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32 とにかく逃げます!
しおりを挟む「ギルバード、てめぇ……どういうつもりだ!?」
ゲオルグさんは目を血走らせてギルバート君を睨みつけます。
「それは僕の台詞ですよゲオルグ先輩、女の子二人を相手に手を出すなんてどういうつもりですか?」
「は!?二人!?俺はそこのラピスに縦社会を教育しようとしてただけだっ!!」
ひええ……そんな目の仇にしなくてもいいじゃないですかぁ……。
「同じですよ、上級生が下級生の女の子に手を出したことは変わりません」
「てめえこそ、先輩に意見するとは躾がなってねぇんじゃねえのか?」
ギルバート君はそれを聞いて、鼻で笑いながら肩をすくめます。
「先輩よりは良い教育を受けた結果が出ていると思いますが」
「てめぇ……!!主席だからってほざくなよ!!」
「そういう意味ではなかったんですが……それよりいいんですか?いくら何でも放課後に中級魔法なんて使えば教員が嗅ぎ付けますよ」
ちっ、とゲオルグさんはバツの悪そうに舌打ちをします。両手をポケットに入れ、戦意を失ったように見えます。
「俺が中級魔法を展開した証明なんて出来ないだろうが。……だが面倒事になるのもダルいからな。今日は勘弁してやる」
「そうですか。それなら僕も見逃してあげますよ」
そのままゲオルグさんはギルバート君の横を通り過ぎて、ガーデンを後にしようとします。
「でもギルバード、てめぇはダメだ」
ですが、それはウソ。
くるりと振り返りポケットから手をかざし、魔法が展開されようとしています。
「ギルバート君……!」
いけません。このままでは怪我人が出てしまいます。学園内でそんなことが起きていいはずがありません。
わたしは、なけなしの魔力を寄せ集め最後の力を振り絞ります。
「駆動……!」
一方は魔眼、一方は脚へと魔力を集中させます。
ゲオルグさんの魔力が腕を通過しているのが視えた時には、既に駆け出していました。
「その雷鳴を……」
「やめてくださいっ!!」
「んなっ!?」
わたしはギルバート君の背に回り、ゲオルグさんの正面へ。
魔力が通るポイントを突いて、その経路を狂わせます。
バチバチッ、と明後日の方向に電流が走るとわたしはそのままゲオルグさんの腕を捻り上げます。
「ああっ!?」
「危ないことはやめて下さい!!」
――ダンッ!!
全体重をゲオルグさんの腕に伝え、組み伏せます。
絡めとった腕は背面へと伸びています。
「あだだっ!このクソ女……!!」
な、なんていう口の悪さ……。
「どけやがれっ!」
「あうっ……」
ですが組み伏せられたのも一瞬、とうとう魔力ゼロになったわたしでは力及ばずゲオルグさんに振り払われるのでした。
「次あったら覚悟しておけよ!」
お決まりのような捨て台詞を吐くと、今度こそゲオルグさんはガーデンを後にするのでした。
「エメさん、ごめん大丈夫?」
ギルバード君は地面に横たわるわたしに合わせて膝を着き心配してくれます。
「ギルバート君の方こそ、ありがとうございました……。助かりました……」
「いや、僕としたことが助けるつもりが助けられてしまったよ。それにしても……」
ギルバート君はわたしの顔を覗き込ます。
男性とは思えない綺麗で端正な顔立ちが、視界を埋め尽くします……こ、これはどういう状況でしょうか!?
「エメさん、面白い眼を持っているね?」
――ギクリ!!
ま、まずいです……!
ギルバート君の容姿にときめいてる場合じゃありません。次から次へとこの魔眼を露呈するわけにはいかないのです。
魔族だと思われて火炙りの刑にされるのは困るのです!※そんな処罰はこの時代にはありません。
「なな、なんのことでしょうか……!?わたしの目が面白いなんて、そんなわたしの顔面偏差値は低いでしょうか……!!」
「顔面偏差値……?それで言うと可愛い顔をしていると思うよ?」
「……!!」
なんですか、この人!?
わたしを良い気分にさせてギルバート君に何の得があるのでしょうか!?
そうです、そんなことあるはずありませんっ。
そうだ、きっと聞き間違いをしたんですねっ!
「可哀そうな顔ですか!?残念な容姿でごめんなさい!!」
「いや、えっと……」
ぽりぽりと困ったように頬を掻くギルバート君。
この隙に逃げ去りたいのに、体が言う事を聞かないのでどうしようも出来ません……!
「――治癒」
白い光が体を包み、体が一気に回復していきます。
「ごめーん、エメちゃん大丈夫だったー?」
ミミアちゃんが駆けつけて、わたしを治癒してくれました。
このタイミングを逃すわけには行きません……。
「あ、ありがとうございますミミアちゃん。それではわたしたち先を急ぎますので、もう行きましょうか!?」
ガシッと、ミミアちゃんの腕を掴みます。
「あ、えっと……それはゲオルグから逃げる設定で……」
そんなことを聞いている暇はありません。
「さあ行きましょう!ギルバート君も助けてくれてありがとうございました!今日はこれで失礼します!」
「あ、えっと……」
ギルバート君の制止の声を背に、わたしはミミアちゃんを引き連れてガーデンを去るのでした。
◇◇◇
「ちょっとエメちゃん、早いよぉ」
バタバタと校内を走っていると、ミミアちゃんが息を切らしていました。
「あ、ごめんなさいっ」
足を止めるとミミアちゃんは両手を膝につき、はぁはぁと肩で息をします。
「ううん……こっちこそ、急に巻き込んでごめんね。謝らなきゃなのはミミアの方だよ」
「いえ……それはいいのですが、さっきの人は何だったのですか?」
「2学年の第4位のステラ……だったかな?バルシュタインっていう、ここら辺だとそれなりのお金持ちらしいよ。でも、ミミアにそれをアピールされても……ねえ?」
確かに……御三家と称されるミミアちゃんにお金持ちアピールは全く効力を発揮しなさそうです……。
「ミミアに気があるのか知らないんだけど、俺の下に付けっていきなり命令されてさぁ?さすがにないよね」
「それは確かに……嫌ですね」
「ねー。それでお断りしますって言ったら、さっきエメちゃんが見てた展開ってこと。お陰で助かったよ」
「力になれたのなら良かったです。でも気を付けてくださいね?ミミアちゃん可愛いから、きっとモテモテでああいう人にもたくさん狙われるでしょうから」
「えっ……?」
するとミミアちゃんは大きな瞳にフサフサの睫毛を瞬かせます。
ま、まずい……わたしみたいな子がミミアちゃんを可愛いとか言うの生意気だったでしょうか?当然のこと過ぎてお前が言うなよ、とか思われちゃってるでしょうか!?
「……もうエメちゃんったら!そんなミミアを褒めたって何も出ないぞっ!」
「ふええっ!?ミミアちゃん!?」
ミミアちゃんはニコニコ笑顔でわたしに抱き着いてきます。
その瞬間、ふわりと甘い香りが漂ってきます……これが美少女の香り……!
……あれ、待ってください!?ということはわたしの匂いもミミアちゃんに届いているのではっ!?
「ミミアちゃん、ダメですっ!!」
わたしは抱き着くミミアちゃんを引き剥がします。
「えっ……ごめん、抱き着かれるの嫌だった?」
「いえ!わたしみたいな陰キャに抱き着いたらミミアちゃんがホコリくさくなってしまいます!」
「えっと……え……?」
「そんなことしたら学園中から責められます!可愛いミミアちゃんを汚すわけにはいきませんっ!!」
「えっ、ちょっとエメちゃんずっと何言ってるの……?」
「それではミミアちゃんごきげんよう!いつまでも素敵な香りでいてねっ!」
「えっ、えっ、ええっ~!?」
わたしは皆のアイドルを慈しむために、その場を後にするのです。
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