31 / 57
第三部【後編】
23 皇帝の帰還
しおりを挟む
重厚な両開きの扉を押し開けた照は一定の歩調で丁寧に磨かれた大理石のフロアを歩いて行く。
シックなダークグレーで統一された受付を通り過ぎ、ホールに入ると一面ガラス張りの窓から宝石を散りばめたような眩い光を放つ摩天楼を一望することができる。高い天井の中央には大きなシャンデリアがぶら下がり、その直下にはグランドピアノが配置され、ピアノを囲むようにラグジュアリーなソファーとローテーブルが規則正しく並べられていた。
ソファーで寛いでいるのはこの店の従業員と思われる黒服たちだ。髪形や身なりはそれなりに体裁を整えているが、放たれる眼光から堅気でないことが容易に知れる。
何者かが店内に入ってきたことに気付いた十数名の黒服たちが一斉に照を睨み付けた。
「なんだテメーは……。まだ営業前だぞ、〝CLOSE〟の文字が読めねーのかサルが……。それにここはお前みてえなクソガキが来るところじゃねぇぞ」
男の啖呵に一切動じず照はゆっくりと息を吸い込み、吐き出した。そして、かつての自分を取り戻すかのようにスイッチを切り替える。
「裏社会の人間が集うことで有名なクラブだってネットに書いてあったから期待してきてみたら、どうやら大当たりだったみたいだね、クズがウヨウヨいる……」
あざ笑う照に男が声を荒げ立ち上がった。
「ああっ! ぶっ殺されてぇのか!」
照の胸倉を掴まんとした男の手がピタリと止まり、自らの拳を自らの口内に捻じ込んで口を塞いだ。
「がっ、あがっ、ぐえっ!」
男は苦しそうに嗚咽を上げながら自分の手を引き抜こうとしている。しかし、男の意志とは反対に男の拳はさらに喉の奥へと捻じ込まれていく。
「て、てめえ、何しやがった!?」
呼吸が出来ずのたうち回る男を助けようと駆け寄って来た別の黒服が照の顔を覗き見て息を呑み込んだ。
「こ……、こいつあの時の異能力者だ!」
男の叫び声に場の空気が一変した。
戦意を喪失させた男たちは恥も外聞なく生への執着を曝け出し、照以外の全員が恐怖に顔を引きつらせて慈悲を懇願する。
「……あ、あぁぁぁぁあ……、こ、殺さないでくれ! 頼む!」
僅かな思慮もなく、照は窒息寸前で虫の息になっている男の頭を踏みつけた。
「おやおや、僕のことを知っているなんて手間が省けたよ。さあ、死にたくなければお前らの仲間を一時間以内に呼び出すんだ。後輩だろうと先輩だろうと同級生だろうが暴走族だろうが、半グレ、暴力団、マフィア、なんでもいい。一人でも多く集めろ。そうだな……、一番少なかったヤツにはそこの窓をぶち割って飛び降りてもらおう。さあ、早くしろ、今の僕はたいそう機嫌が悪い。待ち切れずに全員殺してしまいそうだよ……」
恐れ慄く男たちの間を横目に通り過ぎた照は、豪奢なソファーに深々と身をゆだね足を組んだ。
シックなダークグレーで統一された受付を通り過ぎ、ホールに入ると一面ガラス張りの窓から宝石を散りばめたような眩い光を放つ摩天楼を一望することができる。高い天井の中央には大きなシャンデリアがぶら下がり、その直下にはグランドピアノが配置され、ピアノを囲むようにラグジュアリーなソファーとローテーブルが規則正しく並べられていた。
ソファーで寛いでいるのはこの店の従業員と思われる黒服たちだ。髪形や身なりはそれなりに体裁を整えているが、放たれる眼光から堅気でないことが容易に知れる。
何者かが店内に入ってきたことに気付いた十数名の黒服たちが一斉に照を睨み付けた。
「なんだテメーは……。まだ営業前だぞ、〝CLOSE〟の文字が読めねーのかサルが……。それにここはお前みてえなクソガキが来るところじゃねぇぞ」
男の啖呵に一切動じず照はゆっくりと息を吸い込み、吐き出した。そして、かつての自分を取り戻すかのようにスイッチを切り替える。
「裏社会の人間が集うことで有名なクラブだってネットに書いてあったから期待してきてみたら、どうやら大当たりだったみたいだね、クズがウヨウヨいる……」
あざ笑う照に男が声を荒げ立ち上がった。
「ああっ! ぶっ殺されてぇのか!」
照の胸倉を掴まんとした男の手がピタリと止まり、自らの拳を自らの口内に捻じ込んで口を塞いだ。
「がっ、あがっ、ぐえっ!」
男は苦しそうに嗚咽を上げながら自分の手を引き抜こうとしている。しかし、男の意志とは反対に男の拳はさらに喉の奥へと捻じ込まれていく。
「て、てめえ、何しやがった!?」
呼吸が出来ずのたうち回る男を助けようと駆け寄って来た別の黒服が照の顔を覗き見て息を呑み込んだ。
「こ……、こいつあの時の異能力者だ!」
男の叫び声に場の空気が一変した。
戦意を喪失させた男たちは恥も外聞なく生への執着を曝け出し、照以外の全員が恐怖に顔を引きつらせて慈悲を懇願する。
「……あ、あぁぁぁぁあ……、こ、殺さないでくれ! 頼む!」
僅かな思慮もなく、照は窒息寸前で虫の息になっている男の頭を踏みつけた。
「おやおや、僕のことを知っているなんて手間が省けたよ。さあ、死にたくなければお前らの仲間を一時間以内に呼び出すんだ。後輩だろうと先輩だろうと同級生だろうが暴走族だろうが、半グレ、暴力団、マフィア、なんでもいい。一人でも多く集めろ。そうだな……、一番少なかったヤツにはそこの窓をぶち割って飛び降りてもらおう。さあ、早くしろ、今の僕はたいそう機嫌が悪い。待ち切れずに全員殺してしまいそうだよ……」
恐れ慄く男たちの間を横目に通り過ぎた照は、豪奢なソファーに深々と身をゆだね足を組んだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
67
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる