最速の英雄ANY%~RTA走者がゲーム世界に異世界転移。攻略知識を生かして知識チート攻略していきます。~

貝竜

文字の大きさ
上 下
119 / 124

第119話 風の祠

しおりを挟む
「は、はぁっ!? 婚約破棄された!?」
「ちがっ、まだ、まだ書類に印は押してないもの! 不成立よっ」
「それもう最終勧告受けてるじゃない」

 動揺した私が婚約破棄合意書と共に駆け込んだのは、もちろん友人であるエリーの家、フィオリ伯爵家である。

 いつもは塩対応で私の話をほとんど全部聞き流しているエリーだが、流石に予想外だったのか珍しくお気に入りの読書を止めて私の方へと向き直ってくれた。
 
「で、なんでそんなことになったのよ?」
「エリーに借りた小説の真似をしたら……」
「創作物は創作物って言ったでしょう!? で、なにやらかしたの」
「き、君を愛するつもりはないって言いました」
「バカ決定」

 はぁ、と思い切りため息を吐きながら頬杖をつき呆れた顔を向けられた私は思わず俯いてしまう。
 
「大体私は、三角関係の本で大人の余裕を、平民からの逆転劇で健気に思い続ける大切さを学んでほしかったのよ」
「君を愛することはない、は?」
「そんなバカなことをしないようにの釘さし」
「うぐっ」

 まさかあの一瞬でそんな意図を込めて本をピックアップしてくれていたとは。
 そしてその一冊を選んでしまうとは。

 自分の浅はかさに思わず頭を抱えてしまう。

「そもそも、『君を愛することはない』は最終的に溺愛する側が言うセリフなの」
「はい」
「コルン卿に愛されたかったならアリーチェが言うセリフではないわ」
「はい」
「むしろ好感度を下げるだけよ」
「……はい」

 辛辣な、だが事実であることを指摘されて項垂れた私だったが、ここであっさりとコルンを諦めたくはない。

“だってこんなに好きなんだもの”

 もう嫌われてしまったかもしれないし、最初から私のことなんて少しも好きじゃなかったからこんな書類を用意していたのかもしれないが……それでも、まだ私は自分の力では何も頑張っていないのだ。

「婚約はお父様頼みだったし、それに毎日ただただ彼へとつきまとうことしかしてなかったわ」
「あら、それはいい気付きね」
 

 努力をしよう。私はそう思った。

 貴族の子女が通う学園でも、トップクラスの成績常連のエリーに比べ私は中。
 それも限りなく下のカテゴリーに近い中という学力。

“まずはわかりやすくそういった数字が出るものから頑張ろう”

 不器用だからと避けていた刺繍もやってみよう。

「もう受け取ってはくれないかもだけど……」

 それでも、今までの私から変わりたい。

“コルンが私を好きだったなら、こんな書類を用意しているはずはない。それに私の言葉にだってもっと他の言葉をくれたはずだわ”

 愛することはない、なんてセリフにあっさりと納得して受諾してしまったのだ。
 きっとそういうことなのだろう。

「だからせめて、好かれる努力をしたいわ」

 自分磨きならコルンへ迷惑はかけないし、騎士として努力している彼に釣り合うようになりたい。
 そうして少しでも成長したら、もう一度だけ彼に告白しよう。

“振られてしまったらちゃんと諦めてこの書類も提出するわ”

 だからもう少しだけ、彼の婚約者でいさせてください。
 自分勝手だとはわかっているけれど、私はそっと婚約破棄合意書を仕舞ったのだった。


 
 それからの私は頑張った。
 なんだかんだで面倒見のいいエリーに勉強を見て貰い、先生へも積極的に質問をしに行った。

 エリーには迷惑をかけているが、「人に教えられるということはそれだけ私の身になっているということよ。復習にもなるし構わないわ」なんて素直じゃない言い方で私を応援してくれている。

“今度エリーの読んだことのない本を取り寄せなくちゃ”

 私はとても友人に恵まれている。
 そして彼女のお陰もあって私の成績はかなり上がった。
 中の上……いや、上の下と言ってもいいくらいには上がった。

「この調子で頑張ればもう少し上を目指せそうだわ」

 コルンに会いたくなる気持ちを必死に堪え、演習場に通っていた時間を勉強へと費やした甲斐がある。


 それに刺繍も始めた。
 母に習い名前を刺繍するところから始めたが、出来は酷いものだった。

“でもいつか、家紋とか入れられるようになれば”

 名前ですら手こずっているのに文字と絵柄が複雑に絡み合っている家紋を刺繍出来る日が来るかは正直怪しいが、いつか彼が第四騎士団から第一騎士団まで出世する頃までには習得したい。

「その頃はもうコルンと婚約者同士ではないかもしれないけれど」

 それでもきっとコルンは優しいから、受け取ってはくれるだろう。

 
 
「アリーチェってどうしてそこまでコルン卿に執着してるのよ」

 放課後自主勉をするために訪れた学園図書館で、エリーにそう聞かれ思わず苦笑する。

「一目惚れ!」
「はぁ? 顔が好みってだけで今こんなに頑張ってるの? まぁ勉強することは悪いことじゃないけど」

 呆れたようなエリーの声色につい私は吹き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

処理中です...