上 下
34 / 93

34 プレゼントを選びましょう!

しおりを挟む

「思った以上にミミアちゃんの欲しい物は豪華でしたね……」

 わたしは再び教室に戻り、考え込みます。

 間違いない成功法だとは思いますが、残念ながらそれを実行する財力がありません。

 あとミミアちゃんに誕生日プレゼントあげられないなって思っちゃいましたよね……。

 手作りのクッキーとかあげたら、どんな事になるんでしょうか……?

 背筋が凍るような思いをしそうなので、これ以上考えるのはやめましょう。

「どうだった……?」

 セシルさんがわたしの様子を見かねて声を掛けてくれます。

「わたしにはちょっと早いアイディアでした。別の手段を考えます」

「そう」

 さて、他に聞ける人がいるとすれば……リアさんくらいですね。

 教室にはいない様子。どこにいるのでしょうか?

 わたしは廊下を探索してみます。




「んー……どこでしょうか」

 教室の近くには姿がありません。

 隣のクラスも遠目で確認してみましたが、いなかったですし。 

 わたしは学園内を彷徨います。

「あらエメさん、御機嫌よう」

 と思っていたらリアさんの姿がありましたっ。

 ですがここ、だいぶ教室から離れています。

「リアさん、こんな所で何をしていたんですか?」

「先生に用がありましたので職員室から帰ってきたところですが?」

「……なるほど」

「エメさん、貴女とても失礼なことを考えていませんでした?」

「いやいやっ、そんなまさかっ!」

 図星で怖いのです。

「あ、わたしリアさんに聞きたいことがあったんです!」

 慌てて話をすり替えます。

「……なんでしょうか」

「リアさんってお誕生日プレゼントに何を貰ったら嬉しいですか?」

「誕生日プレゼント……ですの?」

 意外だったのでしょう、リアさんは不思議そうな表情を浮かべています。

 ……自分から聞いといてアレなんですけど。さっきのミミアちゃんの一件で思ったことがります。

 やはり御三家と呼ばれる名家の方々ってちょっと金銭感覚が違うのではないかと。

 冷静に考えればセシルさんのレアな魔法古書だって相当高価ですし。

 特にリアさんは、その中でも一際スケールの大きいことを言う気がしてなりません。

『私にプレゼントしたいのでしたら城一つ……いえ、国一つくらいなら貰ってあげてもよろしくてよ?』

 とか言っちゃいそうです。容易に目に浮かびます。

「その人が心を込めて選んでくれた物でしたら、何でも嬉しいですわ」

「……え?」

 あれ、わたしの聞き間違いですか?

「え、とは何ですの。私そんな変なことを言いましたか?」

「いえ、すいません。ちょっと意外でして……。でも、それってリアさんは何を貰っても嬉しいってことですか?」

「その人が私のことを想って選んでくれた物なのでしょう?それを喜ばない理由がどこにありますか」

 な、なんて……素敵な方なのでしょう……!

 そうですよねっ。一所懸命に想って選べば何だって喜んでくれますよね!

「ありがとうございますリアさん、お陰で答えが見つかりそうですっ」

「私は当たり前のことを言っただけです。むしろ、これが意外だなんてエメさんは私が何と答えると思っていらっしゃったの?」

「いえ……、リアさんは城とか国くらいじゃないと喜ばないのかなぁ、なんて……」

 リアさんの眉がぴくりと動きます。

「誕生日プレゼントにそんなの贈る人がどこにいますの……。というかそんなの貰っても嬉しくありませんわ」

 そ、そうですよね。

 冷静に考えてそんなの有り得ないですし、さすがにそんな規模の物を貰って嬉しいワケないですよね。

「――それは自身の力で掴み取るから意味があるのでしょう?」

 ……あ。違いました。

 やっぱりリアさんも見ている景色がちょっと違ったのです。

 そんなスケールの大きな野望を抱く女の子がいるなんて思わないのです……。

        ◇◇◇

 放課後。

 何はともあれ、わたしはわたしなりにシャルのことを考えてプレゼントをすればいいことが分かったのです。

 繁華街を目指して帰り道を歩きます。

「じゃあ、シャルは何が欲しいのかなぁ……?」

 ……あれ。

 ぴたっ、と足を止めます。

 ちょっと待ってください。一瞬納得した自分がいましたが、何かおかしいです。

 自分なりに選ぶ重要性は分かりました。

 ですが、わたしはその中でも傾向と対策として、より喜ばれるであろうプレゼントが知りたかったのです。

 ですがこの状況って……。

「最初と何も変わっていないのでは!?」

 結局何が欲しいのか分からないまま選ぶという意味では変わりません!

 最初よりはちょっとだけ自信を持って選べそうですが……それくらいの差ですねぇ。

 とぼとぼ、と切ない足音が響きました。




 繫華街に到着しました。

 以前リアさんと来た時もそうですが、ここは人の行き交いが多いです。

 人の波に飲まれそうになりながらも、ショーケースに並ぶ雑貨や家具などを眺めてみます。

「ううん……どれも値段が張ります。さすが帝都、物価が高いのです」

 シャルは事あるごとに“食材がとにかく高い!”と言っていましたが、こういう事なんですね。

 きっと賃金も高いのでしょうけれど、学生のわたしには今のところ関係ないですしね。

 値段の高さだけが目についてしまうのです。

「あ、かわいい」

 そうしている内に、ふと目に着いたのはマネキンが着ている冬仕様の洋服。

 モコモコとしたコートや毛糸のマフラーや手袋が可愛らしいデザインをしていました。

 コートとかは買えないですけど……。これから寒くなりますし、マフラーとか手袋は良さそうですね。

 わたしはその洋服屋さんに入ってみました。

「いらっしゃいませー」

 アンティークな内装に柔らかい音楽、綺麗な大人のお姉さんが店員さんをしているオシャレなお店です。

 ……い、勢いで入ってみましたけど……わたしみたいな冴えない子がこんな所に入って良かったのでしょうか。場違いな気がしてきて緊張してきました……。

「何かお探しの物はございますか?」

 はっ!

 オドオドしているのを見破られたのか、店員さんがわたしに声を掛けてきました……!

 な、なぜ、他にも人はいるのに。あえてわたしに声を掛けるのですか……!?

「いや……お探しというよりは、何かいいものないかなとふらっと見てみただけでして……」

 ということで、このまま解放して好きに見させてください。お願いします。

「そうでしたか。この時期でしたら冬物が気になりますよね?どういった物がお好みでしょうか?」

 えええええええっ……店員さんがまだ話を続けますぅ……。

 やんわり逃げようとしたの伝わらないんですか、この人……?

 明らかにコミュニケーション能力高そうなのに、どうしてそこ察知してくれないんですか……?

「えっと、マフラーとか手袋……ですかね」

「あ、それでしたらこちらにありますよ」

 そして断れずに答えてしまうわたしぃぃ……!!

 店員さんに流されるように案内されていきます。

 こ、このまま買わなきゃいけないような空気になりそうで怖い……!

「こちらが当店でオススメの商品になります」

 そこにはずらっとマフラーや手袋が一式並んでいます。

「マフラーでしたら、特にこちらが人気でして。見た目も可愛いんですが、肌触りがとても良くて軽くて暖かいんです」

「あ、ほんとだ。気持ちいい」

 店員さんに渡されて実際に触れてみると、ふわふわとしていながら滑らかな感触がとても心地よかったのです。

「デザインもシンプルでどの服装にも合いますよ」

「へ、へえ……」

 ま、まぁ……確かに物としてはとても良いのは分かりました。

 特に不満はありませんが、大事な要素がもう一つありまして……。

「これっていくらするんですか?」

「こちらは5万ゴールドになります」

 5万!?

 マフラーに5万!?

 桁一つ違いませんか!?

「け、結構いい値段しますね……」

「そうですね。ですが天然の最高級素材を使用していますので、質感で考えるとむしろ安いくらいなんですよ?」

 いや、分かりませんって。

 わたしみたいな田舎者にそんなの分かりませんって……。

「今でしたらこのシリーズの物を2個同時に買っていただくと20パーセントオフになるキャンペーンもしていますよ?」

 この人何言ってるんですか?

 1個でも高くて手が出ないのに、どうして2個手を出すことになるんですか。

 わたしを破産させる気ですか?

「へ、へぇ……とてもお買い得なんですね」

「はい、プレゼント用に買われていく方もたくさんいらっしゃるんですよ」

 でも、そんなこと言えないわたし!!

 素直にお金ありませんって言えばいいのに!!

 店員さんも凄く丁寧だから、何だか申し訳なくて言い出せませんっ!!

「あ、でも、アレなんかも気になりますねぇ……?」

 ですが、それを買うのはあまりに無謀。他の物に興味があるフリをします。
 
 もうちょっとお手頃な価格帯だと思われる物の中で、デザインに目を惹かれたものに手を伸ばします。

 ……が、同じ物を取ろうとしたお客さんと手がぶつかってしまいます。

「あ、すみませんっ!」

 申し訳ないのです。同じ物に手を付けてしまったらこのお客さんが買いにくくなったかもしれません。

 それとも冴えないわたしと一緒のセンスなんだと自己嫌悪までさせてしまうかも……。 

「いえ、こちらこそ……って、あんた何してんの!?」

「はい……?」

 伏せていた顔を上げると、そこにいたのはシャルなのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ゲーの悪女に転生したので破滅エンドを回避していたら、なぜかヒロインとのラブコメになっている。

白藍まこと
恋愛
 百合ゲー【Fleur de lis】  舞台は令嬢の集うヴェリテ女学院、そこは正しく男子禁制 乙女の花園。  まだ何者でもない主人公が、葛藤を抱く可憐なヒロイン達に寄り添っていく物語。  少女はかくあるべし、あたしの理想の世界がそこにはあった。  ただの一人を除いて。  ――楪柚稀(ゆずりは ゆずき)  彼女は、主人公とヒロインの間を切り裂くために登場する“悪女”だった。  あまりに登場回数が頻回で、セリフは辛辣そのもの。  最終的にはどのルートでも学院を追放されてしまうのだが、どうしても彼女だけは好きになれなかった。  そんなあたしが目を覚ますと、楪柚稀に転生していたのである。  うん、学院追放だけはマジで無理。  これは破滅エンドを回避しつつ、百合を見守るあたしの奮闘の物語……のはず。  ※他サイトでも掲載中です。

檸檬色に染まる泉

鈴懸 嶺
青春
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性” 女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。 雑誌で見つけたたった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が…… 手なんか届かくはずがなかった憧れの女性が…… いま……私の目の前ににいる。 奇跡的な出会いを果たしてしまった私の人生は、大きく動き出す……

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

処理中です...