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第1部 隠された令嬢
20.アルフリードの視点 その2
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だけどさっきは本当に驚いた。
急に胸に飛び込んできたエミリアに、思わずこれは夢なんじゃないかと疑わずにはいられなかった。
腕を回した時に触れたその体は小さくて、細くて柔らかくて、小刻みに震える様はすぐに壊れてしまいそうだった。
頬を真っ赤に染めて涙を滲ませるその愛らしくて可憐な顔が僕を見上げてきた時、どんな衝動に煽られたか君は分かってるんだろうか。
涙をキスで吸い取って、大丈夫だよ、と言ってやりたい。
それから、いつもより赤く色づいたその唇にも……
だけど……結婚してからか、君の方からいいよ、と言ってもらえるまでは、そういう事はしないと決めていたから。
いつもだったら帰りの馬車の中で飽きるほど君を見つめていられるのに、それも出来なかった。
こんなに耐えるということが辛いなんて、息をするのも苦しいくらいだ。
それにしても、あいつらはエミリアがいるのにイチャイチャしやがって。
まだエルラルゴが人質でいた頃も、人目のない所ではあんなんだったっけか。
何度気まずい思いをしたか。
その反面、自分にも一途に好きになれるような相手に会ってみたいとも思っていた。
やっぱり、それはエミリア
君しかいないと思うんだ。
君が目の前に現れてからこれまでの短い間に、色んな顔を知ることができた。
初めて邸宅を訪れた時に、嬉しそうにニコニコしながらお菓子を頬張る姿。
こんなに高価でないもので喜んでくれるのか半信半疑だったけれど、“大好き”と言ってくれた時の君は、最高に可愛かった。
そのあと、母君が侯爵様に呼ばれた時に浮かべた優しく、慈愛に満ちた微笑み。
もし勤務帰りにあんな笑顔が屋敷から出迎えてくれたら、その日の疲れも一気に吹き飛ぶに違いない。
あの時は君と2人きりになれたのが嬉しくて、母君が席を立った後、口端についたケーキの欠片でイタズラしたり、手をずっと握っていたり、少しはしゃぎ過ぎだったかな。
ソフィアナに話の腰を折るなと言われたけど、初めて皇城へ連れて行った日も、その笑顔が見たくて笑わせようとしたんだった。
あと、勉強熱心で努力家だってことも分かった。
兄上が作った問題集もいつも暇さえ見つけて取り組んでいるし、エルラルゴが人質になった経緯を話した時は、すごく真剣で興味津々だった。
途中で具合が悪そうにしていたのは心配だったが……出会った日までは本ばかり読んで過ごしていたと聞いていたから、エミリアが知る小説の世界よりも衝撃的な内容だったのかもしれない。
あれからは元気そうにしているから良かったけれど。
剣術も大丈夫なのかと不安だったが、あんなに小柄な体なのに思いのほか上手く扱えていた。
騎士だったら馬もいれば格好がつくから、いつか用意してやりたい。
他にも、母君が話していたシーツを結んで部屋から脱出した話はおかしかったな。
女騎士になりたいという理由も、突拍子もなくて笑いを堪えるのが大変だった。
本当に面白い子だ。
だけど……初対面の時の、あの力強い瞳には、小説の世界への憧れ以上にもっと奥深い信念があるように思えた。
まだエミリアは何かを隠しているように感じる。
それはいつか、僕に心を許して話してくれる日が来るのを信じるしかない。
ソフィアナが皇城に招きたいと言っている話をした時も、同じ生き生きとした瞳をしていた。
エミリアのその瞳がソフィアナに向けられている事が眩しくて直視することが出来なかった。
その視線の先が自分でないことに、ここまで心が掻き乱されるなんて……
どうしたら、あの輝く瞳を僕だけに向けさせることが出来るんだろう?
結婚するなら契約上だけでなく、身も心も全て自分のモノにしてしまいたいのに。
そのためなら2年間、どんな事も出来るし、どんな事にも耐えられる。
初めて会った日に『君を虜にしてみせる』なんて言ってしまったけど、この気持ちをどうやって伝えればいいんだろう……
やっぱりソフィアナとエルラルゴには止められたけど、贈り物を送るくらいしか今は思いつかない。
まずは婚約式でエミリアを誰もがひるむくらいに美しく着飾らせて、どれほど彼女を想っているか分からせてやる。
エルラルゴには今回のセレモニーの演出を頼んでいるし、特に女性の装いに関してはプロだから、どんな大金をはたいてでもやってもらおう。
そうして色々考えていると、馬車はうちの屋敷に到着した。
母上が生きていた頃は、親しい人だけを招いてガーデンパーティーなんかを時々開いていた。
どういう訳か今では皆うちに寄りつかなくなってしまったから、こうした催しをやるのも久しぶりだ。
この婚約式で1つだけ前から考えているお願いがあった。
フィアンセという特別な関係なんだ。きっと君は聞き入れてくれるよな……
急に胸に飛び込んできたエミリアに、思わずこれは夢なんじゃないかと疑わずにはいられなかった。
腕を回した時に触れたその体は小さくて、細くて柔らかくて、小刻みに震える様はすぐに壊れてしまいそうだった。
頬を真っ赤に染めて涙を滲ませるその愛らしくて可憐な顔が僕を見上げてきた時、どんな衝動に煽られたか君は分かってるんだろうか。
涙をキスで吸い取って、大丈夫だよ、と言ってやりたい。
それから、いつもより赤く色づいたその唇にも……
だけど……結婚してからか、君の方からいいよ、と言ってもらえるまでは、そういう事はしないと決めていたから。
いつもだったら帰りの馬車の中で飽きるほど君を見つめていられるのに、それも出来なかった。
こんなに耐えるということが辛いなんて、息をするのも苦しいくらいだ。
それにしても、あいつらはエミリアがいるのにイチャイチャしやがって。
まだエルラルゴが人質でいた頃も、人目のない所ではあんなんだったっけか。
何度気まずい思いをしたか。
その反面、自分にも一途に好きになれるような相手に会ってみたいとも思っていた。
やっぱり、それはエミリア
君しかいないと思うんだ。
君が目の前に現れてからこれまでの短い間に、色んな顔を知ることができた。
初めて邸宅を訪れた時に、嬉しそうにニコニコしながらお菓子を頬張る姿。
こんなに高価でないもので喜んでくれるのか半信半疑だったけれど、“大好き”と言ってくれた時の君は、最高に可愛かった。
そのあと、母君が侯爵様に呼ばれた時に浮かべた優しく、慈愛に満ちた微笑み。
もし勤務帰りにあんな笑顔が屋敷から出迎えてくれたら、その日の疲れも一気に吹き飛ぶに違いない。
あの時は君と2人きりになれたのが嬉しくて、母君が席を立った後、口端についたケーキの欠片でイタズラしたり、手をずっと握っていたり、少しはしゃぎ過ぎだったかな。
ソフィアナに話の腰を折るなと言われたけど、初めて皇城へ連れて行った日も、その笑顔が見たくて笑わせようとしたんだった。
あと、勉強熱心で努力家だってことも分かった。
兄上が作った問題集もいつも暇さえ見つけて取り組んでいるし、エルラルゴが人質になった経緯を話した時は、すごく真剣で興味津々だった。
途中で具合が悪そうにしていたのは心配だったが……出会った日までは本ばかり読んで過ごしていたと聞いていたから、エミリアが知る小説の世界よりも衝撃的な内容だったのかもしれない。
あれからは元気そうにしているから良かったけれど。
剣術も大丈夫なのかと不安だったが、あんなに小柄な体なのに思いのほか上手く扱えていた。
騎士だったら馬もいれば格好がつくから、いつか用意してやりたい。
他にも、母君が話していたシーツを結んで部屋から脱出した話はおかしかったな。
女騎士になりたいという理由も、突拍子もなくて笑いを堪えるのが大変だった。
本当に面白い子だ。
だけど……初対面の時の、あの力強い瞳には、小説の世界への憧れ以上にもっと奥深い信念があるように思えた。
まだエミリアは何かを隠しているように感じる。
それはいつか、僕に心を許して話してくれる日が来るのを信じるしかない。
ソフィアナが皇城に招きたいと言っている話をした時も、同じ生き生きとした瞳をしていた。
エミリアのその瞳がソフィアナに向けられている事が眩しくて直視することが出来なかった。
その視線の先が自分でないことに、ここまで心が掻き乱されるなんて……
どうしたら、あの輝く瞳を僕だけに向けさせることが出来るんだろう?
結婚するなら契約上だけでなく、身も心も全て自分のモノにしてしまいたいのに。
そのためなら2年間、どんな事も出来るし、どんな事にも耐えられる。
初めて会った日に『君を虜にしてみせる』なんて言ってしまったけど、この気持ちをどうやって伝えればいいんだろう……
やっぱりソフィアナとエルラルゴには止められたけど、贈り物を送るくらいしか今は思いつかない。
まずは婚約式でエミリアを誰もがひるむくらいに美しく着飾らせて、どれほど彼女を想っているか分からせてやる。
エルラルゴには今回のセレモニーの演出を頼んでいるし、特に女性の装いに関してはプロだから、どんな大金をはたいてでもやってもらおう。
そうして色々考えていると、馬車はうちの屋敷に到着した。
母上が生きていた頃は、親しい人だけを招いてガーデンパーティーなんかを時々開いていた。
どういう訳か今では皆うちに寄りつかなくなってしまったから、こうした催しをやるのも久しぶりだ。
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