皇女様の女騎士に志願したところ彼女を想って死ぬはずだった公爵子息に溺愛されました

ねむりまき

文字の大きさ
上 下
154 / 169
第5部 伝説の女騎士

150.龍になった女騎士

しおりを挟む
 い、今のは一体なに……?

 一緒に行進していた周りにいる大群の騎士の人たちも立ち止まって、あたりをキョロキョロと見回し始めた。

 揺れていた地面は次第に収まっていったものの、突然声がした。

「あれを見ろ!」

 前の方にいる騎士さんの何人かが、右手の方を指差している。

 私もフローリアの上にまたがったまま、すぐさまそちらの方を振り向いた。

 なんだろう……
 高く突き出ているいくつもの岩場の間から、よく見ると、黒い鳥のように飛んでいる物体がこちらの方に向かってくる。

「大砲だ……大砲の弾だ!!」

 他の騎士さんが口々に叫び出して、弾だというものが近づいてくる方角に近い方にいる人たちが弓と矢をつがえて、一斉に放ち始めた。

 しかし、その弾はこちらの方に一直線に向かってくる訳ではなくて、上の方にどんどん上昇していっていて、皆が放った矢は弾に届くことなく地面へと落ちていってしまう。

「皇族方の馬車へ落下するよう弧を描いて、できる限り弾を上昇させるように放たれている! 槍を飛ばして弾の軌道を変えるのだ!!」

 私たちの近くにいた皇族騎士団長さんが、馬上で大きな声を張って指示を出すと、今度は騎士さんたちはかなり高い位置まで上昇して、ついに落っこちそうになってきている弾に向かって、次々に各々の持っている槍を投げつけ始めた。

 それらの多くはさっきの矢とは違って、ちゃんと弾の方めがけて飛んでいってくれている。

 しかし、その黒い弾に槍の鋭い先端が届いたと思って胸の中で“やった!”とガッツポーズをしても、

 キンッ!

 と鋭い金属音がして、次々に槍は弾にはじき飛ばされて落下していってしまっていた。

 そうしているうちに、黒い弾はどんどんこちらに近づいてきていて、次第に黒い大きな影が私や皇女様たちの馬車全体を覆つくした。

 さっき、仰いで見ていた太陽は真っ黒な弾に隠されてしまって、それくらいこちらに飛ばされてきた弾は恐ろしいほど巨大な代物だったのだ……

 何事も起こらないようにと祈っていたのに……
 こんなものに押し潰されて、私もアルフリードも皇女様にエルラルゴ王子様たちもあっけなく死んでしまうというの……?

 そんなこと、絶対にさせるもんか!!!

 何度もフローリアと一緒に練習してきたように、彼女の上に乗ったまま持ってた槍を片手で横に持ち上げて、一度後ろに引くと勢いよくその弾の中心目がけて投げ飛ばした!

 確かに槍は狙った通り、弾の中心に命中していったけど……

 それはポキッと真ん中辺から折れてしまって、もはや槍以外にも色々なものを投げつけている騎士さんの群れの中へと無惨に落っこちていった。

 そんな……

 そもそも放たれてしまった大砲の弾なんて、どうやって防げばいいんだろう?

 無力感に駆られて何も考えられなくなりそうになった時、突然、首の後ろの方で

 パチンッ!

 という音がして、全身を覆っていた少し重みのあるものがバラバラと体から剥がれ落ちていった。

「エミリア、今ここでアレを止められるのは君しかいない。極小サイズの騎士に、最強の武器を持っている君にしかね」

 私のすぐ横にはアルフリードがいて、背中の上についていたワンタッチ式の鎧を解いたのは、この状況から彼としか考えられなかった。

 周りでは、XLサイズ級の騎士さん達がついに飛び跳ねたりして、その身を挺して弾を止めようとしてるけど、手が届く前に落下して行ってしまっていた。

 だけど、私だったら……

 フローリアにかけてある足を乗せるためのあぶみの上で立ち上がると、腰にぶら下げてる剣の柄に手をかけながら、片方の足をアルフリードが差し出した黒い手袋がはめられてる手のひらに乗せた。

 私の目線は、どんどん近づいてくる巨大な黒い弾にしか向いていなかった。

「アルフリード!!!」

「エミリア、べ!!!」

 私の声に気持ちのいいくらいテンポ良く答えたアルフリードは、一気に私の足を上に押し上げた。

 そのまま私の体は龍が空を突き抜けるみたいに、上へ上へと上昇していって、さっきまでこちらに落下してきていたはずの黒い弾と同じ高さにまで達して、さらに高い位置へと昇っていった。

 その弾の大きさというのは下から見上げていたよりもかなりの大きさで、さっき恐怖に慄いていた通り、皇女様たちとエルラルゴ王子様達が乗っていた2つの馬車ごと軽く押し潰してしまえるくらいのものだった。

 こんな重いものを飛ばせる技術だなんて……多分、これが新型の兵器ってことみたいだけど、それももう失敗に終わるから!!

 私は空に浮遊しながら、腰の剣を鞘から引き抜いて両手で高く掲げると、その丸い弾の中央に向かって勢いよく振り下ろした。

 弾はあっという間に、左右に真っ2つに割れた。

 右と左に傾いて落っこちていってしまいそうになる2つの塊を、私はさらにスパスパと切り裂いた。

 いくら小さくなったといっても、恐らく鉄の塊でできている物だろうから、それがそのまま落っこちてしまえば下にいる皆が怪我してしまうし、打ちどころが悪ければそれまでだ。

 私は一心不乱にその弾のカケラたちが粉々の粉っごなになるまで容赦なく、空中で剣を振るい続けた。

 この間、私の相棒の仲間入りをしてくれた幻の剣は、その名に恥じないくらい、いくら切り裂いても切り心地に変わるところのない働きぶりを発揮してくれた。

 そして、もう黒い断片が何も見えなくなって、大地の引力に体がひっぱられるのを感じ始めた所で私はもはや無抵抗で、切っ先を上に向けた剣を持ったままストーンと落下し始めた。

 もうこれで……やりきったかな? これからどうやって着地しよう……
 そんなことも考えられないくらい、もはや燃え尽き症候群になってしまったみたいに、私の心は放心状態になってしまっていた。

 アルフリード、皇女様たち、みんなが無事ならそれでいいや。

 まるで夢の中に戻っていくみたいに目をつぶると、何かの上に体が沈むみたいな感覚がした。

 この体勢は、なんだか久しぶりのような気がする。

 そっと、目を開くと目の前には心配そうにしている顔があった。

 とても綺麗で、ずーっと、ずーっっっと見ていたくなるような大好きな人のものだった。

「エミリア、エミリア……本当によくやったよ」

 その人は瞳の端に光るものを滴らせながら、私の首元と肩の間に頭を埋めさせて、そのままギューッと力強く抱きしめた。

 その瞬間、周りからワーー!! という大歓声が響いて、大合唱のような声が聞こえてきた。

「伝説の……伝説の女騎士の再来だ!!」

 私とアルフリードを取り囲んでいる誰もがこちらを見て、拳にした手を掲げていたり、拍手を送ったりしている。

 私がお護りして先導していた馬車からは、皇女様やエルラルゴ王子様を始め、中の方々が窓を開けて頭を覗かせていた。

 皇女様は私と目が合うと、お綺麗な顔に満面の笑みを浮かべて、何度もうなずいて見せてくれていた。

 そんな興奮冷めやまない中、ガンブレッドにまたがったアルフリードの上でお姫様抱っこされているという、初めて彼にプロポーズされた時のシチュエーションでしばらくの間、皆様からの賞賛の嵐を一心に受けることとなったのだった。


 大砲が飛んできた方角へ調査へ向かった数部隊の騎士さんたちを残し、私たちはその後も引き続き進行を続けて無事に3国の国境へと到着した。

 そこには既に、キャルン国、ナディクス国の王族騎士たちや、貴族家の人々がひしめいていて、まさに大規模なイベント会場そのものの空気感だった。

「昔はここにポツンと塔が立っていただけなんだけど、またこうした催しがある時のためにってことで、観客席が設けられてるんだよ」

 馬車から皇女様達も降りられて、これから始まるセレモニーの準備に入られる中、アルフリードは、円柱型をした土色の高い塔の方を見ながら、そう説明してくれた。

 18年前にここで幼かったエルラルゴ王子様とジョナスン皇太子様、リリーナ姫は人質として交換される儀式に駆り出された。

 ずっと争いを続けていたという3国の平和の象徴であるこの場所は、再びその歴史の場として選ばれた。
 ちなみに、この塔が土色をしているのは、この3国が交わるこの地の土が練り込まれて作られているからなんだそうだ。

 塔を中心として、周りの大地には3分割するように線が引いてあった。
 その線は塔を囲むように設置されている広大な観客席の方にも伸びていて、それぞれの領土である帝国、ナディクス国、キャルン国の関係者達がそれぞれに着座していた。

 私とアルフリードも、皇女様の女騎士、皇太子様の側近として彼らのお側にいたものの、ついに発表が行われるセレモニーの準備が整うと、その席に隣り合わせに着席させていただいて、その瞬間を待つこととなった。
しおりを挟む
【Twitterで作品イメージの投稿始めました】
#皇女様の女騎士イメージ

↑クリックでイメージ投稿のみ表示されます
感想 15

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...