怪談レポート

久世空気

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№222 最後の仕事

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 先輩に佑京さんという人がいました。
 私が新卒の時に40過ぎくらいで、独身でした。いわゆるお局さんという感じではなく、優しく包容力がありとても頼りになりました。

 佑京さんは会社に入る前から社長と知り合いで、
「社長に拾ってもらった」
「社長に恩を返したい」
 とよく言っていました。社長は女性でしたが、佑京さんと全然性格が違って、ひたすら怖くて厳しかったです。ただ佑京さんにだけは時々笑顔を見せていたので、本当に仲が良かったんだと思います。

 ですが私が入社3年目くらいになると、徐々に見え方が変わってきました。

 社長は突然ヒステリックになることがあり、社員は皆、気を遣っていました。そこで一旦、佑京さんに話を通すと比較的スムーズにことが進みました。

 逆に社長は何を言っても佑京さんが首を横に振らないので、無理難題を押しつけていました。何度か、佑京さんが一人で残業していたので手伝ったことがあります。

「ここだけの話、別の会社の方が働きやすくないですか?」

 と皆帰ってしまったのを良いことに、失礼ながら佑京さんに言ってみたんです。

「昔はあんなに難しい性格じゃなかったのよ。会社が大きくなってストレスがあるのね」

 と佑京さんは笑いました。

 でも例え恩があっても無理なものは無理と言うべきでした。佑京さんはまもなく風邪をこじらせて亡くなりました。ちゃんと休んでいれば、受診していれば、こんなことにはならなかったんでしょう。社長に頼まれた仕事だからと、佑京さんは出社していました。そして帰って布団に潜り、そのまま・・・・・・。

 佑京さんはずっと一人暮らしだったので、亡くなったのを発見したのは私です。出社しないのを心配した上司の指示で様子を見に部屋まで行ったんです。

 簡素な部屋で、化粧も落とさず布団の中で丸くなっている彼女の姿が今でも忘れられません。

 佑京さんがいなくなった後、社長の性格に耐えきれなくなった人が何人も辞め、結局会社はなくなりました。

 まあ、ここまででも結構怖い話なんですけどね。怪談はここからです。

 先日元社長から憔悴しきった声で電話がありました。

「私、佑京さんに最後何の仕事任せてたかしら」

 会社がなくなってから毎晩のように佑京さんの幽霊が夢枕に立つそうです。

「どうしても仕事が終わらない。明日までですよね。すみません」

 と佑京さんは言うそうです。社長が

「もう働かなくて良いから。会社はもうないから」

 社長が追い返そうとしても、

「でも、絶対明日までっておっしゃってましたよね。困るって・・・・・・」

 と食い下がられるそうです。しかも毎晩「明日・・・・・・明日・・・・・・」と話が進まない。

「それは別の人に任せた」

 と違う切り口にしても

「誰に任せたんですか? 引き継ぎは?」

 こんなに真面目な幽霊っているんですかね。

 私も早く佑京さんを解放してあげたいのですが、私が辞めてすでに10年たっています。彼女が最後に何の仕事をしていたなんて覚えていません。

 それに社長は、恩に報いて死ぬほど働いた佑京さんのために、死ぬまでずっと悩み続ければ良いと思います。
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