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第三部【後編】
24 対異能戦
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午前零時四十八分―――。
砂利を積載した一台のダンプカーが首相官邸の門扉に突っ込んだ。
門を破壊し、なおも前進を続けさらに速度を上げたダンプカーは正面玄関に衝突して停止する。キャブがひしゃげ、白煙を上げるダンプカーの後ろを間断なく五台の大型バスが続き、敷地を覆い尽くしていく。停車したバスの中から現れたのはフードの付いた黒いパーカーを着た集団、フードを深く被り、さらに顔面を防毒マスクで覆っている。
各バスから駆け下りてきた男たちは訓練された軍隊のように整然と隊列を成した。その手には拳銃、ショットガン、ライフルなど大小様々な銃器を携行している。
それは暴力団、半グレ、マフィアなど反社会的勢力によって構成された総員二百名から成る私設軍隊だった。
そしてその集団の中に照は身を潜めている。
これは咲の異能、《特異打撃》対策である。《特異打撃》は姿を捉えることが絶対条件であり、加えて一撃につき一対象しか攻撃することができない。つまり姿さえ捉えられなければ、《特異打撃》を受けることもない。
さらに集団に紛れることで被弾の確率を下げることができる。照は彼女の異能に使用限界があることを知っている。それがどれくらいなのか定かではないが、多く見積もって五十回、つまり全弾撃たせたとしても確率を最大四分の一で止めることができる。
端的に言えば、ここにいる二百人すべてが照一人のためのヒューマンシールドなのだ。
もし仮に二百回以上の攻撃ができるのであれば、それで終わりだろう。今は、ただ希望的観測にすがって進むしかない。
整然と直立していた二百名にも及ぶ集団は号令もなく同時に陣形を変化させ、正面玄関に向かって一気に走り出した。
その直後、官邸を警備していた警察部隊が突然の襲撃に駆け付ける。だが《アブソリュート・エンペラー》のテリトリーに足を踏み入れた瞬間、ガクリと体勢を崩し自らの意志を消失させて違和感なく隊列に加わっていった。
皇帝に逆らった愚かな逆賊を嘲う様に照は口角を上げて嗤う。
「さあ、進もう……、恐怖も痛みも感じない兵士たちよ。そしてその命が尽きるまで僕を守るんだ……」
玄関ホールに突入した集団は扇状に展開し周囲を警戒する。先行部隊が正面階段を駆け上がり始めたそのとき、照は異変に気付いた。
―――風?
階段の上から玄関に向かって風が吹いている―――。
突如、兵士が携行する可燃性ガス検知器のブザーが鳴動を始める。
モニタの数値が一気に上昇し爆発下限界を超えて【OVER】表示に切り替わったその直後、上階から下階に向かって蒼い炎が階段を駆け下りてきた。そして炎が滞留するガスに触れた刹那、爆発が巻き起こり辺りは一瞬で劫火に包まれた。
爆風で窓ガラスが吹き飛び、兵士が吹き飛ばされていく。
官邸を揺らすほどの爆発が収まると濃煙で満たされた室内は静まり返った。
黒く焼け焦げた兵士たちが折り重なるように倒れ散在している。焼死体からは白い煙が狼煙のように立ち昇り、人の焼けた匂いが周囲に立ち込める。
死体の山がもぞもぞと動き始め、その中から防毒マスクを付けた男たちが姿を現した。それぞれがユニットを組み、壁になる者と隠れる者に別れてスクラムを組むようにして爆発から身を守っていたのだ。感情を持たない兵士だからこそ可能な連携といえる。
その中の一つのユニット、黒焦げに動かなくなった壁役に埋もれていた照はそこから這い出ると深く息を吐いた。
「……最初からガス生成、大気操作、パイロキネシスの三連コンボかよ……、事前に収容施設に送られた異能者のリストを確認しといてよかったな……。しかし、殺されないと高をくくっていたのは誤算だったようだ、向こうは殺る気マンマンか……」
照はなるべく首を動かさず周囲を確認する。
兵士総員の四分の三が壁になり、四分の一を守った。壁になった者でも動ける者がいくらか確認できる。
残ったのは六十人から七十といったところか……。
「これだけいれば、十分だ……」
しかし次の瞬間、照の隣に立っていた男の頭部が突然弾け飛んだ。
砂利を積載した一台のダンプカーが首相官邸の門扉に突っ込んだ。
門を破壊し、なおも前進を続けさらに速度を上げたダンプカーは正面玄関に衝突して停止する。キャブがひしゃげ、白煙を上げるダンプカーの後ろを間断なく五台の大型バスが続き、敷地を覆い尽くしていく。停車したバスの中から現れたのはフードの付いた黒いパーカーを着た集団、フードを深く被り、さらに顔面を防毒マスクで覆っている。
各バスから駆け下りてきた男たちは訓練された軍隊のように整然と隊列を成した。その手には拳銃、ショットガン、ライフルなど大小様々な銃器を携行している。
それは暴力団、半グレ、マフィアなど反社会的勢力によって構成された総員二百名から成る私設軍隊だった。
そしてその集団の中に照は身を潜めている。
これは咲の異能、《特異打撃》対策である。《特異打撃》は姿を捉えることが絶対条件であり、加えて一撃につき一対象しか攻撃することができない。つまり姿さえ捉えられなければ、《特異打撃》を受けることもない。
さらに集団に紛れることで被弾の確率を下げることができる。照は彼女の異能に使用限界があることを知っている。それがどれくらいなのか定かではないが、多く見積もって五十回、つまり全弾撃たせたとしても確率を最大四分の一で止めることができる。
端的に言えば、ここにいる二百人すべてが照一人のためのヒューマンシールドなのだ。
もし仮に二百回以上の攻撃ができるのであれば、それで終わりだろう。今は、ただ希望的観測にすがって進むしかない。
整然と直立していた二百名にも及ぶ集団は号令もなく同時に陣形を変化させ、正面玄関に向かって一気に走り出した。
その直後、官邸を警備していた警察部隊が突然の襲撃に駆け付ける。だが《アブソリュート・エンペラー》のテリトリーに足を踏み入れた瞬間、ガクリと体勢を崩し自らの意志を消失させて違和感なく隊列に加わっていった。
皇帝に逆らった愚かな逆賊を嘲う様に照は口角を上げて嗤う。
「さあ、進もう……、恐怖も痛みも感じない兵士たちよ。そしてその命が尽きるまで僕を守るんだ……」
玄関ホールに突入した集団は扇状に展開し周囲を警戒する。先行部隊が正面階段を駆け上がり始めたそのとき、照は異変に気付いた。
―――風?
階段の上から玄関に向かって風が吹いている―――。
突如、兵士が携行する可燃性ガス検知器のブザーが鳴動を始める。
モニタの数値が一気に上昇し爆発下限界を超えて【OVER】表示に切り替わったその直後、上階から下階に向かって蒼い炎が階段を駆け下りてきた。そして炎が滞留するガスに触れた刹那、爆発が巻き起こり辺りは一瞬で劫火に包まれた。
爆風で窓ガラスが吹き飛び、兵士が吹き飛ばされていく。
官邸を揺らすほどの爆発が収まると濃煙で満たされた室内は静まり返った。
黒く焼け焦げた兵士たちが折り重なるように倒れ散在している。焼死体からは白い煙が狼煙のように立ち昇り、人の焼けた匂いが周囲に立ち込める。
死体の山がもぞもぞと動き始め、その中から防毒マスクを付けた男たちが姿を現した。それぞれがユニットを組み、壁になる者と隠れる者に別れてスクラムを組むようにして爆発から身を守っていたのだ。感情を持たない兵士だからこそ可能な連携といえる。
その中の一つのユニット、黒焦げに動かなくなった壁役に埋もれていた照はそこから這い出ると深く息を吐いた。
「……最初からガス生成、大気操作、パイロキネシスの三連コンボかよ……、事前に収容施設に送られた異能者のリストを確認しといてよかったな……。しかし、殺されないと高をくくっていたのは誤算だったようだ、向こうは殺る気マンマンか……」
照はなるべく首を動かさず周囲を確認する。
兵士総員の四分の三が壁になり、四分の一を守った。壁になった者でも動ける者がいくらか確認できる。
残ったのは六十人から七十といったところか……。
「これだけいれば、十分だ……」
しかし次の瞬間、照の隣に立っていた男の頭部が突然弾け飛んだ。
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