怪談レポート

久世空気

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№227 箪笥

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 こちらには箪笥の話も持ち込まれたことはありますか? 箪笥の怪談・・・・・・そうですね、私の話から先にしましょう。

 数年前に母が他界し、一人暮らしをしていた実家を売ることになりました。私が家を出て20年ほど経っていたので実家の様子は大分変わっていました。整理整頓好きの母が住んでいたので、散らかったり物があふれていると言うことはなかったのですが家具や家電は古くなっても使っていて、もう壊れてるような物もありました。

 物を大切にする母でしたが、もしかしたら年齢もあって新しい物に買い換える事を躊躇していたのかもしれません。それを考えると、もう少し実家に帰ってあげたら良かったと後悔の気持ちがわいてきます。

 実家の片付けは数名の友人に声をかけて手伝ってもらいました。その中の一人が

「この箪笥はどうするの?」

 と聞いてきました。そのとき初めて知らない洋服箪笥があることに気付きました。見るからに古い物で、あちこち何かが染みこんだような変な色が付いています。ハンガーを掛ける所にも、引き出しにも、中には何も入っておらず、実家の中でそれだけが異質でした。

「売れそうもないから、捨てようかな」

 と私が言うと、友達は喰い気味に

「じゃあ私に売って!」

 と迫ってきました。あまりの迫力に反射的に私は頷いてしまいました。友人はその日のうちに自分で手配して箪笥を持って帰ってしまいました。

 その次の日、私が一人で細かい遺品を整理していたら、その友人の携帯電話から着信がありました。出ると友人の旦那で

「あの箪笥を押しつけたのはあんたか」

 と怒り気味に失礼なことを言ってきたので私は
「押しつけてない。ほしいと言ったのは彼女だ」
 と反論しました。それから電話口でしばらく言い合いになりましたが、もう電話越しではらちがあかないと、私は断りを入れてから、頭に血が上った状態で車を走らせ友人の家に向かいました。旦那も同じように怒っていて

「あのくさい箪笥をどうにかしてくれ」

 とさっそく怒鳴ってきました。

 とにかく友人に会わせて、当時の確認をさせてほしいと家に上がらせてもらいました。が、友人がいません。旦那も訝しげにキョロキョロと家の中を見て回っています。

 洋服箪笥は友人の部屋のど真ん中に置いてありました。私がなんとなく箪笥を開くと友人が中に立っていました。私は思わず叫びました。友人は少し首を曲げて、無表情で私を見ていました。

 友人は何も言わず、何も反応しなくなり、入院することになりました。旦那は納得いってないようでしたが

「僕の母があの箪笥を気に入ったようで、絶対にあんたに返すなっていうから・・・・・・」

 と、最初の口論は無かったことにされ箪笥は戻ってきていません。

 あれから友人の様態を知ろうにも、友人自身にもその旦那にも連絡が付きません。最近、母の夢をよく見るんです。友人のように、あの洋服箪笥の中に少し首をかしげて立っている母の夢です。意味が分かりません。私も、あの箪笥に入ったら何か分かるんでしょうか?

――――木瀬さんは、ずっとその箪笥を探しているらしい。
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