皇女様の女騎士に志願したところ彼女を想って死ぬはずだった公爵子息に溺愛されました

ねむりまき

文字の大きさ
上 下
46 / 169
第2部 彼を救うための仕込み

45.イェーガーなエスニョーラ part1

しおりを挟む
返そうと思っていた部屋着は私が持っていなさい、と公爵様は言って庭師さんを呼びに行ってしまった。

この香りは奥様の事を思い出させてしまって、返ってツラい思いをさせてしまうようだった。

しばらくして公爵様は、ハンチング帽をかぶり、白いシャツにサスペンダー付のズボンを履いた、ガーデニング職人のイメージそのものの服装をした背の高い初老の男性と戻ってきた。

「うちのガーデナーのエリックだよ。庭のことなら何でも彼に尋ねなさい」

「坊っちゃまから託された苗の方へご案内します」

エリックさんに付いて行くと、庭の一角に、この間摘んできた花たちが、土の入った小さなポットにいくつか小分けされて大きな木のケースの中に並べられていた。

私はエリックさんと共に、庭の一番目に付く所にそれを植えていった。

「あのー、アエモギの花を来年たくさん咲かせるには、どうすればいいですか?」

全部植え終わってから尋ねてみると、

「もっと根が必要と存じます」

エリックさんも、この前アルフリードの側にいた執事さんや、騎士服の話をしたらおかしな挙動をしたメイドちゃんみたいに必要最低限のことしか言わないみたいだ。

けど、それなら今度、仔馬のフローリアに会いに行く時にまた採りに行けばいいかな。
あの秘密の花園みたいな場所には、山のように花が咲き乱れていたから。

あと気になることと言えば……

「クロウディア様が植えていたものは、消えてしまっていたそうなのですが……無くなりやすい植物と、そうでないのがあったりするんですか?」

エリックさんは、石像のように少し固まっていたけど、少しして口を開いた。

「元リューセリンヌ地方の植物は根が丈夫で、一度根づけば簡単には無くなることはございません。奥様が植えられていたご祖国の植物は、ある日すべて根こそぎ無くなっておりました」

へぇ? それって……誰かが盗んだか、わざとやったってこと?

「そのことは公爵様やアルフリードは知っているんですか?」

「当時は坊っちゃまはまだ社交デビューもされていなかった頃ですから、公爵様がお調べになられておりましたが、その後どのようになったかは存じ上げておりません」

なんだか、ちょっとヘイゼル家の謎が一つ増えてしまったけど、その後、エリックさんの中庭の作業を手伝ったりした。

そして、アルフリードが帰ってくるとエスニョーラ邸まで馬車で送ってもらうことになった。


「エミリア、弓の稽古は侯爵様と進んでる?」

あ、そういえば、全くイメージにそぐわなかったけど、腕前が良すぎるお父様から弓矢を教えてもらうことになってたんだ。

「いえ、まだ始めてないです」

「来年、3年に一度の狩猟祭が行われるんだよ。参加するのは貴族家の子息だけだけど、今度、皇城の狩場でその練習をすることになったんだ。エミリアも基本的なところまで弓が引けるようになってれば、一緒に行けるんじゃないかな」

ほへぇ、狩猟祭っていうのも、ファンタジーな小説ではよく出てきたりするよね。

この世界でもそういうのがあるんだ。
多分、忘れてるっぽいお父様に、稽古をつけてもらえるようにお願いしておこう。


結局、アエモギの芳香剤と、部屋着はうちに持って帰ってきてしまった。

またヘイゼル家の2人の前に持っていく事があるか分からないけれど、この香水の匂いも、部屋着のデザインも私は好きなので自室で保管しておくことにした。

芳香剤は部屋のドアの所に付いているフックにぶら下げておいた。


シュバッ

次の日の朝、お父様と一緒に訪れたのはエスニョーラ邸の敷地内にある射場いば、つまり弓矢を射るための練習場だった。

ここは騎士団の施設ではなくて、主人専用の練習スペースなのだという。

そこにいたのは……

10メートル以上も距離がありそうな的に向かって、超正確に矢を放っている……あのお兄様の姿だった。

1年の大半を貴族家マニュアルの更新作業に費やして、書物ばかり読み漁っている文官職のお兄様のスポーティーな姿はとても新鮮だった。

しかし、これをやってるってことは……

「ラドルフも今度の狩猟祭に出るからな。これは帝国の最も伝統的な行事でもあり、18~20歳の貴族家の子息は絶対参加なのだよ」

お父様が説明してくれた。

そっかぁ、文官だからといっても、体育会系な行事に強制参加はつらいけど、この1回きりに参加すれば晴れて自由の身になるということだ。

お兄様がんばれー。

それで、黙々と矢を的の中心にいくつも刺していっているお兄様の隣で、私はお父様から基本的な使い方を教わった。

はじめは遠くにも真っすぐにも飛ばせなかったけど、次第にコツが分かってきた。

筋トレで胸筋や上腕二頭筋なんかも鍛えてるせいか、的の中央にはまだ無理だけど、端っこの方には当てられるようになってきた。

「うむ、さすがエスニョーラの血を引いているだけはある。この調子なら数日練習すれば狩りにも行けるだろう」

そんな予言めいたお父様の言葉から数日後。

私、アルフリード、皇女様、お父様、お兄様。

というメンバーにて、あの王子様の歓迎会が行われた迎賓館があるところ。
普段は皇族の方々が使われる狩場に集合した。

だけど、私は不安に感じることがあった。
それは、生き物を手にかけなければいけないということ……

もし可愛いウサギさんや、キツネさん、シカさんにタヌキさん。

そんな子たちが目の前に現れてしまったら……みんなきっと、容赦なく矢を放つんだろうな。

アルフリードなんか、前に皇女様と手合わせしていた時に、隙を見つけてものすごく殺気を込めた表情で襲いかかっていたし。
またそんな表情を見てしまう事になるかもしれない。

私たち5人は、広大な森に足を踏み入れた。
しおりを挟む
【Twitterで作品イメージの投稿始めました】
#皇女様の女騎士イメージ

↑クリックでイメージ投稿のみ表示されます
感想 15

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...