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№221 消失
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5年前に僕は交通事故に遭ったらしいです。
気がついたら5年たっていました。でも家族や周りの人たちによると、僕は軽傷で事故後1週間で復活していたそうです。そして普段通り過ごしていたと。
ただ一人行動が増えたみたいです。もともと寂しがり屋で学食もあんまり一人で行きたくない性格だったんですが、友達の誘いも断るようになり、授業がない日はふらっと一人で出かけることが増えたそうです。
皆、事故のショックがまだ癒えていないのだろうと思っていたと言っていました。家族は心療内科も検討していたようですが、話しかけたら返事をするし、笑うし、食欲もあり、夜もよく寝ているようだったから、しばらく様子を見ようと5年たっていたとか。
僕からしたら朝起きたら5年たっていました。大学を卒業し、一人暮らしをしていました。無職で、どうやって暮らしていたのか分かりません。両親も僕は新卒で働いていると聞いていたそうです。確かにそれは間違いではないんですが、1年ほど勤め、自己都合で退職していました。
通帳の残高は退職してから動きがなく、家賃や水道光熱費はATMで振り込んでいたようです。一体誰が僕を養っていたのか分かりません。気がついてからは誰も借りている部屋に来ていませんし、もちろん両親が僕を養っているなんて事はありません。
突然記憶がなくなったことで、受診やら就活やらで忙しくしていました。あるときふと事故前からスマホを機種変更していることに気付きました。引き落としは知らない口座で、それも気がついた翌月から引き落としがストップしました。
それまでスマホは電話やメール等の連絡手段にしか使っていないので、データを調べてみることにしました。
写真は当たり障りのない、景色やスナップ写真でした。録画はありません。
ただ、文章が残っていました。小説です。もともと文章を書くのが苦手だったんですが。でも多分僕が書いた物です。スマホは僕の指紋認証で開くし、書いているのがメモ帳でした。また、それに関する覚え書きがメモや手帳で残っていました。
小説はホラーで、気持ち悪い物ばかりでした。主人公がおかしな場所に行って、奇妙な体験にあう。実際に起こった出来事のように書かれていました。
主人公は僕と同じ名前です。小説の中に何度も「交通事故に遭ったばかりに……」と後悔の念が綴られていました。そして物語の最後に必ず、怪談収集家を訪ねていました。
そう、あなたです。
ここであなたに真実を教えてほしいとは思っていません。
ただこれも一つの怪談として、もう手放したいんです。もし小説に書いてあるとおり、事故の原因が……いや、辞めましょう。とりあえず、僕はもうここに来ることはありません。何をあなたが知っていても、もう無関係です。
――そう言って石神さんは帰って行った。そうしてこの常連客は二度と来なくなった。
気がついたら5年たっていました。でも家族や周りの人たちによると、僕は軽傷で事故後1週間で復活していたそうです。そして普段通り過ごしていたと。
ただ一人行動が増えたみたいです。もともと寂しがり屋で学食もあんまり一人で行きたくない性格だったんですが、友達の誘いも断るようになり、授業がない日はふらっと一人で出かけることが増えたそうです。
皆、事故のショックがまだ癒えていないのだろうと思っていたと言っていました。家族は心療内科も検討していたようですが、話しかけたら返事をするし、笑うし、食欲もあり、夜もよく寝ているようだったから、しばらく様子を見ようと5年たっていたとか。
僕からしたら朝起きたら5年たっていました。大学を卒業し、一人暮らしをしていました。無職で、どうやって暮らしていたのか分かりません。両親も僕は新卒で働いていると聞いていたそうです。確かにそれは間違いではないんですが、1年ほど勤め、自己都合で退職していました。
通帳の残高は退職してから動きがなく、家賃や水道光熱費はATMで振り込んでいたようです。一体誰が僕を養っていたのか分かりません。気がついてからは誰も借りている部屋に来ていませんし、もちろん両親が僕を養っているなんて事はありません。
突然記憶がなくなったことで、受診やら就活やらで忙しくしていました。あるときふと事故前からスマホを機種変更していることに気付きました。引き落としは知らない口座で、それも気がついた翌月から引き落としがストップしました。
それまでスマホは電話やメール等の連絡手段にしか使っていないので、データを調べてみることにしました。
写真は当たり障りのない、景色やスナップ写真でした。録画はありません。
ただ、文章が残っていました。小説です。もともと文章を書くのが苦手だったんですが。でも多分僕が書いた物です。スマホは僕の指紋認証で開くし、書いているのがメモ帳でした。また、それに関する覚え書きがメモや手帳で残っていました。
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そう、あなたです。
ここであなたに真実を教えてほしいとは思っていません。
ただこれも一つの怪談として、もう手放したいんです。もし小説に書いてあるとおり、事故の原因が……いや、辞めましょう。とりあえず、僕はもうここに来ることはありません。何をあなたが知っていても、もう無関係です。
――そう言って石神さんは帰って行った。そうしてこの常連客は二度と来なくなった。
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