上 下
29 / 93

29 リアさんと古書を探しに!

しおりを挟む

 休日、リアさんとの約束の日が訪れました。

 支度を済ませて、リビングでくつろいでいるシャルに声を掛けます。

「シャル、わたし今日出掛けてくるから」

「珍しいわね、どこに行くの?」

「昔の魔法工程書を探しに古書店に行ってくるの」

「へえ……それまた珍しい。あんたそんな所に一人で行けるの?」

「それがね、リアさんと一緒に行くんだ。……うへへ」

 口に出して言ってみると、なんだか学生らしい休日のようで嬉しくなって笑ってしまいました。

「は?リアと……何故そうなるわけ……?」

「リアさんに、昔の魔法工程を知れば使えるようになるかもって教えてくれてね?一緒に探してくれることになったの」

「よくアイツそれをオーケーしたわね……」

「“卑しいこのわたしにリア様の叡智をお与えくださいニャー!”ってお願いしたらオーケーしてくれたよ?」

 わたしは猫ちゃんポーズをして再現してみます。

「はぐっ!!」

「ん……?そんなに見るに耐えなかった?」

 そうですよね、姉の猫真似が見たい妹がいるわけないですね。

 よっぽど嫌だったのでしょう、シャルはフーフー息を漏らしています。

「そ、そんなことしたの……?」

「え、うん。最初は断られたんだけど、何度もお願いしたらこれをしろって言われたの」

「あ、そう……なんてうらやま……じゃなくて、ふざけた事をさせる奴ね」

 シャルはそのまましばらく息を荒げているのでした。

 そんなに辛いのなら、もう見せない方がいいですね。


        ◇◇◇

 リアさんに待ち合わせで指定されたのは、中央公園セントラルパークでした。

 住所は教えてくれていたため、それを頼りに探していきます。

「ここですか。大きいですね……」

 広大な敷地は森林に覆われ、その中を石畳みで舗装された道が続きます。

 その道に沿って歩いて行くと、中央部には石造りの噴水があります。

 湧き上がる水を背に、凛とした立ち姿の女の子の姿が見えました。

「あらエメさん、ごきげんよう。いいお天気ですわね」

 うわぁ……。思わず感嘆の言葉が漏れ出てしまいそうなほど、リアさんが美しいです。

 普段から美人さんだと思っていたリアさんですが、今日は一段と際立っています。

 仕立ての良い白シャツを羽織り、胸元には赤いリボン。漆黒のロングスカートは品の良いレースがあしらわれています。足元は茶色の革靴で締めています。

 白と黒のシンプルな色合いですが、その生地から質の良さは伝わってきてます。緋色の髪とのコントラストも相まって、とても魅力的に見えるのです。

「リアさん、こ、こんにちはっ!本日はお日柄も良く……」

「……?エメさん、普通にしていいですわよ」

「あ、はは……。ごめんなさい。リアさんの私服姿があまりに綺麗なので見惚れてしまいました」

「そうですか?ありがとうございます」

「見るからに高そうな服ですね……?」

 あ、いきなり洋服の値段の話を聞くなんて、はしたなかったでしょうか……?

「さぁ……?使用人に任せていますので詳しいことは分かりませんの」

 おお……さすが御三家と言われるお嬢様です。
 
 生活のスケールの違いが、こんな所からも滲み出ています。

「では行きましょうか」

「あ、はい!よろしくお願いします!」




 リアさんの隣で繁華街の中を歩いて行きます。

 所狭しと並ぶ建物、三角屋根に綺麗なタイル張りの壁はわたしの故郷よりもずっと高級感が漂っています。

 大勢の人が行き交い、肉や魚に果物、雑貨や生活用品など色々な店が目に入ります。

「何をキョロキョロしていますの?」

「あ、いえ。こうしてちゃんとクラルヴァインの街並みを見るのが初めてだったので……」

「そう言えばそんなことを仰っていましたわね。ですが、そんなに珍しいものもないでしょう?」

「いやいや!わたしの育った村からしたら信じられないくらい広くて綺麗ですよ!こんな石畳みが敷き詰められた道なんてありませんでしたし!」

「なるほど……そういうものですか」

 リアさんはするすると迷いなく道を歩いて行きます。

 あれ?でもリアさんって……。

「あのリアさん、連れてきてもらって大変失礼なんですけど……」

「“道に迷わないのか”という心配なら不要ですわ。私、知らない場所が苦手なだけですので」

「あ、そうなんですね」

「ええ、生まれてから何年もずっと歩いている帝都の中なら何とかなりますの」

 リアさん……頼もしいです!

 そこから中心部を少し外れた所に、古書店がありました。

「帝都の中では最も大きな古書店ですの。ここならあるかもしれませんわ」

「うへえ……」

 お店の中は古い本の匂いで満たされていて、室内を埋め尽くすように本棚と古書が並びます。圧巻ですが……この中から探し出すのかと思うと、少しゾッとします。

「魔法書関連はこちらになりますわ」

「あ、はいっ!」

 お店の中もするするとリアさんは進んで行きます。

 その足どりに迷いは見られません。

「このお店にはよく来るんですか?」

「ええ、魔法関連の勉強をするのに古書を使用することもありますから」

「凄いですね……」

 セシルさんもそうでしたが、ステラホルダーの方々は、こういった本から知識を吸収しているのですね。

「さて……この中にあると良いのですが……」

 とある一角の本棚でリアさんの足が止まります。

 当たり前ですが、年季の入った背表紙が不揃いに並びます。

 しばらくの時間、一緒に本を探していきます。

「あっ、エメさん。ありましたわよ!」

「えっ!本当ですか!?」

「ええ、間違いありません。これが初版の魔法工程書です」

 リアさんから本を手渡されます。

 良かった!これでもしかしたら、わたしも魔法が使えるようになれるかも……!

 本の中身をぱらぱらと目を通してみます。

「……えっと、リアさん?」

「なんですのエメさん」

「これ、何書いてるのかさっぱり分からないんですが……」

 内容が難解だと言っている訳ではなくてですね。

 知らない専門用語、独特の言い回しと表現、点在する現代とは違う言語表記。

 これらが合わさって内容を理解する以前の部分で止まってしまうのですが……。

「ああ、なるほど。私は以前から古書に関しては調べていましたので失念していましたわ」

「と、とてもすぐに理解できる気がしないのですが……」

「魔法古書を読み進めるための解説本は私は持っていますから、それを貸してあげてもよろしくてよ?」

「ほ、本当ですか!?」

 ああ……リアさんの背中から後光が差しているようです!!

「何から何まで……、ありがとうございます!リアさんっ!!」

 ガシッ、とリアさんの両手を掴んで感謝の気持ちを表現します。

「え、エメさん……!そんないきなり手に触れないで下さいます!?」

「え、じゃあハグしますか?」

「致しません!」

「なら、リアさんが好きな猫の真似を……」

「別に好きじゃありませんの!勝手に決めつけるのはやめて頂けるかしら!?」

「え、でもこの前は猫みたいに鳴けって……」

「嫌がらせですわよ!お気付きなさいな!」

「そんなことさせてたんですか!?」

「どうして言われなければ気付きませんの!?」

 そうか、そんな事をしているわたしを見てシャルは呆れていたのですね。理由が分かりました。

 とにかく、こうして魔法へまた一歩進んだような……気がします。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】無口な百合は今日も放課後弄ばれる

Yuki
恋愛
※性的表現が苦手な方はお控えください。 金曜日の放課後――それは百合にとって試練の時間。 金曜日の放課後――それは末樹と未久にとって幸せの時間。 3人しかいない教室。 百合の細腕は頭部で捕まれバンザイの状態で固定される。 がら空きとなった腋を末樹の10本の指が蠢く。 無防備の耳を未久の暖かい吐息が這う。 百合は顔を歪ませ紅らめただ声を押し殺す……。 女子高生と女子高生が女子高生で遊ぶ悪戯ストーリー。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

神の布使い

KeyBow
ファンタジー
 高校3年生の主人公はスキー大会の決勝中、ジャンプをしたタイミングで異世界に飛ばされてしまう。  鼻をほじった奴の所為で召喚事故が!本来の場所には雪の塊のみが現れ、主人公は女子風呂に落下!  その後鉱山送りにされ、移送中に魔物の襲撃があり、魔物から死物狂いで逃げて・・・川に落下。  その後流されて目を覚ました所から物語はスタートする。  そして1人の少女と出会い・・・  右も左も分からぬ異世界で生き残れるのか?  手にするのは神の布(褌)  布だと思い頭に巻いていますが、それは神が身につけていた臭い付の汚い褌だというのを知らぬが仏。でもチートアイテムには代わりない!

釣りガールズ

みらいつりびと
恋愛
カスミガウラ釣り百合ストーリー。 川村美沙希はコミュ障の釣りガールで、ボーイッシュな美少女。 琵琶カズミはレズビアンの少女で、美沙希に惹かれて釣りを始める。 カスミガウラ水系を舞台にふたりの物語が動き出す。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

悪魔との100日ー淫獄の果てにー

blueblack
恋愛
―人体実験をしている製薬会社― とある会社を調べていた朝宮蛍は、証拠を掴もうと研究施設に侵入を試み、捕まり、悪魔と呼ばれる女性からのレズ拷問を受ける。 身も凍るような性調教に耐え続ける蛍を待ち受けるのは、どんな運命か。

処理中です...