怪談レポート

久世空気

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№247 人面瘡

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 もう30年ほど前、母は事故に遭いました。当時20歳だったと聞いています。母は自転車に乗っていて車に接触し、転倒して膝をすりむいたそうです。怪我はしたものの、運転手はちゃんとした方で、救急車を呼んで医療費も出してくれたそうです。

 しばらく痛みで松葉杖を突いていましたが、もともと丈夫ですぐに良くなってきたそうです。ですが、傷がなかなか消えず、次第に皮膚がゆがんできたんです。細菌でも入って皮膚の下が化膿しているんじゃないかと父親、私の祖父が言い出して、慌てて再診を受けたんですが、何も問題はない。皮膚の移植などは一般的ではなかったので、このままロングスカートしかはけないのかと、落ち込んでいたそうです。

 ある夜、話し声がして目が覚めました。母は一人っ子なんですが、それは子供の声でした。寝ていた母は気のせいか、家族がラジオでも聞いているのだろうと、布団をかぶって眠ろうとしたそうです。ですが、その声はもっと近くから聞こえてきました。驚いて目が覚め、自室の電気を付けました。

「はな、なべ、じてんしゃ、がっこう、ほんや・・・・・・」

 と舌っ足らずな感じで、単語を並べている声が続いています。

 一体どこから聞こえるのか、恐る恐る部屋の中を探しましたが、声の場所が分かりません。その時足がむずむずとかゆく、パジャマの上からかいていたそうです。あまりにかゆいので、薬を塗ろうとズボンの裾をめくり上げると、ゆがんだ傷跡がパカッと開き、そこから子供の声が。

 母は悲鳴を上げ、両親が驚いて駆けつけました。しかし二人が見たときはただの傷跡だったようです。母は起こった事を話しましたが、悪い夢を見たんだろうと、母が傷を気にしているのを分かっていたので憐れまれたそうです。

 それから毎晩のように傷は開き、言葉を練習するように音を発しました。母は消えない傷跡と怪異と寝不足に1ヶ月ほど悩まされたそうです。

 そんな時、最初の事故で車を運転していた人と偶然再会しました。その人は
「怪我はそれからどうですか?」
 と聞かれ、ストレスがたまっていた母はその人に八つ当たり・・・・・・と、いうのも違うのかな? とにかくこれまでの事をぶちまけたそうです。その人は母の話を信じ、力になると約束してくれました。それから二人で時間を作って、保険の効かない治療や、お祓いなど各方面で傷を治す方法を探しました。

 結局傷は、二人が結婚したころ治ったそうです。そして私が生まれました。

「あんたの声と、夜に聞こえた声、すごく似ていたのよね」

 と、母は言いますが、写真で見た傷と赤ちゃんの時の私の顔が似ている方が、問題だと思います。

――そう言って保野田さんが見せてくれた、膝の傷と赤ん坊の写真は、トレースしたようにそっくりだった。
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