上 下
23 / 25
Ⅱ.心変わり

23.残り物のドレス

しおりを挟む
イリス
——

フィリプス先生との初めての明細回収の仕事が終わって、また図書館でさっき聞いた事件のことを調べてみた。

だけど、参考書を見た限りでは見つけ出すことができなかった。

そして、後ろ髪を引かれながらも、ラドルフ様が使えと命じて常に待機してるエスニョーラ邸の馬車で屋敷に帰ってくると、久々の舞踏会の準備をすることになった。

皆に会うのも、皇城に呼び出される前に会ったキリだ。

ダンスもいつも通り1回で切り上げてもらって、経過報告とさらなる意見の聞き込みを行わなくては。

「イリス様、ご準備できました!」

なんて事を考えていると、いつも出掛ける前のエステやメイク、ドレスのコーディネートをしに出張に来てくれてるエステティシャンのアリスさんが声掛けしてくれた。

全身の見える鏡を持ってきてくれて、そこに映った自分の姿に唖然とした。

「ア、ア、アリスさん……この格好はちょっと露出し過ぎじゃありません!?」

なんか肩もデコルテも丸見えだし、おまけに胸元がすんごい開いてて落ちちゃいそうなんだけど……

「そんな事ありませんよ。イリス様はプロポーションも抜群だから完全に着こなしていらっしゃいますし、見目麗しい侯爵子息様と並ぶとさらにエレガントで、よく計算尽くされた素晴らしいご衣装です」

うーん……ラドルフ様の見た目はそう言われて当然なのは分かるけど、私の事に関してはお世辞のようにしか思えない……

でも思い起こせば、これまで着て行ってたドレスはこういうデザインを避けたから、もうこんなのしか残ってないのかも。

気が引けるけど、いつもと違う雰囲気だから少しはあの人も違う反応を示してくれたら嬉しいな……なんて思ってしまった。

「会場で驚かせたいから、それまでこれを羽織ってましょう。あ、いけません! 私もう次の出張先に行く時間ですので、これで失礼いたします!」

人気があって多忙なアリスさんは、バサっと肩から胸元まで完全に覆えるショールを私に被せると、バタバタとしながらお屋敷を飛び出して行った。


ラドルフ
——

「貴婦人を狙った連続暗殺事件?」

馬車で今日の夜会先に向かう中、薄紫色をした肩掛けをしてるイリスは以前ダンス特訓をした騎士学校教師から聞いたという話をしていた。

皇女たちからの呼び出しの前は距離を感じるようになっていたが、話が前に進み出したらやる気が出たらしく、俺とも普通に話をするようになっていた。

今まで勉学だろうが仕事覚えるのだろうが仲間なんか作らず、1人でやってきたから学校時代の友人がそんなにいいのかよく分からないが、人のためにこうまで頑張れる姿を見ているのは特段……嫌でもなかった。

「はい、図書館に置いてある資料を見てもどこにも載ってなくて……ラドルフ様はこれまでに聞いたことはありませんか?」

困ってうつむいてる顔も可愛いな……なんて頭の片隅で勝手に声が聞こえるのを放置しながら、脳内に記憶しているこれまでに読んだ歴史書の内容をサーチした。

過去の歴史は残された物に頼るしかない。大筋は一緒でも細かい出来事までは書物によって省かれたり、加筆されてたりで異なっている。だから幼い頃から邸宅に置いてあるのやら、それこそ帝国図書館にあるのを網羅したり、帝都の本屋でも取り寄せて読んだりした。

だが、その事件のことは見つからない。

「いいや、俺も聞いたことないな」

「そうですか……」

さらに残念そうにイリスはため息をついた。

戦時中はまあ闇に葬り去られる事柄が存在しない方がオカシイのかもしれない。
だが、もしかすると……
皇城には”特別書架”という一般人は立ち入れない重要な書物が保管されているエリアがある。
俺も入ったことは無いが、何か手がかりがあるかも。

それが今回の女騎士の地位向上プロジェクトに関係があるかは不明だが……


今日の夜会会場に到着した。

まずは主催者に挨拶して、知り合いと情報交換して、アイツの好きな軽食巡りに付き合ってやって、そしたらあの時間だな。

「羽織りものをお預かりいたします」

会場である屋敷の使用人がイリスの肩掛けを預かろうとした。

今日はどんな服なんだろうな……
さすがは一流の仕立て屋に頼んでいるだけあって、毎回違うなりによく似合っている。

そして、その薄い紫色した衣が肩からスルっと外されて、この場に晒されたその光景に一気に血流が遡るような感覚が体中で巻き起こった。

肩掛けが使用人に渡されて向こうの方にスタスタと持っていかれると、真正面にその姿が差し向けられた。

細くくびれた腰に、何も身につけていないヒジのあたりまで晒された引き締まった白い肩と腕。
形よく浮き出た左右の鎖骨。

そしてその下に広がる、張りがあって、でも柔らかそうで、十分なほどに膨らんだその乳房……


ダメだ!!
これ以上見てたら、気がおかしくなる!

瞬時にダラけそうになる顔を引き締めるつもりで眉間に力を入れて、口元を押さえながら横を向いた。

一体、どういうつもりなんだ……?

今さっきまで一流の仕立て屋だって褒め称えてたっていうのに、こんな裸も同然のもの持ち込みやがって……

いや、待て。

もしや、1番最初に仕立てを頼んだ時、通常は7日かかるのを2日で終わらせろって注文に根を持ってこんな仕打ち吹っ掛けてきた訳じゃ無いだろうな……?

くっっそ!

横目でもう一度その姿を捉えようとしたが、谷間が一瞬チラついただけで体中が熱くなりだした。

もうこれは……完敗だ……

「少し……風に当たってくる」

今日がこんな最悪な日になるとは、全く予想もしていなかった。

会場の奥の方に見えるテラスへ、無様だとは分かっていても足早に退場した。

あんな姿を見て平常心を保てるはずがない。
いつ獣みたいに理性を失って襲いかかってしまうか。

散々、向こうのことを野蛮、野蛮と言っていたが、本当に野蛮なのは俺自身だった……

「ラドルフ様、ごきげんよう」

テラスの手すりに腕を乗せて、さらにそこに額を置いて伏せていると後ろから声がした。

振り向くとそこに立っていたのは、あの2日の超特急で仕立て屋を働かせることになった根本である、元目つきの悪い令嬢とその女騎士だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

夫には愛人がいたみたいです

杉本凪咲
恋愛
彼女は開口一番に言った。 私の夫の愛人だと。

どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。 辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。 やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。 アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。 風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。 しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。 ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。 ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。 ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。 果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか…… 他サイトでも公開しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACより転載しています。

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

処理中です...