怪談レポート

久世空気

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№212 保健室

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――三木さんは昔、貧血が酷くてよく保健室にお世話になっていたそうだ。

 先生は優しかったし、居心地が良いんです。さすがに長居すると怒られましたが、生理の日は本当にしんどくて、這うようにして保健室に行ってました。

 それを見たのもそんな意識がもうろうとしているときでした。

 外は雨で、雷も鳴っていたと思います。先生が「帰る頃には止んでるわよ」と言っていたのを覚えています。布団をかぶって生理痛と頭痛と吐き気が去るのを待っていました。

 雨音の中、保健室の引き戸が開く音がしました。先生がどこかに行ったのかと思いましたが、パタパタとスリッパの音が入ってきました。あの踵と履き物の底が微妙に離れるときの足音です。生徒も教師も上履きなので、スリッパと言えば保護者とか学校のお客さんかと考えていました。

 それにしても先生が対応する様子がありません。スリッパの音は部屋中を歩き回っているように続きます。さすがにうるさいなぁと思ったところで着信音が鳴りました。すぐに止まり先生の「はい、はい」と対応する声が聞こえます。そして小走りで部屋を出て行きました。ドアを開けて、出ていく音がして私は不思議に思いました。スリッパが入ってきたとき、扉が開いた音はしたけど閉じる音はしませんでした。でも先生は開けて廊下に出ていったんです。

 スリッパの音は徐々に速くなっていきました。イメージはスリッパで全力疾走している音です。でも狭い部屋の中でどうして走り続けることが出来るのか。私は怖くなってきて布団に丸まったまま動けないでいました。その時外でバンッと大きな音がしました。たぶん雷の音だったんですけど、私は思わず悲鳴をあげてしまったんです。

 スリッパの音はピタッと止まりました。しばらく息を潜めていても、スリッパの音は再開されなかったので、私はそーっと布団から顔を出しました。ベッドの周りをぐるっと囲っている白いカーテンに黒い影がべったりとくっついていました。声も出せないくらい驚いていると影がぐいぐいとカーテンを下に引っ張り出しました。ガッシャンガッシャンとカーテンレールが鳴り始め、最後にはブチブチと音を立ててカーテンが引きちぎれました。

 その時ちょうど部屋に入ってきた先生と目が合いました。カーテンの向こう側には誰も居ませんでした。部屋にはベッドの上で固まっている私と、電話を終えて帰ってきたばかりの先生しかいません。私はそこで気を失ってしまい、救急車で運ばれました。

 それから保健室に行ってもベッドは使っていません。膝掛け持参してパイプ椅子でぼんやりするようになりました。先生はあの日何があったのか聞いてきませんでした。たぶん言ったところでどうにもならなかったと思います。私以外にも保健室のベッドを使う人は多かったので。あの千切れたカーテンは先生が補修したようで継ぎ接ぎしてありました。

 私が卒業する頃にはあちこち継ぎ接ぎされていて酷い有様でしたよ。

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