオルグさんの前に。
そのまま目にも止まらぬ速さで剣を振るいます。
――シャシャシャシャッ……!!
流麗な身のこなしで、ゲオルグさんを何度も斬りつけます。
「うあああっ!?」
ですが肉体は一切り刻まれていません。
……なんと、服だけを切り裂いていたのです。
いきなり、すっぽんぽんになるゲオルグさん……。
「うおおおっ!!」
大事な所を手で隠してます……。
「ほら、がら空きですよ」
コンッ、とブーツ掃いた足でゲオルグさんの胴体部を蹴ると、そのままバランスを崩し仰向けに倒れてしまいます。
か、かなり間抜けです……。
「てめえっ……!舐めた真似しやがって!!」
倒れたまま叫ぶ裸の男を、セリーヌさんは見下ろします。
「うふふっ……とってもみすぼらしい姿ですね。こんな姿を後輩の女の子に見られるだなんて……恥ずかしくって私なら耐えられません」
くくくっ……、と押し殺すように笑うセリーヌさん。
なんでしょう……すっごく怖いのです。
「ふざけやがって!てめえみたいな女、俺がブッ殺し……」
「誰が誰を殺す、ですって?」
セリーヌさんから初めて敵意が露になると、四方を囲むように空間に現れたのは氷の刃。
その全ての矛先がゲオルグさんに向けられています。
「ひっ……」
そして、セリーヌさんの剣先もゲオルグさんの首筋に当てられています。
「殺すと豪語するのは勝手ですが、相手は考えることですね」
「てめえなんかに……!」
「ああ、それとも実際に味合わなければ理解できませんか?」
「なっ、どういう……!?」
空間に停止していた氷の刃が一斉にゲオルグさんに向かって動き出します。
「これなら確実にあの世行きですね?」
「うわあああああああ!?」
青ざめるゲオルグさんは、自分に近づく氷の刃に恐怖し叫び声を上げます。
ですが、その刃はゲオルグさんに届く寸前で消えてしまいます。
「冗談ですよ。さすがにそこまでしません」
「……」
「あれ、ゲオルグ?……あらあら、気絶してしまいましたか」
白目を剥いたまま意識を消失してしまったゲオルグさん。
恐ろしいのはセリーヌさん。傍から見ていても明らかに力を完全に出し切らないまま、2学年で第4位のゲオルグさんを圧倒していることです。
セリーヌさんは白い髪を掻き上げると、こちらの方を向きます。
「私のクラスメイトがご迷惑をお掛けしましたね。怪我はありませんか?」
「あ、はっ……はい!大丈夫ですけど……」
真正面からその姿を見ましたが、なんて美しい人なんでしょうか。
白く滑らかな肌に整った顔立ち、細くしなやかな手足に落ち着いた物腰。
大人のお姉さん感が溢れ出ています。
「み、ミミアちゃん……?この綺麗な人は一体誰……!?」
「げっ、エメちゃん!それ本気で言ってる!?」
「あ、うん……」
ミミアちゃんはわたしの質問に心底驚いてるようでした。
「セリーヌ・ベルナールさん。2学年で第1位のステラ、そして我らがアルマン学園、生徒会執行部の会長じゃない……!」
「そんな凄い人なんですか!?」
「なんで知らないの!?」
「なんで知ってるんですか!?」
「いや、確かにこの学園って忙しいからそういった人達の接点ないけどさ……入学式とか挨拶してたよ!?」
「ああ……」
入学式での壇上挨拶はちゃんと集中できなかった記憶がありますね……。
「お二人とも無事なようですね。安心しました」
「は、はいっ!セリーヌ様のおかげで助かりました、ありがとうございますっ!」
ゆるふわなミミアちゃんが背を正して敬語を使っています……。
本当に凄い方なんですね……。
セリーヌさんはわたしに視線を向けます。綺麗なアーモンド形の瞳は白く透き通っていて、吸い込まれてしまいそうな美しさです。
「貴女の妹さんから連絡を頂いたのです。他の生徒はここまで来ないようヘルマン先生が対応してくれています。彼女と貴女達の迅速な対応のおかげで大事にならずに済みました、感謝致します」
すっ、と頭を下げるセリーヌさん。
「あわわわっ!会長!頭を上げてください!助けてもらったのはミミアたちの方ですからっ!」
「いえ、彼を御しきれなかった私の責任でもありますから」
なんでしょう……。
さっきまでゲオルグさんを丸裸にして笑みを浮かべていた人と同一人物とは思えません……。
「それにしても、ゲオルグは魔獣まで連れ込んで……何のつもりだったんでしょうね!?」
「彼は【ゲヘナ】の一員です」
「ゲヘナって、あの反魔法士組織ですよね!?」
……あれ、またわたしの知らない単語が出てきてますね……。
「ええ、その証拠がアレです。左胸に刻印が刻まれているでしょう?」
「ほんとだ……」
わたしも一緒に見てみると、裸で倒れているゲオルグさんの左胸には揺らめく炎のような紋様が刻み込まれていました。
「セリーヌさんは、それを確かめるためにゲオルグさんを裸にしたんですか?」
わたしの質問にセリーヌさんは首を傾げます。
「当たり前でしょう?それ以外に何の目的があって彼を丸裸にする必要がありますか?」
……その割には、すごい楽しそうでしたよ?セリーヌさん……。
0
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
百合カップルを眺めるモブになりたかっただけなのに。
蒼風
恋愛
□あらすじ□
百合カップルを眺めるだけのモブになりたい。
そう願った佐々木小太郎改め笹木華は、無事に転生し、女学院に通う女子高校生となった。
ところが、モブとして眺めるどころか、いつの間にかハーレムの中心地みたいになっていってしまうのだった。
おかしい、こんなはずじゃなかったのに。
□作品について□
・基本的に0時更新です。
・カクヨム、小説家になろう、ノベルアップ+、noteにも掲載しております。
・こちら(URL:https://amzn.to/3Jq4J7N)のURLからAmazonに飛んで買い物をしていただけると、微量ながら蒼風に還元されます。やることは普通に買い物をするのと変わらないので、気が向いたら利用していただけると更新頻度が上がったりするかもしれません。
・細かなことはnote記事(URL:https://note.com/soufu3414/n/nbca26a816378?magazine_key=m327aa185ccfc)をご覧ください。
(最終更新日:2022/04/09)
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
檸檬色に染まる泉
鈴懸 嶺
青春
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性”
女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。
雑誌で見つけたたった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が……
手なんか届かくはずがなかった憧れの女性が……
いま……私の目の前ににいる。
奇跡的な出会いを果たしてしまった私の人生は、大きく動き出す……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる