怪談レポート

久世空気

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№245 毛を切って

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 親友の母親はとてもキレイな、若いお母さんでした。特に長くて艶やかな黒い髪が印象的でした。親友もまた黒くてキレイな髪で、毎朝母親に梳いてもらっていたそうです。

 小学生になって母親は働きに出たのか親友と遊ぶ時間が増えました。当時知らなかったのですが、私の家で預かる約束だったそうです。夜遅くなって、母親が迎えに来ていました。

 親友は髪を触られるのが嫌いでした。私の母が
「キレイな髪ね」
 と手を伸ばしたらすごい勢いでそれを払いのけたんです。

 後で母が
「あの子のお母さんに絶対髪は触るなって言われていたのよね」
 とこぼしているのを聞いています。それに親友自身も
「いつもお母さんに髪を切ってもらっている。お母さん以外に触らせたことはない」
 と言っていました。

 その母親ですが、私たち小学校を卒業する頃に事故で亡くなりました。親友は親戚の家に引き取られ、それほど離れてませんが別の中学に入学しました。しばらく遊んでいなかったんですがゴールデンウィーク前に、ふらっと訪ねてきました。相変わらずキレイな髪でしたが前髪がガタガタして見えました。それ以外も伸ばしっぱなしのようでした。

「毛を切ってほしい」

 親友が私に言ってきました。私は別に特別器用なわけでも髪を切るのが好きなわけでもなかったので、何故プロに切ってもらわないのか聞きました。

「だってお母さんがあなただけ切っても良いって言ってたから」

 困っていたら、何かを察した母が

「わざわざ来てくれたんだし、切ってあげたら?」

 と親友を家に通しました。私はその日初めて他人の髪を切りました。母は横から口を出してくれ、出来上がりはそこそこ良かったと思います。

 それから1ヶ月に1回、親友は私の家に来て髪を切るようになりました。
 髪を切っている時間、私は親友と本当にいろんな話をしました。親友は親戚の家での気苦労などの愚痴を漏らし、私も成績の悪いことを相談し、本当に、私は彼女を親友だと思っていたんです。
 私は高校卒業後専門学校に通い美容師になりました。卒業して就職しても親友の髪は実家で切っていました。

 その日もいつも通り親友の髪にハサミを入れたました。瞬間、ざわっと感じたことがない感触が手に伝わってきたんです。同時に鳥肌も立ち、私は思わずハサミを取り落としていました。

 親友に声を掛けましたが、振り返りません。小さく肩を振るわせ泣いていました。

「お母さんが、怒ってる。もうあなたも駄目だって」

 彼女はそう言って、私の顔も見ずに帰って行きました。それ以来親友とは会っていません。

 私は次の日にバイク事故を起こし、手に怪我をしました。もうハサミは持てません。もちろん悔しかったです。でも母からこんな話を聞きました。

「あの子、お母さんが亡くなってから何件か美容院回ったけど、担当した人が全員すぐに事故に遭ったんだって。あんたは大丈夫って言ってたから、安心してたんだけど」

 あの日の前日、私は今の妻と恋人になったばかりでした。もしかしたら親友の母親は、親友を私に託したつもりだったのかもしれません。

――動かなくなった右手を左手でさする壁さんは、少しさみしそうだった。
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