皇女様の女騎士に志願したところ彼女を想って死ぬはずだった公爵子息に溺愛されました

ねむりまき

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ほのぼの続編

懐かしのワークショップへ

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 今現在、季節は秋真っ盛りなのだが、この時期は私にとって恒例となっているある行事を行う季節でもあった。

 アルフリードと完全仲直りしたクロウディア様のお庭に咲いていたオレンジ色の花……

 あたり一面に咲いていたリューセリンヌ国に自生しているアエモギの花。
 それを摘んできて香水を作るっていう、あの恒例行事だった。

 3年前、初めて参加したことにもなった王子様の初ワークショップにて、もう生産されていないっていうこの香水作りに成功した私だったが、それ以来、この人気のワークショップは満員御礼のために申し込みができずにいた。

 しかし、今年はなんと運良くそれに申し込むことができたので、いくつものタルの中にいっぱいに咲いてくれたこのお花たちを摘み取っては、ポンポンと入れまくるっていう作業に没頭していた。

「まさか、こんなふうにして自分でこの香水を作ることができるだなんて……なんだか信じられないけれど、本当にわたくしも一緒に参加していいのかしら」

 一緒にお花を摘んでくださってるのは、この庭の持ち主でもあるクロウディア様だった。

「もちろんです! 前にエスニョーラ邸に咲いてるバラでクロウディア様も作ったのと同じ要領だから、何も難しいことなんて無いんですよ」

 今回、このワークショップにはクロウディア様と私のお母様も一緒に参加することになっていた。

 ちなみに……リュース邸から無事に脱出してきてからクロウディア様はこういった貴族婦人が集まるような場所に赴くことは初めてだった。

 亡くなったと思われていた公爵夫人が実は生きていた……そのお話は社交界の中では既に認知されているとは思うけど、実際にその姿を目の当たりにした人々はどんな反応を示してしまうのか……

 それは怖いような気もしたけれど、彼女もずっと公爵邸で隠されるみたいに過ごしているのは気が滅入ってしまいそうだし、ご本人的にも少しずつでも社交の場に出て、公爵様をお支えしたいとの想いを秘めていた。

 だから、今回のワークショップはそのリハビリも兼ねていたりする。

「エルラルゴから言われた式の日程だと、この花ももう咲き終わってしまっているな。式で使うのは難しいかな……」

 摘むのを手伝ってくれているアルフリードは、そのオレンジ色の花を一掴みしながらポツリとつぶやいた。

 私とアルフリード、そしてクロウディア様と公爵様の思い出のお花でもあるアエモギのお花。ぜひブーケや式でのお飾りに使えたら素敵だなって思うけど、時期的にもう彼の言う通り難しそうだ。

 少し残念な思いがしながらも、私とクロウディア様はタル10個分くらいになったその荷物と共に公爵邸を出て、エスニョーラ邸でお母様を拾ってくると、そのまま皇城内にある一軒家のアトリエみたいな所へと向かった。

 その中では既に何人かの帝国貴婦人たちが、ものすごいフローラルな香りを部屋中に漂わせながら、使用人さんたちに持参してきた花びらの入った箱とかタルを運んでもらっていた。

「あら、まあ。皇女様の女騎士様でもあり、先日、公爵子息様と入籍したっていうエスニョーラの隠されてたご令嬢じゃない! これに参加するのも久々ね?」

 なんとも気さくにこちらに向かって声を掛けてきたのは、久っびさのご登場であるイタリアのママンみたいな陽気で包容力のある感じの、前回のワークショップで顔見知りになったご婦人方だった。

 帝国貴婦人にも色々なタイプやグループがいらっしゃるけど、この方々とはよく他のワークショップでもご一緒させていただくことが多々あるのだ。

「そ、そうなんです。前回は火の起こし方とか色々教えていただいて、ありがとうございました! それで、皆さんにご紹介したい方がいて……」

 ご挨拶もそこそこに、彼女たちに私はクロウディア様をご紹介する流れに持って行った。

 私が体を横に向けて、お母様と一緒にいるシックなブラウスにスカート姿のクロウディア様が見えるようにすると、陽気な貴婦人さんたちからは一斉に息を呑むような音が聞こえた。

 やっぱり、驚かせてしまった、というか気まずい雰囲気が漂ってしまうんではないか……
 私も思わず息を呑んで様子を見ていると、さっきお話していたちょっとふくよかな体型をしたご婦人が前に進み出て、なんと……クロウディア様のことを抱きしめたのだ。

「公爵夫人様、お話は知っていますよ。8年間も別の邸宅に移されていた上、20年にもわたって、ご祖国が存続していてお父上が生きていらっしゃると洗脳をかけられていたのでしょう? なんて……なんてお可哀想なのかしら! こんな事をした元婚約者の従兄弟の騎士は罪悪感に駆られて、生き返ることができるけど大量に服用すると死んでしまう薬を飲もうとして大変なことになったり、その息子ときたら……」

 クロウディア様のことを抱きしめながら、そのご婦人はまるであの時、あの現場に居合わせたかのような、めちゃくちゃ詳しい内容を口に出しながら、クロウディア様のことを慰め始めた。

 周りからも他のご婦人たちがワラワラと集まってきて、皆して手を広げるとクロウディア様を中心にして抱き合い始めた……

 さすが、前々から全てを無償の愛で受け入れてくれるような包容力の高さはイタリアのママン以上のものを感じてはいたけど、この光景はなんだかすごいな。

「ぐすっ、ぐすっ……」

 横ではお母様が白いハンカチを取り出して、目元や鼻を抑えたりしている。

 社交界における情報収集力は、お友達のご令嬢と同類であることは間違いないけれど、私もついこの暖かな光景に胸を震わせてしまっていた。

 クロウディア様は突然こんな状況になってしまって目を丸くして固まっていたけど、やっぱりここに彼女を連れてきたのは正解だったみたいだ!

「うわー、なに何? どうしたの、この状況! 皆さん、香水作りはけっこう時間がかかるから、キリの良さそうな所でスタンバイお願いしまーす」

 そうしていると王子様が現れて、私たちは前回と同様に、もう材料も持参してて作るものも決まってるグループと、これから何作るか決めるグループとに分かれることになった。

「クロウディア様は私と一緒にアエモギの香水作りをやりますよね?」

 私は当然のごとく、そう彼女に声を掛けて、かまどを作るのに必要な石を集めて運ぶのに使う手押し車を押して外に出ようとした。

 材料を持ってきてるグループは、煮詰めた鍋の中に花びらを入れて、香水の元になるエキスを作らないといけないのだけど、王子様のワークショップではなぜか原始的に火を起こすカマドから作らなければならない。

 前回はこの作業を私1人でやって大変な思いをしたんだけど……今回はクロウディア様と一緒にやるから、大変さも半減するよね?

 そう思っていると、クロウディア様は王子様が持ってきたケースの中にいくつも並べられている小さな瓶に入った香水サンプルを見入って、いくつか手に取って匂いを嗅いだりしている。

「まだ何作るか決まってないグループの人は、この中から好きな香りを選んで作ることができますよ。こっちは精油とアルコールを使うから、室内で出来ますよ」

 王子様が親切そうにクロウディア様に教えてあげていた。

「わたくしは今回もこちらにするわ! クロウディア、すごく簡単にできて面白いし、時間が余っていれば何種類か作ることだって出来るのよ。せっかくの機会だし、こちらにしたらどうかしら?」

 え……テンション高めなお母様の勢いのまま、なんか私の思惑とかけ離れた方に流れを持って行かれてしまった。

 結局、クロウディア様はお母様と一緒に室内で優雅な感じで作業する方を選ばれて、私は1人汗だくになりながら、作ったカマドに石を撃って火を起こす所から始め、竹筒みたいので息を吹きかけて火を大きくし、でっかい鍋に水を入れて沸騰したところに大量の花びら達を放り込んで、3年ぶりの大仕事をなんとかこなした。

「エミリア、ごめんなさいね。ちょっと窓からあなたの様子を見たら、すごい事をしていたから飛んできたけど、もう終わってしまったのかしら? 前にマルヴェナとバラの香水を作った時は台所のカマを使ったから何も大変なことはなかったけれど……エルラルゴ様はどうやら本格志向なお方のようね」

 さ、さすがクロウディア様……ちょっといらっしゃるのは遅かったけど、私のことも心配して下さっていたんだね。完全に忘れ去られたのかと思って、内心寂しくはあったけど。

 でも、私も窓から中の様子を時々チラ見してたけど、クロウディア様も作業に没頭されて集中しているようだったから、楽しい時間を過ごせていたのなら何よりだよ。

 こうして、香水エキスが取れるまでの数時間、火が弱まらないように番をしつつ、無事に恒例のアエモギの香水作りは幕を閉じたのだった。

「アルフリードとのウェディングに、この花を使えないかだって? うーん……それだったら、ナディクスに生花いけばなを長持ちさせる栄養剤があるから、それをユラリスに送ってもらえば実現可能なんじゃないかな」

 参加メンバーでできた香水を見せ合いっこしたのち、私はダメもとでアルフリードも残念がってた件について、王子様に相談をしてみた。

 へー! そんなものがナディクスにはあるんだ。
 考えてみれば若返りの薬が1,000年前にはあったくらいなんだから、少しくらい植物を長持ちさせる薬があってもおかしくないのかも。

 前は1ヶ月に1回しか荷物のやり取りができなかったナディクス国だけど、3国同盟が安定したことで2週間に1回の頻度に変わっていた。

 王子様はすぐに依頼の手配をしてくれて、ちょうど3日後の荷物が運ばれてくる日程に、その栄養剤は届けられた。

 ウェディングのプロデュースのために何度もヘイゼル邸を訪れていた王子様は、観賞用に香水作りには摘んでいなかったアエモギのお花を、届けられた栄養剤が入ったお水に挿して保存してくれた。


 そして、やってきたウェディングの日。
 昨日咲いたばかりみたいな生き生きとしたオレンジ色の花で、ブーケとそして白いレースが付けられた花輪が作られた。

 そして純白の衣装に身を包んだ私は、ブーケを手に、頭には花輪をかぶせて、綺麗で明るい庭の中、新郎がやって来るのを待っていた。


*****
前回の香水ワークショップの話「41.初ワークショップ」
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