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第36話 VSエイナス
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Jはそのまま、扉の向こう側にローリングを繰り返し、数度の押し込みののち扉の向こう側に出た。扉の向こう側には螺旋階段があり、王都地下へ繋がっている。
扉の向こう側から二人にドールハウスに入るように指示をだし、カルトゥムが壁をすり抜けて扉の内側にすり抜けてくる。
――なんか当たり前のようにすりぬけてくるんだけど
――カルトゥムは常にプレイヤーの後ろにいるようになってるからな。仲間キャラは壁のすり抜けは行われないから、一旦ドールハウスに入れる必要がある。そうしないと、ずっと壁に向かって走り続けることになる。
――バカみたいね。
Jはそのまま昇降機まで行き、中に入ってレバーを引いた。
螺旋階段を下降していき、その間にJはドールハウスからタラサとシェロを外に出す。
階段を駆け下りながらシェロは独り言を言う。
「この先にエイナスがいるのか……」
――本来なら、さっきの扉とかこの昇降機やエイナスについては、屋敷内のギミック解いたり、中ボスキャラである盗賊団幹部を倒すと話を聞ける。ギミックは、中ボスを倒してレバーを手に入れたり、飾られている絵画の順番を並び替えたり、別のレバーを中ボス後ろの取り付け部分につけて引いたりする感じのやつを解く必要がある。
――それ全部スキップしたのね。
「シェロはエイナスに会ったらどうするの?」
タラサはシェロに問いかける。
「分からない。ただ、どうして僕を裏切ったのか、話を聞きたい。その上で話し合いが出来るなら話し合おうと思う。ただ、おそらくそうはならないとは考えているけどね。」
『エイナスと戦うことになってもいいのか?』
「ああ、覚悟の上だ。エイナスとは小さいころからの馴染みなんだ。僕が来ることは予想しているハズさ。それに僕の元部下たちもすでにエイナスの下に集り、僕ではなくエイナスに忠誠を誓っている。その理由も聞けずじまいだからね。まずはエイナスに会わないと。」
会話をしながら螺旋階段を駆け下り、正面の大扉を開く。中は真っ暗な広い空間のようだ。
石畳にはわずかに水が溜まっており、近くの壁からは水が染み出している。かなり深い地下のようだ。
奥の壁が分からないほど暗いのか広いのかも分からない。
「グルニ伯爵の避難所さ。一定の資金を得た人間は第一に身の安全に金をかけるようになるからね。ただ、しばらく整備されていないようだね。」
暗闇に向かってシェロは声を投げかける。
「そこにいるんだろう?エイナス。」
暗闇からその問いに対する返答が聞こえてくる。
「……昔っから夜目がきくなぁ……シェロ……!」
暗闇からぬぅっとマントフードを被った大柄な男が現れ、そのマントを脱ぎ棄てる。
エイナスと呼ばれたその男は、眉間にしわを寄せ、髪を逆立て、上半身には素肌に肩あてのみの防具で、鎖を巻き付け左手にはその鎖の端、左手には直径40センチメートルほどの棘の付いた鉄球を持ち、両足は甲鉄のブーツで足を覆っている。
エイナスが一歩、Jたちの方へ足を向けると壁に光がばっとともり、半径10メートルほどの半球の中にいるのが分かるようになった。そしてそこらの壁には血の跡が染みついており、下たる水に混じって黒い血がJの足元に流れてくる。
「ヒッ……いい趣味してるじゃん……!」
怯えた口調からやせ我慢の挑発を行うタラサ。
するとパチパチパチッと拍手の音が場内に響き渡る。拍手の方向に顔を向けると、壁から突き出たバルコニー部分から、グルニがJ達やエイナスを見下していた。
「ぶひゃひゃひゃっ!やはり抜け出してきおったかシェロ!エイナス!貴様の言う通りだったな!」
「はい、グルニ様。」
「ラトロ監獄の警備は堅牢だ。だが、シェロ盗賊団団長ともなると簡単に脱獄出来てしまうとはのぉ……。これは軍部へのいい取次材料になることよ。ぶひゃっ。」
「脱獄できたのは僕だけの力じゃない。彼らが助けてくれたのさ。」
――ちなみに俺が助けに行かなくても一定の時間が過ぎると勝手に自分で鍵を解除してラトロ監獄の崖の上の木の上で待機している。
――凄腕の盗賊なのね。
「どうして僕を裏切ったんだ。エイナス。やはり金か?グルニ伯爵に僕が潜入すると情報を流して見返りの金が目的だったのか?」
「それは他の団員の理由だ。でもな、俺はちげぇよ、シェロ。お前には一生かかっても分かんねぇよ。」
「そこを分かり合おうとするのが仲間なんじゃないか。教えてくれ、僕の何が気にくわなかったんだ?」
「そういうところだよ!」
エイナスは突如激昂し、持っていた鉄球を振り回しJ達に向かって投げつける。
「ぶひゃひゃ!やってしまえ!エイナス!ワシはこれが見たかったんだ!ワシだけの血沸き肉躍る殺し合いをな!さぁ殺し合え!ともにスラムに育った者同士、互いの血肉を喰らい合うがいい!」
「あの貴族イカれてるよ!」
「仕方ない。一度エイナスを無力化する必要があるようだ。J、協力してくれるかい?」
『ああ、任シェロ。』
――ここからボス戦だ。
エイナスはもう一度J達に鉄球を叩きつけようと自分の頭の上で鉄球を振り回しながらJ達に近づいてくる。
『シェロ!やつの動きを止めてくれ!』
「了解!」
シェロは懐から分銅に細いロープが付いたものを取り出しエイナスに向かって投げる。エイナスの左手にその分銅ロープが巻き付き、動きを拘束する。シェロはその状態から自分の手に持っているロープにナイフでひっかくと、火花が生じ、その火花が分銅に繋がっているロープ上を走っていき、分銅に到達する。その瞬間、分銅の先端がはじけ飛び破片がエイナスに直撃する。エイナスの生命力ゲージがわずかに減少した。
「ぐぁああああっ!シェロ!よくもぉ!」
Jはダッシュでエイナスに間合いを詰め、タラサに指示を出す。
「タラサ!触手弾を!」
「ラジャ!」
タラサはグレネードランチャーに触手弾を装填してエイナスに打ち込む。触手弾がはじけ飛びエイナスの体に葛の触手が這い、地面に根を張る。
「動けねぇ!」
その間にJはハンマーでエイナスに向かって振り下ろし攻撃を叩きこむ。
「ぐぉあっ!」
エイナスの体力ゲージが10%ほど減少する。
更にJは振り下ろしたハンマーを回転させエイナスの背中にぶつける。
エイナスの体力ゲージがさらに10%減少した。
エイナスは体を暴れさせ触手を振り払う。Jに向かって振り下ろそうと頭上で再び回転させる。鉄球自体はエイナスの周囲を回っているため近づくと鉄球に激突し大ダメージを負ってしまう。さらに、鎖自体にも勢いがついているため、ジャスト回避も出来ず、鉄球の質量が大きいため受け流しである『パリィ』も出来ない。その状態でエイナスはJに近づいていく。
Jはシェロに指示を出す。
『シェロ!撃ち落とせ!』
「任せて!」
シェロは分銅の付いたロープを再びエイナスに向かって投擲する。エイナスが回転させている鉄球の鎖に巻き付く。
『今だ!』
鉄球がエイナスの真裏に来たタイミングで、シェロはロープを思い切り引いた。
するとエイナスに向かって鉄球が向かっていき、エイナスの後頭部に鉄球が直撃した。
エイナスの体力ゲージ、生命力ゲージがともに10%ほど減少する。
Jはふらつくエイナスの胸部にパイルバンカーを添え、打ち込んだ。エイナスが後方に大きく吹き飛び、大の字でダウンする。
「タラサ!触手弾を!」
タラサは大の字でダウンしているエイナスに向かって触手弾を撃ちこみ、全身を床に締め付ける。Jはそのままハンマーでエイナスに向かって叩きつけを連打する。
エイナスの残りライフが5%ほどになったところで、エイナスは触手を引きちぎり立ち上がって叫んだ。
「てめぇら!来い!獲物はここだァッ!」
すると、Jたちが入って来た扉から十数人の武装した部下が全力疾走で走ってきてエイナスを背に取り囲む。
「生かしておく必要もねぇ!皆殺しだァ!貴様ら!俺を守りながら戦え!」
――エイナスはライフが10%を切ると回復薬で回復するイベントが発生する。それで50%あたりまで回復されてしまう。
Jはタラサに再び触手弾を撃つように命じ、エイナスの周囲の敵を拘束する。
――触手大活躍ね
――タラサを仲間にしておきたかった理由の1つさ。触手弾は長くても数秒しか持たないけど、それで十分。
Jは動きの止まった部下たちをハンマーで打ち飛ばし、エイナスに激突させる。更に触手弾の範囲から外れたエイナスを挟んで反対側にいる部下たちをターゲットに取り、シェロに命令する。
「シェロ!攪乱して同士討ちを狙え!」
「了解だよ!」
シェロは身をかがめ部下たちの塊に突っ込んでいく。部下たちはシェロに向かって槍や剣で攻撃するが、シェロはそれを躱して背後に回り込む。シェロの行動があまりに早いのか、シェロに攻撃が当たったと思いきや煙のように消え、部下が斬っていたのは残像だった。背後に回り込んだシェロはその部下の背後から部下の両手を掴みまるで操り人形のように部下を操作し敵を攻撃していく。
「こ……このぉ!」
敵を操作してがら空きになったシェロの背中に槍を突き立てようと兵士が突進する。シェロはその瞬間、体を左に捻り、背後からの槍攻撃を躱した。シェロに躱された突進攻撃はその場で止まることが出来ず、シェロが操っていた敵の背中に突き刺さる。兵士が悲鳴を上げたのもつかの間、シェロはすぐに他の敵の背後に回り込み同様に敵を操る。こうして敵の陣形はバラバラになっていった。
「シェロ、すごいね!まるで踊ってるみたい!」
「お前らァ!何をやっている!」
エイナスはシェロに向かって鉄球を投げつける。するとシェロは大きく回避し、鉄球を難なく躱す。鉄球が敵の集団に当たり、敵同士がぶつかり合ってボーリングのピンのように吹き飛んだ。すると蟻の子一匹通さないような敵の陣形に大きな穴が開いた。
Jはその隙間にハンマーを持って突進し、左右に部下、正面にエイナスがいる状態で大きく右から左にハンマーを薙いだ。敵の集団はさらに大きく吹き飛ばされ、エイナスも後方へたじろぐ。たじろいだエイナスに向かってさらにパイルバンカーを打ち込み、後方へ吹き飛ばす。するとエイナスに向かって左右が敵で埋まった道のようなものが出来上がった。
「ぐ……ウゥンッ!お前ら!ばらけて戦え!足止めをしろ!」
まだ息がある部下たちをばらけさせ、タラサ、シェロ、Jに戦力を分散する。
「うわぁ!なんかいっぱい来たぁ!」
「ごめんよ!敵になるならしばらく寝ていてくれ!」
タラサとシェロはそれぞれ自分の前に来た部下達と対峙する
エイナスは鉄球に付いている鎖を体から外し、ハンマー投げの要領で体ごと回転させる。
エイナスの周囲に砂塵が舞い、敵味方問わず無差別に吹き飛ばす勢いだ。エイナスはその状態で器用にもJの方へ近づいてくる。Jはその回転する鎖とハンマーに向かってあえてぶつかりに行くタイミングでローリングを行った。Jの体はローリングの無敵時間を利用しすり抜け、2回転、3回転とタイミングを合わせて鎖を躱していき、エイナスに近づいていく。
「きゃあッ!」
Jの後方でタラサが悲鳴を上げる。鉄球の鎖部分が敵味方問わず薙ぎ払う攻撃に巻き込まれたようだ。
「タラサ!回復しろ!」
Jはタラサに拾っておいた回復薬を使用するように指示を出す。これでカルトゥムから回復薬を受け取り自分で回復する。
Jはエイナスと鉄球の中間に立ち、ハンマー地面に逆さに立て、自分へ向かってくる鎖をハンマーの柄と自分の体で受け止めた。自分の体を軸にした状態で鎖はJの体で「く」の字に曲がり、鉄球がエイナスに激突する。エイナスは鎖は離さないが大きく吹き飛び、鎖に巻き込まれる形でJもエイナスの方向に吹き飛んだ。鉄球の棘がエイナスに突き刺さり出血を起こす。エイナスの生命力、体力ゲージが大きく減少した。Jはエイナスの方に吹き飛ばされながら体勢を整え、地面に着地し、ハンマーを大きく振りかぶる。
――これでとどめだ。
Jは倒れているエイナスに向かってハンマーの平坦を叩きつける。エイナスはそのまま倒れたままになり、体力ゲージが0になった。周囲の部下たちも、タラサとシェロの攻撃に加え、エイナスの鉄球に巻き込まれ全員が伸びていた。
――何人か死んでるっぽいけど攻略上問題ないの?
――俺やパーティーメンバーが殺したら『邪』ゲージが増加するけど、殺したのはエイナスだからセーフなんだ。
――悲しい事故ね。
――……悲しい?
Jとタラサ、シェロがエイナスに近づいていくと、見物していたグルニが拍手をしつつ3人に話しかける。
扉の向こう側から二人にドールハウスに入るように指示をだし、カルトゥムが壁をすり抜けて扉の内側にすり抜けてくる。
――なんか当たり前のようにすりぬけてくるんだけど
――カルトゥムは常にプレイヤーの後ろにいるようになってるからな。仲間キャラは壁のすり抜けは行われないから、一旦ドールハウスに入れる必要がある。そうしないと、ずっと壁に向かって走り続けることになる。
――バカみたいね。
Jはそのまま昇降機まで行き、中に入ってレバーを引いた。
螺旋階段を下降していき、その間にJはドールハウスからタラサとシェロを外に出す。
階段を駆け下りながらシェロは独り言を言う。
「この先にエイナスがいるのか……」
――本来なら、さっきの扉とかこの昇降機やエイナスについては、屋敷内のギミック解いたり、中ボスキャラである盗賊団幹部を倒すと話を聞ける。ギミックは、中ボスを倒してレバーを手に入れたり、飾られている絵画の順番を並び替えたり、別のレバーを中ボス後ろの取り付け部分につけて引いたりする感じのやつを解く必要がある。
――それ全部スキップしたのね。
「シェロはエイナスに会ったらどうするの?」
タラサはシェロに問いかける。
「分からない。ただ、どうして僕を裏切ったのか、話を聞きたい。その上で話し合いが出来るなら話し合おうと思う。ただ、おそらくそうはならないとは考えているけどね。」
『エイナスと戦うことになってもいいのか?』
「ああ、覚悟の上だ。エイナスとは小さいころからの馴染みなんだ。僕が来ることは予想しているハズさ。それに僕の元部下たちもすでにエイナスの下に集り、僕ではなくエイナスに忠誠を誓っている。その理由も聞けずじまいだからね。まずはエイナスに会わないと。」
会話をしながら螺旋階段を駆け下り、正面の大扉を開く。中は真っ暗な広い空間のようだ。
石畳にはわずかに水が溜まっており、近くの壁からは水が染み出している。かなり深い地下のようだ。
奥の壁が分からないほど暗いのか広いのかも分からない。
「グルニ伯爵の避難所さ。一定の資金を得た人間は第一に身の安全に金をかけるようになるからね。ただ、しばらく整備されていないようだね。」
暗闇に向かってシェロは声を投げかける。
「そこにいるんだろう?エイナス。」
暗闇からその問いに対する返答が聞こえてくる。
「……昔っから夜目がきくなぁ……シェロ……!」
暗闇からぬぅっとマントフードを被った大柄な男が現れ、そのマントを脱ぎ棄てる。
エイナスと呼ばれたその男は、眉間にしわを寄せ、髪を逆立て、上半身には素肌に肩あてのみの防具で、鎖を巻き付け左手にはその鎖の端、左手には直径40センチメートルほどの棘の付いた鉄球を持ち、両足は甲鉄のブーツで足を覆っている。
エイナスが一歩、Jたちの方へ足を向けると壁に光がばっとともり、半径10メートルほどの半球の中にいるのが分かるようになった。そしてそこらの壁には血の跡が染みついており、下たる水に混じって黒い血がJの足元に流れてくる。
「ヒッ……いい趣味してるじゃん……!」
怯えた口調からやせ我慢の挑発を行うタラサ。
するとパチパチパチッと拍手の音が場内に響き渡る。拍手の方向に顔を向けると、壁から突き出たバルコニー部分から、グルニがJ達やエイナスを見下していた。
「ぶひゃひゃひゃっ!やはり抜け出してきおったかシェロ!エイナス!貴様の言う通りだったな!」
「はい、グルニ様。」
「ラトロ監獄の警備は堅牢だ。だが、シェロ盗賊団団長ともなると簡単に脱獄出来てしまうとはのぉ……。これは軍部へのいい取次材料になることよ。ぶひゃっ。」
「脱獄できたのは僕だけの力じゃない。彼らが助けてくれたのさ。」
――ちなみに俺が助けに行かなくても一定の時間が過ぎると勝手に自分で鍵を解除してラトロ監獄の崖の上の木の上で待機している。
――凄腕の盗賊なのね。
「どうして僕を裏切ったんだ。エイナス。やはり金か?グルニ伯爵に僕が潜入すると情報を流して見返りの金が目的だったのか?」
「それは他の団員の理由だ。でもな、俺はちげぇよ、シェロ。お前には一生かかっても分かんねぇよ。」
「そこを分かり合おうとするのが仲間なんじゃないか。教えてくれ、僕の何が気にくわなかったんだ?」
「そういうところだよ!」
エイナスは突如激昂し、持っていた鉄球を振り回しJ達に向かって投げつける。
「ぶひゃひゃ!やってしまえ!エイナス!ワシはこれが見たかったんだ!ワシだけの血沸き肉躍る殺し合いをな!さぁ殺し合え!ともにスラムに育った者同士、互いの血肉を喰らい合うがいい!」
「あの貴族イカれてるよ!」
「仕方ない。一度エイナスを無力化する必要があるようだ。J、協力してくれるかい?」
『ああ、任シェロ。』
――ここからボス戦だ。
エイナスはもう一度J達に鉄球を叩きつけようと自分の頭の上で鉄球を振り回しながらJ達に近づいてくる。
『シェロ!やつの動きを止めてくれ!』
「了解!」
シェロは懐から分銅に細いロープが付いたものを取り出しエイナスに向かって投げる。エイナスの左手にその分銅ロープが巻き付き、動きを拘束する。シェロはその状態から自分の手に持っているロープにナイフでひっかくと、火花が生じ、その火花が分銅に繋がっているロープ上を走っていき、分銅に到達する。その瞬間、分銅の先端がはじけ飛び破片がエイナスに直撃する。エイナスの生命力ゲージがわずかに減少した。
「ぐぁああああっ!シェロ!よくもぉ!」
Jはダッシュでエイナスに間合いを詰め、タラサに指示を出す。
「タラサ!触手弾を!」
「ラジャ!」
タラサはグレネードランチャーに触手弾を装填してエイナスに打ち込む。触手弾がはじけ飛びエイナスの体に葛の触手が這い、地面に根を張る。
「動けねぇ!」
その間にJはハンマーでエイナスに向かって振り下ろし攻撃を叩きこむ。
「ぐぉあっ!」
エイナスの体力ゲージが10%ほど減少する。
更にJは振り下ろしたハンマーを回転させエイナスの背中にぶつける。
エイナスの体力ゲージがさらに10%減少した。
エイナスは体を暴れさせ触手を振り払う。Jに向かって振り下ろそうと頭上で再び回転させる。鉄球自体はエイナスの周囲を回っているため近づくと鉄球に激突し大ダメージを負ってしまう。さらに、鎖自体にも勢いがついているため、ジャスト回避も出来ず、鉄球の質量が大きいため受け流しである『パリィ』も出来ない。その状態でエイナスはJに近づいていく。
Jはシェロに指示を出す。
『シェロ!撃ち落とせ!』
「任せて!」
シェロは分銅の付いたロープを再びエイナスに向かって投擲する。エイナスが回転させている鉄球の鎖に巻き付く。
『今だ!』
鉄球がエイナスの真裏に来たタイミングで、シェロはロープを思い切り引いた。
するとエイナスに向かって鉄球が向かっていき、エイナスの後頭部に鉄球が直撃した。
エイナスの体力ゲージ、生命力ゲージがともに10%ほど減少する。
Jはふらつくエイナスの胸部にパイルバンカーを添え、打ち込んだ。エイナスが後方に大きく吹き飛び、大の字でダウンする。
「タラサ!触手弾を!」
タラサは大の字でダウンしているエイナスに向かって触手弾を撃ちこみ、全身を床に締め付ける。Jはそのままハンマーでエイナスに向かって叩きつけを連打する。
エイナスの残りライフが5%ほどになったところで、エイナスは触手を引きちぎり立ち上がって叫んだ。
「てめぇら!来い!獲物はここだァッ!」
すると、Jたちが入って来た扉から十数人の武装した部下が全力疾走で走ってきてエイナスを背に取り囲む。
「生かしておく必要もねぇ!皆殺しだァ!貴様ら!俺を守りながら戦え!」
――エイナスはライフが10%を切ると回復薬で回復するイベントが発生する。それで50%あたりまで回復されてしまう。
Jはタラサに再び触手弾を撃つように命じ、エイナスの周囲の敵を拘束する。
――触手大活躍ね
――タラサを仲間にしておきたかった理由の1つさ。触手弾は長くても数秒しか持たないけど、それで十分。
Jは動きの止まった部下たちをハンマーで打ち飛ばし、エイナスに激突させる。更に触手弾の範囲から外れたエイナスを挟んで反対側にいる部下たちをターゲットに取り、シェロに命令する。
「シェロ!攪乱して同士討ちを狙え!」
「了解だよ!」
シェロは身をかがめ部下たちの塊に突っ込んでいく。部下たちはシェロに向かって槍や剣で攻撃するが、シェロはそれを躱して背後に回り込む。シェロの行動があまりに早いのか、シェロに攻撃が当たったと思いきや煙のように消え、部下が斬っていたのは残像だった。背後に回り込んだシェロはその部下の背後から部下の両手を掴みまるで操り人形のように部下を操作し敵を攻撃していく。
「こ……このぉ!」
敵を操作してがら空きになったシェロの背中に槍を突き立てようと兵士が突進する。シェロはその瞬間、体を左に捻り、背後からの槍攻撃を躱した。シェロに躱された突進攻撃はその場で止まることが出来ず、シェロが操っていた敵の背中に突き刺さる。兵士が悲鳴を上げたのもつかの間、シェロはすぐに他の敵の背後に回り込み同様に敵を操る。こうして敵の陣形はバラバラになっていった。
「シェロ、すごいね!まるで踊ってるみたい!」
「お前らァ!何をやっている!」
エイナスはシェロに向かって鉄球を投げつける。するとシェロは大きく回避し、鉄球を難なく躱す。鉄球が敵の集団に当たり、敵同士がぶつかり合ってボーリングのピンのように吹き飛んだ。すると蟻の子一匹通さないような敵の陣形に大きな穴が開いた。
Jはその隙間にハンマーを持って突進し、左右に部下、正面にエイナスがいる状態で大きく右から左にハンマーを薙いだ。敵の集団はさらに大きく吹き飛ばされ、エイナスも後方へたじろぐ。たじろいだエイナスに向かってさらにパイルバンカーを打ち込み、後方へ吹き飛ばす。するとエイナスに向かって左右が敵で埋まった道のようなものが出来上がった。
「ぐ……ウゥンッ!お前ら!ばらけて戦え!足止めをしろ!」
まだ息がある部下たちをばらけさせ、タラサ、シェロ、Jに戦力を分散する。
「うわぁ!なんかいっぱい来たぁ!」
「ごめんよ!敵になるならしばらく寝ていてくれ!」
タラサとシェロはそれぞれ自分の前に来た部下達と対峙する
エイナスは鉄球に付いている鎖を体から外し、ハンマー投げの要領で体ごと回転させる。
エイナスの周囲に砂塵が舞い、敵味方問わず無差別に吹き飛ばす勢いだ。エイナスはその状態で器用にもJの方へ近づいてくる。Jはその回転する鎖とハンマーに向かってあえてぶつかりに行くタイミングでローリングを行った。Jの体はローリングの無敵時間を利用しすり抜け、2回転、3回転とタイミングを合わせて鎖を躱していき、エイナスに近づいていく。
「きゃあッ!」
Jの後方でタラサが悲鳴を上げる。鉄球の鎖部分が敵味方問わず薙ぎ払う攻撃に巻き込まれたようだ。
「タラサ!回復しろ!」
Jはタラサに拾っておいた回復薬を使用するように指示を出す。これでカルトゥムから回復薬を受け取り自分で回復する。
Jはエイナスと鉄球の中間に立ち、ハンマー地面に逆さに立て、自分へ向かってくる鎖をハンマーの柄と自分の体で受け止めた。自分の体を軸にした状態で鎖はJの体で「く」の字に曲がり、鉄球がエイナスに激突する。エイナスは鎖は離さないが大きく吹き飛び、鎖に巻き込まれる形でJもエイナスの方向に吹き飛んだ。鉄球の棘がエイナスに突き刺さり出血を起こす。エイナスの生命力、体力ゲージが大きく減少した。Jはエイナスの方に吹き飛ばされながら体勢を整え、地面に着地し、ハンマーを大きく振りかぶる。
――これでとどめだ。
Jは倒れているエイナスに向かってハンマーの平坦を叩きつける。エイナスはそのまま倒れたままになり、体力ゲージが0になった。周囲の部下たちも、タラサとシェロの攻撃に加え、エイナスの鉄球に巻き込まれ全員が伸びていた。
――何人か死んでるっぽいけど攻略上問題ないの?
――俺やパーティーメンバーが殺したら『邪』ゲージが増加するけど、殺したのはエイナスだからセーフなんだ。
――悲しい事故ね。
――……悲しい?
Jとタラサ、シェロがエイナスに近づいていくと、見物していたグルニが拍手をしつつ3人に話しかける。
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朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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