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第2部 彼を救うための仕込み
48.ヒュッゲとアルフリード
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アルフリードは馬車でガラガラとうちの玄関前までやってきて、私とお父様に出迎えられて、うちの中を案内されている。
ほぼ毎日、私を皇城まで送り迎えしてくれるアルフリードだけど、意外とうちの中で入ったことがあるのは、玄関先と、お母様と一緒に皇城のパティシエさんのケーキを食べたティールーム、あとは私の記憶は無いけど舞踏会で倒れた時に運んでくれた私の部屋しかなかった。
それが、なんでウチの中をお父様自ら案内してるかっていうと……
それは数日前のこと。
幽霊がどこに出没してもおかしくないヘイゼル邸を明るく、快適な状態にするリフォームは着々とその範囲を広げていた。
やはり、お客様をお迎えする立派な門構えの玄関口は、材料となっている古い石を輝くように磨きあげ、まず最初に美しい状態に生まれ変わらせた。
舞踏会でお友達になったマリアンヌ嬢のいるテドロ公爵邸は、同じ爵位を持っているのにヘイゼル邸とは違って少しでも古くなってしまったり、汚れてしまった所があれば、リフォーム業者さんにすぐ連絡して修繕をしてもらうのだという。
そんなテドロ家ご用達のリフォーム業者さんを何件か紹介してもらったり、家具とか内装とか水回りなんかのカタログも取り寄せてもらったりしていた。
そしてこの日は、年季が異様に入った椅子やテーブルで固められた、私も初めて行った日に通された応接室のリフォーム計画を立てるために、ヘイゼル邸にやってきたのだった。
私の好きなようにやっていいよ、と言われているものの、持ち主である公爵様に何も言わずにやる訳にはいかないので、ちゃんとこうしますよ! と相談してから着手するようにしてる。
これまで玄関以外では、庭や外壁や廊下なんかをキレイにするのばかりで大幅なデザイン変更はなかったんだけど、応接室は、壁を塗り直したり、家具を新品にしたり大幅な変更が予想された。
そして、カタログからある程度、方向性を王子様や皇女様とも相談して決めて、これでいいですか? っていう確認を公爵様にしてみたんだけど……
「ううむ、ちょっとこういうのは、うちのイメージとは合わないのでは? 私の持っている本に家具のデザインなんかが載っているものがあったから、ちょっと待ってなさい」
公爵様にもこだわりがあるのは意外だったけど、協力しようとして下さっているのだから、ちゃんとお話を聞こう!
そう思っていたんだけど、持ってきた本を見せてもらって、私は愕然とした……
公爵様の美的センスは、マジで壊滅的だったのだ。
魔王とかが持ってそうな黒くてイカツイ装飾のついた固くて重くて厚い本を開くと、そこにはやっぱり、魔王とか悪魔なんかが彼らの悪の巣窟である居城に置いてそうな、グロテスクな飾りとか掘りが入った椅子やタンス、テーブルやコート掛けの絵が描かれていた。
つまり……これまでの幽霊屋敷は、ただ放置して自然とそうなったっていうのもあると思うけど、公爵様はこれはこれでカッコいいし、雰囲気がいいって思ってたらしいのだ。
このまま公爵様の意見に押されたらマズい……! と思って、そばでやり取りを見ていたアルフリードに話を投げかけた。
「ア、アルフリードはどっちの方がいいと思う?」
当然……当然、普通の美的感覚を持ってたら、私が提案した茶色と深緑をメインカラーとした、アンティーク調の落ち着いたトーンで統一した壁紙や、家具達だよね?
「うーん、僕は特にこだわりはないから、父上とエミリアで決めればいいよ」
爽やかにニコリと笑うけど……そういう答え方が一番良くないんだって!!
公爵様をうまく説得する術を見い出せない私は、
「おほほほ、ちょっと用事を思い出しましたので、今日はこれで失礼いたしますわ~」
王子様から教えてもらった都合が悪い時に使う決まり文句のマナーを実践して、何とかその場を切り抜けた。
アルフリードは今、リフォームの方向性に対して特にこだわりを持っていないという。
だけど……いつお父様である公爵様の影響を受け始めてしまうか分からない。
あの美的センスを彼が受け継いでしまったら、結局何をやっても幽霊屋敷に逆戻りだ。
アルフリードの感性が悪魔系に 侵される前に、こちらでいい感じのセンスの持ち主に教育してしまえばいいんだ!!
「うわぁ、これがヒュッゲの本ですか。話には聞いていたけど、カラー絵を見るとイメージが湧きますねぇ」
リフォーム計画の賛同者の1人であるお父様はすぐに彼を呼びなさいって言って、アルフリードは今日うちにやってきた訳だけど、その目的は以前、彼も興味を示していたヒュッゲ(北の方の国の考えで心地いい空間のこと)を学ばせる事に他ならなかった……
お父様の書斎にまず案内されたアルフリードは、ヒュッゲのことについて書かれている大判の本を見せてもらっていた。
そこには、もう前の世界の地名で言っちゃうと、もろ北欧風のおしゃれな家具やお部屋の内装がイラストと説明と共にたくさん載せられていた。
そうそうそう!! 彼がこっち系のセンスに侵されて、味方をしてくれれば公爵様も納得してくれるはず。
「ウチの本館はそれに基づいて、ここの書斎もそうだが、居間や家族が過ごすスペースは快適になるように家具や内装をセレクトしている」
へー、確かにエスニョーラ邸はどこに行っても、のんびりしているというか、落ち着く雰囲気があるとは思っていたけど、その根底にはちゃんとお父様の哲学があったんだ。
そうして書斎や居間、ダイニングスペースにティールーム、衣装部屋やトレーニングルームに潰されてない客間などなど、見学ツアーが開催されたのだった。
アルフリードは真剣にお父様の解説ポイントに耳を傾けて、メモを取ったり、簡単なイラストを書いたりして、着実にヒュッゲに侵され……ではなく、知識を蓄えていっているようだった。
そうしているうちに、けっこう遅い時間になってきたので、彼は夕飯をうちで食べて行くことになって、私と一緒に居間スペースで呼ばれるのを待つことになった。
ほぼ毎日、私を皇城まで送り迎えしてくれるアルフリードだけど、意外とうちの中で入ったことがあるのは、玄関先と、お母様と一緒に皇城のパティシエさんのケーキを食べたティールーム、あとは私の記憶は無いけど舞踏会で倒れた時に運んでくれた私の部屋しかなかった。
それが、なんでウチの中をお父様自ら案内してるかっていうと……
それは数日前のこと。
幽霊がどこに出没してもおかしくないヘイゼル邸を明るく、快適な状態にするリフォームは着々とその範囲を広げていた。
やはり、お客様をお迎えする立派な門構えの玄関口は、材料となっている古い石を輝くように磨きあげ、まず最初に美しい状態に生まれ変わらせた。
舞踏会でお友達になったマリアンヌ嬢のいるテドロ公爵邸は、同じ爵位を持っているのにヘイゼル邸とは違って少しでも古くなってしまったり、汚れてしまった所があれば、リフォーム業者さんにすぐ連絡して修繕をしてもらうのだという。
そんなテドロ家ご用達のリフォーム業者さんを何件か紹介してもらったり、家具とか内装とか水回りなんかのカタログも取り寄せてもらったりしていた。
そしてこの日は、年季が異様に入った椅子やテーブルで固められた、私も初めて行った日に通された応接室のリフォーム計画を立てるために、ヘイゼル邸にやってきたのだった。
私の好きなようにやっていいよ、と言われているものの、持ち主である公爵様に何も言わずにやる訳にはいかないので、ちゃんとこうしますよ! と相談してから着手するようにしてる。
これまで玄関以外では、庭や外壁や廊下なんかをキレイにするのばかりで大幅なデザイン変更はなかったんだけど、応接室は、壁を塗り直したり、家具を新品にしたり大幅な変更が予想された。
そして、カタログからある程度、方向性を王子様や皇女様とも相談して決めて、これでいいですか? っていう確認を公爵様にしてみたんだけど……
「ううむ、ちょっとこういうのは、うちのイメージとは合わないのでは? 私の持っている本に家具のデザインなんかが載っているものがあったから、ちょっと待ってなさい」
公爵様にもこだわりがあるのは意外だったけど、協力しようとして下さっているのだから、ちゃんとお話を聞こう!
そう思っていたんだけど、持ってきた本を見せてもらって、私は愕然とした……
公爵様の美的センスは、マジで壊滅的だったのだ。
魔王とかが持ってそうな黒くてイカツイ装飾のついた固くて重くて厚い本を開くと、そこにはやっぱり、魔王とか悪魔なんかが彼らの悪の巣窟である居城に置いてそうな、グロテスクな飾りとか掘りが入った椅子やタンス、テーブルやコート掛けの絵が描かれていた。
つまり……これまでの幽霊屋敷は、ただ放置して自然とそうなったっていうのもあると思うけど、公爵様はこれはこれでカッコいいし、雰囲気がいいって思ってたらしいのだ。
このまま公爵様の意見に押されたらマズい……! と思って、そばでやり取りを見ていたアルフリードに話を投げかけた。
「ア、アルフリードはどっちの方がいいと思う?」
当然……当然、普通の美的感覚を持ってたら、私が提案した茶色と深緑をメインカラーとした、アンティーク調の落ち着いたトーンで統一した壁紙や、家具達だよね?
「うーん、僕は特にこだわりはないから、父上とエミリアで決めればいいよ」
爽やかにニコリと笑うけど……そういう答え方が一番良くないんだって!!
公爵様をうまく説得する術を見い出せない私は、
「おほほほ、ちょっと用事を思い出しましたので、今日はこれで失礼いたしますわ~」
王子様から教えてもらった都合が悪い時に使う決まり文句のマナーを実践して、何とかその場を切り抜けた。
アルフリードは今、リフォームの方向性に対して特にこだわりを持っていないという。
だけど……いつお父様である公爵様の影響を受け始めてしまうか分からない。
あの美的センスを彼が受け継いでしまったら、結局何をやっても幽霊屋敷に逆戻りだ。
アルフリードの感性が悪魔系に 侵される前に、こちらでいい感じのセンスの持ち主に教育してしまえばいいんだ!!
「うわぁ、これがヒュッゲの本ですか。話には聞いていたけど、カラー絵を見るとイメージが湧きますねぇ」
リフォーム計画の賛同者の1人であるお父様はすぐに彼を呼びなさいって言って、アルフリードは今日うちにやってきた訳だけど、その目的は以前、彼も興味を示していたヒュッゲ(北の方の国の考えで心地いい空間のこと)を学ばせる事に他ならなかった……
お父様の書斎にまず案内されたアルフリードは、ヒュッゲのことについて書かれている大判の本を見せてもらっていた。
そこには、もう前の世界の地名で言っちゃうと、もろ北欧風のおしゃれな家具やお部屋の内装がイラストと説明と共にたくさん載せられていた。
そうそうそう!! 彼がこっち系のセンスに侵されて、味方をしてくれれば公爵様も納得してくれるはず。
「ウチの本館はそれに基づいて、ここの書斎もそうだが、居間や家族が過ごすスペースは快適になるように家具や内装をセレクトしている」
へー、確かにエスニョーラ邸はどこに行っても、のんびりしているというか、落ち着く雰囲気があるとは思っていたけど、その根底にはちゃんとお父様の哲学があったんだ。
そうして書斎や居間、ダイニングスペースにティールーム、衣装部屋やトレーニングルームに潰されてない客間などなど、見学ツアーが開催されたのだった。
アルフリードは真剣にお父様の解説ポイントに耳を傾けて、メモを取ったり、簡単なイラストを書いたりして、着実にヒュッゲに侵され……ではなく、知識を蓄えていっているようだった。
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