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第24話 両親の遺言
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タラサがぷはっと息を吐き出す。緊張がほぐれたようで饒舌に話し始めた。
「ふわーっ!すっごい落果遺物のモンスターだった!調査したかったんだけど消えちゃった。」
『見ろ、奥に部屋があるみたいだ。』
センチピードがいて最初見えなかった扉があることにJが気が付きタラサに言う。
――知ってたけどね。
「あんなモンスターがいたんだ。ここはお宝があるのが定石でしょう!」
2人は部屋の奥の扉に向かい、扉の前に立つ。すると自動で扉が開き、中には車のエンジンのようなものが見つかった。
「これ……ドリルロケットの燃焼部に使えそうじゃん!すごいお宝だよ!私の作ったやつだとどうしてもエネルギーのロスが出そうなんだけど、これ修理出来ればそのまま使えそう!カルトゥム!」
「はいだメェ!」
カルトゥムは壺にそのエンジンを押し込むとエンジンの向こう側に宝箱があることに気が付いた。
Jはそこをあけると、バネ状や歯車状の落果遺物と爆砕弾、金属のベースとなる鉱石が手に入った。
「すごっ!それオリハルコンだよ!J!めっちゃ固い激レア素材!加工が大変だけど加工できればめっちゃ強い装備作れるよ!」
――個人的にはバネ状の落果遺物が欲しかったんだ。
――何に使うの?
――パイルバンカーの射出に静穏性がついて隠密状態で使っても見つかりにくくなる。
『一通り探索したし帰ろう。』
「うん、そうだね。」
Jとタラサは来た道を引き返し、遺跡を出る。Jはゴブリンの拠点とその段差を使いタラサを固定して『ウォールトワイスランニング』を行い、足早に山の昇降機まで戻るのだった。
昇降機に入り登っているとタラサが話かけてきた。
「J、今日はありがとう。今までアタシ一人だとどうしてもあの遺跡探索できなかったし、入れたとしてもモンスターにやられちゃってたかも!Jと出会えてラッキーだったよ!」
タラサは感謝の言葉の後にJに対して疑問を投げかける。
「Jはどうして旅をしているの?」
『俺には記憶がない。知っているのは落果遺物から出てきたと言うことだけだ。落果遺物の専門家に聞けば何か分かると思ったんだが……』
「そっかー。ごめんね。最初に会ったとき信じなくて、でも今は信じるよ!JはJそのものが落果遺物だって!でもごめんねアタシもわかんないや。もしかしたら樹上世界に行けば分かるかも!」
タラサと会話しているうちに昇降機が秘密気に横に着く。柵が開くと、向こう側でカバリオが待っていた。
「お帰り、タラサ、Jさん。中に入るといい。暖かい飲み物用意してあるよ。」
「おじさんただいまー。」
タラサはとことことカバリオの背後をついて秘密基地に入っていく。中のリビングのテーブルにはコーヒーのような黒い飲み物があり湯気を立てている。」
タラサはカルトゥムの壺の中から手に入れたエンジンを取り出し、床に置いた。そしてふんっと鼻息をだしドヤ顔でカバリオに話す。
「おじさん!見てよ!今日の探索の成果!すごいでしょ!何かわかる!?」
カバリオは目を丸くして答える。
「スゴイな……これはオロルとアイビスと一緒に作ったエンジンと似ているようでまるで違う。こちらの方が断然性能がよさそうだ。しかし私達が作ったものも方向性はあっていたようだな。」
「でしょー!これを修理して今作ってるエンジンと組み合わせればきっと天井を突破出来るエンジンに作れるよ!」
「ああ、ロケットを完成させられればきっと村の皆がお前を認めてくれ……あっ……」
カバリオはしまったという顔をしてタラサを見る。タラサは目に涙をためカバリオをじっと睨み、そして口を開いた。
「J……前に私が村の近くへは行けない。って言ってたの覚えてる?私は忌み子なの。」
涙目になりながらタラサは言葉を続ける。
「よそから来た出自不詳のお父さんに、それの妻でお父さんと一緒に村に落果遺物で大穴をあけて行方不明になったお母さん。その両親の娘として生まれて、何のことか落果遺物メカニックの天才として育ってしまったアタシ。」
タラサは顔をあげ、少し涙がたまった瞳をじっとJとカバリオに向けしゃべり続けた。
「そんな子供が村で受け入れられると思う?それに私は見返してやりたいの。お父さんとお母さんを馬鹿にした村の連中に!「どうだ!お前らが馬鹿にした落果遺物で樹上世界まで行ってやったぞ!」って。だからアタシは『ドリルロケット』を完成させるの!」
「タラサ……」
『聞いて悪かった。ところで村のロケットからこんなものが出てきたんだが。』
Jは壺の中からキューブ状の落下遺物を取り出し、カバリオとタラサに見せる。
「はて?村のロケットならわたしが一通り調べたのですがこのようなものがまだ残っているとは……」
「カバリオおじさんは昔から探索能力ちょっと鈍いよねー」
「アイビスにも似たようなことを言われましたよ。」
「そう……お母さんが……」
タラサがキューブ状のものを握ると、空中に成人した男女2人の姿が映し出された。
「これは……!」
「おじさん……アタシ分かるよ……!お父さんとお母さんでしょ……?」
「ああ。」
空中に映し出された大人の姿のオロルとアイビスの姿を見て、タラサの瞳から涙がこぼれる。映像内のオロルとアイビスは手を振りしゃべりだした。
「やぁカバリオ。これを見てるってことはおそらくオレとアイビスに何か問題が発生したんじゃないかと思う。そんな時にこの映像を見てほしい。人の姿を記録として残せる遺物を利用したんだ。」
「お兄ちゃん。もし私達に何かあった時の為にこの記録を残すね。まず出発前のブリーフィングで言ってた通り、天井を貫通して樹上世界まで到達したら、穴を抜けて落下傘で帰還するわ。で、ここからが重要よ。私の推測だけど、天井は普通の土でできていない。落果遺物だけを通過する性質を持ったもので出来ている恐れがある。だから、天井に行った後に、帰りの穴がふさがって、私たちのロケットだけ落ちてしまう可能性があるわ。もし、誰も載っていないドリルロケットが落ちてきたら、帰還は失敗したと考えて頂戴。」
「アイビス……そうだったのか……」
「まぁそんなことにはならないと思うけどな。カバリオ!帰ってきたら樹上世界はどうだったかじっくり聞かせてやるよ!その時にはタラサも一緒にな!」
「もう、オロルったら楽観的過ぎよ。お兄ちゃん、もし私たちが帰ってこなかったら、タラサをお願い。私とオロルの子だもの、きっと落果遺物に夢中になるはずだわ。もしかしたら私達の後を継いでタラサもドリルロケットで樹上世界を目指すかもしれない。そうなったら、お世話かけるけど、ロケットづくり手伝ってほしいの。私たちが作ったのより高性能なやつをね!」
「お母さん……」
「アイビス、ロケットづくりもいいがやはり探索も大事だぞ。俺はタラサには自分の足で世界を見て回ってほしい。俺は記憶の殆どは秘密基地とその周辺で終わっているが、探索が何より楽しかった!タラサにも物を知り、見つけるという楽しみを知ってほしいんだ。ロケットづくりの合間にでも世界を旅するようにしてくれないか?……ってこれじゃ本当に俺たちが帰ってこれないみたいじゃないか!」
「お父さん……」
「オロル、何事も保険を掛けるのは大切よ。というわけで、お兄ちゃん。しばらくタラサをよろしくね。まぁ私も必ず帰ってくるから、このメッセージが開かれないことを祈るわ。あ、そろそろ出発の時間ね。それじゃあこれでメッセージを終わります。またね!」
そこでぷつんと映像は途切れた。
アイビスの足元は涙で濡れ、カバリオは茫然とその映像が止まった二人を見ている。
「何が「帰ってくる」だ……この大馬鹿夫婦が……!」
カバリオは上を向き下ろした拳をぎゅっと握りしめた。頬にはかすかに涙が伝っている。
そんなカバリオの袖をタラサはちょんと引っ張り、赤く腫らした瞳に強い意志を宿らせまっすぐにカバリオに言い放った。
「アタシ、旅に出たい。旅に出て、いっぱいいろんなものを見て、感じて、経験して、お父さんの言った通り世界を探索したい。そしてお母さんが言った通りこのロケットを完成させる!そして樹上世界にいるお父さんとお母さんに会いに行くんだ!」
「タラサ……ああ、そうだな……それがいい……!」
カバリオは眼鏡をはずし涙をぬぐうとJに向かって頭を下げる。
「Jさん。どうかこの子の旅の手伝いをしてやってくれませんか?私には外の魔物と戦う力はない。村唯一の医者であり村を離れることも出来ない。でもJさんなら魔物に臆することなく旅を続けられると思うのです。」
「J……私からもお願い。Jの旅に同行させて。もちろん、自分のことは自分でやるわ。」
『ああ、俺からもよろしく頼む』
「こう見えても、アタシ結構戦えるのよ?素材集めに魔物を狩ったこともあるんだから!」
「タラサ!そうなのかい?やれやれ、血は争えないな……」
「というわけで、J!これからよろしくね!」
その晩は3人で秘密基地に泊まり、カバリオからオロルとアイビスとの暮らしをたっぷり聞くJとタラサだった。そして夜が明け、秘密基地の玄関に3人は集まった。
タラサはツナギ姿ではなく、短パンのオーバーオールにニーソックス、大きなグローブを装着し頭には熊耳がついたベレー帽にゴーグルを被っている。腰には遺跡探索の時にも使った二丁拳銃をぶら下げている。そして背中にはなぜかミニチュアのドールハウスを背負っている。
「へへーん♪どうだ!私の一張羅だぞ!」
『その背中の家はなんだ?』
タラサは背中をくるっと回しドールハウスを見せつける。凝った装飾のドールハウスは小型のリュックサックくらいの大きさで、窓の中からちらりと見ると、中身もしっかり作りこんであるようだ。
「J!ちょっとこのドールハウスの扉を開けてみてよ!」
Jは言われるがまま背負われているドールハウスの扉をつまみ開ける。
すると突然目の前が明転し、気が付くと瀟洒な様式の寝室らしき部屋に立っていた。
内装は天蓋がついたキングサイズのベッドに、彫刻が施された3人掛けの椅子と同様の彫刻が施された1人掛けの椅子が、テーブルを囲んで火のついてない暖炉を囲んでいる。
その他にも、壁にはクローゼット、天井にはシャンデリアが掛けられており、部屋全体を明るくきらびやかに照らしている。部屋の隅にはカルトゥムが背負っていた壺が置いてある。
Jが窓の外を見ると、大きな瞳が中を覗いていた。その瞳の主がJに向かって話しかける。
「どう?J?私特製のミニチュアドールハウスは?なかなか立派でしょ!これで荷物とか人が増えてもたくさん運べるんだぜ!」
声の主はタラサだった。
『どうすれば外に出れる?』
「扉を開けてみてよ」
Jが扉を開けると再び目の前が明転した。
「ふわーっ!すっごい落果遺物のモンスターだった!調査したかったんだけど消えちゃった。」
『見ろ、奥に部屋があるみたいだ。』
センチピードがいて最初見えなかった扉があることにJが気が付きタラサに言う。
――知ってたけどね。
「あんなモンスターがいたんだ。ここはお宝があるのが定石でしょう!」
2人は部屋の奥の扉に向かい、扉の前に立つ。すると自動で扉が開き、中には車のエンジンのようなものが見つかった。
「これ……ドリルロケットの燃焼部に使えそうじゃん!すごいお宝だよ!私の作ったやつだとどうしてもエネルギーのロスが出そうなんだけど、これ修理出来ればそのまま使えそう!カルトゥム!」
「はいだメェ!」
カルトゥムは壺にそのエンジンを押し込むとエンジンの向こう側に宝箱があることに気が付いた。
Jはそこをあけると、バネ状や歯車状の落果遺物と爆砕弾、金属のベースとなる鉱石が手に入った。
「すごっ!それオリハルコンだよ!J!めっちゃ固い激レア素材!加工が大変だけど加工できればめっちゃ強い装備作れるよ!」
――個人的にはバネ状の落果遺物が欲しかったんだ。
――何に使うの?
――パイルバンカーの射出に静穏性がついて隠密状態で使っても見つかりにくくなる。
『一通り探索したし帰ろう。』
「うん、そうだね。」
Jとタラサは来た道を引き返し、遺跡を出る。Jはゴブリンの拠点とその段差を使いタラサを固定して『ウォールトワイスランニング』を行い、足早に山の昇降機まで戻るのだった。
昇降機に入り登っているとタラサが話かけてきた。
「J、今日はありがとう。今までアタシ一人だとどうしてもあの遺跡探索できなかったし、入れたとしてもモンスターにやられちゃってたかも!Jと出会えてラッキーだったよ!」
タラサは感謝の言葉の後にJに対して疑問を投げかける。
「Jはどうして旅をしているの?」
『俺には記憶がない。知っているのは落果遺物から出てきたと言うことだけだ。落果遺物の専門家に聞けば何か分かると思ったんだが……』
「そっかー。ごめんね。最初に会ったとき信じなくて、でも今は信じるよ!JはJそのものが落果遺物だって!でもごめんねアタシもわかんないや。もしかしたら樹上世界に行けば分かるかも!」
タラサと会話しているうちに昇降機が秘密気に横に着く。柵が開くと、向こう側でカバリオが待っていた。
「お帰り、タラサ、Jさん。中に入るといい。暖かい飲み物用意してあるよ。」
「おじさんただいまー。」
タラサはとことことカバリオの背後をついて秘密基地に入っていく。中のリビングのテーブルにはコーヒーのような黒い飲み物があり湯気を立てている。」
タラサはカルトゥムの壺の中から手に入れたエンジンを取り出し、床に置いた。そしてふんっと鼻息をだしドヤ顔でカバリオに話す。
「おじさん!見てよ!今日の探索の成果!すごいでしょ!何かわかる!?」
カバリオは目を丸くして答える。
「スゴイな……これはオロルとアイビスと一緒に作ったエンジンと似ているようでまるで違う。こちらの方が断然性能がよさそうだ。しかし私達が作ったものも方向性はあっていたようだな。」
「でしょー!これを修理して今作ってるエンジンと組み合わせればきっと天井を突破出来るエンジンに作れるよ!」
「ああ、ロケットを完成させられればきっと村の皆がお前を認めてくれ……あっ……」
カバリオはしまったという顔をしてタラサを見る。タラサは目に涙をためカバリオをじっと睨み、そして口を開いた。
「J……前に私が村の近くへは行けない。って言ってたの覚えてる?私は忌み子なの。」
涙目になりながらタラサは言葉を続ける。
「よそから来た出自不詳のお父さんに、それの妻でお父さんと一緒に村に落果遺物で大穴をあけて行方不明になったお母さん。その両親の娘として生まれて、何のことか落果遺物メカニックの天才として育ってしまったアタシ。」
タラサは顔をあげ、少し涙がたまった瞳をじっとJとカバリオに向けしゃべり続けた。
「そんな子供が村で受け入れられると思う?それに私は見返してやりたいの。お父さんとお母さんを馬鹿にした村の連中に!「どうだ!お前らが馬鹿にした落果遺物で樹上世界まで行ってやったぞ!」って。だからアタシは『ドリルロケット』を完成させるの!」
「タラサ……」
『聞いて悪かった。ところで村のロケットからこんなものが出てきたんだが。』
Jは壺の中からキューブ状の落下遺物を取り出し、カバリオとタラサに見せる。
「はて?村のロケットならわたしが一通り調べたのですがこのようなものがまだ残っているとは……」
「カバリオおじさんは昔から探索能力ちょっと鈍いよねー」
「アイビスにも似たようなことを言われましたよ。」
「そう……お母さんが……」
タラサがキューブ状のものを握ると、空中に成人した男女2人の姿が映し出された。
「これは……!」
「おじさん……アタシ分かるよ……!お父さんとお母さんでしょ……?」
「ああ。」
空中に映し出された大人の姿のオロルとアイビスの姿を見て、タラサの瞳から涙がこぼれる。映像内のオロルとアイビスは手を振りしゃべりだした。
「やぁカバリオ。これを見てるってことはおそらくオレとアイビスに何か問題が発生したんじゃないかと思う。そんな時にこの映像を見てほしい。人の姿を記録として残せる遺物を利用したんだ。」
「お兄ちゃん。もし私達に何かあった時の為にこの記録を残すね。まず出発前のブリーフィングで言ってた通り、天井を貫通して樹上世界まで到達したら、穴を抜けて落下傘で帰還するわ。で、ここからが重要よ。私の推測だけど、天井は普通の土でできていない。落果遺物だけを通過する性質を持ったもので出来ている恐れがある。だから、天井に行った後に、帰りの穴がふさがって、私たちのロケットだけ落ちてしまう可能性があるわ。もし、誰も載っていないドリルロケットが落ちてきたら、帰還は失敗したと考えて頂戴。」
「アイビス……そうだったのか……」
「まぁそんなことにはならないと思うけどな。カバリオ!帰ってきたら樹上世界はどうだったかじっくり聞かせてやるよ!その時にはタラサも一緒にな!」
「もう、オロルったら楽観的過ぎよ。お兄ちゃん、もし私たちが帰ってこなかったら、タラサをお願い。私とオロルの子だもの、きっと落果遺物に夢中になるはずだわ。もしかしたら私達の後を継いでタラサもドリルロケットで樹上世界を目指すかもしれない。そうなったら、お世話かけるけど、ロケットづくり手伝ってほしいの。私たちが作ったのより高性能なやつをね!」
「お母さん……」
「アイビス、ロケットづくりもいいがやはり探索も大事だぞ。俺はタラサには自分の足で世界を見て回ってほしい。俺は記憶の殆どは秘密基地とその周辺で終わっているが、探索が何より楽しかった!タラサにも物を知り、見つけるという楽しみを知ってほしいんだ。ロケットづくりの合間にでも世界を旅するようにしてくれないか?……ってこれじゃ本当に俺たちが帰ってこれないみたいじゃないか!」
「お父さん……」
「オロル、何事も保険を掛けるのは大切よ。というわけで、お兄ちゃん。しばらくタラサをよろしくね。まぁ私も必ず帰ってくるから、このメッセージが開かれないことを祈るわ。あ、そろそろ出発の時間ね。それじゃあこれでメッセージを終わります。またね!」
そこでぷつんと映像は途切れた。
アイビスの足元は涙で濡れ、カバリオは茫然とその映像が止まった二人を見ている。
「何が「帰ってくる」だ……この大馬鹿夫婦が……!」
カバリオは上を向き下ろした拳をぎゅっと握りしめた。頬にはかすかに涙が伝っている。
そんなカバリオの袖をタラサはちょんと引っ張り、赤く腫らした瞳に強い意志を宿らせまっすぐにカバリオに言い放った。
「アタシ、旅に出たい。旅に出て、いっぱいいろんなものを見て、感じて、経験して、お父さんの言った通り世界を探索したい。そしてお母さんが言った通りこのロケットを完成させる!そして樹上世界にいるお父さんとお母さんに会いに行くんだ!」
「タラサ……ああ、そうだな……それがいい……!」
カバリオは眼鏡をはずし涙をぬぐうとJに向かって頭を下げる。
「Jさん。どうかこの子の旅の手伝いをしてやってくれませんか?私には外の魔物と戦う力はない。村唯一の医者であり村を離れることも出来ない。でもJさんなら魔物に臆することなく旅を続けられると思うのです。」
「J……私からもお願い。Jの旅に同行させて。もちろん、自分のことは自分でやるわ。」
『ああ、俺からもよろしく頼む』
「こう見えても、アタシ結構戦えるのよ?素材集めに魔物を狩ったこともあるんだから!」
「タラサ!そうなのかい?やれやれ、血は争えないな……」
「というわけで、J!これからよろしくね!」
その晩は3人で秘密基地に泊まり、カバリオからオロルとアイビスとの暮らしをたっぷり聞くJとタラサだった。そして夜が明け、秘密基地の玄関に3人は集まった。
タラサはツナギ姿ではなく、短パンのオーバーオールにニーソックス、大きなグローブを装着し頭には熊耳がついたベレー帽にゴーグルを被っている。腰には遺跡探索の時にも使った二丁拳銃をぶら下げている。そして背中にはなぜかミニチュアのドールハウスを背負っている。
「へへーん♪どうだ!私の一張羅だぞ!」
『その背中の家はなんだ?』
タラサは背中をくるっと回しドールハウスを見せつける。凝った装飾のドールハウスは小型のリュックサックくらいの大きさで、窓の中からちらりと見ると、中身もしっかり作りこんであるようだ。
「J!ちょっとこのドールハウスの扉を開けてみてよ!」
Jは言われるがまま背負われているドールハウスの扉をつまみ開ける。
すると突然目の前が明転し、気が付くと瀟洒な様式の寝室らしき部屋に立っていた。
内装は天蓋がついたキングサイズのベッドに、彫刻が施された3人掛けの椅子と同様の彫刻が施された1人掛けの椅子が、テーブルを囲んで火のついてない暖炉を囲んでいる。
その他にも、壁にはクローゼット、天井にはシャンデリアが掛けられており、部屋全体を明るくきらびやかに照らしている。部屋の隅にはカルトゥムが背負っていた壺が置いてある。
Jが窓の外を見ると、大きな瞳が中を覗いていた。その瞳の主がJに向かって話しかける。
「どう?J?私特製のミニチュアドールハウスは?なかなか立派でしょ!これで荷物とか人が増えてもたくさん運べるんだぜ!」
声の主はタラサだった。
『どうすれば外に出れる?』
「扉を開けてみてよ」
Jが扉を開けると再び目の前が明転した。
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