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Ⅰ.最悪の相性の2人
11.見てくれだけの男
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ラドルフ
ーーーーー
ヤツの承諾もとった訳だし、家族が集まった馬車の中でその話題に触れた。
「なぁに、エル様のレッスンを申し込みたいですって? そんなの予約が取れる訳ないでしょ!」
「お兄様、王子様はいま皇女様と旅行中だから帰ってくるまで無理だよ」
1番の有名どころといったらエミリアも特訓を受けたナディクス国の王子だ。
しかし、その望みは速攻で母上とエミリアによって絶たれた。
「そんな王子様のレッスンなんて、恐れ多くてむしろ良かったです……」
全く、すぐに縮こまりやがって。もっと堂々としてもらわないと、舞踏会でなんざ馬鹿にされるぞ。
しかし、他に目星いのといったらどこがいる?
「団長の知り合いで聞いたことがあるな……」
父上から呟きが聞こえた。
騎士団長の知り合いねぇ、それはちょっと意外だな。
次の日、マニュアル本の四半期に一度のチェックがやってきた。
ついでに、エミリアにこないだ作ってやった、貴族史の問題集も最新版を作り直してやろう。
この日はそうして過ごして終わり、次の日、騎士団長がナディクスの王子の代わりを連れてきた。
「ほら、イリス! ちゃんと目を開けなさい、全然違う方に行っちゃってるじゃない……フィアンセ様はあんたの後ろよ!」
「だって先生、あの人に触ろうとすると勝手に目が閉じちゃうんですっ」
やってきたのは、ヤツの通ってた騎士学校の保健室の相談員兼、ダンス講師という、見てくれは男なんだが話し方、仕草は女というなかなかの人物だった。
イリス
ーーーー
うっわぁ、フィリプス先生じゃん! なっつかし~
だいたい、どこの騎士団の団長も学校の先生と懇意にしてるからね。
でも、うちの団長がフィリプス先生を呼び出せちゃうほど、仲が良かったなんて意外。
騎士はその身分を隠して相手を護衛する場合もある。
舞踏会ではパートナーになりすまして護衛することもあるから、それを想定して学校ではダンスの授業もあった。
だから一応、私もダンスをちゃんと習ってる。
これでも、卒業パーティーでは何人かと踊ったんだから!
……といっても、女子が圧倒的に少なくて男子ばっかだったから必然的にそうなったんだけど。
そして、そのパーティー以来、踊ってなんかいない訳。
先生がやってきて、最初にやったのは2人で向かい合わずに、1人ずつステップを踏む練習。
これなら、いける……! 昔から体を動かすのは好きだったから、だんだん感覚が蘇ってきた。
そして、いよいよ相手と組んで踊る段階のところまで来てしまった……
「ではでは、フィアンセ様から基本姿勢のほど、お願いしま……すっばらしいわ!!」
え……嘘でしょ。
先生が言い終わらない内に、ヤツは腕を上げて形を整えると、すんごい綺麗な姿勢を取り出した。
そういえば、お嬢様のパーティーでは手を差し伸べられたりなんかはしたけど、姿勢を整えるところまでは見てなかったんだ。
やっぱり、大貴族の息子。育ちの良さが染み付いちゃってるわ。
あんまり想像できないけど、これまでも踊ったことがあった訳?
「まぁ流石! 踊り慣れてらっしゃるようね。」
先生もやっぱそう思うわよね。
「いや、社交デビュー以来、全く今回が初めてだ」
ヤツは垂れてきた前髪を顔を振って避けながら、無表情な顔でそう言った。
まじか……キモいし、変態だけど頭がいいのは認める。
頭がいい人は1度やった事なら、すぐ完璧にできちゃうのよね。
「ほら、イリスも! 突っ立ってないで、ポーズを取りなさい」
大丈夫……そばに寄るくらいなら何とかなる。
肩に手を置いて……お、置けた! 服越しだから大丈夫なのかも。
次は右手を伸ばして、ちょっと触れた!
と思ったら、ヤツと目が合ったんだけど……目が合った瞬間に、昨日のことがフラッシュバックみたいに蘇ってきた。
たまたま、ちょっと戸が開いてて見えた分厚い本がたくさん置いてある部屋で、ヤツがニヤつきながら何かノートみたいのに書いていたのを。
『エミリア、喜ぶだろうな』
聞こえてきた、あのセリフ。
その時、冷たい手の感触が私の手に走った。
もう……だめ!! マジでキモいからっ!
暴れそうになる腕を何とか我慢して、ヤツからバッと離れた。
明らかに不機嫌そうな顔をされた。
「イリス~ 何してるの! もう一度!」
もう何回、先生に叱られてるか……
肩に手を掛けるところまでは何とか行くんだけど、手を握ろうとするとさっきのフラッシュバックがチラつくし、ヤツの顔を見るのもシンドくて目をつぶっちゃう。
そしたら、先生がついに私をヤツからちょっと離れた所に移動させて耳元でこちょこちょ話をしてきた。
「なーんか嫌なことがあって拒否してるんだろうけど、見た目、見た目だけに集中しなさい! なかなか、ダンスポーズがあんなに様になる男いないわよ」
ハッとした。
「さあさ、ごめんなさいね~フィアンセ様。ちょっと今、別のアドバイスをしましたから、もう一度だけ、ポーズをお願いしますわ」
だいぶ顔がブスッとしてきてはいたけど、先生に言われるとヤツはお手本みたいにピタッと静止した品があって、ずっと見ていられるような綺麗な姿勢を取った。
それに、イケメンだし、背もそこそこあるし、上半身は引き締まってるし。
こう見てると、私なんかがその横に立つのさえ申し訳ない気がしてきた……
でも、でも。絶対できないと思ってたのに、希望が湧いてきた。
これを利用するんだ。
見た目……そう、ヤツの見てくれだけに集中しよう。
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ヤツの承諾もとった訳だし、家族が集まった馬車の中でその話題に触れた。
「なぁに、エル様のレッスンを申し込みたいですって? そんなの予約が取れる訳ないでしょ!」
「お兄様、王子様はいま皇女様と旅行中だから帰ってくるまで無理だよ」
1番の有名どころといったらエミリアも特訓を受けたナディクス国の王子だ。
しかし、その望みは速攻で母上とエミリアによって絶たれた。
「そんな王子様のレッスンなんて、恐れ多くてむしろ良かったです……」
全く、すぐに縮こまりやがって。もっと堂々としてもらわないと、舞踏会でなんざ馬鹿にされるぞ。
しかし、他に目星いのといったらどこがいる?
「団長の知り合いで聞いたことがあるな……」
父上から呟きが聞こえた。
騎士団長の知り合いねぇ、それはちょっと意外だな。
次の日、マニュアル本の四半期に一度のチェックがやってきた。
ついでに、エミリアにこないだ作ってやった、貴族史の問題集も最新版を作り直してやろう。
この日はそうして過ごして終わり、次の日、騎士団長がナディクスの王子の代わりを連れてきた。
「ほら、イリス! ちゃんと目を開けなさい、全然違う方に行っちゃってるじゃない……フィアンセ様はあんたの後ろよ!」
「だって先生、あの人に触ろうとすると勝手に目が閉じちゃうんですっ」
やってきたのは、ヤツの通ってた騎士学校の保健室の相談員兼、ダンス講師という、見てくれは男なんだが話し方、仕草は女というなかなかの人物だった。
イリス
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うっわぁ、フィリプス先生じゃん! なっつかし~
だいたい、どこの騎士団の団長も学校の先生と懇意にしてるからね。
でも、うちの団長がフィリプス先生を呼び出せちゃうほど、仲が良かったなんて意外。
騎士はその身分を隠して相手を護衛する場合もある。
舞踏会ではパートナーになりすまして護衛することもあるから、それを想定して学校ではダンスの授業もあった。
だから一応、私もダンスをちゃんと習ってる。
これでも、卒業パーティーでは何人かと踊ったんだから!
……といっても、女子が圧倒的に少なくて男子ばっかだったから必然的にそうなったんだけど。
そして、そのパーティー以来、踊ってなんかいない訳。
先生がやってきて、最初にやったのは2人で向かい合わずに、1人ずつステップを踏む練習。
これなら、いける……! 昔から体を動かすのは好きだったから、だんだん感覚が蘇ってきた。
そして、いよいよ相手と組んで踊る段階のところまで来てしまった……
「ではでは、フィアンセ様から基本姿勢のほど、お願いしま……すっばらしいわ!!」
え……嘘でしょ。
先生が言い終わらない内に、ヤツは腕を上げて形を整えると、すんごい綺麗な姿勢を取り出した。
そういえば、お嬢様のパーティーでは手を差し伸べられたりなんかはしたけど、姿勢を整えるところまでは見てなかったんだ。
やっぱり、大貴族の息子。育ちの良さが染み付いちゃってるわ。
あんまり想像できないけど、これまでも踊ったことがあった訳?
「まぁ流石! 踊り慣れてらっしゃるようね。」
先生もやっぱそう思うわよね。
「いや、社交デビュー以来、全く今回が初めてだ」
ヤツは垂れてきた前髪を顔を振って避けながら、無表情な顔でそう言った。
まじか……キモいし、変態だけど頭がいいのは認める。
頭がいい人は1度やった事なら、すぐ完璧にできちゃうのよね。
「ほら、イリスも! 突っ立ってないで、ポーズを取りなさい」
大丈夫……そばに寄るくらいなら何とかなる。
肩に手を置いて……お、置けた! 服越しだから大丈夫なのかも。
次は右手を伸ばして、ちょっと触れた!
と思ったら、ヤツと目が合ったんだけど……目が合った瞬間に、昨日のことがフラッシュバックみたいに蘇ってきた。
たまたま、ちょっと戸が開いてて見えた分厚い本がたくさん置いてある部屋で、ヤツがニヤつきながら何かノートみたいのに書いていたのを。
『エミリア、喜ぶだろうな』
聞こえてきた、あのセリフ。
その時、冷たい手の感触が私の手に走った。
もう……だめ!! マジでキモいからっ!
暴れそうになる腕を何とか我慢して、ヤツからバッと離れた。
明らかに不機嫌そうな顔をされた。
「イリス~ 何してるの! もう一度!」
もう何回、先生に叱られてるか……
肩に手を掛けるところまでは何とか行くんだけど、手を握ろうとするとさっきのフラッシュバックがチラつくし、ヤツの顔を見るのもシンドくて目をつぶっちゃう。
そしたら、先生がついに私をヤツからちょっと離れた所に移動させて耳元でこちょこちょ話をしてきた。
「なーんか嫌なことがあって拒否してるんだろうけど、見た目、見た目だけに集中しなさい! なかなか、ダンスポーズがあんなに様になる男いないわよ」
ハッとした。
「さあさ、ごめんなさいね~フィアンセ様。ちょっと今、別のアドバイスをしましたから、もう一度だけ、ポーズをお願いしますわ」
だいぶ顔がブスッとしてきてはいたけど、先生に言われるとヤツはお手本みたいにピタッと静止した品があって、ずっと見ていられるような綺麗な姿勢を取った。
それに、イケメンだし、背もそこそこあるし、上半身は引き締まってるし。
こう見てると、私なんかがその横に立つのさえ申し訳ない気がしてきた……
でも、でも。絶対できないと思ってたのに、希望が湧いてきた。
これを利用するんだ。
見た目……そう、ヤツの見てくれだけに集中しよう。
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