怪談レポート

久世空気

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№204 パチンコ狂

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 大学生になったばかりのとき、悪い先輩と、バイトの給料でパチンコに行ったんです。最初の日にいきなり5万勝っておかしくなりました。先輩に
「おまえ、才能あるよ!」
 と言われて有頂天になりました。ただのビギナーズラックです。でもそれに気付いたときには、いろんなところから借金するほどのめり込んでいました。

 さらに留年の危機に陥っていました。頼りになる先輩はいつの間にか大学を去っていました。卒業した……とは聞いてないので、多分中退したんでしょう。俺は一人になって焦っていました。焦りながら玉を打ってるんだから世話ありません。

 そんな時にたびたび店で呼ばれるようになったんです。声が、聞こえる気がするんですよ。俺の名前を呼ぶ声。もちろんはっきりと聞こえるわけじゃないです。

 パチンコ店、行ったことあります? ずっと騒音ですよ。毎日のように通っていたら気にならなくなるんですけど、人と話すときはやっぱり近づかないといけません。

 でも遠くから聞こえるんですよ。数回は空耳と思って聞き流したんですけど、だんだんはっきり、玉の音の間を縫って耳に届く感じがしてきました。聞き覚えのない声でした。そして毎回違う声でした。

 その日は結構勝って気分がよくて、ちょっと声の正体を確認してやろうって声の聞こえる方向に向かってみました。

 空耳なら聞こえ方が変わりそうなものですが、それは一定の間隔で聞こえてきました。不思議とか奇妙という感覚はまだありませんでした。何かの機械が作動している音が、俺を呼んでいるように聞こえているだけだろう、そんなことを考えていました。

 声はトイレから聞こえてきました。パチンコの音も少し遠のいているのに、声はしています。空耳じゃないんです。首をかしげながら個室をのぞき込み、俺はぞっとしました。

 先が輪っかになっているロープがつり下がっているんです。首を吊る、あれです。俺は「これをなんとかしないと!」となぜか慌ててロープを下ろしにかかりました。天井に渡っている何かのパイプに引っかかっているので、俺は便座に立ち、手を伸ばしました。早く取らないと大変なことになる。そればかり考えていました。手がロープに触ったとき、また呼ばれたんです。耳元で、今度は鼓膜が破れるほどの音量で。

 あ、と驚いてバランスを崩しかけましたが、飛びつくように誰かが俺の体を支えてくれました。

「おまえ、何やってんだ!」

 それは店の清掃員のおじいさんでした。俺がふらふらとトイレに行くのを不審に思って着いてきたそうです。

「前もこの個室で自殺があったんだよ」

「その人は、なんで?」と俺が聞くと、おじいさんは苦笑いしました。

「みーんな、パチンコやめられなくてさ」

「みんな?」

「ここで死んだの、俺が知ってるだけで5人だ」

 それを聞いて、俺はすっぱりとパチンコをやめることが出来ました。

 でも、いまだに、騒がしい場所に行くと体がすくむんです。

――根越さんの右耳は、その日からほとんど聞こえないそうだ。
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