29 / 169
第2部 彼を救うための仕込み
28.エミリアがやらなきゃいけない事の復習
しおりを挟む
鳥のさえずりが聞こえて、私は目を覚ました。
眠っていた自分の部屋のベッドにはカーテンの隙間から差し込む光が注いでいる。
昨日は、本当に夢のような時間が過ぎていった。
結局あのあと、披露会がお開きになるまでアルフリードは私を抱えたままだった。
『エミリアはこれから、どんな所に行きたい? どこへでも連れて行ってあげるからね』
口付けされたのを思い出して湯気が出そうになっている私のことが分かっているのか、分かっていないのか、彼はそんな事を嬉しそうに喋っていた。
『やはり帝都には面白い店がたくさんありますからな、2人でデートするのが一番ですよ』
『カナンダラの海岸は夕日が綺麗ですから、一度見てくるといい』
周りに座っている人達も、おすすめスポットを一斉にあげてきたりして。
私にとってあの一大イベントだった次の日の今日は、さすがに皇城へ行くのはお休みで、家でゆっくり過ごすことになった。
これまでは広大なエスニョーラ邸も人目につくような一部の場所は立ち入り禁止にされていたけれど、昨日でそれも終わったのだ。
朝ごはんを食べた後、私はノートとペンを持って、前から気になっていた庭の一角にあるドーム状の温室へ行ってみた。
そこには、手入れの行き届いた草や花が咲いた鉢植えがいくつも飾ってあって、その奥の方にはテーブルセットが置かれていた。
皇女様が馬車の事故に遭うまであと3年。
アルフリードとの結婚まであと2年。
いつかは分からないけど、その間に確実に戻ってくる皇女様のお兄様、ジョナスン皇太子様。
そして、原作通りなら皇太子様が戻る前に、いなくなってしまうのが濃厚なエルラルゴ王子様。
その予定に従って、私にはやらなければならない事がいくつもあった。
婚約パーティーが終わって全てが燃え尽きたような気分がするけど、アルフリードを救うための勝負はこれからが始まりなのだ!
一応、やることを整理しておくと……
<やること①>
王子様から頼まれていた、私が皇女様に女騎士を志願した理由として捏造した小説を書いて渡すこと。
<やること②>
幽霊屋敷の公爵邸を明るく快適な空間に維持して、人形みたいな感情のない使用人たちを人間らしくすること。
これによって、アルフリードの精神的な負担を軽くしてあげて、闇落ちの要因を減らすことができる!(はず)
<やること③>
王子様がいなくなってしまう予兆を掴むこと。
これはちょっと難しい……女騎士みたいにずっと王子様の側に付いているなんて、できっこないし、できる限り彼の動向に注意しておくくらいしかできない。
<やること④>
皇女様の女騎士になる鍛錬を積むこと。
これは、ひたすら皇女様の指導に従って技術を磨いていくしかないわね。
当初は形だけの女騎士を目指していたけど、めちゃくそ強い皇女様が防げなかった程の事故。
私もお守りするために、相当強くなる必要性が出てきた。
<やること⑤>
皇女様が事故に遭う少し前に亡くなってしまう公爵様の死を防ぐこと!
これによって、アルフリードの精神的な負担を軽くしてあげて、闇落ちの要因を減らすことができる!(はず)
<やること⑥>
ジョナスン皇太子様と側近の立場になるアルフリードが仲良くやっていけるようにすること。
エルラルゴ王子様の話から、長い間他国にいたせいで戻ってきても政治は丸投げする可能性が高い皇太子様。
誰かに政権を握られて皇太子様が操られ、協調性があって頭もいいアルフリードが帝国の中心から追い出されたりしたら大変。
もしそうなったら帝国の危機にすらなりかねない事態だし、もともとはそれを防いで皆がハッピーになるためにアルフリードを救おうって始めた事だったんだから。
はぁはぁ……
結構やる事が多いわね。こんなに設定を複雑にして完走できるのか心配になってきたわ……
ダメダメ! 弱気になっちゃだめ!
<やること⑦>
そして最後……原作通りエルラルゴ王子様がいなくなった場合、独り身となる皇女様を想い始めるだろう、アルフリードのために、私との婚約を破棄してあげること。
そのためには、婚約の最大の理由であるエスニョーラ家の“後ろ盾”となる別の方法を探すこと。
そして今日、この温室の中にある書斎にやってきたのは
“<やること①>
王子様から頼まれていた、私が皇女様に女騎士を志願した理由として捏造した小説を書いて渡すこと。”
これをやろうと思って。
やっぱりこれは後悔のないように、早く取り掛かってしまいたい。
だけど……私、小説なんて書いた事ないんだけど!!
ああ、なんであんな嘘言っちゃったんだろう。
王子様が喜んでくれるような話、何か思いつくかな。
しかもお題が決まってるなんて。
私はウンウン言いながら、途中でお昼を食べに行ったり、公爵家のパーティーからテイクアウトさせてもらった皇城のパティシエさんのプチケーキでお茶したり、お昼寝したりしながら、なんとかその日のうちに短いながらも一話を完成させたのだった。
そして次の日、いつもより遅い時間にアルフリードがやってきた。
王子様に渡すつもりの昨日書いた小説をカバンに入れて玄関を出ると、いつも停まっているはずのヘイゼル家の黒くてカッコいい馬車がない。
それに何よりアルフリードがいないんだけど!!
どういうこと?
私は玄関の前のロータリーになっている丸い植え込みの方まで出て行った。
そして、あたりをキョロキョロと見渡していると、背後から巨大な影が私の影を覆い尽くした。
ハッとして後ろを振り返るとそこには、巨大な穴が二つ……そしてベロっと顔を舐められた。
「こら! ガンブレッド、可愛いからって食べちゃダメだろ」
そこにあったのは、上の方から見下ろしているアルフリードの姿と、横に長いまつげと大きくて真っ黒な瞳がついた、茶色い馬の顔のアップだった。
眠っていた自分の部屋のベッドにはカーテンの隙間から差し込む光が注いでいる。
昨日は、本当に夢のような時間が過ぎていった。
結局あのあと、披露会がお開きになるまでアルフリードは私を抱えたままだった。
『エミリアはこれから、どんな所に行きたい? どこへでも連れて行ってあげるからね』
口付けされたのを思い出して湯気が出そうになっている私のことが分かっているのか、分かっていないのか、彼はそんな事を嬉しそうに喋っていた。
『やはり帝都には面白い店がたくさんありますからな、2人でデートするのが一番ですよ』
『カナンダラの海岸は夕日が綺麗ですから、一度見てくるといい』
周りに座っている人達も、おすすめスポットを一斉にあげてきたりして。
私にとってあの一大イベントだった次の日の今日は、さすがに皇城へ行くのはお休みで、家でゆっくり過ごすことになった。
これまでは広大なエスニョーラ邸も人目につくような一部の場所は立ち入り禁止にされていたけれど、昨日でそれも終わったのだ。
朝ごはんを食べた後、私はノートとペンを持って、前から気になっていた庭の一角にあるドーム状の温室へ行ってみた。
そこには、手入れの行き届いた草や花が咲いた鉢植えがいくつも飾ってあって、その奥の方にはテーブルセットが置かれていた。
皇女様が馬車の事故に遭うまであと3年。
アルフリードとの結婚まであと2年。
いつかは分からないけど、その間に確実に戻ってくる皇女様のお兄様、ジョナスン皇太子様。
そして、原作通りなら皇太子様が戻る前に、いなくなってしまうのが濃厚なエルラルゴ王子様。
その予定に従って、私にはやらなければならない事がいくつもあった。
婚約パーティーが終わって全てが燃え尽きたような気分がするけど、アルフリードを救うための勝負はこれからが始まりなのだ!
一応、やることを整理しておくと……
<やること①>
王子様から頼まれていた、私が皇女様に女騎士を志願した理由として捏造した小説を書いて渡すこと。
<やること②>
幽霊屋敷の公爵邸を明るく快適な空間に維持して、人形みたいな感情のない使用人たちを人間らしくすること。
これによって、アルフリードの精神的な負担を軽くしてあげて、闇落ちの要因を減らすことができる!(はず)
<やること③>
王子様がいなくなってしまう予兆を掴むこと。
これはちょっと難しい……女騎士みたいにずっと王子様の側に付いているなんて、できっこないし、できる限り彼の動向に注意しておくくらいしかできない。
<やること④>
皇女様の女騎士になる鍛錬を積むこと。
これは、ひたすら皇女様の指導に従って技術を磨いていくしかないわね。
当初は形だけの女騎士を目指していたけど、めちゃくそ強い皇女様が防げなかった程の事故。
私もお守りするために、相当強くなる必要性が出てきた。
<やること⑤>
皇女様が事故に遭う少し前に亡くなってしまう公爵様の死を防ぐこと!
これによって、アルフリードの精神的な負担を軽くしてあげて、闇落ちの要因を減らすことができる!(はず)
<やること⑥>
ジョナスン皇太子様と側近の立場になるアルフリードが仲良くやっていけるようにすること。
エルラルゴ王子様の話から、長い間他国にいたせいで戻ってきても政治は丸投げする可能性が高い皇太子様。
誰かに政権を握られて皇太子様が操られ、協調性があって頭もいいアルフリードが帝国の中心から追い出されたりしたら大変。
もしそうなったら帝国の危機にすらなりかねない事態だし、もともとはそれを防いで皆がハッピーになるためにアルフリードを救おうって始めた事だったんだから。
はぁはぁ……
結構やる事が多いわね。こんなに設定を複雑にして完走できるのか心配になってきたわ……
ダメダメ! 弱気になっちゃだめ!
<やること⑦>
そして最後……原作通りエルラルゴ王子様がいなくなった場合、独り身となる皇女様を想い始めるだろう、アルフリードのために、私との婚約を破棄してあげること。
そのためには、婚約の最大の理由であるエスニョーラ家の“後ろ盾”となる別の方法を探すこと。
そして今日、この温室の中にある書斎にやってきたのは
“<やること①>
王子様から頼まれていた、私が皇女様に女騎士を志願した理由として捏造した小説を書いて渡すこと。”
これをやろうと思って。
やっぱりこれは後悔のないように、早く取り掛かってしまいたい。
だけど……私、小説なんて書いた事ないんだけど!!
ああ、なんであんな嘘言っちゃったんだろう。
王子様が喜んでくれるような話、何か思いつくかな。
しかもお題が決まってるなんて。
私はウンウン言いながら、途中でお昼を食べに行ったり、公爵家のパーティーからテイクアウトさせてもらった皇城のパティシエさんのプチケーキでお茶したり、お昼寝したりしながら、なんとかその日のうちに短いながらも一話を完成させたのだった。
そして次の日、いつもより遅い時間にアルフリードがやってきた。
王子様に渡すつもりの昨日書いた小説をカバンに入れて玄関を出ると、いつも停まっているはずのヘイゼル家の黒くてカッコいい馬車がない。
それに何よりアルフリードがいないんだけど!!
どういうこと?
私は玄関の前のロータリーになっている丸い植え込みの方まで出て行った。
そして、あたりをキョロキョロと見渡していると、背後から巨大な影が私の影を覆い尽くした。
ハッとして後ろを振り返るとそこには、巨大な穴が二つ……そしてベロっと顔を舐められた。
「こら! ガンブレッド、可愛いからって食べちゃダメだろ」
そこにあったのは、上の方から見下ろしているアルフリードの姿と、横に長いまつげと大きくて真っ黒な瞳がついた、茶色い馬の顔のアップだった。
0
お気に入りに追加
203
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。
しかも、定番の悪役令嬢。
いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。
ですから婚約者の王子様。
私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活
ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。
「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」
そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢!
そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。
「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」
しかも相手は名門貴族の旦那様。
「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。
◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用!
◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化!
◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!?
「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」
そんな中、旦那様から突然の告白――
「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」
えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!?
「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、
「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。
お互いの本当の気持ちに気づいたとき、
気づけば 最強夫婦 になっていました――!
のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?


この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる