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第5部 伝説の女騎士
139.パッチワークの使い道
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ここは皇城にあるエルラルゴ王子様が昔っから使ってたっていう天井が高くて広~いお部屋。
その壁の1つには、大きくて細長い1枚の布が貼り付けられていた。
いや、1枚といっても、その大部分は白いものの、20センチ四方くらいの色んな模様のついた小さな布がパッチワークのごとく、縫い付けられているのだ。
「崖の上から落っこちた時、エミリアちゃんに教わってたパラグライダーのおかげで命拾いしたんだよね」
私が圧倒されながらシゲシゲとそれを眺めてると、王子様は腕組みしながらそんな説明を付け加えてくれたのだった。
茨の森を前にして空から降ってきた王子様と、彼のお祖父様。
山の頂上にそびえ立つナディクスのお城は目の前ではあったけど、自力で山を登るのが苦手なナディクスの王族方の猛烈なブーイングを受けて、私達は一旦、2時間をかけて皇家の別荘まで歩いて戻った。(なんでも平地をずっと歩いてる方がまだマシなんだそうだ)
そんな道中で彼らから聞かされたお話はこうだった。
前に王子様から熱烈な要望を受けて、私が捏造してお渡しした皇女様の女騎士に憧れた理由にしちゃってた小説。
あれには、皇女様を隣国の王子様のもとへ送った後、女騎士が祖国に戻ってくるのにパラグライダーを使って空を飛んで行った、っていう設定を加えていた。
そんな、こっちの世界にはないアイテムに興味をお持ちになった王子様は一生懸命、私にそれの仕組みをお尋ねになっていた事があった。
それを彼は黒騎士に襲われた時に装着していて、崖から落下せずに済んだっていうのだろうか??
彼と一緒にいた弟のユラリスさんは、王子様がその時にそんなもの身に付けてたなんて言ってなかったと思うけど……
「だってさぁ、空を飛びたい時なんていつ来るか分からないじゃない? だから、いつでも好きな時に使えるようにエミリアちゃんの説明から改良を加えて、ポータブルなパラグライダーを作ってしまったって訳なんだよ」
1時間くらい歩いた所で、やっぱり疲れてしまった王子様は、なぜか骨太で丈夫そうな体を持っている彼のお祖父様におんぶされながら、そんな風に私や皇女様の疑問に答えられていた。
王子様がいつも身に付けてるナディクスの白い民族衣装は、着物みたいなガウンみたいな風になっていて、けっこうゆとりのある作りになっている。
彼は風を受けて宙に浮くパラグライダーの大元である細長くて大きな布をコンパクトサイズに折り畳んで、民族衣装の下から背中に背負って、外出する時はいつでも持ち歩くようにしていらしい……
どっちかっていうとパラグライダーより、パラシュート?的な改良を加えたらしかった。
そして、崖から落っこちて王子様が白い雲を突き抜けていくのを目撃したユラリスさんがもうダメだと諦めてしまった後、茨の森に突っ込む前に背中から布を引っ張り出して宙にブワッと浮かび上がり、彼は急死に一生を得たというのだ……
そんな事ができるもんなのかなぁって思うけど、色んなワークショップ講師ができるくらい知識豊富で器用そうな彼なら、案外簡単なことなのかもしれない。
「って感じであのモンスターみたいな痛そうな森に落っこちなかったのは良かったんだけど、そこからがもう大変だったんだよ!!」
無事に別荘に到着した私達は、またまた超特急な展開なんだけど、到着した次の日だというのに夜が明けるとすぐに皇城にトンボ帰りしてきた。
まさか、まさかの王子様を連れ帰ってきた衝撃事実に、言うまでもなく皇城の中は大騒ぎになった。
弟のユラリスさんは涙をダラダラ瞳から流して王子様から離れようとしないし、リリーナ姫を幼い頃から溺愛していたというお祖父様の方は、姫から離れなくってしばらくは再会によるワンダフルな時間が過ぎて行った。
そんな大騒ぎもやっと落ち着いて、王子様のお部屋に今は皇女様とアルフリードもいてまったりムードな状態でいるんだけど、早速壁には王子様を危機から救ったパッチワークみたいなパラグライダーの布が飾られたのだ。
「実はこれ、追っかけられて崖から飛び降りた時に使うのが初めてだったんだよ。コントロールの仕方もよく分かんないし、風に乗っちゃうとどこまでも、どこまでも飛んでっちゃうから、ほんっと困っちゃってさぁ」
「降り方も分からずに帝国にもナディクスにも戻れなくなっていたとはな……それで、ここに縫い付けられている布キレの数だけ様々な国を放浪していたと?」
王子様の安否をずーっと案じていらっしゃった皇女様だけど、その戻って来れなかったっていう理由に流石にちょっと言葉を失っているような感じだった。
「1、2、3……30以上はあるじゃないか。どこまで行ってたのか知らないけど、逆によく戻ってこれたなぁ」
アルフリードもパラグライダーに縫い付けられてる布の数を数えながら、逆に感心してしまってる。
そう、これには色も模様も全然違ったような布の切れ端がいっぱい付いていて、言うなればインドとかアフリカっぽいのもあるし、タータンチェックみたいのとか、ストライプっぽいのとか、ともかく色んな国の伝統的な布の数々が一度に垣間見ることができてしまうのだ。
「さすがの私も舞い降りた国の高台から飛び立つ度に、また違った所に尻もちついて降り立つものだから、もう2度とバランティアの土地を踏む日はこないんじゃないかって思うようになってしまったよ。ただ、せっかく行った土地の事を忘れてしまうのも勿体ないなと思って、各地の模様の入った布を記念に貰ってくるようにしたのさ」
へー、なるほど!
確かにどれも特徴的だから、見ただけでそこに行った時のことを思い出せそうだもんね!
そうして、まるで博物館の展示物を見てるみたいな気分でそれを眺めてると……なにやら、見覚えがあるような、若干懐かしいような気分にさせられる、ある布キレを見つけた。
すごくツヤツヤした絹糸で織られていて、地は朱色に、金色の糸で鮮やかな模様が描かれている……
「お、王子様、これはどこの国の記念品なんですか……?」
「あ、ああ。それは東の方にある不思議な服を着た民族のいる島国のものだよ。とっても親切にしてくれてね、体に良さそうな美味しいものも沢山食べさせてくれたし、その布も気前よくくれたんだ。そうそう! 裏っ側に毛でできたペンで何か書いてたよ。私には読めなかったけど」
そうして王子様は、私が前に暮らしてた世界の国ではメチャ高額だろう反物のサンプルを、隣り合ってる布の縫い目から丁寧にほどいた。
そして、ペラッと裏に返すと彼には読めないけど、私には読めちゃう文字が現れた。
そこには……
『天空より降臨せし光り輝く神の御化身。ありがたや、ありがたや』
と明らかに墨っぽいもので書かれている。
確かに……王子様みたいなキラッキラに輝く存在が空から舞い降りてきたら、神の使いだ~って崇拝されちゃっても無理ないかも。
それに再会した時から思ってたんだけど、半年間も放浪していた割には、王子様は清潔そのもので、白い衣装も全く汚れすら付いていない。
もしかして、他の国々でもお風呂で清められたり、洗濯してもらったり、何の苦労もなく丁重な扱いを受けてやり過ごしてたのかな?
「それでさ、数日前のことなんだけど。たまたま降り立った場所で亡くなったはずのお祖父様に出くわしてさ。一緒にパラグライダーに乗ってもらったら、すっごく操作がお上手であっという間にバランティアに戻ってこれちゃったんだよ!」
「それであの時、僕たちの上に落っこちてきたんだな……」
アルフリードがまた感嘆してるんだけど、そっかぁ。
お祖父様に出くわさなければ、王子様はもしかしたら一生ここには戻ってこれなかったかもしれない。
アルフリードが皇太子様の側近のお仕事に戻り、プライベート庭園に移動した私と皇女様と王子様は、皇城のパティシエさんが作ったケーキとともにティータイムを始めた。
すると突然、王子様が悲鳴みたいな声をあげたのだ。
「あーー!! そういえば、アルフリードとエミリアちゃん、婚約解消しちゃったの!? 色んな国でエスニョーラ家の美人令嬢が婚約を取りやめたから求婚するって話が耳に入ってきてさ…… 私がいなかった間に何があったのさ!?」
お父様がヒュッゲの国の縁談状を抜き取ってたみたいに、私の所には色んな諸外国からも確かに縁談が舞い込んできていた。
まさかそれが、行方不明だった王子様の耳にも届いていたなんて……
私と皇女様は王子様と手紙のやり取りすら出来なくなってから何があったのか説明した。
「……はぁ? プロポーズされたのにソフィの女騎士をしたいがために邪魔者扱いして拒絶した? それでアルフリードがアル中になって自殺未遂……? エ、エミリアちゃん。さすがにそれは鬼畜すぎないかな?」
王子様は顔面蒼白になりながら心の動揺を紛らわすかのごとく、紅茶に砂糖を何杯も入れながらティースプーンでかき混ぜて、ぎこちない笑みを振り撒いた。
「さらにそれに焦って10分に1回のキス療法ねぇ……それでも許されることはなく、またエスニョーラ邸で隠されちゃってたんだ。私からしてみたら、お父様がイモの毒で倒れてる間、国をまとめる手伝いをほとんどしてくれてたユラリスがそんな状態にさせられたら、ジョナスンと同じことをしてただろうね」
そっかぁ……王子様でも皇太子様と同じことをしてしまうくらい、半年前の自分がアルフリードにしたことの愚かさを再認識せざるを得なかった。
あの時、私はただただアルフリードのためにと盲信的にひたすら行動してたけど、その想いが誰かに理解されることは無いんだろうな……
「昔みたいにアルフリードが陰のある感じになっちゃってたからオカシイなぁとは思ってたけど、そんな事があったなんて……そこまでしてソフィの女騎士に執念を燃やしてたとは、やっぱりエミリアちゃんは只者とは思えないね」
そんなふうに王子様が自分を納得させようとしていると、皇女様が私の耳に顔を寄せてきた。
「例のエミリアが予知していた小説だがな、あれはエルには見せないでおこう。もう封印したものだから、これ以上、知る者を増やしては返って厄介だ」
確かに……あれだけ皇女様や皆からご批判を受けた酷い原作小説だ。鬼畜とまで言われてる所に、さらに傷に塩を塗りこむような真似はするべきじゃないよ。
こうして王子様が無事に帰還し、三国同盟の条件である、婚姻予定の王族6人が以前の通り勢ぞろいした訳だが。
これで、反発する人もいなくなって、不穏な空気も払拭できる?
そして、皇女様と王子様の婚約が復活したことで、私とアルフリードは……
胸が高鳴る未来が近づいてきている。
そんな予感がするのだった。
※
王子様がパラグライダーについて聞いてた話「42.舞踏会へ」
その壁の1つには、大きくて細長い1枚の布が貼り付けられていた。
いや、1枚といっても、その大部分は白いものの、20センチ四方くらいの色んな模様のついた小さな布がパッチワークのごとく、縫い付けられているのだ。
「崖の上から落っこちた時、エミリアちゃんに教わってたパラグライダーのおかげで命拾いしたんだよね」
私が圧倒されながらシゲシゲとそれを眺めてると、王子様は腕組みしながらそんな説明を付け加えてくれたのだった。
茨の森を前にして空から降ってきた王子様と、彼のお祖父様。
山の頂上にそびえ立つナディクスのお城は目の前ではあったけど、自力で山を登るのが苦手なナディクスの王族方の猛烈なブーイングを受けて、私達は一旦、2時間をかけて皇家の別荘まで歩いて戻った。(なんでも平地をずっと歩いてる方がまだマシなんだそうだ)
そんな道中で彼らから聞かされたお話はこうだった。
前に王子様から熱烈な要望を受けて、私が捏造してお渡しした皇女様の女騎士に憧れた理由にしちゃってた小説。
あれには、皇女様を隣国の王子様のもとへ送った後、女騎士が祖国に戻ってくるのにパラグライダーを使って空を飛んで行った、っていう設定を加えていた。
そんな、こっちの世界にはないアイテムに興味をお持ちになった王子様は一生懸命、私にそれの仕組みをお尋ねになっていた事があった。
それを彼は黒騎士に襲われた時に装着していて、崖から落下せずに済んだっていうのだろうか??
彼と一緒にいた弟のユラリスさんは、王子様がその時にそんなもの身に付けてたなんて言ってなかったと思うけど……
「だってさぁ、空を飛びたい時なんていつ来るか分からないじゃない? だから、いつでも好きな時に使えるようにエミリアちゃんの説明から改良を加えて、ポータブルなパラグライダーを作ってしまったって訳なんだよ」
1時間くらい歩いた所で、やっぱり疲れてしまった王子様は、なぜか骨太で丈夫そうな体を持っている彼のお祖父様におんぶされながら、そんな風に私や皇女様の疑問に答えられていた。
王子様がいつも身に付けてるナディクスの白い民族衣装は、着物みたいなガウンみたいな風になっていて、けっこうゆとりのある作りになっている。
彼は風を受けて宙に浮くパラグライダーの大元である細長くて大きな布をコンパクトサイズに折り畳んで、民族衣装の下から背中に背負って、外出する時はいつでも持ち歩くようにしていらしい……
どっちかっていうとパラグライダーより、パラシュート?的な改良を加えたらしかった。
そして、崖から落っこちて王子様が白い雲を突き抜けていくのを目撃したユラリスさんがもうダメだと諦めてしまった後、茨の森に突っ込む前に背中から布を引っ張り出して宙にブワッと浮かび上がり、彼は急死に一生を得たというのだ……
そんな事ができるもんなのかなぁって思うけど、色んなワークショップ講師ができるくらい知識豊富で器用そうな彼なら、案外簡単なことなのかもしれない。
「って感じであのモンスターみたいな痛そうな森に落っこちなかったのは良かったんだけど、そこからがもう大変だったんだよ!!」
無事に別荘に到着した私達は、またまた超特急な展開なんだけど、到着した次の日だというのに夜が明けるとすぐに皇城にトンボ帰りしてきた。
まさか、まさかの王子様を連れ帰ってきた衝撃事実に、言うまでもなく皇城の中は大騒ぎになった。
弟のユラリスさんは涙をダラダラ瞳から流して王子様から離れようとしないし、リリーナ姫を幼い頃から溺愛していたというお祖父様の方は、姫から離れなくってしばらくは再会によるワンダフルな時間が過ぎて行った。
そんな大騒ぎもやっと落ち着いて、王子様のお部屋に今は皇女様とアルフリードもいてまったりムードな状態でいるんだけど、早速壁には王子様を危機から救ったパッチワークみたいなパラグライダーの布が飾られたのだ。
「実はこれ、追っかけられて崖から飛び降りた時に使うのが初めてだったんだよ。コントロールの仕方もよく分かんないし、風に乗っちゃうとどこまでも、どこまでも飛んでっちゃうから、ほんっと困っちゃってさぁ」
「降り方も分からずに帝国にもナディクスにも戻れなくなっていたとはな……それで、ここに縫い付けられている布キレの数だけ様々な国を放浪していたと?」
王子様の安否をずーっと案じていらっしゃった皇女様だけど、その戻って来れなかったっていう理由に流石にちょっと言葉を失っているような感じだった。
「1、2、3……30以上はあるじゃないか。どこまで行ってたのか知らないけど、逆によく戻ってこれたなぁ」
アルフリードもパラグライダーに縫い付けられてる布の数を数えながら、逆に感心してしまってる。
そう、これには色も模様も全然違ったような布の切れ端がいっぱい付いていて、言うなればインドとかアフリカっぽいのもあるし、タータンチェックみたいのとか、ストライプっぽいのとか、ともかく色んな国の伝統的な布の数々が一度に垣間見ることができてしまうのだ。
「さすがの私も舞い降りた国の高台から飛び立つ度に、また違った所に尻もちついて降り立つものだから、もう2度とバランティアの土地を踏む日はこないんじゃないかって思うようになってしまったよ。ただ、せっかく行った土地の事を忘れてしまうのも勿体ないなと思って、各地の模様の入った布を記念に貰ってくるようにしたのさ」
へー、なるほど!
確かにどれも特徴的だから、見ただけでそこに行った時のことを思い出せそうだもんね!
そうして、まるで博物館の展示物を見てるみたいな気分でそれを眺めてると……なにやら、見覚えがあるような、若干懐かしいような気分にさせられる、ある布キレを見つけた。
すごくツヤツヤした絹糸で織られていて、地は朱色に、金色の糸で鮮やかな模様が描かれている……
「お、王子様、これはどこの国の記念品なんですか……?」
「あ、ああ。それは東の方にある不思議な服を着た民族のいる島国のものだよ。とっても親切にしてくれてね、体に良さそうな美味しいものも沢山食べさせてくれたし、その布も気前よくくれたんだ。そうそう! 裏っ側に毛でできたペンで何か書いてたよ。私には読めなかったけど」
そうして王子様は、私が前に暮らしてた世界の国ではメチャ高額だろう反物のサンプルを、隣り合ってる布の縫い目から丁寧にほどいた。
そして、ペラッと裏に返すと彼には読めないけど、私には読めちゃう文字が現れた。
そこには……
『天空より降臨せし光り輝く神の御化身。ありがたや、ありがたや』
と明らかに墨っぽいもので書かれている。
確かに……王子様みたいなキラッキラに輝く存在が空から舞い降りてきたら、神の使いだ~って崇拝されちゃっても無理ないかも。
それに再会した時から思ってたんだけど、半年間も放浪していた割には、王子様は清潔そのもので、白い衣装も全く汚れすら付いていない。
もしかして、他の国々でもお風呂で清められたり、洗濯してもらったり、何の苦労もなく丁重な扱いを受けてやり過ごしてたのかな?
「それでさ、数日前のことなんだけど。たまたま降り立った場所で亡くなったはずのお祖父様に出くわしてさ。一緒にパラグライダーに乗ってもらったら、すっごく操作がお上手であっという間にバランティアに戻ってこれちゃったんだよ!」
「それであの時、僕たちの上に落っこちてきたんだな……」
アルフリードがまた感嘆してるんだけど、そっかぁ。
お祖父様に出くわさなければ、王子様はもしかしたら一生ここには戻ってこれなかったかもしれない。
アルフリードが皇太子様の側近のお仕事に戻り、プライベート庭園に移動した私と皇女様と王子様は、皇城のパティシエさんが作ったケーキとともにティータイムを始めた。
すると突然、王子様が悲鳴みたいな声をあげたのだ。
「あーー!! そういえば、アルフリードとエミリアちゃん、婚約解消しちゃったの!? 色んな国でエスニョーラ家の美人令嬢が婚約を取りやめたから求婚するって話が耳に入ってきてさ…… 私がいなかった間に何があったのさ!?」
お父様がヒュッゲの国の縁談状を抜き取ってたみたいに、私の所には色んな諸外国からも確かに縁談が舞い込んできていた。
まさかそれが、行方不明だった王子様の耳にも届いていたなんて……
私と皇女様は王子様と手紙のやり取りすら出来なくなってから何があったのか説明した。
「……はぁ? プロポーズされたのにソフィの女騎士をしたいがために邪魔者扱いして拒絶した? それでアルフリードがアル中になって自殺未遂……? エ、エミリアちゃん。さすがにそれは鬼畜すぎないかな?」
王子様は顔面蒼白になりながら心の動揺を紛らわすかのごとく、紅茶に砂糖を何杯も入れながらティースプーンでかき混ぜて、ぎこちない笑みを振り撒いた。
「さらにそれに焦って10分に1回のキス療法ねぇ……それでも許されることはなく、またエスニョーラ邸で隠されちゃってたんだ。私からしてみたら、お父様がイモの毒で倒れてる間、国をまとめる手伝いをほとんどしてくれてたユラリスがそんな状態にさせられたら、ジョナスンと同じことをしてただろうね」
そっかぁ……王子様でも皇太子様と同じことをしてしまうくらい、半年前の自分がアルフリードにしたことの愚かさを再認識せざるを得なかった。
あの時、私はただただアルフリードのためにと盲信的にひたすら行動してたけど、その想いが誰かに理解されることは無いんだろうな……
「昔みたいにアルフリードが陰のある感じになっちゃってたからオカシイなぁとは思ってたけど、そんな事があったなんて……そこまでしてソフィの女騎士に執念を燃やしてたとは、やっぱりエミリアちゃんは只者とは思えないね」
そんなふうに王子様が自分を納得させようとしていると、皇女様が私の耳に顔を寄せてきた。
「例のエミリアが予知していた小説だがな、あれはエルには見せないでおこう。もう封印したものだから、これ以上、知る者を増やしては返って厄介だ」
確かに……あれだけ皇女様や皆からご批判を受けた酷い原作小説だ。鬼畜とまで言われてる所に、さらに傷に塩を塗りこむような真似はするべきじゃないよ。
こうして王子様が無事に帰還し、三国同盟の条件である、婚姻予定の王族6人が以前の通り勢ぞろいした訳だが。
これで、反発する人もいなくなって、不穏な空気も払拭できる?
そして、皇女様と王子様の婚約が復活したことで、私とアルフリードは……
胸が高鳴る未来が近づいてきている。
そんな予感がするのだった。
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王子様がパラグライダーについて聞いてた話「42.舞踏会へ」
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