怪談レポート

久世空気

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No.252 他人の子供

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 私はきっと狂人と思われるでしょうね。自分でも変だとは思うんです。だから怪談と言うしかない。

 私は独身ですが、この年ですから友人にはちらほら結婚して子持ちもいます。その友人と会ったときも4、5歳くらいの男の子を連れていました。

 私は都心に出ていましたが、会社がテレワークを導入したのでほぼ出勤が無くなり、空き家になっていた実家に帰って来ていました。

 友人の子は人なつっこく、挨拶も出来るしお行儀も良くてとても可愛かった。
 友人は私を見て嬉しそうだったのは最初だけで、徐々にそわそわし始めました。どうしたのかと聞くと、お姑さんに頼まれていたことを忘れていたと。すぐ終わる用事なら、子供の面倒見ておこうかと私から言うと、それを待っていたかのように目も合わさず「すぐもどる」と短く言うと鞄も持たずうちを出て行きました。

 1時間くらい子供とテレビを見ながら待っていましたが、友達は帰ってきませんでした。電話をしようにも携帯電話の番号も知らないし、実家の場所も知らないことに気付きました。悪いと思いましたが鞄を開けるとなんと子供の着替えだけが入っていたんです。最初から長期間子供を預けるつもりで連れてきたんだと気付きました。

 警察に電話して相談しましたが、私が友人の旧姓しか知らないのと、家に入れて預かっていることから
「しばらく面倒見てあげたら?」
 と言われてしまいました。

 最初は子供がかわいそうだし、仕方がないと思いました。ですが次の日から子供の様子が変わりました。あんなに行儀が良かったのに、横柄な態度になってきたんです。私に対して
「おまえ」
 と呼ぶようになりました。
 おもちゃもない家なのでお絵かき用にペンや画用紙、折り紙をあげるとそれで家を汚すようになりました。さすがに叱ってもニヤニヤするだけです。私が感情的になっているのを面白がっているみたいでした。

 夜に寝ているとき首を絞められたこともありました。さすがに次の日に別の友達に連絡しました。しかしその友達から意外なことを言われたんです。あの友人は結婚していないし、子供もいないと。

 友達は嘘をつくような人ではないし、逆に私の事を心配してきました。ですがその時にはすでに私の神経が衰弱していて何も考えられなくなっていました。
 子供を預かって2週間目くらいのことです。その日、ぼんやりしながら子供に昼ご飯のチキンライスをテーブルに並べていると、子供はそれを鷲づかみにし、私の顔に投げてきました。避けられずまともに当たりました。それを見てその子はキャッキャと無邪気に笑ったんです。そこでプツンと切れました。

 私は子供の細い首を片手で掴んで、何度も壁に打ち付けました。手が疲れてきたら床に叩きつけて落としました。子供はぐったりして動かなくなっていました。頭や両手両足がおかしな方向に曲がっていて、ぐにゃっと床に倒れているのを見て、私はようやく何をしてしまったのか理解して絶叫しました。

 そこまでは覚えています。気がついたら病院にいました。私が仕事のサーバーにログインしていないのに気付き心配した同僚がうちに来て、倒れている私を見つけ、救急車を呼んでくれたそうです。私は過労でした。

 子供は消えていました。死体も子供に関する物も、何も。警察にも言いましたが、電話で相談した記録は残っていましたが実際誰も見ていませんし、例の友人は行方不明のまま。

 結局私が幻覚を見たような扱いになっています。

――物井さんは今でも子供を殺す悪夢を見るそうだ。
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