皇女様の女騎士に志願したところ彼女を想って死ぬはずだった公爵子息に溺愛されました

ねむりまき

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第1部 隠された令嬢

23.囚われの姫に囚われた彼 披露会編1

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「今回のテーマは、いつもの親しみやすい君の可愛らしさをあえて封印した”ミステリアスビューティー”」

 あまりの変貌ぶりに鏡の中の私が目を見開いて硬直していると、王子様は持っていた化粧ブラシを指でくるりと回して、ビシッと私に向けた。

「隠された令嬢の名にふさわしく、まるで深い森の中に人知れず幽閉されていた囚われの姫のような神秘さと美しさを全面に引き出してみたのさ」

 な、なるほど……王子様の脳内ではそんなストーリーが練り上げられていたのね。

「あの公爵邸の不気味さも、そんな姫がずっと囚われていた廃墟の城ってイメージを逆に利用して装飾や照明にもこだわってみたよ」

 そうそう、王子様は披露会全体のプロデュースも任されているんだった。
 あのお屋敷もすごい変貌を遂げたんだろうか……想像もつかない。

「お嬢様、婚約者様がお見えになりま……」

 呼ばれてそちらを向くと、声をかけたメイドは口をあんぐりと開けて、固まっていた。

「し、失礼いたしました! あんまりお綺麗なので……」

 頬を赤くして彼女は私が外に出る準備が整うまで、そそくさと部屋の入り口で待機していた。

 気づけば準備を手伝ってくれている他のメイド達も、同じように頬を赤らめて言葉数も無くいつもと様子が違っていた。

「私は後でソフィと会場に向かうから。行ってらっしゃい」

 準備が整うと、王子様はニコッとしながら部屋から出たところで私を見送った。


 階段を降りて玄関ホールへ向かうと、金色の肩飾りの付いた黒い正装をまとったアルフリードがこちらを背にして立っていた。

 ドレスの衣擦れの音に気づいたのか、こちらを振り返った。

 いつもは下ろしている柔らかそうな前髪がキッチリと後ろに固められて、額が露わになっている。
 今まで知っている彼とは雰囲気の違う整ったハンサムな顔立ちが視界に飛び込んできた。

 それにスタイルの良さが際立つその正装姿は、まるで彼の周りだけキラキラと輝いているみたいに見える。

 反対にアルフリードはといえば、私が初めて彼の前に現れた時みたいに、神妙な面持ちで固まってこちらを見ていたけれど、次第に催眠術にかかったみたいにボンヤリとした表情を浮かべていった。

「エミリア……なんて綺麗なんだ……こんなに美しいなんて。いや、言葉では表せないくらい……」

 彼は私の手を取ると、もう何度もしたことがあるのに、なぜか恐る恐るその甲に口付けをした。

 さっき……いつもならエミリアと呼ぶのに、呼び捨てだったのは気のせい?

「エミリア。じゃあ、行こうか」

 やっぱり気のせいじゃない!

 彼が差し出した腕に、おずおずと私は自分の腕をからませた。

 こうして触れるだけで心臓が狂ったみたいに高鳴り出す。

 早くこの夜から解放されたい……私は祈るように心の中でそう唱えながら馬車に乗り込んだ。


 公爵邸に到着するとまず目についたのは、暖炉の炎のようなオレンジ色の光が下からライトアップされた、屋敷の外観だった。
 つたがそこら中に絡みついているのも相まって、怪しげで幻想的な世界に入り込んだみたいな気がしてくる。

 中に入ると、以前は暗闇に倹約のためかポツンポツンとしかロウソクの火が灯されていなかったけど、見違えるほど明るくなっていた。

 といっても皇城やエスニョーラ邸より断然薄暗いのだが、アンティーク感漂う置物や、築年数を感じさせずにはいられない内装にもマッチした落ち着いた明るさで、怖さは不思議と感じさせないオシャレ空間と化していた。


 会場となる舞踏室に向かう間、アルフリードは私の方を見つめては、夢から覚めたみたいにハッとして前を向くのだけど、気づくとまた私の方を見つめている、という動作を何回も繰り返していた。

 私もそんな視線を感じると、思わず体が固まって頭の中が真っ白になりそうになる。
 2人ともこんな状態で、招待客との対応が持つのだろうか……もっとしっかりしなくては!


「……それでは2人を紹介する」

 時間となり招待客が集まった舞踏室の正面奥にある舞台上には、挨拶をしている公爵様と、お父様とお母様が立っている。

 舞踏室は4階分はあろうかという吹き抜けに、立派なシャンデリアが何台も天井から吊るされていて、豪華だけれど厳かで、まるで石造りの礼拝堂のような雰囲気だ。

 3人が立っている舞台の両サイドには2階部分へ上がれる立派な階段が備えつけられていて、会場の人々からは階段の影になって見えないスペースに私とアルフリードは待機していた。

 公爵様からの合図を受けて、いよいよ人前に出なければいけないのかと思うと、分かっているのに緊張が走る。

 思わず、アルフリードに絡めている腕に力がこもって震えてる……と自分自身で気づいたとき、トントンと肩を叩かれた。
 見ると、アルフリードが“大丈夫”と声に出さずに口だけ開いて、いつもの優しい控えめな笑みを浮かべていた。

 なぜかそれを見ると自信が湧いてきて、震えが止った。


 アルフリードが歩き出すのに置いて行かれないように付いて舞台に出ると、こちらを見ている人々から一斉に息を飲む音が聞こえた。
 ヒソヒソと話しているご婦人方が何人か見えたりする。

「こちらはエスニョーラ侯爵家の長女エミリア嬢だ。彼女は病弱でずっと邸宅で療養していたが、夢遊病によりあの日会場に迷い込んでしまった」

 公爵様は簡単に私の紹介をしていた。
 少し説明に無理がある気がするけれど、私の行動を精一杯かばってくださって本当にありがとうございます……

「今では病状も快方に向かい、息子アルフリードとの婚約話を進めることになった。今宵は2人を祝福して、飲んだり踊ったり楽しく過ごしてくれたまえ」

 拍手が鳴り響くと、音楽団の優雅な音楽が流れ始めて、いよいよ招待客からの挨拶タイムが始まった。


 さあ、さあ、どこからどんな攻撃が飛んでくるの!
 心の中で身構えていると、最初のお客様がやってきた。
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