怪談レポート

久世空気

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№233 出られない

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 遠い親戚が孤独死しまして、その家の中の整理に行きました。その親戚とは「曾祖父の法事であった気がする」くらいの間柄です。私は無職で時間があったので親戚伝いに頼まれてしまいました。

 家はまさにその親戚が亡くなった場所でしたが、一応業者が入って清掃だけは終わっていると聞いていました。しかし家に入って後悔しました。とにかく臭いんです。マスク越しにもそれははっきり分かりました。親戚は死後1週間してから見つかりました。夏だったので酷いことになっていたそうです。清掃されたとはいえ匂いは残っていたんです。

 私が任されていたのはアルバムや保険証などの個人的なものや、貴金属などの貴重品があれば回収することと、家を解体するまで誰も侵入しないように、玄関以外を封鎖することでした。

 遺品の回収は比較的スムーズに終わりました。個人が整理整頓上手だったようです。貴重品などはもともと余り持っていなかったのか、生前売ってしまったのか、ほとんどありませんでした。

 それらを依頼主である親戚に送り、今度は窓に板を打ち付けて塞いでいきました。電気も止まっていたのでどんどん家の中は暗くなっていきました。

 それもすべて終わり、スマホのフラッシュライトで忘れ物がないか家の中を照らしました。すると1階の居間で大きな影がごそっと動いたんです。心臓が跳ね上がりました。衣擦れや息遣いで人だと分かりましたが、いつ入ってきたのか分かりません。

「誰ですか?」

 うわずった声で訪ねると、うめき声が返ってきました。よく見ると背中の曲がったお婆さんです。ガリガリの腕をだらんと前に垂らして、暗い部屋の中を不安げにのろのろと動いていました。

 徘徊老人でも迷い込んだんだろう。冷静にそう解釈した私は、お婆さんの手を取って玄関に向かいました。

 が、その瞬間ぐにゃっと空間がゆがみました。目眩とか視覚的な物ではなく、私ごと家も空気もすべてゆがんだ感覚がしたんです。

 気がついたら目の前に板が張り付けられていて、ドアが開きません。すごい凡ミスだなとちょっと笑いながら、釘抜きを道具箱からだそうとして気付きました。私はドアの目の前にいたはずが、板を打ち付けた窓の前に立っていたんです。位置的には玄関と真逆です。振り返るとお婆さんはうろうろしていました。また手を取って玄関に向かうと、同じ事が起こり、今度はトイレの前にいました。

 何度玄関に向かっても、全然違う場所にいます。いっそ窓の板を剥がしてしまおうとしましたが、そうしたらまた空間がゆがみ、窓のない壁の前に突っ立っているんです。

「出られない」

 私が思わずそうもらすと

「そうだねぇ」

 と返事がありました。振り返るとうろうろしているだけだったお婆さんが私を見てニタァって笑ったんです。

 覚えているのはそこまでです。翌日、私から連絡が無いと親が親戚と一緒に例の家に行くと、私が玄関でぐるぐると回っていたそうです。

「出られない、出られない」

 って呻きながら。

 窓にはちゃんと板が打ち付けられていて、どこにもお婆さんはいなかったそうです。

――その日の1ヶ月後、遠い親戚の家が取り壊された日に鈴本さんはようやく自分が家から出られたと気付いたそうだ。
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