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第三部【後編】

25 対異能戦2

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 さらに別の男が吹き飛ばされ壁に激突する。男の胸は杭で打たれたように空洞が空いていた。
 攻撃は止まらない。次々とランダムに兵士たちが吹き飛ばされては惨殺されていく。不可視の打撃によって殺されていく男たちの姿を目の当たりにした照は確信する。

 ―――これは咲の異能! どこから見ている!?
 だが、ここでヤツを探す素振りを見せれば、真っ先に狙われるだろう―――。

 思考を巡らせる間にも兵士たちが肉塊に変わっていき、残り三十名を切っていた。

 照は周囲にいる五人の男たちの首を操作して前後左右、そして上階をそれぞれ同時に視るように動かした。右隣にいた男の首が上階に向いたその直後、男の上半身が吹き飛ぶ。

 ―――やはり上か!

 生き残った兵士たちが一斉に隊列を成して階段を駆け上っていく。その途中でさらに十人がやられた。照は階段上の壁面に巨大な鏡が設置されていることに気付く。それは鏡面磨きされた巨大なアルミ板であり、階段を駆け上る照たちの姿を写し出していた。
 
 照は兵士を操り、アルミ板に銃弾を浴びせ粉々に撃ち砕く。
 銃声が鳴り響き、アルミ板が破壊される直前、板面の奥で光を放つ冷徹な視線と照の視線が交錯する。
 そして僅かな間隙もなく攻撃が切り替わった。今度は氷結の礫が天井から無差別に降り注ぎ始める。冷蔵庫ほどの巨氷が兵士を押しつぶし、氷塊を掻い潜った照たちが二階にたどり着いたときには照を含め僅か五名になっていた。

 五人は丁字を右に進み、さらに角を右に曲がる。
 照を中心に四名が前後左右を警戒する中、中央正面の部屋にだけ灯りが点いていることを視認する。それはまるで闇夜を飛翔する羽虫を誘うための灯りにも視えた。

 姿勢を低くしながら五名から成るユニットが部屋に近づいていたそのとき、

「あ……あれ? お、俺は何やっているんだ?」

 ニメートルほど進んだところで最前列にいた男が突然正気を取り戻した。周囲をキョロキョロと窺いながら自分の顔を覆う防毒マスクを外そうとしている。

 その理由はただ一つ、《アブソリュート・エンペラー》が解除されたのだ。
 つまり、デバイスが近くにあるという証拠―――。

 おそらくその在り処はこの先の光が灯る開かれた扉の中……、あの部屋に誘っている。これは間違いなく罠だろう……。どうする……、手榴弾を投げて部屋ごと吹き飛ばすか? いや、ダメだ……、PKで押し返されたらこの人数では防ぎきれない。

 持久戦に持ち込まれれば不利になる。選択肢は一つ―――、突っ込むしかない。

 覚悟を決めた照は《アブソリュート・エンペラー》を解除した。するとスイッチが切り替わるように次々と男たちが正気を取り戻していく。

「あ? どこだここは? な、なんだ? こ、これ……、拳銃?」
「はあ? うわぁぁぁぁッ、ち、血だ!」

「……騒ぐな、殺されたくなかったら言うことを聞け……」
 異能から解放された男たちが狼狽え騒ぎ始める中、低い声が男たちを恫喝した。

「な、なんでだよ……、誰だよお前……、やだよ、ここどこだよ、帰りてぇよ……」
「うるせえぞ! 殺されてえのか!」

 銃口を向けられた男は両手を上げてしきりに首を左右に振った。
「わ、わかったから! う、撃たないでくれ……」

「……よし、これから正面の部屋に突っ込む。お前らは何も考えず、中に誰かいたら迷わず撃ち殺せ……、行くぞ! 走れ走れ走れッ!」

 銃を突き付けられた男たちは部屋に向かって一斉に走り出した。踏みつけられた床が激しく軋み音を立てる。部屋の入口を潜ろうとした先頭を走る男が足元に張られたワイヤーに足を取られて転倒する。ワイヤーが引かれた瞬間、室内に仕掛けられていた閃光弾のピンが外れ爆発を起こした。

 爆音と強烈な閃光に包まれ、照たちは行動不能に陥ってしまう。

 爆発は収まったが耳を劈く爆音に鼓膜がやられて聴覚障害が続いている。ぼやけた視界から回復し始めた照は、新たに何者かが部屋に入ってくる気配を感じ取った。

「思い通りに踊ってくれて助かったよ、八重山照……」

 後頭部に銃口が突き付けられる。背後に立っているのは異能管理室室長、マーク・クレイグだった。 
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