242 / 254
№242 公園
しおりを挟む
金がなくて、ヤバいバイトに手を出したことがあります。大学の先輩の知り合いからの紹介で、小遣いがもらえる簡単なお手伝いくらいと言われて。
内容は決められたコースをランニングして、ある公園に立ち寄りそこに待機している男から小包を受け取り、それをウエストポーチに入れ、また走り、別の公園に行き、また待機している男に渡す、という運び屋みたいなものです。
「離れた場所にある事務所に荷物を届けたいが、バイク便は金がかかるし、法人契約するにも法人じゃないから無理」
と教えられ、僕は鵜呑みにしていました。最近調べたんですが、人が走れる距離なら全然バイク便の方が安かったです。
まあ、そうじゃなくても最初の数回でヤバいバイトだって察していました。
受け渡しする男の目が、怖かったんですよ。威圧感というか緊張感というか、とにかくこちらを射貫くような視線をしてるんです。
荷物の中はもちろん見てません。怖いし。でもこいつらのせいで困っている人もいるかもな、とモヤモヤしながら3ヶ月で20回くらいくらいは運びました。
その頃にはもう辞めたいと思っていたんですが、仲介してくれた先輩が大学に来なくなっていて、直接雇い主に話すのも怖くて惰性で続けていました。
最後の日、僕が公園に向かって走っていたら、
「ゴンッ、ゴンッ」
って重い物を落とすような音が遠くから聞こえてきたんです。ちょっと地響きもしてて、どこかで大きな工事でもしているのかなと思っていました。
でも公園に近くなるほど音も地面の揺れも大きくなるんです。周りの民家にも響いているはずなのに、様子を見に出てくるような住人はいませんでした。いや、今思うと人が歩いていてもおかしくない時間帯なのに、誰ともすれ違わなかったんですよね。
「ゴンッ、ゴンッ」
という音は公園からしていました。足の裏から振動が突き上げてきました。公園の中央に見たことがないビルのようなものがありました。それまで走っていたのに体が冷えて鳥肌が立ちました。
意味がわからなくて、それをまじまじと見てしまいました。見なければ良かった。あれは大木のような馬の足でした。デカい馬の足が一本、空から伸びて公園で足踏みしてたんです。
その蹄の下に僕を待っていた男がいました。馬の足ばかりに気を取られて気付いていませんでした。男は踏みつけられていたんですが、生きていて、僕に気付いていて、僕に手を伸ばしていました。声は出ないようでした。僕は逃げ出しました。
ずっと「ゴンッ、ゴンッ」って音が追いかけてきて、地響きに足を取られて何度も転けましたが、家に帰り布団をかぶりました。
それから数日、何度か雇い主から電話がありましたが、無視をしていたらかかってこなくなりました。
公園で男性が亡くなっていたというニュースは地方紙の一角に小さく載っていて、なんか、死因は心不全、だったんです。
――心不全は死因が分からないときも使う、と伝えると杷野さんは納得した顔で帰って行った。
内容は決められたコースをランニングして、ある公園に立ち寄りそこに待機している男から小包を受け取り、それをウエストポーチに入れ、また走り、別の公園に行き、また待機している男に渡す、という運び屋みたいなものです。
「離れた場所にある事務所に荷物を届けたいが、バイク便は金がかかるし、法人契約するにも法人じゃないから無理」
と教えられ、僕は鵜呑みにしていました。最近調べたんですが、人が走れる距離なら全然バイク便の方が安かったです。
まあ、そうじゃなくても最初の数回でヤバいバイトだって察していました。
受け渡しする男の目が、怖かったんですよ。威圧感というか緊張感というか、とにかくこちらを射貫くような視線をしてるんです。
荷物の中はもちろん見てません。怖いし。でもこいつらのせいで困っている人もいるかもな、とモヤモヤしながら3ヶ月で20回くらいくらいは運びました。
その頃にはもう辞めたいと思っていたんですが、仲介してくれた先輩が大学に来なくなっていて、直接雇い主に話すのも怖くて惰性で続けていました。
最後の日、僕が公園に向かって走っていたら、
「ゴンッ、ゴンッ」
って重い物を落とすような音が遠くから聞こえてきたんです。ちょっと地響きもしてて、どこかで大きな工事でもしているのかなと思っていました。
でも公園に近くなるほど音も地面の揺れも大きくなるんです。周りの民家にも響いているはずなのに、様子を見に出てくるような住人はいませんでした。いや、今思うと人が歩いていてもおかしくない時間帯なのに、誰ともすれ違わなかったんですよね。
「ゴンッ、ゴンッ」
という音は公園からしていました。足の裏から振動が突き上げてきました。公園の中央に見たことがないビルのようなものがありました。それまで走っていたのに体が冷えて鳥肌が立ちました。
意味がわからなくて、それをまじまじと見てしまいました。見なければ良かった。あれは大木のような馬の足でした。デカい馬の足が一本、空から伸びて公園で足踏みしてたんです。
その蹄の下に僕を待っていた男がいました。馬の足ばかりに気を取られて気付いていませんでした。男は踏みつけられていたんですが、生きていて、僕に気付いていて、僕に手を伸ばしていました。声は出ないようでした。僕は逃げ出しました。
ずっと「ゴンッ、ゴンッ」って音が追いかけてきて、地響きに足を取られて何度も転けましたが、家に帰り布団をかぶりました。
それから数日、何度か雇い主から電話がありましたが、無視をしていたらかかってこなくなりました。
公園で男性が亡くなっていたというニュースは地方紙の一角に小さく載っていて、なんか、死因は心不全、だったんです。
――心不全は死因が分からないときも使う、と伝えると杷野さんは納得した顔で帰って行った。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。


意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
【短編】怖い話のけいじばん【体験談】
松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。
スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる