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第3部 君は僕を捨てないよね
86.皇太子様の苦悩
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公爵様が眠っている皇城内のお部屋に、私は小さな花束を持って入室した。
彼の愛する奥様のお庭から摘んできた、この色とりどりのお花達を花瓶に生け、枕元のサイドテーブルに飾るためだ。
ぶれない自分軸を持っているリリーナ姫は、帝国の中枢が新体制に変わったからといって、特にその生活リズムに乱れが生じることはなかった。
気まぐれにやってくるエステの時間と、私の休日には必ずここに来て、公爵様の様子をみるのが日課となっていた。
公爵様は、倒れた日のように苦しそうに汗はかいておらず、今は安定した寝息を立てて眠っていらっしゃる。
隣りの部屋にいる皇帝陛下も同じような状態だった。
「公爵様、今日のお花はルランシア様と選んだものなんですよ。皇女様の女騎士の私とは違ってルランシア様は皇城には入れないから、私が代わりに持ってきました」
話しかけてもお返事はない。
リルリルは、あたってしまうと昏睡状態が続くのが特徴だけど、少し口に含んで飲み込んで吐いたお2人なら、目覚めるのはそんなに先ではないと、お医者様は見込んでいる。
まだまだ不安でいっぱいではあるけれど、ご様子が分かったので私は彼を振り返りつつ、お部屋を後にした。
皇女様とアルフリードの所へ行きたい気もするけど、彼らは今は大変な激務中で、私が行っても邪魔になってしまうだけだった。
彼らの執務室の階を素通りして、帰路に着こうとした時だった。
「ーーーー!!」
なんだか、ものすごい、ただならぬ獣の咆哮のような、聞いたこともないような音が、どこからともなく突然響き渡ってきた。
私があたりをキョロキョロ見渡していると、バタンッと扉が勢いよく開く音がして、
「今のはなんだ!?」
黒いベルベットのドレスを着ているけれど、片手に鞘に納めた剣を持った皇女様が、執務室から飛び出してきた。
あとからアルフリードも警戒した様子で、同じように左手に剣を携えて中から出てきた。
「皇太子殿下の所からのようです!」
皇女様の執務室の前に列をなして、お仕事の案件の確認をしようとしていた人達の1人が声を上げて、皇女様はすぐに、皇太子様がいる所へと駆け出した。
私もアルフリードもその後を追う。
すると、目的の場所は扉が全開になっている状態で、皇城で見知ったような重要な役職に就いている人達が扉の前に群らがっている。
「何があった、そこを通せ!」
皇太子様に御用があって、執務室の前に並んでいたと思われる人達を皇女様がかき分けて、見えてきた光景、そして再び耳に聞こえてきたのは、
「エリーナァァーー!!! エリーナァァーー!!!」
部屋の正面の奥にしつらえた大きな机の前で、小さな女性を抱えてしゃがみ込んで、号泣している人がいる。
初めて聞いたその泣き叫ぶ声を発しているのは、ジョナスン皇太子様。
彼はずっと、腕の中の女性の名前を呼び続けて、その声が枯れてかすれてしまうと、その人の体に顔を埋めて、震えながら抱きしめていた。
皇城で使っている自室に運ばれたエリーナさんは、寝巻きに着替えさせられて、青ざめた顔をしてベッドに横たえられた。
皇太子様は憔悴しきったように、彼女の手を握って、椅子に座ることもなく、床の上にひざまずいて、ベッドの端に寄っかかっている。
彼の反対側のベッドの端には、私とアルフリードの婚約披露会にも出席してくださっていた、代々医者の家系であるオルワルト子爵様が、エリーナさんの脈を計っていた。
「これは、完全なる過労ですな。脈が乱れて精神的にも相当まいっているようだ」
陛下がお元気だった時に、皇太子様の職務のサポートをしていた時でも、ツラそうにしていた彼女だ。
途中で、皇女様とアルフリードも気づいてケアもしていたけど、今の状況ではそれも出来なくなってしまった。
その上、この近隣諸国の中でも広大な領土を持つ、帝国の最上位の地位に君臨する長の側近になってしまったのだ。
仕事の量も、その責務の重さも、比べ物にならないはずだ。
それを考えたら……倒れない方がおかしいのかもしれない。
「姫はいつぐらいに回復しそうだろうか?」
腕組みをした皇女様は、困り顔で子爵様に尋ねた。
「今回の陛下が倒れた後の職務による一時的な過労なら、長く休まずともお若いですから、回復するでしょうが……」
子爵様は一旦、そこで言葉を濁した。
何か問題があるのだろうか……?
「診たところ、これはもう数年前から心労が蓄積されており、それが今回一気に表に出てしまったようなのですよ。落ち着いた環境で、ゆっくり療養されるのが1番かと思われます……」
今の皇城の状況が分かっている子爵様は、言いづらそうに説明して下さった。
そ、そんなに深刻な状態だなんて……
皇女様も眉をピクッと動かして、怪訝な顔つきになった。
アルフリードも、緊張感のある表情を浮かべて子爵様の方を見ている。
「弱ったものだ……お兄様、先ほどは久々にその声を聞いたが、会話はできそうだろうか? で、あれば問題はないが……」
皇女様が声を掛けると、目を赤く腫らした皇太子様は、エリーナさんの手を握ったまま、少し間を置いて首を横に振った。
さっき大きな声が出ていたのは、エリーナさんが目の前で倒れたショックによる一時的なものだったのだろうか。
前々から思っていたけど、幼い頃は普通に会話できていたようなのに、できなくなったのもまた、3国の同盟のために人質という犠牲を強いられたショックからなんだよね?
もう彼が帝国でお話できるようになる日は来ないんだろうか……
すると、皇太子様は人差し指と中指だけ揃えて立てた状態で、右手を上げた。
すかさずアルフリードが懐から紙とペンを取り出して、皇太子様にお渡しした。
そうか……! いつもエリーナさんが片時も離れずに、彼のそばにいたから見たことなかったけど、筆談っていう手があるのか。
皇太子様は、サラサラーっとアルフリードが渡したメモ帳に何かを書き始めた。
書き終わると、それを1枚ビッと破って、そばで控えていたアルフリードに手渡した。
彼がそれを皇女様と私にも見せてくれた。
『このような帝国の一大事に、足手まといな存在でしかない事が非常に歯痒く、本当にすまないと思っている。
エリーナがこんな事になったのは、全て私の責任だ。
彼女とキャルンの両陛下は、人質として彼らの城へ私が連れて行かれた時から、とても親身に接してくれた。
特にエリーナは責任感が強いから、婚約が決まった後は際立ってサポート役を買って出て、私の手となり足となって助けてくれた。
しかし、私の心が弱いから、キャルンの人々の好奇の目や、同盟を快く思わない者たちからの言葉に耐えられず、言葉を発することが出来なくなった。
それでも彼女は私を守ろうとしてくれた、そして私もそれに甘えてずっとここまで来てしまったのだ。
彼女は私と出会った頃からずっとそんな状態だったから、無理がたたってしまったんだ。
本当は、慣れない帝国にやってきた彼女を、私が守らなければならなかったのに』
皇太子様の文字は、あんなにサラサラーっと素早く書いていたのに、とても綺麗で読みやすい文体だった。
さっきエリーナさんの名前を泣き叫んでいたように、このメモ書きからも、彼が後悔と悲しみを痛いほど胸に抱えていることが伝わってきた。
それに……少ししか触れられてないけど、彼が人質になったことで苦労があったことも押し測れた。
確か彼がキャルンへ行ったのは7歳の事だから、何らかの悲鳴が体や精神面に現れても仕方ない事のように思う。
そんな彼をエリーナさんは、ずっと支え続けていたんだね……
皇太子様は、さらにメモ帳にサラサラーっとペンを走らせて、またアルフリードに手渡した。
『エリーナは、一度キャルンへ帰して、向こうでゆっくり静養してもらうことにする。
そして、陛下が回復するまでの間、代理の職務は私が責任を持って全うする。
良い方法が見つかるまでは、筆談で時間がかかりすまぬが、エリーナの代わりはアルフリード、君に頼む。
ソフィアナは、皇城にいる者から選任して、側近を立ててくれ』
なんだか、これまでは微笑まれて、エリーナさんにコショコショ話をするだけの、草食系男子という感じだったのに、リーダーシップを取られて、とっても頼もしい文面に感じられる。
しかし、体を動かすのもツラそうにしながら立ち上がる姿は、見ていてとても痛々しいものだった。
でもそっかぁ……エリーナさんは、祖国に一度帰ってもらうのか。
それもまた、皇太子様の精神面が心配だけど……エリーナさんのためには、それが1番だもんね。
「うーむ、アルフがお兄様の方に戻れるのは何よりだが。私の側近を新たに見つけるのは、面倒だな……エミリア、そなたやってみるか?」
皇女様は突然、思いがけない事を言い始めた。
わ、私が皇女様の側近!? 皇女様の女騎士じゃなくて??
「え、いや、その……私は今、リリーナ王女様の女騎士なので、まずは姫のご許可を頂かないと……」
私がどもって、タジタジしていると、
「ははは! 冗談だよ、今この瞬間にもお兄様も私も、業務が山のように積み重なっていっているからな。悠長に適任者を探している訳にもいかない。取り急ぎ、優秀な人材といったら、まず頭に浮かぶのは、そなたの家門だからな。彼らを引っ張ってくることにしよう」
な、なんだ、ビックリした……女騎士の訓練は積んで頂いたけど、側近の訓練はやってないからね。あんなに大変そうで、難しそうなお仕事……私には無縁だと思っていた。
しかし、なるほど。
皇女様の側近は、エスニョーラの家門のお父様かお兄様が抜擢されそうみたいだ。
いつも一緒にいたエリーナさんと離れ離れになるのは心配だけど、皇太子様もアルフリードも今のところ見ていると、不仲になるようには思えない。
むしろ、この危機を乗り越えようと、協力しあおうとしているようにしか見えない。
原作では、アルフリードが皇城にいづらくなってしまう展開になっていたけど……
もうこれ以上、何も起こらないよね?
もっと彼らの信頼が強固になるように、私は筆談以上にスムーズなコミュニケーションが取れる方法を、今一度、模索することにした。
※エミリアが「皇女様の女騎士」だったり「王女様の女騎士」と言ったりしてますが、状況的には「皇女様の女騎士だけど、皇女様からの命を受けて、リリーナ王女を護衛している」になるので、場面に応じて、どちらの表現も使ってます。
************
イリス友人の女騎士が主役の短編を「皇女様の女騎士 番外編集」の作品集の方に追加しました。
※白騎士トリオも登場します!(タイトル:姉御ロザニアのパートナー探し)
彼の愛する奥様のお庭から摘んできた、この色とりどりのお花達を花瓶に生け、枕元のサイドテーブルに飾るためだ。
ぶれない自分軸を持っているリリーナ姫は、帝国の中枢が新体制に変わったからといって、特にその生活リズムに乱れが生じることはなかった。
気まぐれにやってくるエステの時間と、私の休日には必ずここに来て、公爵様の様子をみるのが日課となっていた。
公爵様は、倒れた日のように苦しそうに汗はかいておらず、今は安定した寝息を立てて眠っていらっしゃる。
隣りの部屋にいる皇帝陛下も同じような状態だった。
「公爵様、今日のお花はルランシア様と選んだものなんですよ。皇女様の女騎士の私とは違ってルランシア様は皇城には入れないから、私が代わりに持ってきました」
話しかけてもお返事はない。
リルリルは、あたってしまうと昏睡状態が続くのが特徴だけど、少し口に含んで飲み込んで吐いたお2人なら、目覚めるのはそんなに先ではないと、お医者様は見込んでいる。
まだまだ不安でいっぱいではあるけれど、ご様子が分かったので私は彼を振り返りつつ、お部屋を後にした。
皇女様とアルフリードの所へ行きたい気もするけど、彼らは今は大変な激務中で、私が行っても邪魔になってしまうだけだった。
彼らの執務室の階を素通りして、帰路に着こうとした時だった。
「ーーーー!!」
なんだか、ものすごい、ただならぬ獣の咆哮のような、聞いたこともないような音が、どこからともなく突然響き渡ってきた。
私があたりをキョロキョロ見渡していると、バタンッと扉が勢いよく開く音がして、
「今のはなんだ!?」
黒いベルベットのドレスを着ているけれど、片手に鞘に納めた剣を持った皇女様が、執務室から飛び出してきた。
あとからアルフリードも警戒した様子で、同じように左手に剣を携えて中から出てきた。
「皇太子殿下の所からのようです!」
皇女様の執務室の前に列をなして、お仕事の案件の確認をしようとしていた人達の1人が声を上げて、皇女様はすぐに、皇太子様がいる所へと駆け出した。
私もアルフリードもその後を追う。
すると、目的の場所は扉が全開になっている状態で、皇城で見知ったような重要な役職に就いている人達が扉の前に群らがっている。
「何があった、そこを通せ!」
皇太子様に御用があって、執務室の前に並んでいたと思われる人達を皇女様がかき分けて、見えてきた光景、そして再び耳に聞こえてきたのは、
「エリーナァァーー!!! エリーナァァーー!!!」
部屋の正面の奥にしつらえた大きな机の前で、小さな女性を抱えてしゃがみ込んで、号泣している人がいる。
初めて聞いたその泣き叫ぶ声を発しているのは、ジョナスン皇太子様。
彼はずっと、腕の中の女性の名前を呼び続けて、その声が枯れてかすれてしまうと、その人の体に顔を埋めて、震えながら抱きしめていた。
皇城で使っている自室に運ばれたエリーナさんは、寝巻きに着替えさせられて、青ざめた顔をしてベッドに横たえられた。
皇太子様は憔悴しきったように、彼女の手を握って、椅子に座ることもなく、床の上にひざまずいて、ベッドの端に寄っかかっている。
彼の反対側のベッドの端には、私とアルフリードの婚約披露会にも出席してくださっていた、代々医者の家系であるオルワルト子爵様が、エリーナさんの脈を計っていた。
「これは、完全なる過労ですな。脈が乱れて精神的にも相当まいっているようだ」
陛下がお元気だった時に、皇太子様の職務のサポートをしていた時でも、ツラそうにしていた彼女だ。
途中で、皇女様とアルフリードも気づいてケアもしていたけど、今の状況ではそれも出来なくなってしまった。
その上、この近隣諸国の中でも広大な領土を持つ、帝国の最上位の地位に君臨する長の側近になってしまったのだ。
仕事の量も、その責務の重さも、比べ物にならないはずだ。
それを考えたら……倒れない方がおかしいのかもしれない。
「姫はいつぐらいに回復しそうだろうか?」
腕組みをした皇女様は、困り顔で子爵様に尋ねた。
「今回の陛下が倒れた後の職務による一時的な過労なら、長く休まずともお若いですから、回復するでしょうが……」
子爵様は一旦、そこで言葉を濁した。
何か問題があるのだろうか……?
「診たところ、これはもう数年前から心労が蓄積されており、それが今回一気に表に出てしまったようなのですよ。落ち着いた環境で、ゆっくり療養されるのが1番かと思われます……」
今の皇城の状況が分かっている子爵様は、言いづらそうに説明して下さった。
そ、そんなに深刻な状態だなんて……
皇女様も眉をピクッと動かして、怪訝な顔つきになった。
アルフリードも、緊張感のある表情を浮かべて子爵様の方を見ている。
「弱ったものだ……お兄様、先ほどは久々にその声を聞いたが、会話はできそうだろうか? で、あれば問題はないが……」
皇女様が声を掛けると、目を赤く腫らした皇太子様は、エリーナさんの手を握ったまま、少し間を置いて首を横に振った。
さっき大きな声が出ていたのは、エリーナさんが目の前で倒れたショックによる一時的なものだったのだろうか。
前々から思っていたけど、幼い頃は普通に会話できていたようなのに、できなくなったのもまた、3国の同盟のために人質という犠牲を強いられたショックからなんだよね?
もう彼が帝国でお話できるようになる日は来ないんだろうか……
すると、皇太子様は人差し指と中指だけ揃えて立てた状態で、右手を上げた。
すかさずアルフリードが懐から紙とペンを取り出して、皇太子様にお渡しした。
そうか……! いつもエリーナさんが片時も離れずに、彼のそばにいたから見たことなかったけど、筆談っていう手があるのか。
皇太子様は、サラサラーっとアルフリードが渡したメモ帳に何かを書き始めた。
書き終わると、それを1枚ビッと破って、そばで控えていたアルフリードに手渡した。
彼がそれを皇女様と私にも見せてくれた。
『このような帝国の一大事に、足手まといな存在でしかない事が非常に歯痒く、本当にすまないと思っている。
エリーナがこんな事になったのは、全て私の責任だ。
彼女とキャルンの両陛下は、人質として彼らの城へ私が連れて行かれた時から、とても親身に接してくれた。
特にエリーナは責任感が強いから、婚約が決まった後は際立ってサポート役を買って出て、私の手となり足となって助けてくれた。
しかし、私の心が弱いから、キャルンの人々の好奇の目や、同盟を快く思わない者たちからの言葉に耐えられず、言葉を発することが出来なくなった。
それでも彼女は私を守ろうとしてくれた、そして私もそれに甘えてずっとここまで来てしまったのだ。
彼女は私と出会った頃からずっとそんな状態だったから、無理がたたってしまったんだ。
本当は、慣れない帝国にやってきた彼女を、私が守らなければならなかったのに』
皇太子様の文字は、あんなにサラサラーっと素早く書いていたのに、とても綺麗で読みやすい文体だった。
さっきエリーナさんの名前を泣き叫んでいたように、このメモ書きからも、彼が後悔と悲しみを痛いほど胸に抱えていることが伝わってきた。
それに……少ししか触れられてないけど、彼が人質になったことで苦労があったことも押し測れた。
確か彼がキャルンへ行ったのは7歳の事だから、何らかの悲鳴が体や精神面に現れても仕方ない事のように思う。
そんな彼をエリーナさんは、ずっと支え続けていたんだね……
皇太子様は、さらにメモ帳にサラサラーっとペンを走らせて、またアルフリードに手渡した。
『エリーナは、一度キャルンへ帰して、向こうでゆっくり静養してもらうことにする。
そして、陛下が回復するまでの間、代理の職務は私が責任を持って全うする。
良い方法が見つかるまでは、筆談で時間がかかりすまぬが、エリーナの代わりはアルフリード、君に頼む。
ソフィアナは、皇城にいる者から選任して、側近を立ててくれ』
なんだか、これまでは微笑まれて、エリーナさんにコショコショ話をするだけの、草食系男子という感じだったのに、リーダーシップを取られて、とっても頼もしい文面に感じられる。
しかし、体を動かすのもツラそうにしながら立ち上がる姿は、見ていてとても痛々しいものだった。
でもそっかぁ……エリーナさんは、祖国に一度帰ってもらうのか。
それもまた、皇太子様の精神面が心配だけど……エリーナさんのためには、それが1番だもんね。
「うーむ、アルフがお兄様の方に戻れるのは何よりだが。私の側近を新たに見つけるのは、面倒だな……エミリア、そなたやってみるか?」
皇女様は突然、思いがけない事を言い始めた。
わ、私が皇女様の側近!? 皇女様の女騎士じゃなくて??
「え、いや、その……私は今、リリーナ王女様の女騎士なので、まずは姫のご許可を頂かないと……」
私がどもって、タジタジしていると、
「ははは! 冗談だよ、今この瞬間にもお兄様も私も、業務が山のように積み重なっていっているからな。悠長に適任者を探している訳にもいかない。取り急ぎ、優秀な人材といったら、まず頭に浮かぶのは、そなたの家門だからな。彼らを引っ張ってくることにしよう」
な、なんだ、ビックリした……女騎士の訓練は積んで頂いたけど、側近の訓練はやってないからね。あんなに大変そうで、難しそうなお仕事……私には無縁だと思っていた。
しかし、なるほど。
皇女様の側近は、エスニョーラの家門のお父様かお兄様が抜擢されそうみたいだ。
いつも一緒にいたエリーナさんと離れ離れになるのは心配だけど、皇太子様もアルフリードも今のところ見ていると、不仲になるようには思えない。
むしろ、この危機を乗り越えようと、協力しあおうとしているようにしか見えない。
原作では、アルフリードが皇城にいづらくなってしまう展開になっていたけど……
もうこれ以上、何も起こらないよね?
もっと彼らの信頼が強固になるように、私は筆談以上にスムーズなコミュニケーションが取れる方法を、今一度、模索することにした。
※エミリアが「皇女様の女騎士」だったり「王女様の女騎士」と言ったりしてますが、状況的には「皇女様の女騎士だけど、皇女様からの命を受けて、リリーナ王女を護衛している」になるので、場面に応じて、どちらの表現も使ってます。
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イリス友人の女騎士が主役の短編を「皇女様の女騎士 番外編集」の作品集の方に追加しました。
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