皇女様の女騎士に志願したところ彼女を想って死ぬはずだった公爵子息に溺愛されました

ねむりまき

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第4部 彼の笑顔を取り戻すため

131.E家の利用方法

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「じゃ、じゃあ……私がこの邸宅から出ようとすると意識を失って、またここに戻ってきてしまってたのも、その催眠のせいってことですか?」

 自分の知らない所で、自分の行動を操作させられてたなんて……考えるだけで、ゾゾっとするよ。

「あれは見張りいらずの逃走防止策で、この邸宅を中心に半径500m先まであなたが離れたら自ら戻ってくるよう、操作させてもらいました。その間の記憶が消えてくれるのはいいけど、屋敷に戻った途端、玄関で意識を失ってしまうからね。そこが難点さ」

 ローランディスさんはそうツラツラと説明した。

 一体いつその術を掛けられてたのか全く分からなかったけど、この人マジでやばいよ。

「ク、クロウディア様を連れ去って、公爵様やルランシア様、それに……アルフリードを深く傷つけただけでは飽き足らず、私まで何の目的があってそんな事するんですか!?」

 これまで聞いてきた信じられない真相に、私はついに想いが溢れ出してきて、叫ぶようにそう問いただしていた。

 この人は、私のことを切り札って言ったり、まだ出番じゃないとか言っていた。まだ……絶対に隠してる事があるはず!

「そんなに知りたいなら、ここで明かしてあげますよ。あなたの父上が亡命を画策してるってことを」

 ここで突然、思ってもみなかった人物の名前が出てきて一瞬、呆然としてしまった。

 お父様が……亡命!!?
 なんじゃそりゃ! そんなの聞いたことないよ……
 しかもそれが、ローランディスさんに何の関係があるっていうの。

「情報筋によれば北方にあるヒュッゲの国に家族もろとも向かうつもりみたいですよ。ただ、このまま見過ごしてしまうには惜しい人材なので、この機会に手を組みたいと思っているんです。彼らはタダでは話を聞かないだろうから、1番大事にしているものを取引材料に使うことにしました」

 ヒュッゲといえば……以前、アルフリードもヘイゼル邸改造計画のためにお父様から直々に教えてもらってた、心地いい空間づくりの事だ。
 その考えが生まれた国に亡命しようだなんて……
 それが本当ならお父様の本心が気になる所だけど、まずはこっちを明らかにしなくちゃ。

「私を誘拐してまで手を組みたいって……どういう事ですか? あなたは、一体何を企んでいるんですか!?」

「ビジネスだよ」

 そう言って、ローランディスさんはルランシア様の持っている本を指差した。

「そこに色々載ってる秘術の数々。それらを闇に葬ってしまうなんて、もったいないそう思わないか? 僕はこの知識を活用して貴族家の仕事とは別に、副業をさせてもらってる。いわゆるコンサルティングってやつだ」

 え、急に話がぶっ飛んだような……コンサルティングなんて職業、こっちの世界で初めて聞くけど、前の世界だと確か困ってる組織とかの問題解決をお手伝いするような仕事だよね。

 それをあの本に載ってる知識を活用してやってるっていうんなら……けっこうヤバい事の手助けもしちゃってるんじゃないかな!?

「ふん、国をまたいで独自に顧客を集めて商売している輩がいると聞いたことはあったが、ローランディス。お前もその一味だったのか」

 ここで口を開いたのは公爵様だった。

「一味ですか……まあ、いいでしょう。僕らはそれぞれ得意分野がありますから、案件ごとに手を組む相手を変えています。それで、エスニョーラ家の分析力に調査力、その他どれを取っても優秀すぎるので、帝国を出た後はぜひコンサル業に引き入れて、僕とも提携させてもらいたいと思ってるんです」

 柔らかい口調で言ってるけど、私を人質に取ってる時点でお父様やお兄様を脅そうとしてたって事だよね?
 やっぱりこの人、相当ひねくれちゃってる。

「あんたねぇ……それ本当なの? どうやったら、そんな世界に足を突っ込めるのよ」

 ルランシア様が呆れたように言った。

「うちの家門が帝国から与えられた本館の方。あそこに以前暮らしていたのは、現在リューセリンヌの城を占拠しているザルン家のものだったのは叔母上もご存知ですよね? 数年前、彼らから話を持ち掛けられたんですよ。城の地下室に開かない部屋がある。開け方を知らないかって」

 その話に、そこにいる誰もがピンときたような顔をした。

「そう、父上がこの本を拾ったあの部屋ですよ。これには開かずの鍵の作り方も載ってたからそれが関係してるんじゃないかと思って、やってみたんです。僕も地下の隠し部屋に何があるのか気になったし。まあ、あったのは大量の黒い鎧くらいでしたがね」

 国王様が封印したはずのあの部屋は、再び開かれてしまってたんだ! じゃあ、黒い鎧を着た騎士についてもローランディスさんが関係している……?

「その鎧っていうのは帝国の技術とは違った加工のされ方がしていて、より丈夫で強固な品質で作られていました。そしてその時知ったんですが、ザルン家はすでに保有している騎士団を帝国から任されている国境警備のためだけでなく、依頼があれば他国へも貸し出す傭兵業を営んでいたのです。その内容は諜報行為から暗殺、誘拐、多岐に渡るんだそうです」

 そ、そんな事を依頼できちゃう裏社会が国をまたいで存在してたなんて……

「そんな経緯から、ザルン家に入った依頼がスムーズに遂行されるよう、それにマッチする秘伝書の術を傭兵たちに提供したり、作戦をプロデュースする……そこから僕のコンサル業は始まりました。そして、キャルン国で騎士が大量に解雇された時期に、ザルン家は彼らを秘密裏に雇い、大量にある黒い鎧を着させて傭兵団を作り上げたのです」

 ようやく、アルフリードと見たお城に入っていく黒騎士たちの謎が解けた瞬間だった。

「それからは色んな所から直接僕のところにも依頼が入るようになって、もう数えきれないくらいの案件をこなしてきました」

 ということは……私が知る限り、この人が関係してそうな事件は2つある。

「そ、それじゃあ聞きますけど。ナディクス国の王子様たちが帝国に来る途中で黒い騎士に襲われた事件。あれもその傭兵が関わっているんですか?」

「ああ、あれはナディクスの近隣にある国の王妃から、世にも美しくて神秘的な王子たちをコレクションにしたいって事で誘拐を依頼してきた件じゃないかな」

 !! そ、そんな恐ろしい事を企む変態王妃様がいるなんて……
 この人のせいでユラリスさんは血みどろに、そしてエルラルゴ王子様は崖から落ちてしまったんだよ? 許せないよ!!

「催眠関係の術は使える者が増えると厄介だから、傭兵達には教えてない。だから彼らは普通に道中で襲ったみたいだけど、王子を追って崖から落ちた騎士たちは茨のツタがクッションになったのと、鎧が身を守ったので一命を取り止めて戻ってきた。しかし任務は失敗したから、依頼してきた王妃は2度とザルン家には頼まないって憤ってたよ」

 2度とそんな事、画策しないで結構ですから!
 聞けば聞くほど世の中の闇が噴出してきそうだけど……ここで引く訳にはいかない。

「そ、それじゃあ……4年前、ナディクス国の国王様が毒を盛られて亡くなられた件は? あれは公にはそういう事になってるけど、実際は仮死状態だったんです。クロウディア様達に使った秘薬が使われたんじゃないですか!?」

「ああ、あれは悪名が高くなり始めたリリーナ姫の所業を止めてキャルン国に連れ戻すため、キャルンの王族よりも金を持っているイモ協会会長に取り巻きが頼み込んで入ってきた依頼だった」

 え……イモ協会の会長さんといったら、エリーナ姫のためにイモを大量に帝国に贈呈してきた人だ。
 新聞でその姿を見たことはあったけど、すごく人が良さそうな方だったな……
 しかし、実質的にはキャルン国に君臨する実力者みたいだ。

「まさか、ナディクスの国王が摂取するとは思わなかったが、あれは秘薬を渡したキャルンの刺客が失敗したのがいけなかった。次の国王が死にかけた時は仮死状態では我慢できずに姫を完全に消しにかかっていたが、同じような過ちをしてバカな連中だよ」

 2回目に使われた毒はイモの芽から抽出したキャルン国で作られたものだった。もし……ローランディスさんにまた依頼が行ってたら秘伝書には致死性の毒の作り方も載ってそうだから完全に命を落としてたかも。不幸中の幸いだろうか……


 ローランディスさんによる暴露の応酬に、情報量が多すぎて脳内処理が追いつかないよ。

 まず、クロウディア様をどうやってヘイゼル邸から連れ出したかに始まり、ルランシア様を仮死状態にしてた経緯、それから私を拉致ったのは亡命を計画してるお父様を彼の仕事仲間にしたかったから。そして、今までずっと謎になってた、黒騎士とナディクス国の件について。それから、それから……

「ローランディス……ずいぶん饒舌じょうぜつじゃないか」

 ここで声を発したのは、ずーっと黙ったままでいたアルフリードだった。

 彼はさっきから鞘に入った剣を持って静止している状態で、うつむき加減で目線だけを余裕たっぷりな感じでいるローランディスさんに向けている。

「そんな話、外に出したら君に取ったらまずいんじゃないか?」

 確かに……これまで謎になってた事が色々と判明したのはスッキリはしたけど、誘拐とか殺人未遂っぽいこととかに手を染めてるローランディスさんの所業は、もう犯罪そのものだ。
 もしかしたら既に、人を死に追いやるようなことなんかもやっててオカシクない。

 それを私たちに惜しげもなく語ってるってことは……

「ま、まさか、ここにいる全員、催眠でこっから出れなくさせてるとか……」

 つい、頭に浮かんだ事をそのまま口にしてしまっていた。
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