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28 妹が憤慨しているので、姉が静めます!
しおりを挟む「ただいまー」
今日はどうなる事かと思いましたが、リアさんのヒントのおかげで活路が見出せました。
少しだけ安心した気持ちで帰宅することが出来ます。
「あ、おかえり」
リビングでは、シャルが髪を後ろに束ねたポニーテールの制服エプロン姿で料理中なのでした。
ちらちら、と視線が何度もわたしの方を向いています。
「ん?どうかしたシャル?」
「いや……今日の実技で凹んでそうな顔してるなと思ったから」
「あはは……バレてたんだ」
「あんたすぐ顔に出るから。でも今は平気そうね?」
「うん、ちょっとね。活路が見出せそうなんだ」
シャルはそのまま「ふぅん」と曖昧な返事を返して、手元の料理に視線を落とすのでした。
素っ気ないようで心配してくれているのですね。頼りない姉で申し訳ないのです。
「シャルはヘルマン先生から課題を提示されたの?」
「いや、“特にいう事なし”って言われたわよ?」
「げっ、すごっ……」
ボロボロになるまで言われたわたしと大違いです。
「凄くないわよ……アイツ、わたしがどれだけ魔力を注ぎ込んでも“困ったなぁ”とか言いつつ涼しい顔してんのよ。結局こっちが魔力切れになるまで出し尽くされただけだったわ」
フライパンを振る動作が一気に乱暴になるシャル。
どうやらかなりご立腹のご様子……。
「まあ、わたしのことはいいわ。あんたはどうだったのよ?」
「え?わたしは案の定……魔術じゃ先生の防御魔法は突破出来ないし、魔眼でも綻びが見えなかったからダメダメだった……。いつも通り魔法使えるようにならないと魔法士にはなれないよっていうオチ」
「他には?」
「え?」
「他になんかされたから落ち込んでたんじゃないの?」
「あ、うん。あと一気に氷魔法を展開されてね?魔眼で魔力が視えたとしても無数の魔法を前にしたら意味を成さないって、身を持って教えられてね……自分の不甲斐なさを痛感したの」
「そう」
シャルはそのまま火を止めて、フライパンを置きます。
炒めていた野菜はまだ火が通っていないように見えます。
「シャル?」
「ちょっと出掛けてくる」
エプロンを外そうとするシャル。
「え?もう夜だよ、どこ行くの?」
「学園、ヘルマンに殴り込みに行くわ」
「なぜに!?」
「一年で中間試験終わったばかりの学生に向けて、魔法士が魔法を展開するなんて聞いたことないわ!完全にパワハラよ!」
「ちょーちょちょっと!大丈夫だって!」
肩を震わせながら家を出て行こうとするシャルを止めようとしますが、言う事を聞きません。
「大丈夫じゃないわ!そういうのが教師の怠慢だって言うのよ!」
「寸前で止めてくれたし!先生はわたしの弱点を教えてくれようとしただけだし!」
「そりゃ素人がプロに刃付きつけられたら、誰だって自分の弱さなんて分かるわよ!そんな危険な目に遭わせないで指導できるから教師なんじゃないの!?」
いや、シャルの言う事も分からなくはないですが……だからと言ってそんなに怒る理由も分からないのです……。
「とにかく!わたしは行くから!」
ああ、もう……普段は柔軟なのに突然いう事効かなくなるこの性格はなんなのでしょう……。
こうなったら……!
「えいっ!」
「ひゃあっ!?」
わたしはシャルの後ろに抱き着いて、そのまま動きを止めてしまいます。
「どうだ!これで大人しくなる気になった!?」
「や、やめっ……離しなさいよ!!」
それはそれでジタバタと暴れ出すシャル。
身をよじり一瞬わたしの拘束から逃れますが、それでも純粋に体を動かすことならこちらに分があります。
「そうはいかないよ!」
「え、ちょっと……!?」
――バタンッ!
押し倒し、仰向けになったシャルの両手を掴みます。
わたしが跨って腕の自由を奪っているので、自力で抜け出すことは不可能でしょう。
「これでもう動けないよ!」
「ど、どどっ、どきなさいよ……!」
「どいたらシャル学園に行って文句言うんでしょ?それじゃダメ」
グッ、とシャルを掴む腕に力を込めます
「あう……ちょっと、強いって……」
「シャルはステラでお利口さんなんだから、そんなことしたらダメ。内申点下がっちゃうよ」
「か、関係ないし……そんなことどうでも……」
「良くない!普段から一番になるって言ってるのに、そんなことしたら遠のいちゃうよ?」
「それとこれとは別なのよ……」
もう、ほんと分からず屋ですね。この子は。
わたしはシャルの顔を覗き込みます。
「あ、ああっ、あんた、ち、近い……!体も当たってるし……!」
何にそんな憤慨していたのか、シャルは顔まで真っ赤です。
「お姉ちゃんは気にしてないの。魔法も何とかなるかもしれないし、シャルはシャルのことだけ気にして、ね?」
物理的にかなり近づいて、目力で圧力を掛けるのです。
「もう、ムリ……おかしくなりそう……」
「え?」
一瞬とろんとした表情をしたシャルですが、すぐにハッとなり目を覚まします。
「ムリ!あんた重すぎ!上に乗られるとわたし潰れる!!」
「な、なんですと!?そんな全体重なんて乗せてないけど!?」
「それでこの重み!?あんた、また太ったんじゃないの!?」
「ふ、太ってないもん!制服の重みが一キロ増えただけだもん!」
「それが太ったっていうのよ!あー!重い重い!」
くそー……そこまで言うんだったら……!!
「へえ、そうですか!重くてごめんなさいね!じゃあもう押し潰されちゃって下さいな!!」
「え!?あんたなにして……きゃあー!!」
そのまま密着して全体重を乗せてやります。全身でホールドして、そこまで重くないことを思い知らせてやります!一石二鳥!!
「ねっ!そんな重くないよね!?」
「あわわわ……!!」
「ん……?シャル……?」
「……それは反則……」
――ぽて
と、シャルの全身から力が抜けてしまうのでした。
「……え、シャル気失ってる?」
……ウソですよね。もしかしてわたし、本当にそんな重いんですか……?
◇◇◇
「はあ……やってしまいました……」
シャルは気を失っていましたが、息はちゃんとしています。
すぐに意識は取り戻すだろうと思い、ソファで寝かせています。
わたしはせめてもの罪滅ぼしでシャルの料理を引き継いでいる所です。
「あれ……わたし何でこんな所に……?」
「あ、シャル起きた?」
よかった、シャルは何事もなく目を覚ましてくれました。
ちょうど料理も完成。
牛肉と野菜を炒めた物に、ポトフをテーブルの上に配膳します。
「え、あれ……?あんたが料理……?」
シャルは状況を理解できずに目を白黒させています。
「いや、シャルが気を失っちゃったから続きだけわたしが作ったの。ほとんど出来てたけどね」
「ん……じゃあ、アレ?あんたに密着された記憶は夢じゃ……」
「本当だよ。ごめんね、まさかわたしがそこまで重いとは……」
「あ、いや……あれはわたしが夢見心地すぎて……」
「え?どゆこと?」
重たすぎて意識が遠のき桃源郷を見た、みたいな表現?
「ななっ、なんでもない!」
ぶんぶん!力強く顔を振って否定するシャル。
何はともあれ、ちょっと落ち着いてくれたようで良かったです。
「そっか。でもさっきはありがとうね?わたしの事を思って怒ってくれたんだよね?」
「そういうわけじゃ……教師の怠慢が見過ごせなかっただけよ」
「でもヘルマン先生のやり方はわたしにとっては適切だったと思うよ。本当に身に染みたもん、安全面だってちゃんと配慮してくれてたよ」
「あ、そう……」
シャルも溜飲が下がったのか、いつものクールな状態に戻っています。
「じゃあもうさっきの件はいいよね?ご飯食べよ?」
「あ、うん……」
二人でテーブルに着き、食事の挨拶を済ませます。
「あ、シャル。もし体に不調があるんだったら、わたしが食べさせてあげるよ?」
「ばっ……バカじゃないの!?自分で食べられるからっ!!」
紆余曲折ありましたが、姉妹仲よく夜ご飯を頂くのでした。
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