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№254 見に行った
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きっかけとかは思い出せません。普通の夜だったと思います。小学生だった私は妹と一緒に2階の自室で夜、眠っていました。
階段を上る音がして目を覚ましました。多分母だろうと、また寝ようとしましたが足音が途中で止まったんです。
階段と廊下を挟んで平行して和室の入り口がありました。その和室が私たちの部屋です。障子を開けっぱなしで寝ていたので、大人なら階段の途中からこちらが見えます。子供部屋からは廊下の端から人の頭が見える状態ですね。
でもその日は怖くてそれを見ることが出来ませんでした。母なら途中で止まらず2階まで上がってくるはずなので、もしかしたらお化けか何かかと思い怖かったんです。ちょうど怪談が学校で流行っていたんで想像力も相まってとても確かめることが出来ませんでした。
それはその日だけでなく、週に一回位のペースでありました。我慢できなくなり母に聞いてみました。するとあっさり母は
「見に行った」
と認めました。
「たまに2階から音がするから起きているのかと思って。でも階段の途中で寝ているのは見えたからそこで確認したら1階に降りてたの」
それを聞いて私は安心しました。逆になんであんなに怖かったんだろうと恥ずかしいくらいでした。
でも2階からの音の正体が分かりません。私が聞く音は階段を上る音だけです。母は気にしてないようでした。古い家だったので家鳴りを勘違いしたと言っていました。その時は一応それで私も納得したんですが・・・・・・。
その数日後、また夜に目が覚めました。階段を上る音がします。母だと思い私は目を開けてそちらを見ました。
確かに母が廊下から目だけ出してこちらを見ました。その目はいつもの優しいものではなく何かを睨み付けるような目でした。布団の中からちょっと手を振ろうと思っていた私は驚いて固まってしまいました。目は合っているはずですが、母はほとんど瞬きもせず私たちを睨み、動こうとしません。どれくらいそうしていたでしょうか。たぶん5分とかそれくらいだと思います。母はすっと頭を引っ込め階段を降りていきました。
ですがそこで私は見たんです。母の去った後、そこにゆらゆら揺れる黒い影が残ったんです。薄暗い廊下で、真っ黒い固まりが何か分からず、私は怖くて布団を頭からかぶりました。そのまま寝られずにいると、朝になっていました。
階下に行くと母がいつも通り朝食を作っていました。私は思いきって
「夜、目が合ったよね」
と聞いてみました。母は私を見て一瞬愕然としましたが、すぐ笑顔に戻り
「そうね」
と短く返事をしました。それでこの話は終わりました。あの時私が見たものは何だったんでしょうか。母はあの時何を見たんでしょうか。いまだに聞けずにいます。私たち姉妹があの家を出てもまだ母はあの家に住み続けているので、何か話し辛くて。妹はあの家が嫌いであまり帰省したがらないので、もしかしたら私以上に何か見ているのかもしれません。今度聞いておきますね。
――湯壺さんはこれ以降来ることはなかった。
階段を上る音がして目を覚ましました。多分母だろうと、また寝ようとしましたが足音が途中で止まったんです。
階段と廊下を挟んで平行して和室の入り口がありました。その和室が私たちの部屋です。障子を開けっぱなしで寝ていたので、大人なら階段の途中からこちらが見えます。子供部屋からは廊下の端から人の頭が見える状態ですね。
でもその日は怖くてそれを見ることが出来ませんでした。母なら途中で止まらず2階まで上がってくるはずなので、もしかしたらお化けか何かかと思い怖かったんです。ちょうど怪談が学校で流行っていたんで想像力も相まってとても確かめることが出来ませんでした。
それはその日だけでなく、週に一回位のペースでありました。我慢できなくなり母に聞いてみました。するとあっさり母は
「見に行った」
と認めました。
「たまに2階から音がするから起きているのかと思って。でも階段の途中で寝ているのは見えたからそこで確認したら1階に降りてたの」
それを聞いて私は安心しました。逆になんであんなに怖かったんだろうと恥ずかしいくらいでした。
でも2階からの音の正体が分かりません。私が聞く音は階段を上る音だけです。母は気にしてないようでした。古い家だったので家鳴りを勘違いしたと言っていました。その時は一応それで私も納得したんですが・・・・・・。
その数日後、また夜に目が覚めました。階段を上る音がします。母だと思い私は目を開けてそちらを見ました。
確かに母が廊下から目だけ出してこちらを見ました。その目はいつもの優しいものではなく何かを睨み付けるような目でした。布団の中からちょっと手を振ろうと思っていた私は驚いて固まってしまいました。目は合っているはずですが、母はほとんど瞬きもせず私たちを睨み、動こうとしません。どれくらいそうしていたでしょうか。たぶん5分とかそれくらいだと思います。母はすっと頭を引っ込め階段を降りていきました。
ですがそこで私は見たんです。母の去った後、そこにゆらゆら揺れる黒い影が残ったんです。薄暗い廊下で、真っ黒い固まりが何か分からず、私は怖くて布団を頭からかぶりました。そのまま寝られずにいると、朝になっていました。
階下に行くと母がいつも通り朝食を作っていました。私は思いきって
「夜、目が合ったよね」
と聞いてみました。母は私を見て一瞬愕然としましたが、すぐ笑顔に戻り
「そうね」
と短く返事をしました。それでこの話は終わりました。あの時私が見たものは何だったんでしょうか。母はあの時何を見たんでしょうか。いまだに聞けずにいます。私たち姉妹があの家を出てもまだ母はあの家に住み続けているので、何か話し辛くて。妹はあの家が嫌いであまり帰省したがらないので、もしかしたら私以上に何か見ているのかもしれません。今度聞いておきますね。
――湯壺さんはこれ以降来ることはなかった。
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