皇女様の女騎士に志願したところ彼女を想って死ぬはずだった公爵子息に溺愛されました

ねむりまき

文字の大きさ
上 下
169 / 169
ほのぼの続編

新たな仲間?

しおりを挟む
 ここのお屋敷には、家族みんなが寝起きする居室のあるプライベートエリアと、公爵様やアルフリードがお仕事する時に使う執務室や図書室があるようなビジネスエリアが存在している。

 ゴリックさんはじめ、他の使用人さんたちがお屋敷にまつわる事務的なお仕事をする場所もこのビジネスエリアに備わっている。

 一応、ここら辺のお部屋についても本館リフォームの時に手を付けていたので、私も入ったことはあったんだけど、この経理関係の書類が棚一面にズラ~ッと並んでいる様は、私の実家のとある一室を思い浮かべてしまって、若干、脂汗が背中ににじむのを抑えきれなかった。

 ……帝国の貴族情報があますことなく載ってる貴族家マニュアルの分厚い本たち。あれがあるエスニョーラ家3階の、あの部屋である。

 どこの棚に何に関する資料が入ってるか説明をしてくれているゴリックさんに耳を傾けながら、クロウディア様は興味深げな様子で並んでいるファイルの一つを手に取って中身をじっくりとご覧になっている。

「素晴らしいですわ。よく整頓がされていること」

 そこには、お屋敷内のことに使った領収書だとかが綺麗に貼り付けられてたり、真っ直ぐな線が縦横に引かれた表の中に、大量の数字が書かれていたりしている。

「日々、お屋敷で使われた明細の整理や記録は担当の使用人どもが行いますので、奥様、若奥様が直接そのような事をなさる必要はございません」

 ゴリックさんはそう言って、このお部屋の中で座って大量に積み重なってる明細書を黙々と整理している使用人さんたちの方を見やった。

 あっ、そうなんだ。私は前いた世界では経理のお仕事はやったことないけど、イメージ的にそういう細々とした作業が中心だと思ってたけど……

「ということは、全体的な収支の動きを把握して、どこを削減すべきか、どこにより予算をてがうべきか方策を立てる役割が主体となるということですね?」

 クロウディア様は持っていたファイルから目を離して、キラッと瞳から鋭い光を放った。

 ゴリックさんはそんな彼女に向かって、ご名答と言わんばかりに目を伏せて頷いた。

 ほほぅ……てことは、言うなればヘイゼル家の財務部長がクロウディア様で、私が課長って感じかな?

「そうして立てた方策は旦那様、若旦那様にご報告を行い、最終的なご判断を仰いでおります」

 ゴリックさんが静かに発した言葉から、公爵様とアルフリードは言うなれば、ヘイゼル家の社長と副社長ってとこか。

 細かい作業が無いとはいえ、毎日のお食事やら消耗品やら、使用人さんや騎士団員さん達のお給料のこと、ガンブレッドやフローリアたちのお世話にかかる費用などなど……

 ともかく、まずは何処にどれくらいお金が動いてるのか、今あるヘイゼル邸の資産はどれくらいなのか、全部把握しなくちゃ何も始まらないので、私とクロウディア様は何日もこのお部屋にこもって、壁一面に並んでいる出納帳と睨めっこをする毎日をしばらく送ることとなった。


「ただいま、エミリア。今日も会計の仕事を覚えていたのかい?」

 最近は昼間は何時間も集中してしまって作業が終わるとバタンキュー状態なので、自室のベッドで部屋着のまんまでうつ伏せでグガーっと眠っていると、皇城から帰ってきたアルフリードの声で目が覚めた。

「お、おかえり~ アルフリード。ごめんね、今日も寝ちゃってて、お迎えできなくて……」

 まだ半分寝ぼけている状態のためか、目をゴシゴシ手で擦りつつ、あくびをしていると、アルフリードの姿がぼんやりと見えてきた。

「仕方ないさ、疲れてるのはよく頑張ってる証拠だから。ところで、この前の結婚式の時に描いてもらった僕たちの絵が届いてるみたいなんだよ。一緒に見に行こう」

 そう言って差し伸べられた手に自分の手を乗せて、彼に引っ張られて起き上がりながら、絵ってなんだったけな……と、まだハッキリしてない頭を回転させようとした。

 そうだった! 大貴族なら何かの節目の時には大体用意する、”肖像画”ってやつを私とアルフリードも結婚の記念に何枚か頼んでいたのだ。

「けっこう大きいサイズだったから画家さんも大変だったと思うけど、無事に完成して良かった! でもずっと寝てたからか、到着したの全然気づかなかったなぁ……あれ? アルフリード、なんだか上着の袖が汚れているみたい」

 アルフリードと手を繋ぎながら部屋から出て廊下を歩いていると、さっきよりもだいぶボンヤリした視界がハッキリしてきて、彼の黒い上着の袖にシミみたいなものが付いているのが気になった。

「あ、そうだった。今日帰る時に雨が降ってて、馬車の泥が跳ねて汚れたままになっていたんだ」

 そう言って、アルフリードは着ていた上着を脱ぎ脱ぎし始めた。

 私も脱ぐのを手伝っていると……何やら横から、ただならぬ気配が急に近づいてきたのを感じた。

「ヒィィッ!!」

 その気配の方を見てしまった瞬間、ゾクゾクっと背筋を這うような感覚が走って思わず悲鳴にも似た声を私は発してしまっていた。

 そこにはなんと……めちゃくちゃ青白い肌に、こけた頬、目の下には真っ黒で大きなクマが広がり、カサついて青紫色になってる唇をした、ヒョロ長い男性がスーッと立っていたのだ。

 もはや明るくて健康的になったこのお屋敷には似つかない……でも、以前の幽霊屋敷と呼ばれていたお屋敷だったらまさにお似合いに違いないような存在だ。

 まさかの幻のようにも思えるが、もう私の視界はさっきの寝起き状態とは違って、ちゃんとハッキリと目の前のものを捉えている。

「ああフリッツ、手を貸してくれて助かるよ」

 アルフリードは私とは違って、何の異変も感じていない様子で、思わず引きつって動きを止めてしまってる私の代わりに彼の上着を脱がせ、そのまま腕に引っ掛けているその不気味なスーツ姿の男性と接している。


 ……こんなふうに心臓が飛び出すかってくらいビビりまくってるのも、もう何度目か。

 彼こそ数日前に執事学校から帰還したというアルフリードの専属執事こと、フリッツさんだった。

 彼は公爵様のそばにいつもゴリックさんがいらっしゃるように、自室以外では常に死神のごとくアルフリードの側にくっついているんだという……

 もはや、ここでのお仕事を覚えること以上に、この方の事を気にせずに毎日を生き抜くことができるのか……うーむ、これはエミリアにとってちょっと予想外の事態である。
しおりを挟む
【Twitterで作品イメージの投稿始めました】
#皇女様の女騎士イメージ

↑クリックでイメージ投稿のみ表示されます
感想 15

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(15件)

おゆう
2022.08.19 おゆう
ネタバレ含む
ねむりまき
2022.08.19 ねむりまき

最後まで見届けて頂いて、本当にありがとうございました!1年以内に完結することができてホッとしています😅たまに更新していると思いますので、また気が向いた時など覗きにきて下さい^^

解除
おゆう
2022.06.05 おゆう
ネタバレ含む
ねむりまき
2022.06.05 ねむりまき

いつもありがとうございます☆
アルフリードの心情に入って書いている作者的にもエミリアのやらかしによって精神的にだいぶヤラれたので、もう無茶なことは辞めて頂きたいと思います😅(笑)

解除
おゆう
2022.04.24 おゆう
ネタバレ含む
ねむりまき
2022.04.24 ねむりまき

彼的には、さっさとアイツ奪還してフローリアの手土産にするぞ!って心境みたいです(笑)

解除

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。