皇女様の女騎士に志願したところ彼女を想って死ぬはずだった公爵子息に溺愛されました

ねむりまき

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第2部 彼を救うための仕込み

28.エミリアがやらなきゃいけない事の復習

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鳥のさえずりが聞こえて、私は目を覚ました。

眠っていた自分の部屋のベッドにはカーテンの隙間から差し込む光が注いでいる。

昨日は、本当に夢のような時間が過ぎていった。


結局あのあと、披露会がお開きになるまでアルフリードは私を抱えたままだった。

『エミリアはこれから、どんな所に行きたい? どこへでも連れて行ってあげるからね』

口付けされたのを思い出して湯気が出そうになっている私のことが分かっているのか、分かっていないのか、彼はそんな事を嬉しそうに喋っていた。

『やはり帝都には面白い店がたくさんありますからな、2人でデートするのが一番ですよ』

『カナンダラの海岸は夕日が綺麗ですから、一度見てくるといい』

周りに座っている人達も、おすすめスポットを一斉にあげてきたりして。


私にとってあの一大イベントだった次の日の今日は、さすがに皇城へ行くのはお休みで、家でゆっくり過ごすことになった。

これまでは広大なエスニョーラ邸も人目につくような一部の場所は立ち入り禁止にされていたけれど、昨日でそれも終わったのだ。

朝ごはんを食べた後、私はノートとペンを持って、前から気になっていた庭の一角にあるドーム状の温室へ行ってみた。
そこには、手入れの行き届いた草や花が咲いた鉢植えがいくつも飾ってあって、その奥の方にはテーブルセットが置かれていた。

皇女様が馬車の事故に遭うまであと3年。
アルフリードとの結婚まであと2年。
いつかは分からないけど、その間に確実に戻ってくる皇女様のお兄様、ジョナスン皇太子様。

そして、原作通りなら皇太子様が戻る前に、いなくなってしまうのが濃厚なエルラルゴ王子様。


その予定に従って、私にはやらなければならない事がいくつもあった。

婚約パーティーが終わって全てが燃え尽きたような気分がするけど、アルフリードを救うための勝負はこれからが始まりなのだ!

一応、やることを整理しておくと……

<やること①>
王子様から頼まれていた、私が皇女様に女騎士を志願した理由として捏造した小説を書いて渡すこと。

<やること②>
幽霊屋敷の公爵邸を明るく快適な空間に維持して、人形みたいな感情のない使用人たちを人間らしくすること。

これによって、アルフリードの精神的な負担を軽くしてあげて、闇落ちの要因を減らすことができる!(はず)

<やること③>
王子様がいなくなってしまう予兆を掴むこと。

これはちょっと難しい……女騎士みたいにずっと王子様の側に付いているなんて、できっこないし、できる限り彼の動向に注意しておくくらいしかできない。

<やること④>
皇女様の女騎士になる鍛錬を積むこと。

これは、ひたすら皇女様の指導に従って技術を磨いていくしかないわね。
当初は形だけの女騎士を目指していたけど、めちゃくそ強い皇女様が防げなかった程の事故。
私もお守りするために、相当強くなる必要性が出てきた。

<やること⑤>
皇女様が事故に遭う少し前に亡くなってしまう公爵様の死を防ぐこと!

これによって、アルフリードの精神的な負担を軽くしてあげて、闇落ちの要因を減らすことができる!(はず)

<やること⑥>
ジョナスン皇太子様と側近の立場になるアルフリードが仲良くやっていけるようにすること。

エルラルゴ王子様の話から、長い間他国にいたせいで戻ってきても政治は丸投げする可能性が高い皇太子様。

誰かに政権を握られて皇太子様が操られ、協調性があって頭もいいアルフリードが帝国の中心から追い出されたりしたら大変。

もしそうなったら帝国の危機にすらなりかねない事態だし、もともとはそれを防いで皆がハッピーになるためにアルフリードを救おうって始めた事だったんだから。


はぁはぁ……
結構やる事が多いわね。こんなに設定を複雑にして完走できるのか心配になってきたわ……

ダメダメ! 弱気になっちゃだめ!

<やること⑦>
そして最後……原作通りエルラルゴ王子様がいなくなった場合、独り身となる皇女様を想い始めるだろう、アルフリードのために、私との婚約を破棄してあげること。

そのためには、婚約の最大の理由であるエスニョーラ家の“後ろ盾”となる別の方法を探すこと。


そして今日、この温室の中にある書斎にやってきたのは

“<やること①>
王子様から頼まれていた、私が皇女様に女騎士を志願した理由として捏造した小説を書いて渡すこと。”

これをやろうと思って。

やっぱりこれは後悔のないように、早く取り掛かってしまいたい。

だけど……私、小説なんて書いた事ないんだけど!!

ああ、なんであんな嘘言っちゃったんだろう。
王子様が喜んでくれるような話、何か思いつくかな。
しかもお題が決まってるなんて。

私はウンウン言いながら、途中でお昼を食べに行ったり、公爵家のパーティーからテイクアウトさせてもらった皇城のパティシエさんのプチケーキでお茶したり、お昼寝したりしながら、なんとかその日のうちに短いながらも一話を完成させたのだった。


そして次の日、いつもより遅い時間にアルフリードがやってきた。

王子様に渡すつもりの昨日書いた小説をカバンに入れて玄関を出ると、いつも停まっているはずのヘイゼル家の黒くてカッコいい馬車がない。

それに何よりアルフリードがいないんだけど!!
どういうこと?

私は玄関の前のロータリーになっている丸い植え込みの方まで出て行った。
そして、あたりをキョロキョロと見渡していると、背後から巨大な影が私の影を覆い尽くした。

ハッとして後ろを振り返るとそこには、巨大な穴が二つ……そしてベロっと顔を舐められた。

「こら! ガンブレッド、可愛いからって食べちゃダメだろ」

そこにあったのは、上の方から見下ろしているアルフリードの姿と、横に長いまつげと大きくて真っ黒な瞳がついた、茶色い馬の顔のアップだった。
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