204 / 254
№204 パチンコ狂
しおりを挟む
大学生になったばかりのとき、悪い先輩と、バイトの給料でパチンコに行ったんです。最初の日にいきなり5万勝っておかしくなりました。先輩に
「おまえ、才能あるよ!」
と言われて有頂天になりました。ただのビギナーズラックです。でもそれに気付いたときには、いろんなところから借金するほどのめり込んでいました。
さらに留年の危機に陥っていました。頼りになる先輩はいつの間にか大学を去っていました。卒業した……とは聞いてないので、多分中退したんでしょう。俺は一人になって焦っていました。焦りながら玉を打ってるんだから世話ありません。
そんな時にたびたび店で呼ばれるようになったんです。声が、聞こえる気がするんですよ。俺の名前を呼ぶ声。もちろんはっきりと聞こえるわけじゃないです。
パチンコ店、行ったことあります? ずっと騒音ですよ。毎日のように通っていたら気にならなくなるんですけど、人と話すときはやっぱり近づかないといけません。
でも遠くから聞こえるんですよ。数回は空耳と思って聞き流したんですけど、だんだんはっきり、玉の音の間を縫って耳に届く感じがしてきました。聞き覚えのない声でした。そして毎回違う声でした。
その日は結構勝って気分がよくて、ちょっと声の正体を確認してやろうって声の聞こえる方向に向かってみました。
空耳なら聞こえ方が変わりそうなものですが、それは一定の間隔で聞こえてきました。不思議とか奇妙という感覚はまだありませんでした。何かの機械が作動している音が、俺を呼んでいるように聞こえているだけだろう、そんなことを考えていました。
声はトイレから聞こえてきました。パチンコの音も少し遠のいているのに、声はしています。空耳じゃないんです。首をかしげながら個室をのぞき込み、俺はぞっとしました。
先が輪っかになっているロープがつり下がっているんです。首を吊る、あれです。俺は「これをなんとかしないと!」となぜか慌ててロープを下ろしにかかりました。天井に渡っている何かのパイプに引っかかっているので、俺は便座に立ち、手を伸ばしました。早く取らないと大変なことになる。そればかり考えていました。手がロープに触ったとき、また呼ばれたんです。耳元で、今度は鼓膜が破れるほどの音量で。
あ、と驚いてバランスを崩しかけましたが、飛びつくように誰かが俺の体を支えてくれました。
「おまえ、何やってんだ!」
それは店の清掃員のおじいさんでした。俺がふらふらとトイレに行くのを不審に思って着いてきたそうです。
「前もこの個室で自殺があったんだよ」
「その人は、なんで?」と俺が聞くと、おじいさんは苦笑いしました。
「みーんな、パチンコやめられなくてさ」
「みんな?」
「ここで死んだの、俺が知ってるだけで5人だ」
それを聞いて、俺はすっぱりとパチンコをやめることが出来ました。
でも、いまだに、騒がしい場所に行くと体がすくむんです。
――根越さんの右耳は、その日からほとんど聞こえないそうだ。
「おまえ、才能あるよ!」
と言われて有頂天になりました。ただのビギナーズラックです。でもそれに気付いたときには、いろんなところから借金するほどのめり込んでいました。
さらに留年の危機に陥っていました。頼りになる先輩はいつの間にか大学を去っていました。卒業した……とは聞いてないので、多分中退したんでしょう。俺は一人になって焦っていました。焦りながら玉を打ってるんだから世話ありません。
そんな時にたびたび店で呼ばれるようになったんです。声が、聞こえる気がするんですよ。俺の名前を呼ぶ声。もちろんはっきりと聞こえるわけじゃないです。
パチンコ店、行ったことあります? ずっと騒音ですよ。毎日のように通っていたら気にならなくなるんですけど、人と話すときはやっぱり近づかないといけません。
でも遠くから聞こえるんですよ。数回は空耳と思って聞き流したんですけど、だんだんはっきり、玉の音の間を縫って耳に届く感じがしてきました。聞き覚えのない声でした。そして毎回違う声でした。
その日は結構勝って気分がよくて、ちょっと声の正体を確認してやろうって声の聞こえる方向に向かってみました。
空耳なら聞こえ方が変わりそうなものですが、それは一定の間隔で聞こえてきました。不思議とか奇妙という感覚はまだありませんでした。何かの機械が作動している音が、俺を呼んでいるように聞こえているだけだろう、そんなことを考えていました。
声はトイレから聞こえてきました。パチンコの音も少し遠のいているのに、声はしています。空耳じゃないんです。首をかしげながら個室をのぞき込み、俺はぞっとしました。
先が輪っかになっているロープがつり下がっているんです。首を吊る、あれです。俺は「これをなんとかしないと!」となぜか慌ててロープを下ろしにかかりました。天井に渡っている何かのパイプに引っかかっているので、俺は便座に立ち、手を伸ばしました。早く取らないと大変なことになる。そればかり考えていました。手がロープに触ったとき、また呼ばれたんです。耳元で、今度は鼓膜が破れるほどの音量で。
あ、と驚いてバランスを崩しかけましたが、飛びつくように誰かが俺の体を支えてくれました。
「おまえ、何やってんだ!」
それは店の清掃員のおじいさんでした。俺がふらふらとトイレに行くのを不審に思って着いてきたそうです。
「前もこの個室で自殺があったんだよ」
「その人は、なんで?」と俺が聞くと、おじいさんは苦笑いしました。
「みーんな、パチンコやめられなくてさ」
「みんな?」
「ここで死んだの、俺が知ってるだけで5人だ」
それを聞いて、俺はすっぱりとパチンコをやめることが出来ました。
でも、いまだに、騒がしい場所に行くと体がすくむんです。
――根越さんの右耳は、その日からほとんど聞こえないそうだ。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

禁忌index コトリバコの記録
藍沢 理
ホラー
都市伝説検証サイト『エニグマ・リサーチ』管理人・佐藤慎一が失踪した。彼の友人・高橋健太は、佐藤が残した暗号化ファイル「kotodama.zip」を発見する。
ファイルには、AI怪談生成ブログ「コトリバコ」、自己啓発オンラインサロン「言霊の会」、そして福岡県██村に伝わる「神鳴り様」伝承に関する、膨大な情報が収められていた。
【短編】怖い話のけいじばん【体験談】
松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。
スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる