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9 事由在りし瑞嶋家の事情的片鱗
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「――うん、そう……そうなのです。今、お友達のお家でちょっとお母さんへ電話を取ってて……はい、そうです、はい……はい……それで、」
姉妹に悟られぬよう、声音も細々しく呟く。
そして母親の声を電話越しながら聴く度に、何処かしら弱々しく自身の華奢な矮軀をくねらすような仕草をする。
それは自分でも気がつかぬ間に。
遠く電話越しに母親の呻きと、洟の荒々しい吐息がはっきりと分かるぐらいに強くなっていく。
そしてボクはその度に躯をビクつかせてた。
怖いわけではない。
決して母親もとい両親からDVを受けているわけでもない。
けど仲は正直な所、釁隙な関係である事も又事実。
原因は分かっている。
それはボクの”ソレ”が見える力のせいだ。
曰く、まだ物心ついて間もない六歳の頃から既にそう言う、この世に在らず禍々しい物が良く見える「変わった男の子」だったと言う。
それゆえか誰もいない窓際や、壁際を指差しては「ねぇ、お母、あそこに誰か居るよ?」と醇朴に連呼していたらしい。
そのせいで昔、お母さんは軽いノイローゼと今も尚続く精神疾患を患った。
噂は案外、風に乗って直ぐ広がるものだ。
「不幸な子」、「怖い子」、「人間不良品」なんて中学までは良く言われてきた。
今となってはもう、そう言われるのも慣れっ子だけども。
だけど昔のボクはどうも、少々他人よりも好奇心が旺盛過ぎた男の子だったらしい。
だから、それが厭になって。
尚且つ高校デビューの意味合いも込めて、両親へ無理を言って実家からも程々に距離のある私立花岬学園を受験して、見事に受かった。
両親へ二人の存在を明かさないのも、そんな事由があっての事だ。
多分、言ったら言ったで絶対に面倒な事になる。
だからそれが怖くて言えない。
何て親不孝な子なのだろう、とボク自身でも良く思う。
こんな力さえ無ければ……でも事はそんな一筋縄じゃあいかないのも又、事実。
毎日が苦悩と煩慮と享楽の狭間。
夢と現、直視したくない現実と浸っていたい非日常的な事が延々と繰り返されている。
事の淵源たるこの霊視みたいな力さえ無ければな、と思う事もあるけどもし無かったら無かったで多分、二人や今の生活とは全くもって縁が無かったりするわけで。
……もしもボクにこんな力がなければ両親は、一人っ子のボクを溺愛してくれていたのかな? 何て事も時々思議してしまう。
「――そう、分かったわ。好きにしなさい。お父さんにも後で言っておくから」
「有難うございます、お母さん」
――プツっ、と漸く途切れる電話音。
そして途端と両肩へ募る途轍も無い脱力感。
帰りの遅い大黒柱たる銀行マンの父と、精神疾患を患ってからはずっと家に籠もりぱなっしになった母との間に産まれたボクと言う存在。
別に逆らえないって言うわけでも無いのだけど、何故か物心ついてからはずっと両親との会話はさしあたりの無い敬語で済ませている。
それで一度、中学の時に敬語の度が過ぎたのか、寡黙な父を怒らせた事もある。
関係はとても芳しいとは言えない。
だけど口論にはなったが、ガチもんの暴行までは互いに用いていないのが現状だ。
それはボクの矮軀を配慮した良心の嘆きか? はたまた世間体を気にしてか?
理由は今も尚、定かでは無い。
けど恰も米ソみたいな冷戦っぽい雰囲気はずっと、ずっと続いている。
だからか、昔も今も、霊感度がMAXなボクでも普通の恋愛をしてみたい! っと強く感取してきている。
「――ヤッホー? 先輩、もう長ったらしいお電話は終わったかにゃあ?」
「ひゃっ、ひゃぃ!? ひ、陽向さん!? ちょっ、へ、変に胸を摩らないで下さい!」
摩るって言うか、どちらかと言うと鄙猥にも撫でたり、揉んだりしてきている。
しかもこれまた厭らしい手つきで堂々と!
もしかして、あの会話、盗み聴きされた?
「ほらほら、折角終わっての今日はお泊まり会なんだからさぁ、ちょっとばかしあたしと”良い事”してみない? ロケーションとしてはすっごく最適なシチュだし」
「ちょっと何を言っているのか良く分からないんですけど!? てか、普通にセクハラですよ陽向さん!? 度を越したら司法へ訴えますよ!?」
「ふっふっふっ、仮に裁判を起こしたとしてもあたしらの財力へはたして、どの程度耐えられるか……スゥー、ハァー、スゥー、ハァー……えっへへ、こりゃあ見物ですなぁ」
「だ・か・ら! 変に耳許とか、髪の毛を直で嗅がないで下さい!」
何だかんだ言いつつも今は、今のまま、現状維持の方がボクにとって最適な気がする。
今の状態がこれからもずっと続いていけば……そんな事を裡へ潜めながら、ボクは陽向の魔の手から逃れて直ぐ様部屋の中へと遁逃していった。
今確かにあるこの幸せを深く噛み締めながら。
姉妹に悟られぬよう、声音も細々しく呟く。
そして母親の声を電話越しながら聴く度に、何処かしら弱々しく自身の華奢な矮軀をくねらすような仕草をする。
それは自分でも気がつかぬ間に。
遠く電話越しに母親の呻きと、洟の荒々しい吐息がはっきりと分かるぐらいに強くなっていく。
そしてボクはその度に躯をビクつかせてた。
怖いわけではない。
決して母親もとい両親からDVを受けているわけでもない。
けど仲は正直な所、釁隙な関係である事も又事実。
原因は分かっている。
それはボクの”ソレ”が見える力のせいだ。
曰く、まだ物心ついて間もない六歳の頃から既にそう言う、この世に在らず禍々しい物が良く見える「変わった男の子」だったと言う。
それゆえか誰もいない窓際や、壁際を指差しては「ねぇ、お母、あそこに誰か居るよ?」と醇朴に連呼していたらしい。
そのせいで昔、お母さんは軽いノイローゼと今も尚続く精神疾患を患った。
噂は案外、風に乗って直ぐ広がるものだ。
「不幸な子」、「怖い子」、「人間不良品」なんて中学までは良く言われてきた。
今となってはもう、そう言われるのも慣れっ子だけども。
だけど昔のボクはどうも、少々他人よりも好奇心が旺盛過ぎた男の子だったらしい。
だから、それが厭になって。
尚且つ高校デビューの意味合いも込めて、両親へ無理を言って実家からも程々に距離のある私立花岬学園を受験して、見事に受かった。
両親へ二人の存在を明かさないのも、そんな事由があっての事だ。
多分、言ったら言ったで絶対に面倒な事になる。
だからそれが怖くて言えない。
何て親不孝な子なのだろう、とボク自身でも良く思う。
こんな力さえ無ければ……でも事はそんな一筋縄じゃあいかないのも又、事実。
毎日が苦悩と煩慮と享楽の狭間。
夢と現、直視したくない現実と浸っていたい非日常的な事が延々と繰り返されている。
事の淵源たるこの霊視みたいな力さえ無ければな、と思う事もあるけどもし無かったら無かったで多分、二人や今の生活とは全くもって縁が無かったりするわけで。
……もしもボクにこんな力がなければ両親は、一人っ子のボクを溺愛してくれていたのかな? 何て事も時々思議してしまう。
「――そう、分かったわ。好きにしなさい。お父さんにも後で言っておくから」
「有難うございます、お母さん」
――プツっ、と漸く途切れる電話音。
そして途端と両肩へ募る途轍も無い脱力感。
帰りの遅い大黒柱たる銀行マンの父と、精神疾患を患ってからはずっと家に籠もりぱなっしになった母との間に産まれたボクと言う存在。
別に逆らえないって言うわけでも無いのだけど、何故か物心ついてからはずっと両親との会話はさしあたりの無い敬語で済ませている。
それで一度、中学の時に敬語の度が過ぎたのか、寡黙な父を怒らせた事もある。
関係はとても芳しいとは言えない。
だけど口論にはなったが、ガチもんの暴行までは互いに用いていないのが現状だ。
それはボクの矮軀を配慮した良心の嘆きか? はたまた世間体を気にしてか?
理由は今も尚、定かでは無い。
けど恰も米ソみたいな冷戦っぽい雰囲気はずっと、ずっと続いている。
だからか、昔も今も、霊感度がMAXなボクでも普通の恋愛をしてみたい! っと強く感取してきている。
「――ヤッホー? 先輩、もう長ったらしいお電話は終わったかにゃあ?」
「ひゃっ、ひゃぃ!? ひ、陽向さん!? ちょっ、へ、変に胸を摩らないで下さい!」
摩るって言うか、どちらかと言うと鄙猥にも撫でたり、揉んだりしてきている。
しかもこれまた厭らしい手つきで堂々と!
もしかして、あの会話、盗み聴きされた?
「ほらほら、折角終わっての今日はお泊まり会なんだからさぁ、ちょっとばかしあたしと”良い事”してみない? ロケーションとしてはすっごく最適なシチュだし」
「ちょっと何を言っているのか良く分からないんですけど!? てか、普通にセクハラですよ陽向さん!? 度を越したら司法へ訴えますよ!?」
「ふっふっふっ、仮に裁判を起こしたとしてもあたしらの財力へはたして、どの程度耐えられるか……スゥー、ハァー、スゥー、ハァー……えっへへ、こりゃあ見物ですなぁ」
「だ・か・ら! 変に耳許とか、髪の毛を直で嗅がないで下さい!」
何だかんだ言いつつも今は、今のまま、現状維持の方がボクにとって最適な気がする。
今の状態がこれからもずっと続いていけば……そんな事を裡へ潜めながら、ボクは陽向の魔の手から逃れて直ぐ様部屋の中へと遁逃していった。
今確かにあるこの幸せを深く噛み締めながら。
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