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№209 変な匂い
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10年ほど前、私が育った実家で起こった話です。私は中学生で、両親と弟、そして父方の祖父と5人で暮らしていました。
ちょうど今くらいの、梅雨の時期です。だから最初はジメジメしていて雑草が元気な庭や生ゴミが匂いやすくなっているんだと思っていました。
ですが祖父が「最近、変な匂いがしないか」と言いだし、他の家族も気にしていたことがわかりました。
母はちゃんと生ゴミの収集日にいつもゴミ出しをしているし、消臭剤も使っていると言いました。庭の雑草もその数日前には祖父が刈り取っていて、匂ってくるものはありません。
そもそも母と祖父はきれい好きで、水回りの掃除はまめにしていました。カビや腐敗臭ではなかったと思います。私も家族も、それに似ているけどちょっと違う匂いに戸惑っていました。
そして数日後の夜、事件が起こりました。
自室で寝ていたら弟に起こされました。勝手に部屋に入ってきたことと真夜中に起こされたことでイライラしながら「何?」と聞くと、弟はヘラヘラ笑いながら「居間に来て」と言って部屋を出て行きました。
私が居間に行くと、父が天井からぶら下がっていました。私は、すぐに父を床に下ろそうとしました。首を吊っているように見えたんです。でも違いました。ロープがないんです。まるで首を見えない物につかまれ、吊り下げられているようでした。
先に来ているはずの弟は、台所から出てきました。ヘラヘラしたまま首に包丁が刺さり、血が噴き出していました。
悲鳴が上がり、母が寝室から出てきて、弟の首に手を当てて血を止めようとし始めました。ぼーっとそれを見ていたら、母が私に怒鳴ったと思います。たぶん救急車を呼べとか、あなたも手伝いなさいとかそういうことを言っていたと思います。
台所からまた一人、現れました。その影は徐々に明るくなり、祖父だとわかりました。祖父のパジャマに火が付いていたんです。母が振り返るときには祖父は静かに火だるまになっていました。火は母や弟、家具に燃え移りました。
そこから記憶が飛び、私は病院で目を覚ましました。その夜から1ヶ月経過していました。私は燃える家から助け出され、生死を彷徨っていたそうです。
家は全焼、私だけが生き残りました。そして、この事件は結局不審火で未解決のままです。家族の遺体は激しく燃えていて、生前の傷などはわからなかったそうで、私の見た物も一酸化炭素中毒による幻覚とされました。
私は当時家の中に漂っていたあの匂いが関係していると思っています。というのも、あれ以来、ニュースで猟奇的な事件が報道されると、ふと匂うんです。
もし、変な匂いがするときは気をつけてください。生ゴミのような、カビのような、でもそれほど不快ではない匂いです。
――坪野さんが帰った後ふと、生ゴミのようなカビのような匂いがした。が、すぐに立ち消えてしまった。それ以来坪野さんとは連絡が付かない。
ちょうど今くらいの、梅雨の時期です。だから最初はジメジメしていて雑草が元気な庭や生ゴミが匂いやすくなっているんだと思っていました。
ですが祖父が「最近、変な匂いがしないか」と言いだし、他の家族も気にしていたことがわかりました。
母はちゃんと生ゴミの収集日にいつもゴミ出しをしているし、消臭剤も使っていると言いました。庭の雑草もその数日前には祖父が刈り取っていて、匂ってくるものはありません。
そもそも母と祖父はきれい好きで、水回りの掃除はまめにしていました。カビや腐敗臭ではなかったと思います。私も家族も、それに似ているけどちょっと違う匂いに戸惑っていました。
そして数日後の夜、事件が起こりました。
自室で寝ていたら弟に起こされました。勝手に部屋に入ってきたことと真夜中に起こされたことでイライラしながら「何?」と聞くと、弟はヘラヘラ笑いながら「居間に来て」と言って部屋を出て行きました。
私が居間に行くと、父が天井からぶら下がっていました。私は、すぐに父を床に下ろそうとしました。首を吊っているように見えたんです。でも違いました。ロープがないんです。まるで首を見えない物につかまれ、吊り下げられているようでした。
先に来ているはずの弟は、台所から出てきました。ヘラヘラしたまま首に包丁が刺さり、血が噴き出していました。
悲鳴が上がり、母が寝室から出てきて、弟の首に手を当てて血を止めようとし始めました。ぼーっとそれを見ていたら、母が私に怒鳴ったと思います。たぶん救急車を呼べとか、あなたも手伝いなさいとかそういうことを言っていたと思います。
台所からまた一人、現れました。その影は徐々に明るくなり、祖父だとわかりました。祖父のパジャマに火が付いていたんです。母が振り返るときには祖父は静かに火だるまになっていました。火は母や弟、家具に燃え移りました。
そこから記憶が飛び、私は病院で目を覚ましました。その夜から1ヶ月経過していました。私は燃える家から助け出され、生死を彷徨っていたそうです。
家は全焼、私だけが生き残りました。そして、この事件は結局不審火で未解決のままです。家族の遺体は激しく燃えていて、生前の傷などはわからなかったそうで、私の見た物も一酸化炭素中毒による幻覚とされました。
私は当時家の中に漂っていたあの匂いが関係していると思っています。というのも、あれ以来、ニュースで猟奇的な事件が報道されると、ふと匂うんです。
もし、変な匂いがするときは気をつけてください。生ゴミのような、カビのような、でもそれほど不快ではない匂いです。
――坪野さんが帰った後ふと、生ゴミのようなカビのような匂いがした。が、すぐに立ち消えてしまった。それ以来坪野さんとは連絡が付かない。
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