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第4部 彼の笑顔を取り戻すため
129.一発勝負
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男性陣はそれぞれ型を作って、鞘から抜き取った剣を構え始めた。
公爵様とアルフリードは柄を両手持ちして、それを体の前で斜めに構えている。
この型は……!
私はこれまで騎士の訓練を皇女様に仕込んでもらっていた訳だが、それを実践で使っている所を見たことは一度も無かった。
それでも、帝国式の剣術については一通りの型や技を教えてもらっていたので、彼らのそのポーズに記憶がフツフツと蘇ってきたのだ。
『この型はだな、動き出したら最後、相手の間合いまで一気に踏み込んで、一瞬の隙も与えずにバッサリと切り倒す、いわば究極の殺人技だ。手練れであれば、百発百中、何人たりとも逃れることはできないだろう』
そう言って、訓練相手である地面に突き刺さっている藁人形を上下半分に真っ二つに切り裂いた皇女様の姿を私は思い浮かべていた。
公爵様とアルフリードはどんな剣でも一流に扱えるソードマスターな訳だから、皇女様の言うところの“手練れ”、つまり相対しているグレイリーさんとローランディスさんは、その技が発動してしまえば一貫の終わり……
も、もちろん私はヘイゼル家の味方ではあるし、アルフリードがいると騙してここまで連れ出された上、クロウディア様とルランシア様まで誘拐してるローランディスさん達を庇う義理なんてあったもんじゃないけど……
彼らがこのまま人殺しになってしまうのを見過ごしてしまっていいのか、っていう迷いも生じていた。
すると、私と手を取っていたクロウディア様が何かを言い始めた。
「あの人達……初めて見るような気がしない……それにあの若者、似ている……?」
クロウディア様は必死で記憶を思い起こそうとしながら、眉間のシワをさらに濃くして公爵様とアルフリードの方を見ているみたいだった。
もしかして……ヘイゼル邸にいた時のことを思い出しそうになっているのかな!?
この状況にどう動けばいいのか考えあぐねていると、クロウディア様はチラリとグレイリーさん達の方にも目線を向けた。
「リリアナ、わたくしは騎士のことには詳しくないけれど、グレイリー達はどのような技を仕掛けるつもりでいるか分かりますか?」
開けっぱなしになっているこの部屋の扉の近くで、様子を見ているリリアナさんに向かってクロウディア様は声だけを投げかけた。
対するグレイリーさん達はというと、少し体を斜め後ろに向けた状態で剣を片手で横向きに持って、頭上で高く掲げている。
そして空いている方の手は、その剣の先の方に軽く添えられているような格好だ。
一応、皇女様からはキャルン国やナディクス国といった近隣諸国がどんな剣術方式を取っているのか軽く教えてもらったことはあったのだが、彼らの型はそのどれとも違っていた。
滅んでしまったリューセリンヌの剣術は、私にとっても未知のものだった。
「はい、この構えは動き出したら最後、相手の間合いまで一気に踏み込んで、一瞬の隙も与えずにバッサリと切り倒す、いわば究極の殺人術です。グレイリー様達ほどの手練れであれば、百発百中、何人たりとも逃れることはできません」
!!
私はそんな説明をするリリアナさんに、見開いた瞳を向けずにはいられなかった。
つまり……
どちらの陣営も、一発で勝負を決めにかかっている。
どちらかが力で競り勝って、どちらかが負けるか、ともすれば相打ちということもあり得るのだろうか……?
公爵様もアルフリードも神経を研ぎ澄ましているような表情で、相手を見据えている。
そして、ローランディスさんもアルフリードと似ている顔を同じように鋭くさせていて、グレイリーさんは、先ほどのオドオドとしていた様子も嘘のようにちょっと近づき難いオーラを放ってしまっている。
そして……
張り詰めていたはずの空気の流れが一瞬、変わったような感覚がした。
その途端、部屋の両端にいる静止していた2組の男性たちが目にも止まらない速さで動き出したのだ。
誰かが死ぬ……!
声も出すことができなければ、動くこともできなくなってしまった私の頭の中に、その言葉が点滅するみたいに表れて、この部屋があっという間に惨状と化すとしか思えなくなった時……
「やめーー!!! やめ、やめ、やめーーーー!!!!」
鼓膜をぶち破ってしまいそうなくらいの声量が部屋中に響き渡った。
よく分からずにいると、いつの間にか2組の男性達は、まるで一時停止したみたいに剣を打ち合おうとしている姿で、見事に体の動きを止めてしまっていた。
そして、その中央には……
「お前たちーー!!! 一体何してんのよ!!? そんな物騒なもの、さっさと仕舞いなさい!」
そこには、ブラウン系のブレザーにロングスカートを身にまとった金髪のカーリーヘアーの女性。
ル、ル、ルランシア様だ!!
さっきまで姿なんか見えなかったのに、どうやって斬り合いを始めた彼らのあの速さを押し退けて、その中央に入り込んだのか謎だけど、よ、良かった!
どうやら仮死状態から抜け出した上、わたし史上最悪なこの修羅場をなんとか収めてくれそうな人物が最後の最後に登場してくれた、と理解したいところだ。
男性たちは渋々といった感じで何も言わずに剣を下ろして、ピリピリとした空気感で睨み合っていた視線をお互いに外していた。
しかし、ローランディスさんはルランシア様のことを恐ろしい目つきで睨んだ後、今度はこちら側に視線を移したのだ。
今度は何を始めるつもりなのか、ドキドキして私は握っているクロウディア様の手につい力を入れてしまっていた。
「おい、今日の分を飲まさなかったのか? とんだヘマをしてくれたな」
そう威圧感のある低い声をローランディスさんが出すと、
「も、申し訳ございません……クロウディア様に落ち着いていただくのに精一杯で、ルランシア様のお世話がおろそかになっておりました……」
そう答えたのはリリアナさんだった。そして彼女は顔を下に俯けながら床の上にへたり込んでしまった。
飲まさなかったとは……2階に眠っていたルランシア様を発見した時、クロウディア様はパニック状態になってしまっていた。
それをリリアナさんはなだめてたって事みたいだけど、もしルランシア様が仮死状態でベッドの上に横になってたって事なら……もしかして彼女はこの半年間、毎日そうさせる秘薬を飲まされてたって事だろうか?
それにしても……アルフリードが死んでもいいだの、公爵様に不遜な態度は取るは、自分のお父様をコントロールしようとしたり、挙句の果てには自分のお母様に対して、こんな見下すような発言をするなんて!
その他にも、私にもクロウディア様にも卑劣なマネをして。一体、どうしてこんな事ばっかりしてるんだよ!? も、申し訳ないけど、彼が12歳の時にヘイゼル邸で行なった犯行を見過ごした公爵様のご判断は、完全に間違いだったんじゃないかな。
「おい、こら! リリアナに向かってなんてクチ聞くの……」
おおっ 私が思ってた怒りを糸も簡単にルランシア様は代弁して下さった。さすがすぎます。
そう思った時、リリアナさんの方を向こうとしたルランシア様は急に言葉を発するのをやめて、動きが固まってしまった。
「ルランシア……お前、お嫁に行ったのではなかったのですか?」
「お、お、お姉さま……?」
固まってしまったルランシア様に話しかけたのは、私と手を繋いでいるクロウディア様。
ルランシア様はもちろん言うまでもなく……信じられないとばかりに目を見開いていたけれど、その瞳にみるみると光るものを溜めていって、一目散にこちらに駆け寄ってきた。
「お姉さまーー!!!」
バッ! と勢いよくクロウディア様に彼女は抱きついて、わんわんと泣きじゃくっていた。
「はぁ……ルランシア、お前が嫁ぐなんて信じられなかったけれど、出戻ってきたという事ですね。つらかったでしょう? 心行くまで泣きなさい」
クロウディア様はご自身が死んでしまってたと思われてるなんて、夢にも思っていないのでルランシア様が嫁いで戻ってきたのだと、泣いてる理由を解釈しているみたいだ。
一体……ローランディスさんたちはルランシア様のことをそんな風に説明していたなんて、めちゃくちゃにも程があるよ。
「焼酎の販路開拓にいそしむのにこんな所で寝てられないから、すぐに着替えて出口を探し回ってたら……グレイリー、こんなものを見つけたのよ。まさかお姉さまにも、これを使ったんじゃないでしょうね!!?」
ルランシア様はひとしきり泣いてクロウディア様から離れると、涙だらけのお顔を拭きもせずに、グレイリーさんの方に近付くと、懐からちょっと分厚めにできた本を取り出した。
その本を目の前に突きつけられたグレイリーさんは、公爵様達と向き合ってた時みたいな近寄り難い表情のまま、そこから目線を外した。
その本の表紙には、私がいる所からもよく見える大きな文字で、
“禁書”
こう書いてあった。
「あの日、リリアナとあんたと3人で入った部屋に置いてあった本よね。あの、黒い鎧がたくさん積まれてたお城の地下室よ」
ルランシア様は、とても厳しい表情でグレイリーさんのことを見据えられた。
黒い鎧、地下室。
そのお話は私も以前、ルランシア様から教えてもらったことがあった。
何人もの黒い騎士が元リューセリンヌのお城に入っていくのを見た事があるってことを彼女にお聞きした時に、昔使われていた同じ色をした一般兵用の鎧がまだ祖国が滅びる前に、お城の地下室で見たことがあるって事だった。
そして、そのお部屋は彼女のお父様であるリューセリンヌの国王様が、長年の歴史を帝国に明け渡すわけにはいかない! ってことで、入り口を塞いでしまったとも言っていた。
もし、その部屋のことだとしたら……今、ルランシア様が持ってる“禁書”って本も、その長年の歴史が詰まってる部屋に置かれていたものじゃなかろうか……?
なんだか、名前的にもそんな気がするのだが。
「ルランシア……その通りだ、それは私たちが子ども時代に城を探索した時に興味本位で持ち出していたリューセリンヌの秘伝書……あまりにもその内容が危険すぎたがために封印された禁忌の書だ」
予想通り、グレイリーさんは諦めたように、そうお話された。
「これを手に入れてしまったこと……それが全ての誤りの始まりだった」
リューセリンヌの秘伝書とは一体……
ルランシア様の登場により戦闘を回避することはできたのだけれど、ここに集まったメンバーはこれから始まるグレイリーさんの語る真相に一点集中した。
※
地下室の話「109.もう1つの王国」
公爵様とアルフリードは柄を両手持ちして、それを体の前で斜めに構えている。
この型は……!
私はこれまで騎士の訓練を皇女様に仕込んでもらっていた訳だが、それを実践で使っている所を見たことは一度も無かった。
それでも、帝国式の剣術については一通りの型や技を教えてもらっていたので、彼らのそのポーズに記憶がフツフツと蘇ってきたのだ。
『この型はだな、動き出したら最後、相手の間合いまで一気に踏み込んで、一瞬の隙も与えずにバッサリと切り倒す、いわば究極の殺人技だ。手練れであれば、百発百中、何人たりとも逃れることはできないだろう』
そう言って、訓練相手である地面に突き刺さっている藁人形を上下半分に真っ二つに切り裂いた皇女様の姿を私は思い浮かべていた。
公爵様とアルフリードはどんな剣でも一流に扱えるソードマスターな訳だから、皇女様の言うところの“手練れ”、つまり相対しているグレイリーさんとローランディスさんは、その技が発動してしまえば一貫の終わり……
も、もちろん私はヘイゼル家の味方ではあるし、アルフリードがいると騙してここまで連れ出された上、クロウディア様とルランシア様まで誘拐してるローランディスさん達を庇う義理なんてあったもんじゃないけど……
彼らがこのまま人殺しになってしまうのを見過ごしてしまっていいのか、っていう迷いも生じていた。
すると、私と手を取っていたクロウディア様が何かを言い始めた。
「あの人達……初めて見るような気がしない……それにあの若者、似ている……?」
クロウディア様は必死で記憶を思い起こそうとしながら、眉間のシワをさらに濃くして公爵様とアルフリードの方を見ているみたいだった。
もしかして……ヘイゼル邸にいた時のことを思い出しそうになっているのかな!?
この状況にどう動けばいいのか考えあぐねていると、クロウディア様はチラリとグレイリーさん達の方にも目線を向けた。
「リリアナ、わたくしは騎士のことには詳しくないけれど、グレイリー達はどのような技を仕掛けるつもりでいるか分かりますか?」
開けっぱなしになっているこの部屋の扉の近くで、様子を見ているリリアナさんに向かってクロウディア様は声だけを投げかけた。
対するグレイリーさん達はというと、少し体を斜め後ろに向けた状態で剣を片手で横向きに持って、頭上で高く掲げている。
そして空いている方の手は、その剣の先の方に軽く添えられているような格好だ。
一応、皇女様からはキャルン国やナディクス国といった近隣諸国がどんな剣術方式を取っているのか軽く教えてもらったことはあったのだが、彼らの型はそのどれとも違っていた。
滅んでしまったリューセリンヌの剣術は、私にとっても未知のものだった。
「はい、この構えは動き出したら最後、相手の間合いまで一気に踏み込んで、一瞬の隙も与えずにバッサリと切り倒す、いわば究極の殺人術です。グレイリー様達ほどの手練れであれば、百発百中、何人たりとも逃れることはできません」
!!
私はそんな説明をするリリアナさんに、見開いた瞳を向けずにはいられなかった。
つまり……
どちらの陣営も、一発で勝負を決めにかかっている。
どちらかが力で競り勝って、どちらかが負けるか、ともすれば相打ちということもあり得るのだろうか……?
公爵様もアルフリードも神経を研ぎ澄ましているような表情で、相手を見据えている。
そして、ローランディスさんもアルフリードと似ている顔を同じように鋭くさせていて、グレイリーさんは、先ほどのオドオドとしていた様子も嘘のようにちょっと近づき難いオーラを放ってしまっている。
そして……
張り詰めていたはずの空気の流れが一瞬、変わったような感覚がした。
その途端、部屋の両端にいる静止していた2組の男性たちが目にも止まらない速さで動き出したのだ。
誰かが死ぬ……!
声も出すことができなければ、動くこともできなくなってしまった私の頭の中に、その言葉が点滅するみたいに表れて、この部屋があっという間に惨状と化すとしか思えなくなった時……
「やめーー!!! やめ、やめ、やめーーーー!!!!」
鼓膜をぶち破ってしまいそうなくらいの声量が部屋中に響き渡った。
よく分からずにいると、いつの間にか2組の男性達は、まるで一時停止したみたいに剣を打ち合おうとしている姿で、見事に体の動きを止めてしまっていた。
そして、その中央には……
「お前たちーー!!! 一体何してんのよ!!? そんな物騒なもの、さっさと仕舞いなさい!」
そこには、ブラウン系のブレザーにロングスカートを身にまとった金髪のカーリーヘアーの女性。
ル、ル、ルランシア様だ!!
さっきまで姿なんか見えなかったのに、どうやって斬り合いを始めた彼らのあの速さを押し退けて、その中央に入り込んだのか謎だけど、よ、良かった!
どうやら仮死状態から抜け出した上、わたし史上最悪なこの修羅場をなんとか収めてくれそうな人物が最後の最後に登場してくれた、と理解したいところだ。
男性たちは渋々といった感じで何も言わずに剣を下ろして、ピリピリとした空気感で睨み合っていた視線をお互いに外していた。
しかし、ローランディスさんはルランシア様のことを恐ろしい目つきで睨んだ後、今度はこちら側に視線を移したのだ。
今度は何を始めるつもりなのか、ドキドキして私は握っているクロウディア様の手につい力を入れてしまっていた。
「おい、今日の分を飲まさなかったのか? とんだヘマをしてくれたな」
そう威圧感のある低い声をローランディスさんが出すと、
「も、申し訳ございません……クロウディア様に落ち着いていただくのに精一杯で、ルランシア様のお世話がおろそかになっておりました……」
そう答えたのはリリアナさんだった。そして彼女は顔を下に俯けながら床の上にへたり込んでしまった。
飲まさなかったとは……2階に眠っていたルランシア様を発見した時、クロウディア様はパニック状態になってしまっていた。
それをリリアナさんはなだめてたって事みたいだけど、もしルランシア様が仮死状態でベッドの上に横になってたって事なら……もしかして彼女はこの半年間、毎日そうさせる秘薬を飲まされてたって事だろうか?
それにしても……アルフリードが死んでもいいだの、公爵様に不遜な態度は取るは、自分のお父様をコントロールしようとしたり、挙句の果てには自分のお母様に対して、こんな見下すような発言をするなんて!
その他にも、私にもクロウディア様にも卑劣なマネをして。一体、どうしてこんな事ばっかりしてるんだよ!? も、申し訳ないけど、彼が12歳の時にヘイゼル邸で行なった犯行を見過ごした公爵様のご判断は、完全に間違いだったんじゃないかな。
「おい、こら! リリアナに向かってなんてクチ聞くの……」
おおっ 私が思ってた怒りを糸も簡単にルランシア様は代弁して下さった。さすがすぎます。
そう思った時、リリアナさんの方を向こうとしたルランシア様は急に言葉を発するのをやめて、動きが固まってしまった。
「ルランシア……お前、お嫁に行ったのではなかったのですか?」
「お、お、お姉さま……?」
固まってしまったルランシア様に話しかけたのは、私と手を繋いでいるクロウディア様。
ルランシア様はもちろん言うまでもなく……信じられないとばかりに目を見開いていたけれど、その瞳にみるみると光るものを溜めていって、一目散にこちらに駆け寄ってきた。
「お姉さまーー!!!」
バッ! と勢いよくクロウディア様に彼女は抱きついて、わんわんと泣きじゃくっていた。
「はぁ……ルランシア、お前が嫁ぐなんて信じられなかったけれど、出戻ってきたという事ですね。つらかったでしょう? 心行くまで泣きなさい」
クロウディア様はご自身が死んでしまってたと思われてるなんて、夢にも思っていないのでルランシア様が嫁いで戻ってきたのだと、泣いてる理由を解釈しているみたいだ。
一体……ローランディスさんたちはルランシア様のことをそんな風に説明していたなんて、めちゃくちゃにも程があるよ。
「焼酎の販路開拓にいそしむのにこんな所で寝てられないから、すぐに着替えて出口を探し回ってたら……グレイリー、こんなものを見つけたのよ。まさかお姉さまにも、これを使ったんじゃないでしょうね!!?」
ルランシア様はひとしきり泣いてクロウディア様から離れると、涙だらけのお顔を拭きもせずに、グレイリーさんの方に近付くと、懐からちょっと分厚めにできた本を取り出した。
その本を目の前に突きつけられたグレイリーさんは、公爵様達と向き合ってた時みたいな近寄り難い表情のまま、そこから目線を外した。
その本の表紙には、私がいる所からもよく見える大きな文字で、
“禁書”
こう書いてあった。
「あの日、リリアナとあんたと3人で入った部屋に置いてあった本よね。あの、黒い鎧がたくさん積まれてたお城の地下室よ」
ルランシア様は、とても厳しい表情でグレイリーさんのことを見据えられた。
黒い鎧、地下室。
そのお話は私も以前、ルランシア様から教えてもらったことがあった。
何人もの黒い騎士が元リューセリンヌのお城に入っていくのを見た事があるってことを彼女にお聞きした時に、昔使われていた同じ色をした一般兵用の鎧がまだ祖国が滅びる前に、お城の地下室で見たことがあるって事だった。
そして、そのお部屋は彼女のお父様であるリューセリンヌの国王様が、長年の歴史を帝国に明け渡すわけにはいかない! ってことで、入り口を塞いでしまったとも言っていた。
もし、その部屋のことだとしたら……今、ルランシア様が持ってる“禁書”って本も、その長年の歴史が詰まってる部屋に置かれていたものじゃなかろうか……?
なんだか、名前的にもそんな気がするのだが。
「ルランシア……その通りだ、それは私たちが子ども時代に城を探索した時に興味本位で持ち出していたリューセリンヌの秘伝書……あまりにもその内容が危険すぎたがために封印された禁忌の書だ」
予想通り、グレイリーさんは諦めたように、そうお話された。
「これを手に入れてしまったこと……それが全ての誤りの始まりだった」
リューセリンヌの秘伝書とは一体……
ルランシア様の登場により戦闘を回避することはできたのだけれど、ここに集まったメンバーはこれから始まるグレイリーさんの語る真相に一点集中した。
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地下室の話「109.もう1つの王国」
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