212 / 254
№212 保健室
しおりを挟む
――三木さんは昔、貧血が酷くてよく保健室にお世話になっていたそうだ。
先生は優しかったし、居心地が良いんです。さすがに長居すると怒られましたが、生理の日は本当にしんどくて、這うようにして保健室に行ってました。
それを見たのもそんな意識がもうろうとしているときでした。
外は雨で、雷も鳴っていたと思います。先生が「帰る頃には止んでるわよ」と言っていたのを覚えています。布団をかぶって生理痛と頭痛と吐き気が去るのを待っていました。
雨音の中、保健室の引き戸が開く音がしました。先生がどこかに行ったのかと思いましたが、パタパタとスリッパの音が入ってきました。あの踵と履き物の底が微妙に離れるときの足音です。生徒も教師も上履きなので、スリッパと言えば保護者とか学校のお客さんかと考えていました。
それにしても先生が対応する様子がありません。スリッパの音は部屋中を歩き回っているように続きます。さすがにうるさいなぁと思ったところで着信音が鳴りました。すぐに止まり先生の「はい、はい」と対応する声が聞こえます。そして小走りで部屋を出て行きました。ドアを開けて、出ていく音がして私は不思議に思いました。スリッパが入ってきたとき、扉が開いた音はしたけど閉じる音はしませんでした。でも先生は開けて廊下に出ていったんです。
スリッパの音は徐々に速くなっていきました。イメージはスリッパで全力疾走している音です。でも狭い部屋の中でどうして走り続けることが出来るのか。私は怖くなってきて布団に丸まったまま動けないでいました。その時外でバンッと大きな音がしました。たぶん雷の音だったんですけど、私は思わず悲鳴をあげてしまったんです。
スリッパの音はピタッと止まりました。しばらく息を潜めていても、スリッパの音は再開されなかったので、私はそーっと布団から顔を出しました。ベッドの周りをぐるっと囲っている白いカーテンに黒い影がべったりとくっついていました。声も出せないくらい驚いていると影がぐいぐいとカーテンを下に引っ張り出しました。ガッシャンガッシャンとカーテンレールが鳴り始め、最後にはブチブチと音を立ててカーテンが引きちぎれました。
その時ちょうど部屋に入ってきた先生と目が合いました。カーテンの向こう側には誰も居ませんでした。部屋にはベッドの上で固まっている私と、電話を終えて帰ってきたばかりの先生しかいません。私はそこで気を失ってしまい、救急車で運ばれました。
それから保健室に行ってもベッドは使っていません。膝掛け持参してパイプ椅子でぼんやりするようになりました。先生はあの日何があったのか聞いてきませんでした。たぶん言ったところでどうにもならなかったと思います。私以外にも保健室のベッドを使う人は多かったので。あの千切れたカーテンは先生が補修したようで継ぎ接ぎしてありました。
私が卒業する頃にはあちこち継ぎ接ぎされていて酷い有様でしたよ。
先生は優しかったし、居心地が良いんです。さすがに長居すると怒られましたが、生理の日は本当にしんどくて、這うようにして保健室に行ってました。
それを見たのもそんな意識がもうろうとしているときでした。
外は雨で、雷も鳴っていたと思います。先生が「帰る頃には止んでるわよ」と言っていたのを覚えています。布団をかぶって生理痛と頭痛と吐き気が去るのを待っていました。
雨音の中、保健室の引き戸が開く音がしました。先生がどこかに行ったのかと思いましたが、パタパタとスリッパの音が入ってきました。あの踵と履き物の底が微妙に離れるときの足音です。生徒も教師も上履きなので、スリッパと言えば保護者とか学校のお客さんかと考えていました。
それにしても先生が対応する様子がありません。スリッパの音は部屋中を歩き回っているように続きます。さすがにうるさいなぁと思ったところで着信音が鳴りました。すぐに止まり先生の「はい、はい」と対応する声が聞こえます。そして小走りで部屋を出て行きました。ドアを開けて、出ていく音がして私は不思議に思いました。スリッパが入ってきたとき、扉が開いた音はしたけど閉じる音はしませんでした。でも先生は開けて廊下に出ていったんです。
スリッパの音は徐々に速くなっていきました。イメージはスリッパで全力疾走している音です。でも狭い部屋の中でどうして走り続けることが出来るのか。私は怖くなってきて布団に丸まったまま動けないでいました。その時外でバンッと大きな音がしました。たぶん雷の音だったんですけど、私は思わず悲鳴をあげてしまったんです。
スリッパの音はピタッと止まりました。しばらく息を潜めていても、スリッパの音は再開されなかったので、私はそーっと布団から顔を出しました。ベッドの周りをぐるっと囲っている白いカーテンに黒い影がべったりとくっついていました。声も出せないくらい驚いていると影がぐいぐいとカーテンを下に引っ張り出しました。ガッシャンガッシャンとカーテンレールが鳴り始め、最後にはブチブチと音を立ててカーテンが引きちぎれました。
その時ちょうど部屋に入ってきた先生と目が合いました。カーテンの向こう側には誰も居ませんでした。部屋にはベッドの上で固まっている私と、電話を終えて帰ってきたばかりの先生しかいません。私はそこで気を失ってしまい、救急車で運ばれました。
それから保健室に行ってもベッドは使っていません。膝掛け持参してパイプ椅子でぼんやりするようになりました。先生はあの日何があったのか聞いてきませんでした。たぶん言ったところでどうにもならなかったと思います。私以外にも保健室のベッドを使う人は多かったので。あの千切れたカーテンは先生が補修したようで継ぎ接ぎしてありました。
私が卒業する頃にはあちこち継ぎ接ぎされていて酷い有様でしたよ。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
追っかけ
山吹
ホラー
小説を書いてみよう!という流れになって友達にどんなジャンルにしたらいいか聞いたらホラーがいいと言われたので生まれた作品です。ご愛読ありがとうございました。先生の次回作にご期待ください。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
生きている壺
川喜多アンヌ
ホラー
買い取り専門店に勤める大輔に、ある老婦人が壺を置いて行った。どう見てもただの壺。誰も欲しがらない。どうせ売れないからと倉庫に追いやられていたその壺。台風の日、その倉庫で店長が死んだ……。倉庫で大輔が見たものは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる