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第三部【後編】

29 インペリアル・オーダー

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「それは幻影ではなく、本物の銃です。それで自決してください」
  
 照の放ったセリフにマークは大きく息を付く。その溜め息には落胆と憤怒、彼が今まで味わってきた屈辱が込められていた。

「……本心を偽り、政府の犬に成り下がり、復讐の機会を待ち、耐え忍んできた俺の苦しみがお前に分かるか……」

「……それはアナタでなければ分かりません」

 にべなく首を振った照をマークは黒い焔が宿る眼でギロリと睨み付ける。

「いつか、お前にも分かる時が来る。俺たち異能者はいずれ社会から切り捨てられる存在だ。そうなる前に、世界を変えなければならない。俺たちが安心して暮らせる社会を……、俺が愛した人が望んだ世界にするために……、だから俺は―――」
 マークは拳銃を掴み、
「まだ死ぬ訳にはいかないッ!」
 銃口を照に向けて引き金を引いた。

 だが、しかし―――。
 
 そこでマークが視たのは照の姿ではなかった。同じように銃口を目の前の相手に向けて引き金を引いた直人の姿だった。

 直人の表情は凍り付いていた。マークも同様に凍り付いた表情で直人を見つめていた。
 引かれた引き金はもう戻せない。
 撃鉄が雷管を叩き、互いの銃口から銃弾が射出される。
 同時に全てを悟った二人は相手を労うように口元を緩め、微かに苦笑した。

 そして、二人が放った弾丸は双方の眉間を同時に貫いていった。







◇◇◇







 ―――それから二週間後。午前八時四十五分、厚生局異能管理室。


 室長室のドアが開き、中からダークグレーのパンツスーツを着た咲が現れた。白いシャツの襟にはスーツと同色のネクタイが巻かれており、その姿はマフィアを彷彿とさせる。

 管理官たちが自席から立ち上がり、室長室から出て来た彼女の周囲に集まっていく。

「皆さん、おはようございます。本日付けで異能管理室室長に任命されました平崎咲です」

 咲は一度言葉を区切り、管理官ひとり一人の顔を確認するように見つめてから続ける。

「ご存知のとおり、マーク・クレイグ及び西寺直人、そして多数の一般人を殺害した容疑で逃走中の元管理官補・八重山照ですが、先日行われた中央審議会でランクEから現象系として初となるランクSに格上げされることが決定しました。それに伴い、八重山照に対し《インペリアル・オーダー》が下されました」
 
 咲の言葉を聴いた管理官たちがどよめいた。ネイサンは顔を青く染め、エリオットは強く拳を握り締める。

「ちょ、ちょっと待ってよ……、それって……」

 リサの表情が凍り付く。
 年端もいかない彼女に全ての責任を押し付け、その尻ぬぐいと執行を背負わせようとする厚生局、そして政府に対して激しい怒りを覚えた。
 ましてや、その相手は彼女が想いを寄せる八重山照なのだ。
 リサの双眸が激しい怒りに震えていることに気付いた咲は、彼女の瞳を見て頷き、覚悟を含んだ声で毅然と言った。


「はい、我々の目的は八重山照の拘束ではなく―――、抹殺です」
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