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№239 熊
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10年以上前の話です。私はその頃の彼氏とハイキングに行ったんです。それは彼氏の趣味で、私は教えてもらって楽しんでいました。
私が初心者だから、彼氏も比較的簡単に登れる山を案内してくれていたと思うのですが、それでもハプニングはあるんですね。
熊と遭遇したんです。
今でもはっきり覚えています。恐怖とかすぐには沸かないんですよ。「あ、熊だ」って。よく知っててなじみのある動物だからでしょうね。いつの間にか距離を詰められていて、近くでその大きさを体感してやっと恐ろしくなりました。いや、これは私が鈍すぎるんですかね。
熊は空腹だったみたいで、私が持っていた二人分のお弁当を狙っていたみたいです。熊に襲われ、動けなくなりました。このあたりの記憶は曖昧で、思い出せません。たぶん思い出さない方が良いんでしょう。見ての通り、体の麻痺が酷いんですよ。生死を彷徨いました。
プツッと記憶が途絶え、気がついたときには私は山の中を歩いていました。
でもおかしいんです。目線がやたら高い。そしてなんかいろんな匂いがしたり、気配が強かったり、見えないところまで分かるというか・・・・・・。
とりあえずハイキングコースに戻りましたが、そこで猟銃を持ったグループに会いました。そこで熊に襲われたことを思い出し、彼らに話しかけようとしました。でも声が出ない。うなり声みたいなのが漏れて、あれ? と手を口に持ってこようとして、その手が大きくてびっくりしました。
熊の手だったんです。熊、だったんです。たぶん、あのとき。猟師たちが私に銃口を向けました。死にたくなくて、助けてほしくて、私は彼らに歩み寄ろうとしました。そこで撃たれました。痛くて、苦しくて・・・・・・そこは、覚えてるんですよ。死ぬ瞬間まで。
次に気がついたのは病院のベッドの上です。両親が泣いていました。そのとき熊に襲われたことと、熊は猟友会によって銃殺されたことを知らされました。
これは誰も信じてくれないんですけど、その後にご挨拶に行ったときに会った猟友会の方の顔を私は知っていました。あの記憶で私を撃った面々でした。熊が撃たれた場所も、記憶通りです。
私が瀕死の時に、何故か熊に取り憑いていた、と言うことなんでしょうか? もし私があのまま死んでたら・・・・・・あ、どっちにしろ熊としても死んでるから意味ないのか。うーん、そうですね、あんまり熊に対して恨みはないかな。変ですよね。
――ただそのとき一人だけ無傷で逃げた元彼のことはいまだに許せない、と沼田さんは憎々しげに語った。
私が初心者だから、彼氏も比較的簡単に登れる山を案内してくれていたと思うのですが、それでもハプニングはあるんですね。
熊と遭遇したんです。
今でもはっきり覚えています。恐怖とかすぐには沸かないんですよ。「あ、熊だ」って。よく知っててなじみのある動物だからでしょうね。いつの間にか距離を詰められていて、近くでその大きさを体感してやっと恐ろしくなりました。いや、これは私が鈍すぎるんですかね。
熊は空腹だったみたいで、私が持っていた二人分のお弁当を狙っていたみたいです。熊に襲われ、動けなくなりました。このあたりの記憶は曖昧で、思い出せません。たぶん思い出さない方が良いんでしょう。見ての通り、体の麻痺が酷いんですよ。生死を彷徨いました。
プツッと記憶が途絶え、気がついたときには私は山の中を歩いていました。
でもおかしいんです。目線がやたら高い。そしてなんかいろんな匂いがしたり、気配が強かったり、見えないところまで分かるというか・・・・・・。
とりあえずハイキングコースに戻りましたが、そこで猟銃を持ったグループに会いました。そこで熊に襲われたことを思い出し、彼らに話しかけようとしました。でも声が出ない。うなり声みたいなのが漏れて、あれ? と手を口に持ってこようとして、その手が大きくてびっくりしました。
熊の手だったんです。熊、だったんです。たぶん、あのとき。猟師たちが私に銃口を向けました。死にたくなくて、助けてほしくて、私は彼らに歩み寄ろうとしました。そこで撃たれました。痛くて、苦しくて・・・・・・そこは、覚えてるんですよ。死ぬ瞬間まで。
次に気がついたのは病院のベッドの上です。両親が泣いていました。そのとき熊に襲われたことと、熊は猟友会によって銃殺されたことを知らされました。
これは誰も信じてくれないんですけど、その後にご挨拶に行ったときに会った猟友会の方の顔を私は知っていました。あの記憶で私を撃った面々でした。熊が撃たれた場所も、記憶通りです。
私が瀕死の時に、何故か熊に取り憑いていた、と言うことなんでしょうか? もし私があのまま死んでたら・・・・・・あ、どっちにしろ熊としても死んでるから意味ないのか。うーん、そうですね、あんまり熊に対して恨みはないかな。変ですよね。
――ただそのとき一人だけ無傷で逃げた元彼のことはいまだに許せない、と沼田さんは憎々しげに語った。
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