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第122話 最後のフラグメント

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「J様、シンミャです。こちらにて樹上世界を覆うバリアの消滅を確認しました!これより樹上世界へモンスター軍を送り込みます。J様はそのまま樹上世界世界樹前のサンライト平野の西、世界樹側にて合流とのことです。あら?どうしたの?ティグリス」
通信先がシンミャからティグリスに変わる。
「J様、こちら先ほどウィレナ達一行と交戦しました。戦闘中、何やら向こうに通信が入ったようで、ワープホールにて離脱。おそらく樹上世界の戦争への加勢を迫られたのかと。報告は以上です。」
「J様、戦争になったらしばらく旅は出来ません。今のうちに世界を回っておくことをお勧めいたします。それでは。」
通信が終了する。
――なんか忠告受けたわね。
――ああ、戦争イベントの発生場所に行くと、エンディングまで世界を自由に探索できなくなる。
――世界めぐる?
――いや、めぐらない。直でサンライト平野に行く。
Jとフォトレは馬とグリフォンにまたがると、東へむかう。山稜地帯を直線に移動し、山を越え谷を下り時には崖をジャンプし、世界樹の向こう側を目指す。世界樹に近づくにつれ、地面が平坦になっていき、腐葉土が踏み固められ下層世界の地面と変わらない大地と化している。Jは世界樹を南に向かって迂回するように回っていき、かつて樹上世界に来た時に立ち寄った廃墟を右手に見ながら、魔力水晶の迷路の壁の上を飛び跳ねるように進んでいく。しばらくすると、緩やかな丘陵地帯の手前に大量のモンスターがひしめき合っている。そのれに向かい合う形で反対側にはヴォルクルプス城の旗を掲げた兵士たちが地平線の手前に隊列を組んでいる。
Jはモンスター軍の中心にいる神輿の上に担がれたレーヴェリオンとティグリス、シンミャに近づく。レーヴェリオンがJ達に気づく。
「Jよ。よくぞ参った。おかげでモンスター共を樹上世界に送り込むことが出来たぞ。褒めて遣わす。」
「J、この人がレーヴェリオン陛下?」
フォトレがJに質問した。レーヴェリオンがそれに答える。
「貴様がフォトレか。余と同様にモンスターを使役できる才を持つという。」
「はい。そうですけど……」
「フォトレよ。貴様に我がモンスター軍の指揮を執ってもらおう。」
「お言葉せながら陛下。フォトレはまだ若く将たる器にはございません。」
シンミャが提言した。
「構わぬ。才あるものに年は関係ない。器は鍛えることで完成する。良き機会であろう。フォトレよ。よいな?人間どもを根絶やしにするつもりで争うのだ。」
「うん分かった。いいよ。私人間きらいだもの。」
シンミャが
「では、フォトレ、こちらにて各軍団長のモンスターを使役してください。」
「わかった。またね。J。」
「フォトレ。こっちだよ。」
フォトレはティグリスに連れられモンスターの軍団の中に消えていった。レーヴェリオンはJに対して王命を告げる。
「Jよ。其方は単騎にて遊撃隊となり戦場を駆け抜け、ヴォルクルプスの首を今一度取ってまいれ。ヴォルクルプスの首はこの刃を使うといい。ヌゥンッ!」
レーヴェリオンはそういうと、自身の胸元に腕を突っ込み、血まみれの刃を引き抜いた。
「これは不死殺しの刃。我と同じ血が流れているものにしか扱えぬ代物よ。これでヴォルクルプスの不死性を断つことが出来る。」
『ヴォルクルプスの首はどうした?』
「消えよったわ。どうやら回生の魔法を使ったらしい。もう少し話をしたかったのだがな。」
『承知した。この刃でヴォルクルプスを討ち取ってこよう。』
Jは不死殺しの刃を受け取り背中に納めた。刃は背中から空中に浮いて固定されている。レーヴェリオンは神輿から立ち上がるとモンスター軍を鼓舞する。
「銅鑼をならせい!この戦は樹上世界をわがものとする侵略戦である!樹上世界の人間を根絶やしにせよ!全軍出撃!」
オオオオオオッとモンスター達が一斉に蜂起する。そして巨大な地響きとともにヴォルクルプス軍の方へと向かっていった。
シンミャがJの出撃前に話しかける。
「J様。先刻放った斥候の情報によりますと、ウィレナ達もJ様と同様に遊撃部隊として戦場を駆けるようです。遭遇したら戦闘は免れません。背後より忍び寄り暗殺等の御一考のほどと思いお伝えいたします。」。
――ウィレナ達とは戦うの?
――ウィレナ達の移動ルートは決まっているから、そこを回避して進んでいく。暗殺したり、敵対するとイベントが発生するから、基本無視する。
――ウィレナ達可哀そう。
――通常プレイだと普通に接敵して会話イベントが発生するんだがな
――なんだ。結局戦わないじゃない。
――間違えたんだ。気にするな。
Jは戦場から離れレーヴェリオンの陣地の裏手に回り込む。陣地は木の柵に覆われており天幕が大量に張られていた。
――あと2つのフラグメントは戦場にある。自陣の裏手の天幕裏だ。
Jは天幕裏に足を運ぶと、武器が大量に立てかけられている中に光り輝くフラグメント結晶が宙に浮いている。Jがそのフラグメントに触れると、目の前が明転する。
――あの2人はどうなったのか……
――それが分かるわね。
日葉の頭部から額を伝い血が流れている。月音はそれをハンカチで拭いている。
「どうしたの?月音、日葉?」
「えへへへ……っ!ちょっとドジちゃったぜ……!」
「日葉。しゃべらないで、おなかの傷に響くわ。」
月音が日葉の腹部を抑える。こちらからは見えないが、相当な出血のようだ。日葉の顔が青ざめていく。
「まさか警備兵が武装して私達を狙ってるなんてね。いつバレたんだろう……?」
「セキュリティチェックは完ぺきだったわ。考えられるのは……あの時の、ウィルス対決の時か……!」
「奴らの目的はヘルツだね。このAIを奪ってより強大な力を得ようとしているに違いない……!それと会社に逆らう人間への粛清と言う名のみせしめか……!――っ!」
「日葉!ああああ!どうしよう。血が止まらない……!」
「月音、アンタだけでも逃げて……。」
「嫌よ!……嫌!」
「ふふっそういうと思った……!」
ドンと日葉は月音を突き飛ばす。
「これなーんだ?」
日葉はポケットから楕円球状の黒緑色の物体を取り出す。
「手榴弾……?」
「せいかーい♪ちょっとさっきの兵隊から拝借♪」
「これを至近距離で爆発させればちょっとは足止めになるでしょ。その間に逃げて」
「嫌よ。私はあなたを愛しているもの。生まれた時は違くても死ぬときは一緒よ。」
月音は日葉に近寄りぎゅっと抱きしめる。
「何それ桃園の誓い?」
「ヘルツ……ゴメンね。巻き込んじゃって。」
「構わない。私は二人といれればそれでいい。それに私は1人じゃない。」
「そうね、あなたのコピーは今世界中にいるものね。」
「そいういう意味じゃない。」
「血の跡がこっちに続いている!総員!武器を構えろ!やつらは武装している!PCは壊すなよ!」
「月音……覚悟はいい?」
「出来てないわ。でもいいわよ。さようなら」
「うん。さようなら」
「これまでの映像記録を転送完了まであと1パーセント。世界中の私。後は頼んだわ。」
爆発音とまばゆい青白い光とともにJの目の前が明転する。
――……助からないなんてな……
――了解したわ。オリジナルの私。きっとウィルスを駆逐して、それを世界中に伝播させて見せる。
――このゲームの開発会社でそんな事件があったなんてニュースにもなってなかった。きっと月音と日葉も行方不明者扱いになってるんだろうな……気の毒に……
――月音と日葉が私をJに送っていなかったら悪質なコンピュータウィルスが世界中で猛威を振う未来になっていた。後は最後のフラグメントを回収して私を完全なものにするだけ。J頼むわ。月音と日葉の遺志のためにも。
――ああ、当然だ。もう俺一人の問題じゃなくなってるからな。
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